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二、追ってくる過去

10※

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 俺は絶望的な気持ちになった。
 約束が違うじゃないか。

「言ったら、するって……」
「何を?」
「するって言ったじゃん」
「だから、何をしてほしいか言ってみろ」
「う……っ」

 責め立てるように魔王は俺のものを擦り上げる。

 また、あの言葉を口にしろと言うのか。
 言ったらもっと気持ちよくなれるのは分かってるし、一度言ってしまえば二度目も同じことだ。
 こんな風に恥らえば魔王が喜ぶだけなのは分かっているのに、俺はなかなか言えずにいた。

「言えないのか?」

 こんなに近くにいて、こんなに気持ちいいことして、イけないのは辛い。
 言ってしまえばいいのは分かってる。
 分かってるけど恥ずかしいんだよ。

「う、ううっ……ぺ……ぺニスって言ったら触ってくれるって、キスするって言ったのに!」

 羞恥心で身体がグラグラとする。
 熱くて沸騰しそうだ。 

「まおうぅ、このバカ! こんなの、魔力と、関係ないだろ。こんなこと言わせんなよ」
「だって許可、もらわないとダメなんだろう?」
 魔王は無駄に爽やかに笑う。
  
 俺が前に許可取ってから触れって言ったから態々そう言ってきたんだ。
 なんて意地の悪い奴なんだ。

「この変態っ……!」

 俺は魔王を睨みつけた。

「今更だな。お前には散々罵られてきたからもう慣れた」
「ちょっとは反省しろっ……んっ……っ」

 魔王は空いた片手で俺の顎を持ち上げてキスをした。
 お決まりのように舌を絡めて、吸ってくる。
 宥めすかすようなキスに少しだけ腹が立った。

 俺は魔王の舌を噛んでやる。
 じゃれて甘噛みをしたと思ったのか魔王は笑うと俺の舌に歯を立てた。
 違う、そうじゃないんだよ。
 俺は今度は魔王の下唇を噛んだ。
 俺は怒っていることを示したいのに、魔王は楽しそうに俺の唇に舌を這わす。

 じゃれあいのようなキスを何度も繰り返しているうちにじわじわと頭の芯が蕩けてくるのが分かった。

 堪らない。俺は我慢の限界で魔王の舌を吸い、魔王から魔力を奪い取る。
 応えるように魔王は俺を喰らい尽くすような勢いで口内を弄った。

「ん、んんっ……あっ」

 気持ちがいい。何もかもどうでもいい。
 魔王と一つに溶け合いたい。
 そんな欲が湧いてくる。
 俺は夢中で魔王とのキスを愉しんだ。

「……ンンッ!」

 不意に手淫の速度が早くなり、次第に上り詰めていくような感覚になる。

 俺は魔王のキスを払い除けるようにして魔王の胸に縋った。
 魔王の胸からは血の匂いがした。
 その匂いに指先が冷え、恐怖が戻ってくる。
  
「あっ、ああっ、あ……あっ……まおっ、まおぉ」
 俺は魔王の体温を求めるように何度も魔王の名前を呼んだ。

 あんなに我慢してきたのに魔王への思いが溢れてきて止まらない。
 魔王と僅かな時間だけでもいい。
 もっと触れて、繋がって、一つになりたい。
 魔王の体温を感じて、魔王がちゃんとここにいることを確認して安心したい。
 魔王を失うと思ったら怖くて、怖くて堪らなかった。
 これはもう傍にいなくても変わらないことで、どんなに離れていてもきっと魔王を思ってしまう。
 もう手遅れだったんだ。離れるのが遅すぎた。

「キスか?」
「ちがっ……」

 下半身が酷く疼いて、もっと触れて欲しくなる。
 奥の奥までこじ開けて淫らに暴いて欲しい。
 俺は魔王が欲しい。欲しくて欲しくて堪らない。
 頭の中が真っ白で訳も分からなくなっていく中で、身体も心も魔王を求めていることだけ分かった。

「まおぉ……頂戴っ」
   
 嗚呼、そうだ。許可をしなきゃ。
 もっと触れて暴いてもらえるように許さなきゃいけない。
 覚束ない思考の中でそれだけははっきりしていた。

「うぅん……もっとまおも……よくなっ……よくなって……ひとりじゃ、や……ッ……やだっ」
「私も……?」
「挿れてっいいか、らぁ! きょか、する……する、か、ら……!」
「ルカ……何を?」

 魔王は困惑しているようだった。
 それでも、俺への手淫を続けながら、俺を見下ろして問う。
 本当に分かってないのかよ。こんなにいいって許可してるのに。

「まお、の、ぺニス挿れて……っ、いっしょ……に、イきた……ああっあっあ! あっ!」

 俺はこのままイってしまうのが勿体なくて、俺は必死で吐精感を堪えた。
 イきたくない。今じゃない。
 そう思うのに下半身は言うことを聞かない。

 甘く腰が震え、勢いなく、熱いものが溢れた。
 何となく頭はぼんやりとしたままで、長く気持ちいいのが続く。
 身体は熱いまま、上手くイけなかったことがすぐに分かる。

「まお……出ちゃったあ……」
「すまん……」

 吐精してしまったものの、下半身の疼きの元となっている場所は未だに触れられていないせいか、より一層疼いていた。

「ね、まおぉ、挿れてくれる? お尻……おかしい。まおぉのせい、だから……責任取って」

 ぼんやりとした頭のまま、俺は繋がりたい一心で、俺の精液で濡れた魔王の手を疼くところへ導いた。
 固く閉ざされたそこをこじ開けられる快楽は魔王のせいで覚えたものだ。

「魔法、かけて……まおぉの挿れて?」

 俺は魔王の瞳を見つめて懇願した。
 魔王のアメジストの瞳にはふわふわと黄色の靄のようなものが漂っている。
 いつもとは違う神秘的な色合いに吸い込まれそうになった。

「……っ! 知らないぞ」

 翳された掌から浄化魔法が放たれる。
 腹が熱くなり、中でパチパチと魔王の魔力が弾けた。
 久しぶりのその感覚に思わず腰が揺れる。

「んんっ!」

 魔王は俺の精液に濡れた指を窄まりにあてがう。
 期待で胸がいっぱいになって俺は何度も浅く呼吸した。

 俺だけじゃない。魔王の瞳だって欲に揺れ、吐息も浅く早いものに変わっていた。
 同じように互いを欲していることが分かると、それだけで軽くイけそうになる。
 嬉しくて俺は魔王に縋りながら触れるだけの軽い口付けをした。

「いいよ、好きなだけ、本当にしたいこと……して?」

 長い指が探るように縁を刺激する。
 したいことをしていいと許可したばかりなのに、もどかしい感覚に焦れそうになる。
 こいつ、変なところで優しさというか生真面目さというかヘタレさ加減を発揮するんだよな。
 もっと乱暴にしてもいいのに。

「ルカ、ルカ……」
 魔王はうわ言のように俺の名前を呼ぶ。

「まお……っ、早くぅ」

 俺は魔王を抱きしめ、旋毛に頭を埋めた。
 魔王の匂いで胸がいっぱいになる。
 花のような甘い香りにほんの少し針葉樹のような青い香りを足したような、まるで森の中にある花畑のような香りがする。
 こんなに黒くて、いかにも夜といった印象の男からは想像もつかないような匂いなのに、嗅いでみると不思議としっくりとくる。

 つぷっと指が中に入ってくるのが分かった。
 俺の精液だけでは滑りが悪いのか、ゆっくりとこじ開けられていくような感じがする。
 心なしかほんのりと痛い。

「きついな」
「ん……ん……ぅう」

 確か、女は濡れるけど、男は濡れないんだよな。
 だから、潤滑剤がないとこんなにも進みがよくないんだろう。
 そんなことをぼんやりと他人事のように考えた。
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