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二、追ってくる過去
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◇
眠れない。俺は目を瞑りながら悶々としていた。
快楽に慣らされ、魔王によって拓かれた身体は何となく火照っている。
魔王の野郎、なんてことをしてくれたんだ。
一度、気持ちよくならないと眠れないだなんてとんだ淫乱じゃないか。
手っ取り早く熱を発散したいところだが、こんな沢山の人と雑魚寝してるところでは何も出来ない。
少し抜け出して頭でも冷やしてこようかと思った頃だった。
「ルカ兄ちゃん、起きて!」
誰かが俺の肩を叩いた。
目を開けると、真っ青な顔をした子どもがいた。
ぼんやりとしていた頭が一瞬で冴える。
「トニー?」
「ねえ、どうしよう……ブライスがいなくなっちゃった」
トニーはガタガタと震えながら必死に訴えてくる。
俺はブライスの顔を思い出す。
確か、茶髪でそばかすだらけの男の子だったな。
辺りを見回して子どもの数を数える。
確かに一人足りない。
「トイレとかじゃなくて?」
「そう思って待ってみたけど、気付いてから結構時間が経ってるんだ」
待っている時間は存外長く感じるものだ。
もしかすると、結構経っているというのは、トニーの思い違いかもしれない。
そう思うものの心配ではある。
「教えてくれてありがとな。ちょっと、探してくるよ」
俺の言葉にトニーは安堵したような顔をする。
「そうだ。トニーは二百数えられるか?」
「百を二回数えるんだよね? できるよ」
「それじゃあ、俺が出ていったら二百をゆっくり数えて。それでも、俺もブライスも戻らなかったら、アーヤかベスを起こして。できそう?」
「うん」
この年ごろの子どもなら怖がって、馬車のすぐそばで用を足すはずだ。
3分もあればすぐに見つけられるだろう。
もしも違う場合ーー何らかのトラブルにまきこまれているのなら、早く他の大人を起こす必要がある。森には危険な動物もいる。行動は早ければ早いほどいい。
俺はそう判断してトニーにお願いをする。
俺は馬車から飛び出すと、辺りを見回した。
朝が近いのか、空は白み始めていた。
俺は影になっているところを重点的に覗き込む。
どうやら、馬車の周りにはどうやらいないようだ。
焚き火の周りでは見張り役のおっさんがいた。
おっさんに声を掛けるが、知らないらしい。
もう少し暗い時間に出たのならおっさんに気付かれなかったのかもしれない。
そろそろ3分経つ。
俺はおっさんにブライスがいなくなったことと、念のため全ての馬車の中を確認してほしいことを伝える。
トイレに出て、戻ってくるときに馬車を間違えた可能性があるからだ。
おっさんが慌てて、それぞれの馬車に向かうのを見届けてから、俺はその間に森の中でも比較的近いところを確認することにした。
森の中は暗く、視界も悪いようだ。
「ブライス?」
外から声を掛けてみるが、返事はない。
俺は恐る恐る森の中に入っていく。
外から見えた通り、森の中は暗くて遠くまで見通せず、足場も悪い。
寝ぼけていたとしても、こんなところに子どもが一人で入っていくんだろうか。
俺は護身用のナイフを握りしめ、見落としがないように辺りを慎重に見回した。
「ブライス」
あまり遠くに行くと戻れなくなりそうだ。
でも、もう少し先にブライスがいるかもしれない。
そう思い、俺は奥へ奥へと進む。
せめて明かりを持ってくるべきだった。
俺は暗闇の中、じっと目を凝らす。
植物とは違うものが見えたような気がした。
俺は足を止め、ゆっくりとそちらに向かって近づいた。
まさか、危ない動物じゃないよな。
俺は万が一に備え、すぐに逃げられるような体勢を取りながら声を掛ける。
「ブライス?」
「ルカ……!」
返事を聞いて、俺は安心した。
慌てて声の方に駆け寄る。
近付くと、茶髪の男の子がしゃがみ込んで泣いていた。
「怪我はないか?」
俺の言葉に微かに頭を動かす。
間違いなく、このそばかす顔はブライスだ。
よかった。どうやら怪我はないらしい。
「怖かったろ?」
ブライスは俺の声に安堵するように何度も頷いた。
説教の一つでもしてやりたくなるが、そろそろ皆が心配している頃だ。
急いで戻ったほうがいい。
まあ、どうせ戻ったら師匠に怒られるんだろうし、少しくらいは優しくしてやってもいいか。
「ブライス、抱っこしてやるから掴まってろよ」
「うん……」
俺はブライスを抱えると、すぐにもと来た道を戻ろうとする。
幸い、ここからでも野営の焚き火の光が薄っすらと見える。
「ルカ……あれっ!」
抱えられ、俺の後方を見ていたブライスが声を上げた。
何かを見つけたように指を差している。
おい、まさか危ない動物でもいるんじゃないだろうな。
俺は恐る恐る振り返ろうとした。
『みつけた』
耳元でそれは聞こえた。
本能的に振り返ってはいけないと思い、俺は一目散に逃げ出す。
やばい。なんだか分からないけど滅茶苦茶やばい。動物の方がよっぽどマシだ。
そう思って慌てて足を動かすが、得体の知れない何かの気配が離れない。
『みつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけた』
背筋の凍るような声が何度も何度も俺の耳元で聞こえる。
前に進んでいる気が全然しない。
こんなに動かしてるのになんで声が真後ろから聞こえるんだよ。
お化けか? お化けなのか?
魔族がお化けを怖がるなんて人間に言ったら笑われそうなものだ。
人間からしてみれば、魔族もお化けも似たようなものらしい。
でも、怖いんだよ。ホラーとか苦手なんだよ、俺。
「ねぇ、ルカっ! あれ、魔王様じゃないの?」
「は?」
俺はブライスの声に驚く。
こんなところにいるわけないと思うのに、余程会いたかったのだろう。
ほんの少しだけ心が弾んで、思わず俺は振り返った。
そこには愉しそうに笑う魔王の顔があった。
眠れない。俺は目を瞑りながら悶々としていた。
快楽に慣らされ、魔王によって拓かれた身体は何となく火照っている。
魔王の野郎、なんてことをしてくれたんだ。
一度、気持ちよくならないと眠れないだなんてとんだ淫乱じゃないか。
手っ取り早く熱を発散したいところだが、こんな沢山の人と雑魚寝してるところでは何も出来ない。
少し抜け出して頭でも冷やしてこようかと思った頃だった。
「ルカ兄ちゃん、起きて!」
誰かが俺の肩を叩いた。
目を開けると、真っ青な顔をした子どもがいた。
ぼんやりとしていた頭が一瞬で冴える。
「トニー?」
「ねえ、どうしよう……ブライスがいなくなっちゃった」
トニーはガタガタと震えながら必死に訴えてくる。
俺はブライスの顔を思い出す。
確か、茶髪でそばかすだらけの男の子だったな。
辺りを見回して子どもの数を数える。
確かに一人足りない。
「トイレとかじゃなくて?」
「そう思って待ってみたけど、気付いてから結構時間が経ってるんだ」
待っている時間は存外長く感じるものだ。
もしかすると、結構経っているというのは、トニーの思い違いかもしれない。
そう思うものの心配ではある。
「教えてくれてありがとな。ちょっと、探してくるよ」
俺の言葉にトニーは安堵したような顔をする。
「そうだ。トニーは二百数えられるか?」
「百を二回数えるんだよね? できるよ」
「それじゃあ、俺が出ていったら二百をゆっくり数えて。それでも、俺もブライスも戻らなかったら、アーヤかベスを起こして。できそう?」
「うん」
この年ごろの子どもなら怖がって、馬車のすぐそばで用を足すはずだ。
3分もあればすぐに見つけられるだろう。
もしも違う場合ーー何らかのトラブルにまきこまれているのなら、早く他の大人を起こす必要がある。森には危険な動物もいる。行動は早ければ早いほどいい。
俺はそう判断してトニーにお願いをする。
俺は馬車から飛び出すと、辺りを見回した。
朝が近いのか、空は白み始めていた。
俺は影になっているところを重点的に覗き込む。
どうやら、馬車の周りにはどうやらいないようだ。
焚き火の周りでは見張り役のおっさんがいた。
おっさんに声を掛けるが、知らないらしい。
もう少し暗い時間に出たのならおっさんに気付かれなかったのかもしれない。
そろそろ3分経つ。
俺はおっさんにブライスがいなくなったことと、念のため全ての馬車の中を確認してほしいことを伝える。
トイレに出て、戻ってくるときに馬車を間違えた可能性があるからだ。
おっさんが慌てて、それぞれの馬車に向かうのを見届けてから、俺はその間に森の中でも比較的近いところを確認することにした。
森の中は暗く、視界も悪いようだ。
「ブライス?」
外から声を掛けてみるが、返事はない。
俺は恐る恐る森の中に入っていく。
外から見えた通り、森の中は暗くて遠くまで見通せず、足場も悪い。
寝ぼけていたとしても、こんなところに子どもが一人で入っていくんだろうか。
俺は護身用のナイフを握りしめ、見落としがないように辺りを慎重に見回した。
「ブライス」
あまり遠くに行くと戻れなくなりそうだ。
でも、もう少し先にブライスがいるかもしれない。
そう思い、俺は奥へ奥へと進む。
せめて明かりを持ってくるべきだった。
俺は暗闇の中、じっと目を凝らす。
植物とは違うものが見えたような気がした。
俺は足を止め、ゆっくりとそちらに向かって近づいた。
まさか、危ない動物じゃないよな。
俺は万が一に備え、すぐに逃げられるような体勢を取りながら声を掛ける。
「ブライス?」
「ルカ……!」
返事を聞いて、俺は安心した。
慌てて声の方に駆け寄る。
近付くと、茶髪の男の子がしゃがみ込んで泣いていた。
「怪我はないか?」
俺の言葉に微かに頭を動かす。
間違いなく、このそばかす顔はブライスだ。
よかった。どうやら怪我はないらしい。
「怖かったろ?」
ブライスは俺の声に安堵するように何度も頷いた。
説教の一つでもしてやりたくなるが、そろそろ皆が心配している頃だ。
急いで戻ったほうがいい。
まあ、どうせ戻ったら師匠に怒られるんだろうし、少しくらいは優しくしてやってもいいか。
「ブライス、抱っこしてやるから掴まってろよ」
「うん……」
俺はブライスを抱えると、すぐにもと来た道を戻ろうとする。
幸い、ここからでも野営の焚き火の光が薄っすらと見える。
「ルカ……あれっ!」
抱えられ、俺の後方を見ていたブライスが声を上げた。
何かを見つけたように指を差している。
おい、まさか危ない動物でもいるんじゃないだろうな。
俺は恐る恐る振り返ろうとした。
『みつけた』
耳元でそれは聞こえた。
本能的に振り返ってはいけないと思い、俺は一目散に逃げ出す。
やばい。なんだか分からないけど滅茶苦茶やばい。動物の方がよっぽどマシだ。
そう思って慌てて足を動かすが、得体の知れない何かの気配が離れない。
『みつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけた』
背筋の凍るような声が何度も何度も俺の耳元で聞こえる。
前に進んでいる気が全然しない。
こんなに動かしてるのになんで声が真後ろから聞こえるんだよ。
お化けか? お化けなのか?
魔族がお化けを怖がるなんて人間に言ったら笑われそうなものだ。
人間からしてみれば、魔族もお化けも似たようなものらしい。
でも、怖いんだよ。ホラーとか苦手なんだよ、俺。
「ねぇ、ルカっ! あれ、魔王様じゃないの?」
「は?」
俺はブライスの声に驚く。
こんなところにいるわけないと思うのに、余程会いたかったのだろう。
ほんの少しだけ心が弾んで、思わず俺は振り返った。
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