16 / 35
4-1 本では分からないもの
しおりを挟む
俺は王族だ。王位に興味は無かろうとも、この国が戦争になり、蹂躙されるかもしれない可能性を是とは言えない。
死ぬわけにはいかない。死にたくもない。目立ちたくもなく、手柄もほしくない。
しかし、現状がそれを許さない。
一人で解決できる状況ではないと分かっているからこそ、俺は頼むことにした。ただひっそりと生きるために、力を貸してほしい、と。
最初に反応をしたのはエルペルトだった。
「お任せください」
彼らしい言葉だ。
次に、ジェイが言った。
「ハハッ、今さらなに言ってるんですか。命の恩は命で、ってね。地獄の底でもお供しますよ」
「自分もできる限り付き合わせてもらいます、でも大丈夫でしょうか……?」
シヤの言葉に頷く。十分な返事だ。
「とりあえず呪いについては、長に聞いてみるのがええんちゃうか? なにかしら知ってるやろ。……あっ、わしらもセス殿下に付き合うで。あんたのお陰で、砦の中で生活できるようになったんやからな」
リックも……え?
「そうなの?」
「陛下のお墨付きや。公にはできへんが、わしらはセス殿下直属の兵って扱いになっとる」
いつの間にそうなったのかは知らないが、知らないところで許可を出していたらしい。
まぁよろしく頼むな、と片手を上げれば、リックも片手を上げてくれた。
ここまでは順調だ。恐る恐る最後の一人に目を向けると、首を傾げられた。
反応が分からず、もう一度聞く。
「あの、できればスカーレットにも助けてほしいんだけど……?」
彼女は目を瞬かせた後、なにかを考え込み、渋い顔で聞いてきた。
「あたし、言ったわよね? 助けてくれた弱者に惚れこんでる、って」
「うん、言っていたね。なんかすごい弱者に救われたんだろ? その話を聞いて、俺も勇気を振り絞れたんだ。あの時は、本当にありがとう」
最近、重い心が軽くなっているのを感じる。打ち明けているからか、乗り越えようと思えたからかは分からない。だが、どちらにしろいいことに思えていた。
そんな、少し前向きになれているという自負があったからかもしれない。俺は、まるで分かっていないものに気付いていなかった。
「すっごいモヤモヤするわ。とりあえず、このぶち破ろうと思っていた手紙の内容を受けてもいいと思うくらいにね」
「手紙?」
スカーレットに渡された手紙はティグリス殿下からのもので、書かれている内容は……ほぼ恋文だった。
端的に言うと、お前の腕も見た目も性格も気に入ったから、強い子を産んでくれないか、みたいな内容だ。
なぜだろう、とてつもなく苛立つ。……だがそれを必死に抑え、笑顔で答える。
「えっと、困るね」
「困る?」
なぜかちょっと嬉しそうな顔になる。
俺は苛立ちを隠し、胃を撫でながら言った。
「でも、本人の意思に任せるしかない、かな」
「……そう」
スカーレットは回収した手紙を握りつぶし、地面に穴を開けんばかりの勢いでダンッダンッと足音を鳴らしながら部屋を後にした。
水を一口飲み、少しだけ落ち着きを取り戻した気持ちで、エルペルトへ言った。
「なにかマズかったかな……?」
「失礼ながら、セス殿下は女心に疎いように思われます」
「……今度、本で勉強することにするよ」
俺の言葉に、なぜか室内の全員が深い溜息を吐く。
また心が重くなり、分からぬまま胃の辺りを擦ることになった。
深夜。今日もエルペルトへ鍛えてもらっている。
しかし、今夜は少し趣が違う。
普段は木剣だけなのだが、鍋の蓋にしか見えない丸い木の盾を、エルペルトが持って来ていたのだ。
「盾を使うのか?」
「はい。生き残ることを考えれば、剣よりも盾のほうが優秀ですので、扱いを覚えたほうがよろしいでしょう」
「なら、どうしてエルペルトは剣しか使わないんだ?」
実際の戦場なども知らない俺からすると、盾は剣の腕に自信が無い者が使う、補助道具のような感じだ。
しかし、エルペルトは苦笑いをしながら答えた。
「それは、私が剣士だからです。剣で殺し、剣で防ぎ、剣で戦う道を選んだのです。セス殿下は強くなりたいと仰りましたが、剣士になりたいのですか?」
「……そう言われると違うな。俺が強くなりたいのは、死にたくないからで、自分の身を守れるようになりたいからだ」
「でしたら、盾の扱いを覚えたほうがよろしいです。盾は持ち運ぶのが面倒なため、扱わない者が多いです。剣だけのほうが格好良い、という者もいますね。……しかし、小さめのラウンドバックラーなどを持っているだけで、生存率は遥かに上がります」
持ち運ぶ面倒さはあるが、それ以外については盾を使わない理由が無い。矢を打たれたとき、剣で斬り落とすことは達人で無ければ成せないが、盾ならば比較的簡単にできる。
エルペルトの説明を聞き、なるほどと納得してしまう。常に背負っているか、腕につけていなければならないのは、慣れるまで非常に重荷だろう。
だが、生き残ることを考えれば、それ以上のものが盾にはあると、十二分に納得ができた。
「もう一つ疑問がある。それなら、両手とも盾を持つとか、大きな盾を一つ持つんでもいいんじゃないか?」
「お答えいたしましょう。盾は防御には向いておりますが、攻撃には向いておりません。戦いとは、攻撃こそが最大の防御です。殺すことこそが、身を守ることに繋がるのです」
5人の敵に襲われたとき、盾で防いでいるだけではジリ貧になってしまう。
しかし、剣も扱えれば、敵の数を減らし、受ける攻撃も減らせる。防ぐだけでなく、倒すことでも身を守ることができるのだ。
これは結局のところ、バランスの問題だろう。剣だけで攻撃に100振るのか、剣と盾で攻撃と防御に50ずつ振るのか。技術的に難度が高いのは、もちろん前者だ。
盾だけで防御100だと、敵の数を減らせないので、ひたすら耐えなければならない。増援が来なければ、いつかは確実に死ぬということだ。
「よく分かった。剣と盾を使えるようになろう。だが、盾について教えられるのか?」
剣は得意だろうけど、大丈夫なの? と疑問を問う。
エルペルトは、ハハッと笑った。
「私が剣を教えれば、剣の腕が上がります。そして、私の剣を防げるようになれば、必然的に盾の技術も上がるでしょう」
「今、無茶苦茶言ったよな!?」
「では、参ります」
「……ちょ、ちょっと待っ――ぎゃああああああああ!」
剣を使っているのか、盾を使っているのか。よく分からないまま攻撃を防ぐ。
いや、正確には防がせてもらっているのだ。エルペルトが本気なら、防ぐことなどできるはずがない。
右なら剣で防ぐ? 左なら盾で防ぐ? 防御は盾? 攻撃は剣?
混乱しながら、何度もボコボコにされ、少し休憩をしては立ち上がる。
自分が強くなっているのかも分からないが、体力だけはつきそうだなと思った。
……翌朝、ひどい筋肉痛で動くことができなかったのは予想のつくことだ。
しかし、エルペルト直伝のとてつもなく痛い按摩で悲鳴を上げることになったのは、予想外のことだった。
死ぬわけにはいかない。死にたくもない。目立ちたくもなく、手柄もほしくない。
しかし、現状がそれを許さない。
一人で解決できる状況ではないと分かっているからこそ、俺は頼むことにした。ただひっそりと生きるために、力を貸してほしい、と。
最初に反応をしたのはエルペルトだった。
「お任せください」
彼らしい言葉だ。
次に、ジェイが言った。
「ハハッ、今さらなに言ってるんですか。命の恩は命で、ってね。地獄の底でもお供しますよ」
「自分もできる限り付き合わせてもらいます、でも大丈夫でしょうか……?」
シヤの言葉に頷く。十分な返事だ。
「とりあえず呪いについては、長に聞いてみるのがええんちゃうか? なにかしら知ってるやろ。……あっ、わしらもセス殿下に付き合うで。あんたのお陰で、砦の中で生活できるようになったんやからな」
リックも……え?
「そうなの?」
「陛下のお墨付きや。公にはできへんが、わしらはセス殿下直属の兵って扱いになっとる」
いつの間にそうなったのかは知らないが、知らないところで許可を出していたらしい。
まぁよろしく頼むな、と片手を上げれば、リックも片手を上げてくれた。
ここまでは順調だ。恐る恐る最後の一人に目を向けると、首を傾げられた。
反応が分からず、もう一度聞く。
「あの、できればスカーレットにも助けてほしいんだけど……?」
彼女は目を瞬かせた後、なにかを考え込み、渋い顔で聞いてきた。
「あたし、言ったわよね? 助けてくれた弱者に惚れこんでる、って」
「うん、言っていたね。なんかすごい弱者に救われたんだろ? その話を聞いて、俺も勇気を振り絞れたんだ。あの時は、本当にありがとう」
最近、重い心が軽くなっているのを感じる。打ち明けているからか、乗り越えようと思えたからかは分からない。だが、どちらにしろいいことに思えていた。
そんな、少し前向きになれているという自負があったからかもしれない。俺は、まるで分かっていないものに気付いていなかった。
「すっごいモヤモヤするわ。とりあえず、このぶち破ろうと思っていた手紙の内容を受けてもいいと思うくらいにね」
「手紙?」
スカーレットに渡された手紙はティグリス殿下からのもので、書かれている内容は……ほぼ恋文だった。
端的に言うと、お前の腕も見た目も性格も気に入ったから、強い子を産んでくれないか、みたいな内容だ。
なぜだろう、とてつもなく苛立つ。……だがそれを必死に抑え、笑顔で答える。
「えっと、困るね」
「困る?」
なぜかちょっと嬉しそうな顔になる。
俺は苛立ちを隠し、胃を撫でながら言った。
「でも、本人の意思に任せるしかない、かな」
「……そう」
スカーレットは回収した手紙を握りつぶし、地面に穴を開けんばかりの勢いでダンッダンッと足音を鳴らしながら部屋を後にした。
水を一口飲み、少しだけ落ち着きを取り戻した気持ちで、エルペルトへ言った。
「なにかマズかったかな……?」
「失礼ながら、セス殿下は女心に疎いように思われます」
「……今度、本で勉強することにするよ」
俺の言葉に、なぜか室内の全員が深い溜息を吐く。
また心が重くなり、分からぬまま胃の辺りを擦ることになった。
深夜。今日もエルペルトへ鍛えてもらっている。
しかし、今夜は少し趣が違う。
普段は木剣だけなのだが、鍋の蓋にしか見えない丸い木の盾を、エルペルトが持って来ていたのだ。
「盾を使うのか?」
「はい。生き残ることを考えれば、剣よりも盾のほうが優秀ですので、扱いを覚えたほうがよろしいでしょう」
「なら、どうしてエルペルトは剣しか使わないんだ?」
実際の戦場なども知らない俺からすると、盾は剣の腕に自信が無い者が使う、補助道具のような感じだ。
しかし、エルペルトは苦笑いをしながら答えた。
「それは、私が剣士だからです。剣で殺し、剣で防ぎ、剣で戦う道を選んだのです。セス殿下は強くなりたいと仰りましたが、剣士になりたいのですか?」
「……そう言われると違うな。俺が強くなりたいのは、死にたくないからで、自分の身を守れるようになりたいからだ」
「でしたら、盾の扱いを覚えたほうがよろしいです。盾は持ち運ぶのが面倒なため、扱わない者が多いです。剣だけのほうが格好良い、という者もいますね。……しかし、小さめのラウンドバックラーなどを持っているだけで、生存率は遥かに上がります」
持ち運ぶ面倒さはあるが、それ以外については盾を使わない理由が無い。矢を打たれたとき、剣で斬り落とすことは達人で無ければ成せないが、盾ならば比較的簡単にできる。
エルペルトの説明を聞き、なるほどと納得してしまう。常に背負っているか、腕につけていなければならないのは、慣れるまで非常に重荷だろう。
だが、生き残ることを考えれば、それ以上のものが盾にはあると、十二分に納得ができた。
「もう一つ疑問がある。それなら、両手とも盾を持つとか、大きな盾を一つ持つんでもいいんじゃないか?」
「お答えいたしましょう。盾は防御には向いておりますが、攻撃には向いておりません。戦いとは、攻撃こそが最大の防御です。殺すことこそが、身を守ることに繋がるのです」
5人の敵に襲われたとき、盾で防いでいるだけではジリ貧になってしまう。
しかし、剣も扱えれば、敵の数を減らし、受ける攻撃も減らせる。防ぐだけでなく、倒すことでも身を守ることができるのだ。
これは結局のところ、バランスの問題だろう。剣だけで攻撃に100振るのか、剣と盾で攻撃と防御に50ずつ振るのか。技術的に難度が高いのは、もちろん前者だ。
盾だけで防御100だと、敵の数を減らせないので、ひたすら耐えなければならない。増援が来なければ、いつかは確実に死ぬということだ。
「よく分かった。剣と盾を使えるようになろう。だが、盾について教えられるのか?」
剣は得意だろうけど、大丈夫なの? と疑問を問う。
エルペルトは、ハハッと笑った。
「私が剣を教えれば、剣の腕が上がります。そして、私の剣を防げるようになれば、必然的に盾の技術も上がるでしょう」
「今、無茶苦茶言ったよな!?」
「では、参ります」
「……ちょ、ちょっと待っ――ぎゃああああああああ!」
剣を使っているのか、盾を使っているのか。よく分からないまま攻撃を防ぐ。
いや、正確には防がせてもらっているのだ。エルペルトが本気なら、防ぐことなどできるはずがない。
右なら剣で防ぐ? 左なら盾で防ぐ? 防御は盾? 攻撃は剣?
混乱しながら、何度もボコボコにされ、少し休憩をしては立ち上がる。
自分が強くなっているのかも分からないが、体力だけはつきそうだなと思った。
……翌朝、ひどい筋肉痛で動くことができなかったのは予想のつくことだ。
しかし、エルペルト直伝のとてつもなく痛い按摩で悲鳴を上げることになったのは、予想外のことだった。
0
お気に入りに追加
580
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる