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花の宴
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為氏と三千代姫の住む岩間舘は、そそり立つ崖の上に建ち、眼下に逢隈川が流れる風光明媚な土地である。その対岸には山々の緑が目に鮮やかであり、鎌倉育ちの為氏にも新鮮に映るようだった。
須賀川育ちの三千代姫も、須賀川の丘の下にはほとんど下りたことがなかったらしく、水鳥の遊ぶ姿が見られると言って喜んでいるらしい。
昨年の夏に輿入れした姫は、乳母である由比が常に側に侍っている。また、彼女が幼い頃より仕えていたという岩桐藤内左衛門が護衛の代表であり、数十人の足軽が付き従っていた。その他に、雲居、亀岡、瀧尾、明石、志摩の五人の上臈。為氏と三千代姫の新居には、須田の一族や箭部の一族の女たちが、世話係として岩間館に伺候していた。図書亮の妻になったりくもその一員であり、朝、図書亮と一緒に伏見館や岩間館に行くことが多いのだった。
りくによると、三千代姫や乳母の由比は比較的穏やかな人柄で、とても悪名高い治部大輔の娘とは思えないと述べた。だが、同じく須賀川から付き従ってきた五人の上臈は、やや嵩高だという。そもそも和田衆は、平時は農民と共に農作業に勤しむ者も少なくない。須賀川衆の女たちはそんな和田衆を、どこか小馬鹿にしているというのだ。
須賀川の街は、一応姫の輿入れで和睦が成り立ったとのことで、図書亮も月三回開かれる市などへ出かけることもあった。和田よりも遥かに高台にある街の中心には須賀川城があり、その周りには物売りや諸国からの遊興の者などが集い、確かに和田よりも殷賑の印象があった。
ところで肝心の三千代姫だが、図書亮が見る限り、気性はすこぶるおとなしい。歌道に通じていると左近は述べていたが、その中でもとりわけ「伊勢物語」を好んでいるという。そのため、りく等侍女にも、しばしば伊勢物語の感想を尋ねるのだとりくは話した。りくも伊勢物語を読んだことはあるが、三千代姫ほどにはかの作品に思い入れがないという。
「伊勢物語か……」
りくが困惑するのも、図書亮にはわかる気がした。伊勢物語の筆者は、一説によると在原業平と言われているが、当時の好色男としても有名である。歌は一級だが、中には乙女に聞かせたくない話も含まれているのだった。
「この間もね、伊勢物語の九十話を持ち出されて」
一日の務めが終わり、今日も二人で和田館の近くにある自宅に戻ってきた。図書亮の飯をよそいながら、りくがこぼす。
「九十話というと、桜の話?」
図書亮も、微かに記憶しているくらいだった。
「そう。つれない女にを何とか物にしたいと恋い焦がれていた男に対して、女がさすがに憐れみを感じたのか、『明日には物越しに対面いたしましょう』と約束するでしょう?でも、男は舞い上がりつつも、どこかで女を信じきれなかったのでしょうね。桜に添えた文に、『桜花けふこそかくも匂ふともあな頼みがたあすの夜のこと』という歌を添えて、ちょっと皮肉を込めたというお話」
りくがちらりと、こちらに視線を投げて寄越した。結婚から一年近くにもなると、何となく夫婦の呼吸も合うようになってきて、今ではりくも図書亮のやや面倒な性格を把握しているのだった。
桜の花は今日はこのように美しく咲いている。だが、明日の夜にはどうなっているかわからない。貴女はその様に調子の良い事を仰っしゃられますが、明日の夜になったらまたお気持ちが変わっていらっしゃるのではありませんか。
確かにりくと結婚する前の図書亮なら、それくらいのことは言ったかもしれない。
「りくには、そんな面倒なことをしたことがないじゃないか」
ちくりと文句を言いつつ、今は素直に妻が可愛いと思う。
「で、三千代姫は何と?」
「女性としては簡単に殿方に身を委ねるわけにはいかない。だから、その男と心底が通じるまで待っていただけでしょうに、と。その女の心が、殿方には分からないのでしょうかと仰るのよ」
それは、詰め寄られる女房たちも困っただろう。男女の機微の駆け引きは、三千代姫にはまだ早すぎるようだ。
「その場に御屋形様もいらっしゃったのだけれど、御屋形様も困っていらっしゃいました」
「御屋形様が、姫の真心を疑ったわけではないだろうに」
そう返しつつも、図書亮はふと伏見館への道すがらに見えている薄紅に染まった小山を思い出した。
あれは、方角からすると須田兄弟のうち、次男秀泰が住む市野関館の辺りだろうか。和田館からはやや南東、峯ヶ城からすると北東に位置する小山は、ちょっとした高台である。和田館よりも高い場所にあり、あちらから峯ヶ城の方向を眺めれば、こちらの桜と館下の崖が見事に一枚の画図として映るに違いなかった。
翌日峯ヶ城に伺候すると、図書亮はその旨を美濃守に申し出た。最近は須賀川衆との争いも小康状態にあるため、峯ヶ城の主である美濃守も、落ち着いている風である。
「ああ。丁度館の周りの桜が見頃を迎えている。秀泰とも話して、明日にでも御屋形様に花見のお誘いをしようかと思っていたところだ」
通称佐渡守と呼ばれる秀泰とも、花見の宴の話が持ち上がっていたらしい。武人の印象が強い美濃守だが、風流を解する心得もあるようだ。
美濃守と図書亮は、峯ヶ城に隣接する岩間館に足を運んだ。すると為氏の居室には、三千代姫の姿もあった。どうやら二人で書見をしていたらしい。為氏の文机には和漢朗詠集が、三千代姫の文机には伊勢物語らしき綴本が置かれていた。
美濃守が「領地の視察を兼ねて、市野関舘で花見を催そうと思います」と述べると、為氏は乗り気のようだった。
「どうせなら宴の席を設けようと思う。図書亮、都では相変わらず今様が流行っているそうだな」
それは、遠く丹後の一色本家から来た便りに書かれていた話だった。上州を拠点とする宮内一色家は、現在、辛うじて図書亮らが細々と命脈を繋いでいるが、本家は足利宗家や都との繋がりも強い。その本家からの文に、「京都では近頃また連歌や今様が歌われている」とあったのだ。連歌とは、今までの和歌と異なり、歌を上の句と下の句に分け、全部で一〇〇首詠むのが決まりである。
「そのようです」
図書亮も、愛想良く主である為氏の問いに答えた。
「御屋形様。私もその席に侍りとうございます」
それまで、にこにこと黙って聞いていた三千代姫が、可愛らしい声で為氏にねだった。歌の達人というから、創作意欲が刺激されたのかもしれない。
三千代姫の言葉に困惑して、男たちは顔を見合わせた。いくら御台所とはいえ、家臣を交えた宴席に女人が出席することは、あまり体裁の良いものではない。
「御台。酒が回れば無体をする者も出てまいりましょう。岩間館で桜を愛でるだけで十分ではございませんか」
言葉使いは丁寧だが、美濃守は遠回しに三千代姫の同行を拒んだ。確かに、姫の申し出ははしたないと言えばはしたない。
さて、主である為氏はどう判断するのか。
「美濃守、あまり固いことを申すな」
為氏は、姫を連れて行くことに乗り気のようだ。
「『遥かに人家を見て花あればすなわち入る。貴賤と親疎とを論ぜず』と言うではないか」
為氏は、今しがたまで読んでいた和漢朗詠集から、一節を引っ張り出してきた。白氏による詩で、「見渡して人の家に花が咲いてさえいれば、入ってみる。その人と親しかろうと疎かろうと、気にしない」という意味だ。
あえて三千代姫を連れて行こうというのは、もちろん、為氏が三千代姫に愛情を注いでいるからだろう。だがその裏には、和田衆と姫の距離を縮めようという、為氏なりの配慮もあるのかもしれない。
りくが「姫付きの上臈は嵩高で意地が悪い」と言っていたのを、図書亮はぼんやりと思い出した。
「和田の皆様のお邪魔は致しません。ですが、私も御台所です。領地の様相を識るのも、役目の一つでございましょう?」
婉然と、三千代姫が美濃守に微笑んだ。確かに、それも道理である。
「仕方ありませんな」
夫婦揃っての粘り強い申し出に諦めたのか、ついに美濃守が折れた。続けて、花見の段取りがてきぱきと決められていく。
場所は、秀泰の市野関館。三千代姫が連れて行く須賀川衆の供は、乳母の由比と岩桐藤内左衛門のみ。姫の護衛は、図書亮ら和田衆が付き従うことになった。
せっかくの宴席なので、姫自ら舞を披露してくれるという。打ち合わせの席で胸元に差された檜扇をぱっと開き、姫はひらひらと舞の触りだけをなぞってみせた。
その華やいでいる様子を見ると、年少の身でありながらも、やはり姫も女人の一人なのだと図書亮は感じた。
その日、りくに「三千代姫も市野関舘での花見の宴に参加する」と教えてやると、りくはしきりに羨ましがった。
「ずるいです。図書亮様」
そんなことを言って、図書亮の腕をつねる。とは言え、本気ではないのだろう。軽く痛みを覚えた程度だ。
「たわけ。一応、これも御役目だ」
「わかっていますよ。そうでなくて、三千代姫は舞を舞う姿も、お美しいという話ですから。瀧尾殿が、さんざん自慢していたんですもの」
軽く、りくがため息をつく。瀧尾というのは、姫に付き従っている五人の上臈の一人であり、りくはこの女が特に苦手らしかった。
明日は基本的に、須賀川衆は供が許されていない。そのため、上臈たちの指図に従うりくたちも、岩間館で留守番である。あろうことか、「主夫婦はお疲れになって帰ってくるだろうから、お帰り後に気持ちよく休めるように」と、岩間館の大掃除が決まったというのだ。
りくがむくれるのも、無理はなかった。
「春のはじめの、梅の花。よろこび開けて、実なるとか。みたらし川の、うす氷。こゝろ解けたる、たヾいまかな」
図書亮が食べ終えた食器を片付けながら、りくが、節をつけて口ずさんでみせる。それは、図書亮のところへ来た丹後からの手紙の一節に書かれていた、都で流行っているという今様だった。
梅の花が悦びと共に花開き、実を結ぶ。御手洗川の薄氷が溶けるのは、まさに今である。桜ではないが、これも春に相応しい歌だった。つられて同じ歌を歌おうとして、図書亮はふと気づいた。
(うん……?)
実を結ぶというのは、つまりそういうことではないか。姫よりも幾分か年嵩のりくだ。ちゃんと、その意味を解してこの歌を歌ってみせたのだろう。
「お前、御台様にその歌を教えるんじゃないぞ」
思わず、図書亮は注意をした。まだ年端の行かない御台所に、周りの者から妙な知恵をつけられては困る。それは夫たる為氏の役目だった。
「もちろんです。この歌を歌えるのは、図書亮様の前だけに決まっているじゃないですか」
くすりと、りくが笑った。
翌日、うらうらと暖かな日差しの中で、図書亮は逢隈川を渡った。丁度、鎌倉を離れて一年になる。当初は鄙の地に下向せざるを得なかった我が身を嘆いたが、一年経ってみれば、気候もみちのくにしては雪も少ないし、まずまず穏やかな風土に馴染み始めていた。後は、約束通り治部大輔が為氏に須賀川の城を明け渡してくれるのを、待つばかりである。
だが、治部からは一向に色良い返事が来ない。鎌倉からもそれは注意されていて、四天王らは為氏が治部大輔の娘を娶ったこと、その見返りとして須賀川入城の準備を進めていることなどを、答弁しているらしかった。
(余計なことは忘れよう)
首を振って、小作田の小山の急坂を登ると、こじんまりとしていながらも、雰囲気の良い館が見えてきた。既に佐渡守の配下が酒宴の準備をしている様子が坂の下からも伺え、木々の芽吹きも目に優しい。みちのくは一気に春が来るからだろうか。薄紅の山桜に混じって、ところどころ、桜よりも花期が早いはずの白梅がまだ咲いているのが目に止まった。その枝からは、芳しい香りが漂ってくる。
一行は館に通されると、崖に張り出すように設けられた舞台に着座した。対岸には見慣れた大仏、そして左手には峯ヶ城の崖が見える。
「『始めて識んぬ春の風の機上に巧みなることを。ただ色を織るのみにあらず芬芳をも織る』、だったかな」
庇に掛るようにまだ咲き残っている梅の枝を一枝手折り、為氏がつぶやいた。
「誠に。源英明の素晴らしさは、見目だけではなく五感を働かせて春を感じようとしたところでしょうな」
あれほど三千代姫の同行に難色を示していた美濃守も、他の家臣の手前もあるのか、穏やかな表情を浮かべて為氏の言葉を受けた。
この花々が綾なす錦を見て、初めて春風というものは類ない素晴らしい機織りの技術家だということがわかった。ただ素晴らしい色を織り出すだけではなく、芳しい匂いさえ織り出すのだから。
そのような意味だが、それを咄嗟に呟く為氏もさることながら、意味を解し賛同してみせる美濃守も、相当の教養人に違いなかった。
「お主、美濃守殿をたかが国人の一人と侮っていたのではないか」
二人のやり取りを感嘆の思いで眺めていた図書亮をからかうように話しかけてきたのは、佐渡守に仕える樫村清兵衛だった。別姓を名乗っているものの、遥か昔に二階堂氏から分家した血筋であり、一色の姓を名乗る図書亮に対しても遠慮はない。
「いや、そんなことはない。だが、武ばかりのお人ではないのだな」
平穏な日々が続く中で、図書亮が美濃守を見直したのはその点だった。和田領主として民とも交わり、最近では鎌倉の月窓禅師とも親しくしていて、その教えを乞うために書簡をやり取りしているらしい。
「当たり前だ。俺もだが、鎌倉にいるときは貴人との付き合いもある。美濃守殿は若い頃より、亡き大殿からも目をかけられていた御方だ。諸事に明るく、大陸の故事にも通じておらねば、鎌倉や都で侮られるだけだろう」
「確かに」
清兵衛の言うことも、わかる。図書亮も、今でこそ岩瀬の地に落ち着いているが、鎌倉で永享の騒乱に巻き込まれる前は、荒事だけでなく四書五経や歌道、仏道についてもそれなりに躾けられた。
「世の中にたえて桜のなかりせば春のこゝろはのどけからまし、というのはこのことでしょうか」
色物の小袖を被ぎながら可愛らしい声を響かせているのは、御台である三千代姫だ。普段から伊勢物語を愛読しているためか、同じ在原業平の作と伝えられている歌を咄嗟に詠じたらしい。
「散るのは桜ばかりではない。梅の花片が散り敷かれているのも、また風情がある。桜よりも花の時期が長いから、見る側も馴れすぎてしまい、あまり顧みられることがないのが惜しまれるね」
夫の為氏が、にこやかに三千代姫に答えている。姫は、為氏が詠じた詩が和漢朗詠集に収められていることを知っており、それに応じて業平の歌を詠じたのだろう。普段はあからさまにしないが、地方の姫にしておくには勿体ないくらいの教養を備えているに違いない。どうも二人の会話からすると、三千代姫は必ずしもりくが言うような「夢見がちな姫」というわけではないようだ。
そこへ、箭部安房守がやってきた。
「安房守様。ご機嫌麗しゅう」
現在図書亮は美濃守の配下に組み入れられているが、安房守とは妻のりくを通じての縁戚関係がある。咄嗟に臣下の礼を取ろうとした図書亮に対し、気さくな安房守は軽く手を振った。
「花の宴で、礼儀を求めるのも無粋だろう。そのままで良い」
そう言うと、図書亮に酒を勧めてくれた。礼儀として、図書亮も杯を返す。
「図書亮殿のところに、りくが縁付いて良かった。達者でおるかな」
「お陰様で」
安房守の配慮だったとはいえ、良い娘を娶せてくれたことについては感謝している。
「後は、子が出来るのを待つばかりだな」
冗談か本音か、安房守は相変わらずにこやかな表情だ。まさか、昨夜暗にりくからもそれを求められたとは言えず、図書亮は曖昧な笑みを浮かべた。
「まあ、お主のところよりも御屋形たちの和子誕生の方が気になるが……」
不意に真面目な表情になり、安房守が口元を引き結んだ。
確かに、そもそもは西衆と東衆の和睦の象徴としての縁組だったから、家中が和子誕生を願うのは当然だった。
「美濃守にもそれとなく聞いてみたが、まだ子のできる気配がないそうだな」
「夫婦仲はよろしいのですがね。御屋形も御台もまだ若すぎるのでしょう」
安房守に相槌を打ちつつ、あまりにも「和子誕生」にこだわられると、まだ若い主夫婦が気の毒な気もした。
「御台が伊勢物語にあれこれ興じ、御屋形が困っていたと、りくが申しておりました」
「ふむ。御台はまだ大人になりきれていないということか」
「そのようです」
男女の心の機微が理解できていないということは、主夫婦の関係は淡い恋心で止まっているのかもしれない。
自分たちのような身分の低い者であれば、それでも許されるのかもしれない。今はまだ淡い恋心のままで、いずれゆっくりと大人の関係を結んでいくこともできるだろう。だが、主夫婦には「須賀川東西の和睦」という重荷が課せられている。こちらは、差し迫った課題だ。
そんな図書亮の思いを知ってか知らずか、しれっと安房守は重要なことを述べた。
「もしも、だ。お主のところと御屋形の和子誕生が重なれば、箭部の家からりくを乳母として出すことになるかもしれぬ。お主も軽々しい振る舞いは慎むように」
結婚してから初めて、図書亮は一族の長である安房守から釘を刺された。元よりこの地で生きていくために軽挙な振る舞いは謹んでいたつもりだが、りくが乳母になる可能性を示唆されるとは、思わなかった。
だが、確かに言われてみればその通りだった。田舎娘であるとはいえ、りくは四天王の縁者である。図書亮がいくら名家の血を引いているとは言え、余所者に一族の娘を娶せるとなれば、それなりの合理的な理由があるはずだった。
名家の血を引き、かつそれに相応しい教養も見込まれて、図書亮は箭部の一族に加えられたということか。薄々感じていたことだが、安房守もなかなか一筋縄ではいかない男である。
「図書亮。御屋形がお主を呼んでいる」
やはり花見に招かれた須田源蔵が、図書亮を呼びに来た。図書亮は、安房守に軽く頭を下げると、為氏の前に進み出た。
「御屋形様。何か御用でしょうか」
「うん。御台が一差し舞うので、お前にも見てもらいたいと言うから」
為氏は、何の魂胆もなさそうに明るく述べた。図書亮の妻であるりくが三千代姫の世話もしているので、土産話を持ち帰らせてやろうとの配慮だろう。
四天王の後ろに控え、図書亮は背筋を伸ばした。三千代姫が華やかな飾りのついた扇を開き、背後に逢隈川と桜を背負う形で舞い始める。まるで、天女が春の舞台で舞っているような趣だ。
「春の初の歌枕。霞たなびく吉野山。鶯、佐保姫翁草。花を見すてて帰る雁」
凛とした御台の声が、朗々と響く。どこで覚えてきたのか、これも今様の一節だった。まだ若い姫らしく、吉野の美しさや鶯、佐保姫など春が歌われている今様を撰ぶところが、彼女らしい。
次いで、為氏がそれに釣られたように歌いだした。
「思ひは陸奥に、戀は駿河に通ふなり、見初めざりせばなかなかに、空に忘れて已みなまし」
その歌に、家臣の中にはそっと目を伏せる者もいた。為氏が詠じているのは、梁塵秘抄からの一節である。
相手を見初め、その恋心は満ちて陸奥までも届くほど。なまじっか見初めなかったら、陸奥へたどり着くまでもなく、途中であの人のことも忘れ、これほど恋い慕うこともなくそのまま終わってしまったことだろう。
そんな意味の歌であるから、鎌倉で育った為氏から三千代姫への恋心を、故事に寄せて滔々と歌っているとも取れる。
(りくが目のやり場に困るわけだ)
図書亮は、妻がこぼすのがわかる気がした。
が、家臣たちのそんな雰囲気を察したのか、ちらりと三千代姫がこちらを見ると、新たな歌を唄い、舞い始めた。
「龍女は佛に成りにけり。などか我らも成らざらん。五障の雲こそ厚くとも。如来月輪隠されじ」
これも梁塵秘抄の一節だが、今までの恋の歌とは趣が異なる。
竜女は竜王の娘でありながら、法華経の功徳で成仏した。どうして我らも成仏できないことがあるだろうか。きっと成仏できるに違いない。
女性には成仏の障りとなる五障があると言う。それが月光を遮る厚い雲のようなものであったとしても、身内から出るこの本性の発揮を覆い隠すことはできないだろう。月の清浄円満な姿を、厚い雲が完全に消すことができないように。
「ふむ……」
図書亮の傍らで、安房守が小さく唸った。
「あの姫は、なかなか賢いな」
図書亮も、家臣の空気を読んで切り返す姫の姿に、彼女を見直す思いだった。
捉えようによっては、竜女を自分に、竜王を治部大輔に例えているとも言える。三千代姫は、花見の座興に見せかけながらも、和田の者たちに「たとえ生まれが須賀川の姫であっても、心は和田衆と共にある」と暗に呼びかけたのだ。
ただの恋に恋い焦がれる姫ではない。
「図書亮。御屋形様に、何か相応しいものを」
美濃守に命じられて、図書亮は一瞬言葉に詰まった。今の御台の覚悟を示す歌を受けて、為氏も舞って見せるつもりらしい。それに相応しい歌を詠じよというのだ。
しばし黙考した後、図書亮は美濃守に肯いてみせた。
「釈迦の月は隠れにき。慈氏の朝日は未だ遥か。その程長夜の闇きをば。法花経のみこそ照らひたまへ」
今は兜率天の内院にあるが、将来は弥勒仏として出世する。釈尊入滅後五十六億七千万年を経て、この土に出て衆生を導く。
図書亮としては、為氏を弥勒になぞらえたつもりだった。言外に、いずれは、為氏が須賀川の衆生を救ってみせる、という意味を含ませている。
図書亮が詠じ終わり、為氏が舞を収めると、どこからともなくほうっという感嘆のため息が上がった。どうやら、合格点だったらしい。
「さすが、婿殿」
安房守も、にこりと笑みを浮かべた。
――対岸の和田館の山の端に日がかかり、一座は宴の後片付けに入った。
図書亮は、相生兄弟らと一緒に佐渡守の家人たちの片付けを手伝っていた。
「一色殿」
若い女人の声に、酒器を運ぼうとしていた図書亮は手を止めた。この席で、若い女は三千代姫しかいない。
「先程は、見事な謡でした」
三千代姫は、童女のような成熟した女性のような、不思議な笑みを浮かべた。
「畏れ仕ります」
軽く片膝をついて、御台に頭を下げる。
「御屋形様は、お前たちのような者がいて幸せですね」
その柔らかい声色に、ほんの少し寂しさが混じっていたのは、気のせいだろうか。
「何を申されます。御台も、和田に嫁がれたのですから、我々も御屋形と同じ様にお仕えする所存です」
脇から、源蔵が慌てて言い添えた。どうやら彼も、あの三千代姫の歌の意図に気付いていたらしい。
「そうなるように、願っております」
三千代姫は、小さく笑った。
「ですが、今のところはまだ信夫山にも辿り着けていないようで」
少し考えて、図書亮は微苦笑を浮かべた。
三千代姫の言わんとしているところは、姫が愛読している伊勢物語の十五話のことだろう。
信夫山しのびて通ふ道もがな人の心の奥もみるべく
先程、夫の為氏が三千代姫への恋心を「道の奥にも届くほど」と仄めかしたのを受けて、同じみちのくにある信夫山を持ち出したのかもしれない。
三千代姫がなぞらえたのは、信夫山で秘めた恋心を明かそうとしないまま待つ女のことか。それともそんな女の思いを知らず、恋心を訴えながら通う男の側だろうか。だが、それを解き明かそうとするのは、姫を傷つけるだけかもしれない。
そんな三千代姫を見て、側にいた為氏は何か思いついたらしい。
「清兵衛。桜を幾枝か手折ってきてもらえないか?」
言われるままに、館の外に樫村清兵衛が出ていき、程なくして山桜の枝を何本か抱えてきた。
三千代姫はそれを受け取ると、一本を図書亮に手渡した。
「私にも、ですか?」
姫から下賜された枝を、図書亮は恐る恐る受け取った。
「先程、見事な謡を披露してくれた褒美です」
そこまで言われて、図書亮は主夫妻の意図に気づいた。
和漢朗詠集の「花」の段にある、「みてのみや人にかたらむ山桜手ごとに織りて家づとにせむ」という歌を踏まえてのことに違いない。
山桜が美しかったと見た感想を述べるだけですむだろうか。いっそ、一枝ずつめいめいが持ち帰り、家への土産としようではないか。
その話をりくに伝えてやれば、きっと彼女も三千代姫への好意を深めるだろう。
「私も、『わがやどの花見がてらにくる人は散りなむのちぞ恋しかるべき』と、お答えするべきでしょうな」
市之関館の主である佐渡守も、穏やかに微笑んだ。こちらは、花見にやってきた客人を、花が散った後も恋しく思い出すという趣旨の歌である。
ちらりと振り返ると、この雅なやり取りを、付き従ってきた美濃守も安房守も、さすがに笑って見守るしかないようだった。
いつぞやの伊藤左近の言葉ではないが、この若夫婦に子供が出来れば、須賀川衆とのわだかまりも解消されていくのではないか。そんな仲の良さを感じさせる二人だった――。
須賀川育ちの三千代姫も、須賀川の丘の下にはほとんど下りたことがなかったらしく、水鳥の遊ぶ姿が見られると言って喜んでいるらしい。
昨年の夏に輿入れした姫は、乳母である由比が常に側に侍っている。また、彼女が幼い頃より仕えていたという岩桐藤内左衛門が護衛の代表であり、数十人の足軽が付き従っていた。その他に、雲居、亀岡、瀧尾、明石、志摩の五人の上臈。為氏と三千代姫の新居には、須田の一族や箭部の一族の女たちが、世話係として岩間館に伺候していた。図書亮の妻になったりくもその一員であり、朝、図書亮と一緒に伏見館や岩間館に行くことが多いのだった。
りくによると、三千代姫や乳母の由比は比較的穏やかな人柄で、とても悪名高い治部大輔の娘とは思えないと述べた。だが、同じく須賀川から付き従ってきた五人の上臈は、やや嵩高だという。そもそも和田衆は、平時は農民と共に農作業に勤しむ者も少なくない。須賀川衆の女たちはそんな和田衆を、どこか小馬鹿にしているというのだ。
須賀川の街は、一応姫の輿入れで和睦が成り立ったとのことで、図書亮も月三回開かれる市などへ出かけることもあった。和田よりも遥かに高台にある街の中心には須賀川城があり、その周りには物売りや諸国からの遊興の者などが集い、確かに和田よりも殷賑の印象があった。
ところで肝心の三千代姫だが、図書亮が見る限り、気性はすこぶるおとなしい。歌道に通じていると左近は述べていたが、その中でもとりわけ「伊勢物語」を好んでいるという。そのため、りく等侍女にも、しばしば伊勢物語の感想を尋ねるのだとりくは話した。りくも伊勢物語を読んだことはあるが、三千代姫ほどにはかの作品に思い入れがないという。
「伊勢物語か……」
りくが困惑するのも、図書亮にはわかる気がした。伊勢物語の筆者は、一説によると在原業平と言われているが、当時の好色男としても有名である。歌は一級だが、中には乙女に聞かせたくない話も含まれているのだった。
「この間もね、伊勢物語の九十話を持ち出されて」
一日の務めが終わり、今日も二人で和田館の近くにある自宅に戻ってきた。図書亮の飯をよそいながら、りくがこぼす。
「九十話というと、桜の話?」
図書亮も、微かに記憶しているくらいだった。
「そう。つれない女にを何とか物にしたいと恋い焦がれていた男に対して、女がさすがに憐れみを感じたのか、『明日には物越しに対面いたしましょう』と約束するでしょう?でも、男は舞い上がりつつも、どこかで女を信じきれなかったのでしょうね。桜に添えた文に、『桜花けふこそかくも匂ふともあな頼みがたあすの夜のこと』という歌を添えて、ちょっと皮肉を込めたというお話」
りくがちらりと、こちらに視線を投げて寄越した。結婚から一年近くにもなると、何となく夫婦の呼吸も合うようになってきて、今ではりくも図書亮のやや面倒な性格を把握しているのだった。
桜の花は今日はこのように美しく咲いている。だが、明日の夜にはどうなっているかわからない。貴女はその様に調子の良い事を仰っしゃられますが、明日の夜になったらまたお気持ちが変わっていらっしゃるのではありませんか。
確かにりくと結婚する前の図書亮なら、それくらいのことは言ったかもしれない。
「りくには、そんな面倒なことをしたことがないじゃないか」
ちくりと文句を言いつつ、今は素直に妻が可愛いと思う。
「で、三千代姫は何と?」
「女性としては簡単に殿方に身を委ねるわけにはいかない。だから、その男と心底が通じるまで待っていただけでしょうに、と。その女の心が、殿方には分からないのでしょうかと仰るのよ」
それは、詰め寄られる女房たちも困っただろう。男女の機微の駆け引きは、三千代姫にはまだ早すぎるようだ。
「その場に御屋形様もいらっしゃったのだけれど、御屋形様も困っていらっしゃいました」
「御屋形様が、姫の真心を疑ったわけではないだろうに」
そう返しつつも、図書亮はふと伏見館への道すがらに見えている薄紅に染まった小山を思い出した。
あれは、方角からすると須田兄弟のうち、次男秀泰が住む市野関館の辺りだろうか。和田館からはやや南東、峯ヶ城からすると北東に位置する小山は、ちょっとした高台である。和田館よりも高い場所にあり、あちらから峯ヶ城の方向を眺めれば、こちらの桜と館下の崖が見事に一枚の画図として映るに違いなかった。
翌日峯ヶ城に伺候すると、図書亮はその旨を美濃守に申し出た。最近は須賀川衆との争いも小康状態にあるため、峯ヶ城の主である美濃守も、落ち着いている風である。
「ああ。丁度館の周りの桜が見頃を迎えている。秀泰とも話して、明日にでも御屋形様に花見のお誘いをしようかと思っていたところだ」
通称佐渡守と呼ばれる秀泰とも、花見の宴の話が持ち上がっていたらしい。武人の印象が強い美濃守だが、風流を解する心得もあるようだ。
美濃守と図書亮は、峯ヶ城に隣接する岩間館に足を運んだ。すると為氏の居室には、三千代姫の姿もあった。どうやら二人で書見をしていたらしい。為氏の文机には和漢朗詠集が、三千代姫の文机には伊勢物語らしき綴本が置かれていた。
美濃守が「領地の視察を兼ねて、市野関舘で花見を催そうと思います」と述べると、為氏は乗り気のようだった。
「どうせなら宴の席を設けようと思う。図書亮、都では相変わらず今様が流行っているそうだな」
それは、遠く丹後の一色本家から来た便りに書かれていた話だった。上州を拠点とする宮内一色家は、現在、辛うじて図書亮らが細々と命脈を繋いでいるが、本家は足利宗家や都との繋がりも強い。その本家からの文に、「京都では近頃また連歌や今様が歌われている」とあったのだ。連歌とは、今までの和歌と異なり、歌を上の句と下の句に分け、全部で一〇〇首詠むのが決まりである。
「そのようです」
図書亮も、愛想良く主である為氏の問いに答えた。
「御屋形様。私もその席に侍りとうございます」
それまで、にこにこと黙って聞いていた三千代姫が、可愛らしい声で為氏にねだった。歌の達人というから、創作意欲が刺激されたのかもしれない。
三千代姫の言葉に困惑して、男たちは顔を見合わせた。いくら御台所とはいえ、家臣を交えた宴席に女人が出席することは、あまり体裁の良いものではない。
「御台。酒が回れば無体をする者も出てまいりましょう。岩間館で桜を愛でるだけで十分ではございませんか」
言葉使いは丁寧だが、美濃守は遠回しに三千代姫の同行を拒んだ。確かに、姫の申し出ははしたないと言えばはしたない。
さて、主である為氏はどう判断するのか。
「美濃守、あまり固いことを申すな」
為氏は、姫を連れて行くことに乗り気のようだ。
「『遥かに人家を見て花あればすなわち入る。貴賤と親疎とを論ぜず』と言うではないか」
為氏は、今しがたまで読んでいた和漢朗詠集から、一節を引っ張り出してきた。白氏による詩で、「見渡して人の家に花が咲いてさえいれば、入ってみる。その人と親しかろうと疎かろうと、気にしない」という意味だ。
あえて三千代姫を連れて行こうというのは、もちろん、為氏が三千代姫に愛情を注いでいるからだろう。だがその裏には、和田衆と姫の距離を縮めようという、為氏なりの配慮もあるのかもしれない。
りくが「姫付きの上臈は嵩高で意地が悪い」と言っていたのを、図書亮はぼんやりと思い出した。
「和田の皆様のお邪魔は致しません。ですが、私も御台所です。領地の様相を識るのも、役目の一つでございましょう?」
婉然と、三千代姫が美濃守に微笑んだ。確かに、それも道理である。
「仕方ありませんな」
夫婦揃っての粘り強い申し出に諦めたのか、ついに美濃守が折れた。続けて、花見の段取りがてきぱきと決められていく。
場所は、秀泰の市野関館。三千代姫が連れて行く須賀川衆の供は、乳母の由比と岩桐藤内左衛門のみ。姫の護衛は、図書亮ら和田衆が付き従うことになった。
せっかくの宴席なので、姫自ら舞を披露してくれるという。打ち合わせの席で胸元に差された檜扇をぱっと開き、姫はひらひらと舞の触りだけをなぞってみせた。
その華やいでいる様子を見ると、年少の身でありながらも、やはり姫も女人の一人なのだと図書亮は感じた。
その日、りくに「三千代姫も市野関舘での花見の宴に参加する」と教えてやると、りくはしきりに羨ましがった。
「ずるいです。図書亮様」
そんなことを言って、図書亮の腕をつねる。とは言え、本気ではないのだろう。軽く痛みを覚えた程度だ。
「たわけ。一応、これも御役目だ」
「わかっていますよ。そうでなくて、三千代姫は舞を舞う姿も、お美しいという話ですから。瀧尾殿が、さんざん自慢していたんですもの」
軽く、りくがため息をつく。瀧尾というのは、姫に付き従っている五人の上臈の一人であり、りくはこの女が特に苦手らしかった。
明日は基本的に、須賀川衆は供が許されていない。そのため、上臈たちの指図に従うりくたちも、岩間館で留守番である。あろうことか、「主夫婦はお疲れになって帰ってくるだろうから、お帰り後に気持ちよく休めるように」と、岩間館の大掃除が決まったというのだ。
りくがむくれるのも、無理はなかった。
「春のはじめの、梅の花。よろこび開けて、実なるとか。みたらし川の、うす氷。こゝろ解けたる、たヾいまかな」
図書亮が食べ終えた食器を片付けながら、りくが、節をつけて口ずさんでみせる。それは、図書亮のところへ来た丹後からの手紙の一節に書かれていた、都で流行っているという今様だった。
梅の花が悦びと共に花開き、実を結ぶ。御手洗川の薄氷が溶けるのは、まさに今である。桜ではないが、これも春に相応しい歌だった。つられて同じ歌を歌おうとして、図書亮はふと気づいた。
(うん……?)
実を結ぶというのは、つまりそういうことではないか。姫よりも幾分か年嵩のりくだ。ちゃんと、その意味を解してこの歌を歌ってみせたのだろう。
「お前、御台様にその歌を教えるんじゃないぞ」
思わず、図書亮は注意をした。まだ年端の行かない御台所に、周りの者から妙な知恵をつけられては困る。それは夫たる為氏の役目だった。
「もちろんです。この歌を歌えるのは、図書亮様の前だけに決まっているじゃないですか」
くすりと、りくが笑った。
翌日、うらうらと暖かな日差しの中で、図書亮は逢隈川を渡った。丁度、鎌倉を離れて一年になる。当初は鄙の地に下向せざるを得なかった我が身を嘆いたが、一年経ってみれば、気候もみちのくにしては雪も少ないし、まずまず穏やかな風土に馴染み始めていた。後は、約束通り治部大輔が為氏に須賀川の城を明け渡してくれるのを、待つばかりである。
だが、治部からは一向に色良い返事が来ない。鎌倉からもそれは注意されていて、四天王らは為氏が治部大輔の娘を娶ったこと、その見返りとして須賀川入城の準備を進めていることなどを、答弁しているらしかった。
(余計なことは忘れよう)
首を振って、小作田の小山の急坂を登ると、こじんまりとしていながらも、雰囲気の良い館が見えてきた。既に佐渡守の配下が酒宴の準備をしている様子が坂の下からも伺え、木々の芽吹きも目に優しい。みちのくは一気に春が来るからだろうか。薄紅の山桜に混じって、ところどころ、桜よりも花期が早いはずの白梅がまだ咲いているのが目に止まった。その枝からは、芳しい香りが漂ってくる。
一行は館に通されると、崖に張り出すように設けられた舞台に着座した。対岸には見慣れた大仏、そして左手には峯ヶ城の崖が見える。
「『始めて識んぬ春の風の機上に巧みなることを。ただ色を織るのみにあらず芬芳をも織る』、だったかな」
庇に掛るようにまだ咲き残っている梅の枝を一枝手折り、為氏がつぶやいた。
「誠に。源英明の素晴らしさは、見目だけではなく五感を働かせて春を感じようとしたところでしょうな」
あれほど三千代姫の同行に難色を示していた美濃守も、他の家臣の手前もあるのか、穏やかな表情を浮かべて為氏の言葉を受けた。
この花々が綾なす錦を見て、初めて春風というものは類ない素晴らしい機織りの技術家だということがわかった。ただ素晴らしい色を織り出すだけではなく、芳しい匂いさえ織り出すのだから。
そのような意味だが、それを咄嗟に呟く為氏もさることながら、意味を解し賛同してみせる美濃守も、相当の教養人に違いなかった。
「お主、美濃守殿をたかが国人の一人と侮っていたのではないか」
二人のやり取りを感嘆の思いで眺めていた図書亮をからかうように話しかけてきたのは、佐渡守に仕える樫村清兵衛だった。別姓を名乗っているものの、遥か昔に二階堂氏から分家した血筋であり、一色の姓を名乗る図書亮に対しても遠慮はない。
「いや、そんなことはない。だが、武ばかりのお人ではないのだな」
平穏な日々が続く中で、図書亮が美濃守を見直したのはその点だった。和田領主として民とも交わり、最近では鎌倉の月窓禅師とも親しくしていて、その教えを乞うために書簡をやり取りしているらしい。
「当たり前だ。俺もだが、鎌倉にいるときは貴人との付き合いもある。美濃守殿は若い頃より、亡き大殿からも目をかけられていた御方だ。諸事に明るく、大陸の故事にも通じておらねば、鎌倉や都で侮られるだけだろう」
「確かに」
清兵衛の言うことも、わかる。図書亮も、今でこそ岩瀬の地に落ち着いているが、鎌倉で永享の騒乱に巻き込まれる前は、荒事だけでなく四書五経や歌道、仏道についてもそれなりに躾けられた。
「世の中にたえて桜のなかりせば春のこゝろはのどけからまし、というのはこのことでしょうか」
色物の小袖を被ぎながら可愛らしい声を響かせているのは、御台である三千代姫だ。普段から伊勢物語を愛読しているためか、同じ在原業平の作と伝えられている歌を咄嗟に詠じたらしい。
「散るのは桜ばかりではない。梅の花片が散り敷かれているのも、また風情がある。桜よりも花の時期が長いから、見る側も馴れすぎてしまい、あまり顧みられることがないのが惜しまれるね」
夫の為氏が、にこやかに三千代姫に答えている。姫は、為氏が詠じた詩が和漢朗詠集に収められていることを知っており、それに応じて業平の歌を詠じたのだろう。普段はあからさまにしないが、地方の姫にしておくには勿体ないくらいの教養を備えているに違いない。どうも二人の会話からすると、三千代姫は必ずしもりくが言うような「夢見がちな姫」というわけではないようだ。
そこへ、箭部安房守がやってきた。
「安房守様。ご機嫌麗しゅう」
現在図書亮は美濃守の配下に組み入れられているが、安房守とは妻のりくを通じての縁戚関係がある。咄嗟に臣下の礼を取ろうとした図書亮に対し、気さくな安房守は軽く手を振った。
「花の宴で、礼儀を求めるのも無粋だろう。そのままで良い」
そう言うと、図書亮に酒を勧めてくれた。礼儀として、図書亮も杯を返す。
「図書亮殿のところに、りくが縁付いて良かった。達者でおるかな」
「お陰様で」
安房守の配慮だったとはいえ、良い娘を娶せてくれたことについては感謝している。
「後は、子が出来るのを待つばかりだな」
冗談か本音か、安房守は相変わらずにこやかな表情だ。まさか、昨夜暗にりくからもそれを求められたとは言えず、図書亮は曖昧な笑みを浮かべた。
「まあ、お主のところよりも御屋形たちの和子誕生の方が気になるが……」
不意に真面目な表情になり、安房守が口元を引き結んだ。
確かに、そもそもは西衆と東衆の和睦の象徴としての縁組だったから、家中が和子誕生を願うのは当然だった。
「美濃守にもそれとなく聞いてみたが、まだ子のできる気配がないそうだな」
「夫婦仲はよろしいのですがね。御屋形も御台もまだ若すぎるのでしょう」
安房守に相槌を打ちつつ、あまりにも「和子誕生」にこだわられると、まだ若い主夫婦が気の毒な気もした。
「御台が伊勢物語にあれこれ興じ、御屋形が困っていたと、りくが申しておりました」
「ふむ。御台はまだ大人になりきれていないということか」
「そのようです」
男女の心の機微が理解できていないということは、主夫婦の関係は淡い恋心で止まっているのかもしれない。
自分たちのような身分の低い者であれば、それでも許されるのかもしれない。今はまだ淡い恋心のままで、いずれゆっくりと大人の関係を結んでいくこともできるだろう。だが、主夫婦には「須賀川東西の和睦」という重荷が課せられている。こちらは、差し迫った課題だ。
そんな図書亮の思いを知ってか知らずか、しれっと安房守は重要なことを述べた。
「もしも、だ。お主のところと御屋形の和子誕生が重なれば、箭部の家からりくを乳母として出すことになるかもしれぬ。お主も軽々しい振る舞いは慎むように」
結婚してから初めて、図書亮は一族の長である安房守から釘を刺された。元よりこの地で生きていくために軽挙な振る舞いは謹んでいたつもりだが、りくが乳母になる可能性を示唆されるとは、思わなかった。
だが、確かに言われてみればその通りだった。田舎娘であるとはいえ、りくは四天王の縁者である。図書亮がいくら名家の血を引いているとは言え、余所者に一族の娘を娶せるとなれば、それなりの合理的な理由があるはずだった。
名家の血を引き、かつそれに相応しい教養も見込まれて、図書亮は箭部の一族に加えられたということか。薄々感じていたことだが、安房守もなかなか一筋縄ではいかない男である。
「図書亮。御屋形がお主を呼んでいる」
やはり花見に招かれた須田源蔵が、図書亮を呼びに来た。図書亮は、安房守に軽く頭を下げると、為氏の前に進み出た。
「御屋形様。何か御用でしょうか」
「うん。御台が一差し舞うので、お前にも見てもらいたいと言うから」
為氏は、何の魂胆もなさそうに明るく述べた。図書亮の妻であるりくが三千代姫の世話もしているので、土産話を持ち帰らせてやろうとの配慮だろう。
四天王の後ろに控え、図書亮は背筋を伸ばした。三千代姫が華やかな飾りのついた扇を開き、背後に逢隈川と桜を背負う形で舞い始める。まるで、天女が春の舞台で舞っているような趣だ。
「春の初の歌枕。霞たなびく吉野山。鶯、佐保姫翁草。花を見すてて帰る雁」
凛とした御台の声が、朗々と響く。どこで覚えてきたのか、これも今様の一節だった。まだ若い姫らしく、吉野の美しさや鶯、佐保姫など春が歌われている今様を撰ぶところが、彼女らしい。
次いで、為氏がそれに釣られたように歌いだした。
「思ひは陸奥に、戀は駿河に通ふなり、見初めざりせばなかなかに、空に忘れて已みなまし」
その歌に、家臣の中にはそっと目を伏せる者もいた。為氏が詠じているのは、梁塵秘抄からの一節である。
相手を見初め、その恋心は満ちて陸奥までも届くほど。なまじっか見初めなかったら、陸奥へたどり着くまでもなく、途中であの人のことも忘れ、これほど恋い慕うこともなくそのまま終わってしまったことだろう。
そんな意味の歌であるから、鎌倉で育った為氏から三千代姫への恋心を、故事に寄せて滔々と歌っているとも取れる。
(りくが目のやり場に困るわけだ)
図書亮は、妻がこぼすのがわかる気がした。
が、家臣たちのそんな雰囲気を察したのか、ちらりと三千代姫がこちらを見ると、新たな歌を唄い、舞い始めた。
「龍女は佛に成りにけり。などか我らも成らざらん。五障の雲こそ厚くとも。如来月輪隠されじ」
これも梁塵秘抄の一節だが、今までの恋の歌とは趣が異なる。
竜女は竜王の娘でありながら、法華経の功徳で成仏した。どうして我らも成仏できないことがあるだろうか。きっと成仏できるに違いない。
女性には成仏の障りとなる五障があると言う。それが月光を遮る厚い雲のようなものであったとしても、身内から出るこの本性の発揮を覆い隠すことはできないだろう。月の清浄円満な姿を、厚い雲が完全に消すことができないように。
「ふむ……」
図書亮の傍らで、安房守が小さく唸った。
「あの姫は、なかなか賢いな」
図書亮も、家臣の空気を読んで切り返す姫の姿に、彼女を見直す思いだった。
捉えようによっては、竜女を自分に、竜王を治部大輔に例えているとも言える。三千代姫は、花見の座興に見せかけながらも、和田の者たちに「たとえ生まれが須賀川の姫であっても、心は和田衆と共にある」と暗に呼びかけたのだ。
ただの恋に恋い焦がれる姫ではない。
「図書亮。御屋形様に、何か相応しいものを」
美濃守に命じられて、図書亮は一瞬言葉に詰まった。今の御台の覚悟を示す歌を受けて、為氏も舞って見せるつもりらしい。それに相応しい歌を詠じよというのだ。
しばし黙考した後、図書亮は美濃守に肯いてみせた。
「釈迦の月は隠れにき。慈氏の朝日は未だ遥か。その程長夜の闇きをば。法花経のみこそ照らひたまへ」
今は兜率天の内院にあるが、将来は弥勒仏として出世する。釈尊入滅後五十六億七千万年を経て、この土に出て衆生を導く。
図書亮としては、為氏を弥勒になぞらえたつもりだった。言外に、いずれは、為氏が須賀川の衆生を救ってみせる、という意味を含ませている。
図書亮が詠じ終わり、為氏が舞を収めると、どこからともなくほうっという感嘆のため息が上がった。どうやら、合格点だったらしい。
「さすが、婿殿」
安房守も、にこりと笑みを浮かべた。
――対岸の和田館の山の端に日がかかり、一座は宴の後片付けに入った。
図書亮は、相生兄弟らと一緒に佐渡守の家人たちの片付けを手伝っていた。
「一色殿」
若い女人の声に、酒器を運ぼうとしていた図書亮は手を止めた。この席で、若い女は三千代姫しかいない。
「先程は、見事な謡でした」
三千代姫は、童女のような成熟した女性のような、不思議な笑みを浮かべた。
「畏れ仕ります」
軽く片膝をついて、御台に頭を下げる。
「御屋形様は、お前たちのような者がいて幸せですね」
その柔らかい声色に、ほんの少し寂しさが混じっていたのは、気のせいだろうか。
「何を申されます。御台も、和田に嫁がれたのですから、我々も御屋形と同じ様にお仕えする所存です」
脇から、源蔵が慌てて言い添えた。どうやら彼も、あの三千代姫の歌の意図に気付いていたらしい。
「そうなるように、願っております」
三千代姫は、小さく笑った。
「ですが、今のところはまだ信夫山にも辿り着けていないようで」
少し考えて、図書亮は微苦笑を浮かべた。
三千代姫の言わんとしているところは、姫が愛読している伊勢物語の十五話のことだろう。
信夫山しのびて通ふ道もがな人の心の奥もみるべく
先程、夫の為氏が三千代姫への恋心を「道の奥にも届くほど」と仄めかしたのを受けて、同じみちのくにある信夫山を持ち出したのかもしれない。
三千代姫がなぞらえたのは、信夫山で秘めた恋心を明かそうとしないまま待つ女のことか。それともそんな女の思いを知らず、恋心を訴えながら通う男の側だろうか。だが、それを解き明かそうとするのは、姫を傷つけるだけかもしれない。
そんな三千代姫を見て、側にいた為氏は何か思いついたらしい。
「清兵衛。桜を幾枝か手折ってきてもらえないか?」
言われるままに、館の外に樫村清兵衛が出ていき、程なくして山桜の枝を何本か抱えてきた。
三千代姫はそれを受け取ると、一本を図書亮に手渡した。
「私にも、ですか?」
姫から下賜された枝を、図書亮は恐る恐る受け取った。
「先程、見事な謡を披露してくれた褒美です」
そこまで言われて、図書亮は主夫妻の意図に気づいた。
和漢朗詠集の「花」の段にある、「みてのみや人にかたらむ山桜手ごとに織りて家づとにせむ」という歌を踏まえてのことに違いない。
山桜が美しかったと見た感想を述べるだけですむだろうか。いっそ、一枝ずつめいめいが持ち帰り、家への土産としようではないか。
その話をりくに伝えてやれば、きっと彼女も三千代姫への好意を深めるだろう。
「私も、『わがやどの花見がてらにくる人は散りなむのちぞ恋しかるべき』と、お答えするべきでしょうな」
市之関館の主である佐渡守も、穏やかに微笑んだ。こちらは、花見にやってきた客人を、花が散った後も恋しく思い出すという趣旨の歌である。
ちらりと振り返ると、この雅なやり取りを、付き従ってきた美濃守も安房守も、さすがに笑って見守るしかないようだった。
いつぞやの伊藤左近の言葉ではないが、この若夫婦に子供が出来れば、須賀川衆とのわだかまりも解消されていくのではないか。そんな仲の良さを感じさせる二人だった――。
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