上 下
17 / 221

夜の繁華街へ

しおりを挟む
 魔王軍の襲撃から二日後。幸一は秘密にとある行動に出る。

 俺はこの席に来たばかりで当然この世界のことをよく知らない。空いた時間に図書館に行ったり、サラやイレーナから話を聞いていたり宮殿の中やギルドに行ったりしていた。

 しかし、それはいずれも表の世界のことであり当然裏社会というのも存在する。幸一の世界にも存在しているように──。

 宮殿にいても本をあさっても裏社会の情報は出てこない。あるのは政治学や歴史、哲学に関する本ばかり。

 だったら自分の目で見て判断するのが一番だと考え、夜の繁華街をうろつくことにした。

 特にこういった夜の店では、近くの客がよからぬ秘密を会話したり、要人がお忍びで夜遊びをしていたりすることもある。この世界の実情を知るチャンスでもあり、是非行って見ようと幸一は決意。

 幸一は心の中で叫ぶ。
 断じて、断じて断じて可愛い女の子といちゃいちゃしたりエッチなことをしたいとかいう下心があるわけではない。

 ──と。


 夜の繁華街。回りを見ると通りかかる人の半分くらいは酔っぱらっていて、千鳥足で道端を歩いてみたり、もう一軒行こう!! と誰かが叫びながら店を出る犬の耳をした亜人の団体。
 べろんべろんに酔っぱらったゴブリンの中年男性や、酔いつぶれて歩けず仲間に両肩を借りながら連れて行かれる老人など、夜の繁華街ならでばの光景が見られた。


 中心街から少し歩き、小さな路地に入ると小さな店が視界に入る。埃っぽくて小汚そうな店。やや年季が入った様な木製の建物。デメテルと書かれており、恐らくはバーの様なものであると幸一が予想する。


「ここにしてみるか?」

 幸一がそう囁き店のドアを開ける。マスターらしき長身で整ったひげを蓄えたような人物がカウンターから声をかける。

「いらっしゃいませ、見ない顔ですね……」

「ええ、最近この街に来たんでね……」

 そう世間話をしながらカウンター席に座る。
 そしてメニューを開きながら何をいただこうか、幸一が考え始める、そして──。


「ちょっと俺酒が飲めない体質なんでミルクでよいですか?」

 明らかにマスターが不機嫌な顔になる。ここは酒屋だぞ、何でそんな物を出さなきゃいけないんだという表情をしだす。

 バーだからってミルクを頼んじゃいけない決まりなんてないだろ、と考えながら自分が酒が飲めないと説明し了承する。

 さらに小腹がすいていたので、パエリアも一緒に頼んだ。
 周囲の話しを聞きながら二十分ほどで料理が出てくる。

「あいよ、兄ちゃん」

 その食事を口に入れ、味を確かめる。


「高級料理ではないけど先日の料理よりはおいしいな」


 先日の様な限度を超えるようなまずい食事ではなく、そこそこおいしい味に安堵し、ほっとする。
 おいしそうに幸一が食事を続けていると、何やらきな臭い話しをする人物がいた。

 食べながら幸一は周囲の会話を盗み聞き。周りでは公然と薬物や奴隷の話しが聞こえてくる。
 黒いジャケット、両耳には宝石が飾ってあるピアス、腕にはタトゥーをしている人物。


(やはり奴隷制度ってあるのか……)

 言葉を聞くだけで複雑な感情になる。
 幸一が周りの会話の聞き取りに夢中になっていると、誰かが空いていた右隣に話しかけてくる。

「あのう、ちょっとよろしいですか?」

 肩をつんつんと、やや派手な黄色のネイルの指で触る。幸一が反応し振り返る。

「あなた、炎の唯一王さんですよね? 私、リーラと申します」

 作り笑顔を浮かべ、リーラが幸一に急接近する。

「記者なんです。あなたと会えるのがとてもうれしく思っています。良かったです会えて。活躍聞きましたよ、炎の唯一王様、もう活躍されているんですって? とても素晴らしいと思います」

「ああ、そうですか、そう思っていただいてうれしいです」

 幸一は彼女の積極的なアプローチに驚き苦笑い、動揺しながら何とか対応する。

「じゃあ憧れの勇者さんと会えたことですし……」

 そう言うや否やリーラは幸一にさらに急接近し耳元でこう囁いた。

「いろいろお話しましょ──」

 その言葉に幸一は思わずドキッとする。彼はそういった行為とは今まで無縁の存在で交際歴など全くなかった。初めての光景に頭が真っ白になる。

 そしてリーラが話しを始める。互いのこと、職業や趣味のことなど。

 話す中で幸一は本能的にあまりかかわっていると、変な気を起こしそうになると勘づく。
 だがリーラはそんなことお構いなしに積極的に話しかける、互いに話しははずみ雰囲気は良くなっていく……。


 するとリーラが幸一の胸に飛び込み、上目づかいをして囁いた。

「あなた、私好みね。興味持っちゃった──」

 リーラの甘い声、笑みを作り、ギュッと強く抱きしめる。

 越しに伝わる柔らかな胸の感触。ライムの香水の様なにおいが鼻に入り込み全身に回って行く。
 このまま嗅いでいると理性を溶かされてしまいそうだ──。

 ひょっとしたら媚薬の類の可能性だってある。魔法が使える世界ならばそのような薬があっても何ら不思議ではない。

 幸一は軽く深呼吸をして、理性を振り絞り言葉を返す。

「や、やめてください。そ、その……、当たってますから──」

 小悪魔のように耳元で囁く。

「そこってなぁに? 私わかんなぁ~い」

 谷間が見えていて一瞬ドキッとしてしまう。

「む、胸です」

 明らかに誘惑しているのが分かる、そういった行為が未経験の幸一は顔を赤面させる。
 胸の谷間が見えてしまっていて、吸い寄せられるように視線を凝視させる。


(れれれ、冷静になれ、彼女は明らかに誘っている)

 何とか動揺している自分を何とかただす。
 リーラは恥じらいもなく誘惑行為を続ける。すると、今度はなんと幸一にぎゅっと抱きしめてきたのである。


 豊満な胸の柔らかい感触、動揺を隠せず思わず声を上げてしまう。

 目をぱちくりさせながら彼を見つめる。程よい化粧をしたきれいな肌、マスカラが盛られカールされた程よく長いまつ毛。

 美人で色っぽい大人という言葉がとても似合う。

「私好みよ、あなた──」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ただしい異世界の歩き方!

空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。 未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。 未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。 だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。 翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。 そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。 何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。 一章終了まで毎日20時台更新予定 読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

奥様は聖女♡

メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

処理中です...