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俺好みの王子さま
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そしてその後、幸一とルトの寝室。
シャワーを浴び、夜も十一時を回りあとは寝るだけといった状況。別々のベッドについた二人、そこで幸一が話しかける。
「なあ、ルト、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいかな?」
「なに? 別にいいけど」
幸一はルトの方をそっと向いて話しかける、内容は彼に関しての感想だった。
「お前、すごい王子らしくないって思った」
「ああ、それよく言われる──」
苦笑いをしながらルトは言葉を返す。その姿を見てさらに幸一は自分の本音をさらけ出す。
「王子様ってもっと宮殿とかにいて、贅沢な暮しをして。それで汚れ仕事は冒険者に任せて自分はあんまりこういうところに自ら踏み込んだりしないっていうイメージがあるからちょっと驚いたよ」
するとその言葉を聞いた瞬間ルトの表情が険しくなる。
「僕は……それが嫌いだ、だから宮殿にはあまりいない。いつもは街を歩いて様子を見たりみんなの声を聞いたりしているよ。それからこういうところに変装して忍び込んだりしているよ」
「あ、その……ごめん」
彼が初めて見せる怒りをにじませた表情に思わずたじろぐ、そんな幸一を安心させるように話を続ける。
「いいよ、気にしていないから。 おかしいってよくみんなから言われる。けど妥協はしない、」
「なんか安心したよ、王子様と行動するって聞いた時どうやって行動しようか少し悩んでいたんだ。この国は階級社会って感じで上の人間達は一般人達の事にあまり関心が無いように見えてどう行動すればいいかなって考えたからいい意味で裏切られた気分かな──」
嬉しそうな表情で幸一が話す、その言葉にルトは触発され叫び始める。
自分の今の心情を──。
「僕は数々の虐げられた人達を見てきた。夢物語だって言われてもかまわないでも僕は目指したい、そんな人たちが救われる世界を作ることを。
そのためにはまずは見つめなくちゃいけない、現実を──」
「訴えても、どんなに叫んでも現実は変えられない。変えるには自分の目で見て回るしかない、どうして苦しんでいるのか、どうすればいいのか。
周りからは地味って言われる、周りからは危ないし王子がそんなことする必要はない、そうするしかないって思った」
ルトは高らかにそう叫ぶ。
「だから穴熊みたいに宮殿や城にいるのって僕はあんまり好きじゃなくってさ。気付いたらいてもたってもいられなくなってすぐに行動にしていた」
自分の理想を語るルト。幸一はその言葉に強く耳を傾ける。
そして安堵した表情で彼の方を向きそっと話しかける。
「お前、俺好みだ」
「え──?」
「心から応援したいと思った、力になってやるよ。お前の夢、俺も応援したくなった」
「うん、こちらからもよろしくね」
心から応援したいと考える友。幸一はそんなことを思うのに
そして明日に備えて布団の中に入っていった。
ルトは夢を見た。
五年前、この世界に魔法が登場する前日、査察のため地方にいた中で一人で街の巡回をしていてスラム街の貧困層の現実を目の当たりにし、その事を地方領主に伝えた。すると──
「あっそう」
帰ってきたのは興味無さげな返事。
貧困層のことなど領主はそんな事気にも留めなかった。
この地方領主のノブレス家は地方領主の中でも腐敗に満ちた貴族でもある。
貧困層と特権階級の格差がすさまじかった。
貧困層はスラム街で貧しい生活を強いられる一方、そんなことに貴族達は関心を持たず毎日のようにバカでかい豪邸で酒と女をはべらせて宴の日々。
まだ若い領主の息子達は従者や侍女をいびり倒し国民のことなど全く関心がない。
貧しい人々を特に気にもせずに内部闘争に明け暮れる政治家たち、自分の考えは間違っていたのだろうか。
その後宮殿に戻ったルト。
その想いが心に残っていた。
「ふぅん……、王族にもお前のようなやつがいたとはな……」
聞いたこともない声、その声にルトははっと後ろを向く。
「誰?」
その人物は真っ白な服に覆われ、マントを着ていた。垂れ下がったフードに目を隠していて彼の表情は確認できなかった。
「名乗るほどのものではない、今はな……」
さらにその男は言葉を続ける。
「お前と同じ考えの者だ、虐げられている者のため。救いを求めている人たちのため戦う覚悟がある者だ。分かるか? なぜお前が何もできないか、それは力だ。綺麗事ばかりを並べ何もできない貴様には誰も」
「でも、僕は怖いんだ。偉くなって力を持ってしまったら僕も同じになってしまうんじゃないかって」
ルトは精一杯今の気持ちを叫ぶ。
「すぐにわかる、もうじき貴様は強大な力を手にする。力を持ってそれでも弱者を救い続けるか、力におぼれ自らが蔑んでいた者になるか──」
「どういうことなの?」
意味不明な発言に首をかしげるルト、しかしフードの男はその発言に答えずことばを進める。
その眼は光の見えない奈落の様な漆黒の瞳をしていて、表情は不敵な笑みを浮かべている。
どこか異様な雰囲気を醸し出していた。
「時期にわかるさ、時期にな──」
彼が指をはじく、すると激しい閃光がこの場を支配する。その眩しさにルトは思わず一瞬目をつぶる。そしてすぐに目を開けると彼はすでにいなかった。
翌日、この世界に魔法が登場しルトは魔法使いとなった。
そしてルトは数年後に知った。その青年は世界最強の冒険者であることに──。
シャワーを浴び、夜も十一時を回りあとは寝るだけといった状況。別々のベッドについた二人、そこで幸一が話しかける。
「なあ、ルト、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいかな?」
「なに? 別にいいけど」
幸一はルトの方をそっと向いて話しかける、内容は彼に関しての感想だった。
「お前、すごい王子らしくないって思った」
「ああ、それよく言われる──」
苦笑いをしながらルトは言葉を返す。その姿を見てさらに幸一は自分の本音をさらけ出す。
「王子様ってもっと宮殿とかにいて、贅沢な暮しをして。それで汚れ仕事は冒険者に任せて自分はあんまりこういうところに自ら踏み込んだりしないっていうイメージがあるからちょっと驚いたよ」
するとその言葉を聞いた瞬間ルトの表情が険しくなる。
「僕は……それが嫌いだ、だから宮殿にはあまりいない。いつもは街を歩いて様子を見たりみんなの声を聞いたりしているよ。それからこういうところに変装して忍び込んだりしているよ」
「あ、その……ごめん」
彼が初めて見せる怒りをにじませた表情に思わずたじろぐ、そんな幸一を安心させるように話を続ける。
「いいよ、気にしていないから。 おかしいってよくみんなから言われる。けど妥協はしない、」
「なんか安心したよ、王子様と行動するって聞いた時どうやって行動しようか少し悩んでいたんだ。この国は階級社会って感じで上の人間達は一般人達の事にあまり関心が無いように見えてどう行動すればいいかなって考えたからいい意味で裏切られた気分かな──」
嬉しそうな表情で幸一が話す、その言葉にルトは触発され叫び始める。
自分の今の心情を──。
「僕は数々の虐げられた人達を見てきた。夢物語だって言われてもかまわないでも僕は目指したい、そんな人たちが救われる世界を作ることを。
そのためにはまずは見つめなくちゃいけない、現実を──」
「訴えても、どんなに叫んでも現実は変えられない。変えるには自分の目で見て回るしかない、どうして苦しんでいるのか、どうすればいいのか。
周りからは地味って言われる、周りからは危ないし王子がそんなことする必要はない、そうするしかないって思った」
ルトは高らかにそう叫ぶ。
「だから穴熊みたいに宮殿や城にいるのって僕はあんまり好きじゃなくってさ。気付いたらいてもたってもいられなくなってすぐに行動にしていた」
自分の理想を語るルト。幸一はその言葉に強く耳を傾ける。
そして安堵した表情で彼の方を向きそっと話しかける。
「お前、俺好みだ」
「え──?」
「心から応援したいと思った、力になってやるよ。お前の夢、俺も応援したくなった」
「うん、こちらからもよろしくね」
心から応援したいと考える友。幸一はそんなことを思うのに
そして明日に備えて布団の中に入っていった。
ルトは夢を見た。
五年前、この世界に魔法が登場する前日、査察のため地方にいた中で一人で街の巡回をしていてスラム街の貧困層の現実を目の当たりにし、その事を地方領主に伝えた。すると──
「あっそう」
帰ってきたのは興味無さげな返事。
貧困層のことなど領主はそんな事気にも留めなかった。
この地方領主のノブレス家は地方領主の中でも腐敗に満ちた貴族でもある。
貧困層と特権階級の格差がすさまじかった。
貧困層はスラム街で貧しい生活を強いられる一方、そんなことに貴族達は関心を持たず毎日のようにバカでかい豪邸で酒と女をはべらせて宴の日々。
まだ若い領主の息子達は従者や侍女をいびり倒し国民のことなど全く関心がない。
貧しい人々を特に気にもせずに内部闘争に明け暮れる政治家たち、自分の考えは間違っていたのだろうか。
その後宮殿に戻ったルト。
その想いが心に残っていた。
「ふぅん……、王族にもお前のようなやつがいたとはな……」
聞いたこともない声、その声にルトははっと後ろを向く。
「誰?」
その人物は真っ白な服に覆われ、マントを着ていた。垂れ下がったフードに目を隠していて彼の表情は確認できなかった。
「名乗るほどのものではない、今はな……」
さらにその男は言葉を続ける。
「お前と同じ考えの者だ、虐げられている者のため。救いを求めている人たちのため戦う覚悟がある者だ。分かるか? なぜお前が何もできないか、それは力だ。綺麗事ばかりを並べ何もできない貴様には誰も」
「でも、僕は怖いんだ。偉くなって力を持ってしまったら僕も同じになってしまうんじゃないかって」
ルトは精一杯今の気持ちを叫ぶ。
「すぐにわかる、もうじき貴様は強大な力を手にする。力を持ってそれでも弱者を救い続けるか、力におぼれ自らが蔑んでいた者になるか──」
「どういうことなの?」
意味不明な発言に首をかしげるルト、しかしフードの男はその発言に答えずことばを進める。
その眼は光の見えない奈落の様な漆黒の瞳をしていて、表情は不敵な笑みを浮かべている。
どこか異様な雰囲気を醸し出していた。
「時期にわかるさ、時期にな──」
彼が指をはじく、すると激しい閃光がこの場を支配する。その眩しさにルトは思わず一瞬目をつぶる。そしてすぐに目を開けると彼はすでにいなかった。
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