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4-2 全然悔しくなんてあります

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 最初に行うべきだと思ったのは、体制を整えることだ。
 ジェイ、リックと話し合い、試験的にだが、砦の兵とエルフたちの混成部隊をいくつか作ることにした。

「混成部隊の人は短期間で交代を行ってくれ。情報の共有と、互いの行っている仕事を経験することで理解が深まるはずだ」
「揉めたやつが出た場合はどないするんや?」

 少し悩んだ後、渋い顔で言う。

「仲直り、できたら一番なんだけど……」
「もちろんそれが理想ですけど、種族の違いもあれば、相性の問題もありますからね。なるべく早めに引き離し、話を聞いて異動。これが一番ですよ」
「うーん、そこら辺は随時対応していこう。ジェイの言う通り、相性の問題は簡単に解決しないだろうしな」

 ……ということで混成部隊を作ることになったのだが、これは中々に面白い取り組みだった。
 諍いを恐れていたのだが、ここ数日で色々あったせいか、大きな問題も起きずにことは進んだ。
 砦の兵たちは満遍なくあらゆることを熟し、エルフたちは魔法や木の加工、森の移動方法などで力を発揮した。

 個人的には、人とエルフで大きな違いがあると思っていたのだが、それは間違いだったと感じている。できるやつはできるし、できないやつはできない。結局は向き不向きなのだろう。
 それでも一点だけ容姿以外の違いを上げるとすれば、やはり魔法だ。人よりも魔法に精通しているな、というのはヒシヒシと感じていた。

「予想以上にうまくいっていて良かったよ。やっぱりここ最近のいざこざを、一緒に乗り越えてきたからかな?」

 嬉しく思い口にすると、ジェイが目を瞬かせる。そんなに変なことを言っただろうか?
 困惑していると、リックが肩を竦めながら言った。

「そりゃ飯も、休憩も、給料も、全部一緒にしてるからやろ。他じゃこうはいかんで? 人の土地では人が優遇され、エルフの土地ではエルフが優遇される。そんなん当たり前やからな」
「あぁ、確かにそうかもしれないなぁ。でもそういうのは好きじゃないし、うちはこのままやっていこう。産まれや育ちよりも、能力とやる気を重視したい」
「セス司令のやり方に不満は無いんですが、やる気を重視するのはどうかと思いますよ? 無能な働き者ってのは、手に負えませんからね。特に、権力を持ってるやつは尚更です」

 なるほど、と考える。無能な働き者が上官だった場合、その命令に逆らえず、部隊が全滅したなんて話も聞いたことがある。
 俺はあまり有能なほうではないと思う。無能かと言われたら、そうじゃないといいなぁ、って感じだ。
 周囲の助けがあってこそ、どうにかやれていると再確認し、ようやく頷いた。

「いつも二人には助けられているよ。やっぱり、人には向き不向きがあるからな。それは兵士やエルフ一人一人にも言えることなので、みんなが得意な仕事をできるようにしてあげたいなぁ。……そしてゆくゆくは、働かない司令となってみせる! 有能なお前たちに仕事は任せた!」

 拳を握りながら告げると、リックがうーんと首を傾げた。

「そりゃ、セス司令の考えは分かってるんやけど……。なーんかまた、厄介ごとを引き寄せる気がするで?」
「おい、やめろ。本当にやめろ。早く呪いを解く方法を見つけてくれ!」

 リックの言葉に、心の底から勘弁してほしいと、切に願うのだった。


 朝は鍛錬、その後は夜まで仕事、深夜は鍛錬。短期間の間に、生活は激変し、驚くほどに健康的な日々を送っている。
 今日も朝からエルペルトにボコボコにされていた。これで夜よりはマシなんだから驚きだ。

「……ぐへぇ、おぇっ、げふぇっ」
「息が整いましたらお立ちになってください」
「お、鬼ぃ」

 俺の非難に対し、エルペルトはニッコリと笑った。

「私は常に限界ギリギリの鍛錬を課すと決めているのですが、まだ数日とはいえ、それについて来られた者はほとんどおりません。さすがはセス殿下です」
「し、死ぬ……」

 よろよろと立ち上がれば、また猛攻が始まる。……とはいえ、これだけエルペルトの鍛錬を受けていれば、いやがおうにも分かってしまう。彼が、十二分に手加減をしてくれていることを。
 俺が防げるギリギリの連撃。俺が攻めに転じられる何度かの隙。糸で釣られた人形のように、動きを誘導されていた。
 しかし、それができるかできないかは別の話である。無様に転がり、頭をコツンと叩かれた。

「盾の使い方も良くなってきておりますね。息が整いましたらお立ちになってください」

 褒めてるのか、早く立たせることが目的なのかが分からない。息も絶え絶えで、頭も回らない状態だった。
 数分か、十数分か。息が整い立ち上がる。なぜか目の前にはジェイの姿があった。

「じゃあ、やりましょうか」
「……どうして槍を差し出してるんだ?」
「オレはこいつのほうが得意なんですよ。ってことで、槍の鍛錬です」
「……なんで?」
「いいですか、セス殿下。槍を扱えるようになれば、槍との戦い方も理解できるようになります」
「なら、わしは弓を教えたるわ」

 俺の同意などは求めていないらしく、なぜか鍛錬メニューに槍と弓が追加された。
 必然的に時間は足りなくなるわけで、剣と盾、槍、弓と一日置きで行われることになる。エルペルトも深夜の鍛錬地獄があるためか、異論を唱えることは無かった。

 高速で過ぎていく日々の数日後のことだ。

「――あたしともやりましょうよ」

 目を爛々と輝かせながら、スカーレットが乱入してきた。
 やる前から分かっているが、俺と彼女ではまるで勝負にならない。しかし、そんなことはスカーレットのほうがよく知っていることだ。なにか目論見があるのだろうと首肯した。

「じゃあ、行くわよ」

 こちらが構えるのを見て、スカーレットは素早く切り込んできた。
 ハッキリ言おう。剣と盾でなんとか防いでいるが、とても戦える相手ではない。エルペルトがどれだけ手加減してくれていたかが良く分かる。これではただ嬲られているだけだ。
 一分も保てずに喉元へ剣を突き付けられる。スカーレットは満面の笑みで言った。

「どう? あたしも強いと思わない?」
「うん、スカーレットはとても強いね。同じ歳とは思えないくらいだ」

 笑い返していると、なぜかスカーレットは急に眉根を寄せた。
 そして言い放った言葉がこれだ。

「負けて悔しくないの?」

 悔しいか悔しくないかで言えば、正直な話悔しくない。護衛である彼女より強くなれるとも思わないし、いざというときに備えての努力は積んでいる自負がある。
 そう、頭ではそう思っているのだ。なのに、なぜだろうか……心は、彼女に負けたことを悔しいと思っていた。
 しかも、それを彼女には告げたくない。モヤモヤした気持ちのまま、答える。

「……悔しくないよ」
「そうなんだ。ふーん……。じゃあ、次は悔しがらせてあげる」

 よく分からないことを述べ、スカーレットは立ち去って行く。
 その姿が見えなくなった瞬間、俺はエルペルトに言った。

「めちゃくちゃ悔しいんだが?」
「私に負けたとき、悔しいと思いましたか?」
「いや?」
「えぇ、そういうことなのです。では、悔しさを払拭するため強くなりましょう」

 なにがそういうことなのかは分からないが、スカーレットに一度勝てるくらいには強くなりたい。
 鼻息を荒くしていると、リックが指を一本立てて言った。

「せやせや。長も言ってたんやけど、呪いのこともあるし、精霊と契約できないか試してみるのはどないや? 魔法が使えるようになったら、スカーレットに勝てる確率も上がるんちゃうか?」
「いや、あくまで重要なのは呪いのほうだからな? 精霊との契約で呪いを防げるかもしれないなら、試してみるのもいいだろう。契約できるとも限らないしな。……まぁそのついでに、魔法を使えるようになったら便利かもしれないし」

 どことなく、剣一本で戦う相手に魔法で勝つのはどうなんだろう? と思いつつも、彼女に負けた悔しさに比べれば、些細なことに思え、言い訳をしながらもリックの提案にのることにした。
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