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一、溺愛始めました。
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どうやら、魔王様は俺からのキスのお誘いをマルっと無視して仕事をすることにしたようだ。
なんで、回答を保留にして作業を始める。
俺のプライドはズタズタだ。
魔王は俺を膝に置いて黙々と書類を片付けている。
俺の存在なんてないみたいにこなすものだから、悪戯心が湧いてくる。
こうなると、意地でも落としたくなるのが人というものだ。
「なあ、魔王はキスが嫌いなのか?」
俺はあざとく魔王の腕に手をやり、上目遣いでじっと魔王を見つめた。
踊り子時代に色々なお誘いから逃れる為に編み出した技だ。
大体、男はあざといものに弱い。無論、俺も含めてだが。
いつもは男を適当にあしらう為の技を誘惑に使うが、本来はこうやって使うものだと師匠も言っていた。
「なあ、気持ちいいことはお前も好きだろう、魔王?」
追い討ちを掛けるように魔王の耳元に近寄り、たっぷりと囁いてやる。
こんな退屈な日々が一日でも減るように魔王も協力してくれよ。
その分、気持ちよくしてやるから。
あんなに激しいキスをぶちかませといて、今さら嫌いだと言われても信じないが、こうでも言っとけばくらりとくるはずだ。
「……今すぐしてもいいぞ」
「へ?」
答える間もなく、視界が覆われ、ぐいっと背中が机に押し付けられた。
それはそれは美しい魔王の顔が俺の目の前にある。
長い睫毛が柔らかく顔を擽る。
俺は思いきり顔を逸らした。
あ、あかん。これは本当にヤられるヤツだ。
もしもこの世に魔王検定なるものがあるなら、恐らく三級くらいだったら余裕に取れるくらいには魔王のことを分かってきていていた。
分かる。分かるぞ。これは美味しくいただかれてしまうやつだ。多分、キスだけじゃ済まない。
肉食獣に睨まれた小動物の気持ちになる。
煽りすぎたわ。アディオス! 俺のケツの穴!
「いいな?」
魔王が念を押すように聞く。
俺はふるふると頭を振る。
ごめんなさい。やっぱり、簡単に諦められるものじゃない。
出来れば、一生大事にしたい。
それに仕事をする為の机の上で、誰かが懸命作った書類に囲まれてするのは人として、魔族としておかしい。
俺、間違ってたわ。
一瞬、本当に処女を諦めそうになるも、俺は俺の意思を強く持つことを決意した。
「待て! いいのか? キスしちゃったら俺たち一緒にいられないんだぞ!?」
さっきキスを強請った側とは思えないほど必死に、首がもげる勢いで俺は首を横に振った。
「お前の誘いを断れるほどの強い意思はないな。それに……キスしたからといって離れなきゃならないわけでもないだろ?」
この意志薄弱! 自分を強く持てよ!
心の中で悪態を吐く。
「いいか、一緒にいるのはあくまで治療の為! キスしたら一緒にいる理由もないし、離れるからな! 絶対近寄らないんだからな! 閉店するんだからな!」
「閉店?」
「そうだよ、シャッター下ろして入れなくしてやる!」
俺は必死に魔王に訴えかけた。
それは何処のシャッターだよって俺も思う。
それでも訴えかけには勢いが肝心だ。
そりゃ、そうだろう。
俺の大事なところが死ぬか生きるかが掛かっているんだ。
必死にもなる。
「……ふっ、ふふふ。あははははっ」
魔王が急に笑い出す。
箍が外れたように肩を揺らして大きな声で愉快そうに。
「おい? 魔王?」
あまりにも激しい笑いっぷりは魔王の普段の言動からかけ離れたものに見える。
大丈夫か? コイツ、笑い茸でも食ったのか?
俺は不安になって魔王の顔を覗き込んだ。
顔色は非常によく見える。
「あまりにも、必死で……つい……あはっあははっ」
「俺で笑ってたのかよ! 見せもんじゃねぇぞ!?」
「分かって……分かってるが……あははっ」
「笑うのやめろ!!」
俺は叫ぶが、魔王は笑うのをやめない。
どうやら魔王の笑いのツボを突いてしまったらしい。
ツボが浅すぎて突いたこっちが吃驚するわ。
俺は魔王が笑い終わるのをひたすら待った。
魔王は一頻り笑うと、いつもの表情筋が死んだような顔に戻る。
「はぁ……面白かった」
「今の顔見てみろ。全然面白くなさそうな顔してるぞ?」
「やっぱりルカは可愛いな」
魔王は俺の言葉を無視して、額にキスを落とす。
本当にムカつく性格をしていやがる。
人の話を聞けっての。
「うるさい!」
俺は八つ当たりのように魔王に蹴りを入れてやった。
「……あの、お昼は終わりましたよね? そろそろ仕事を……」
不意に眼鏡の声がした。なんだか元気のない声だ。
俺たちがそちらに目をやると、ゲッソリとした顔の眼鏡がいた。
「ラドルファス?」
「陛下……申し訳ありませんが、仕事がこれだけ溜まっております」
どさり。抱えきれないほどの紙の束が積まれる。
既に積まれた山と足して三つの山が聳え立つ。
「それから、夜には会食を兼ねた会議もあります。これとこれとこれも目を通しておいてください」
どさり。また山が追加される。
どれだけ仕事を溜め込んできたんだ。
「陛下、サボりすぎましたね。今日はキスは禁止です。私が許しませんよ」
眼鏡の眼鏡がぎらりと光る。
有無を言わさない迫力があった。
魔王は黙って椅子に座ると、俺を膝に乗せた。
「片付けよう」
ポーカーチェイスで魔王はそう言った。
今更、臣下の前で格好付けても遅いんじゃないかと思ったが、俺は口を噤む。
その後、魔王は黙々と全ての山を片付けた後、俺を部屋に戻すと会議に向かった。
魔王が全て書類を片付け終えたあとの、眼鏡の清々しい顔がなんだかとても印象に残った。
なんで、回答を保留にして作業を始める。
俺のプライドはズタズタだ。
魔王は俺を膝に置いて黙々と書類を片付けている。
俺の存在なんてないみたいにこなすものだから、悪戯心が湧いてくる。
こうなると、意地でも落としたくなるのが人というものだ。
「なあ、魔王はキスが嫌いなのか?」
俺はあざとく魔王の腕に手をやり、上目遣いでじっと魔王を見つめた。
踊り子時代に色々なお誘いから逃れる為に編み出した技だ。
大体、男はあざといものに弱い。無論、俺も含めてだが。
いつもは男を適当にあしらう為の技を誘惑に使うが、本来はこうやって使うものだと師匠も言っていた。
「なあ、気持ちいいことはお前も好きだろう、魔王?」
追い討ちを掛けるように魔王の耳元に近寄り、たっぷりと囁いてやる。
こんな退屈な日々が一日でも減るように魔王も協力してくれよ。
その分、気持ちよくしてやるから。
あんなに激しいキスをぶちかませといて、今さら嫌いだと言われても信じないが、こうでも言っとけばくらりとくるはずだ。
「……今すぐしてもいいぞ」
「へ?」
答える間もなく、視界が覆われ、ぐいっと背中が机に押し付けられた。
それはそれは美しい魔王の顔が俺の目の前にある。
長い睫毛が柔らかく顔を擽る。
俺は思いきり顔を逸らした。
あ、あかん。これは本当にヤられるヤツだ。
もしもこの世に魔王検定なるものがあるなら、恐らく三級くらいだったら余裕に取れるくらいには魔王のことを分かってきていていた。
分かる。分かるぞ。これは美味しくいただかれてしまうやつだ。多分、キスだけじゃ済まない。
肉食獣に睨まれた小動物の気持ちになる。
煽りすぎたわ。アディオス! 俺のケツの穴!
「いいな?」
魔王が念を押すように聞く。
俺はふるふると頭を振る。
ごめんなさい。やっぱり、簡単に諦められるものじゃない。
出来れば、一生大事にしたい。
それに仕事をする為の机の上で、誰かが懸命作った書類に囲まれてするのは人として、魔族としておかしい。
俺、間違ってたわ。
一瞬、本当に処女を諦めそうになるも、俺は俺の意思を強く持つことを決意した。
「待て! いいのか? キスしちゃったら俺たち一緒にいられないんだぞ!?」
さっきキスを強請った側とは思えないほど必死に、首がもげる勢いで俺は首を横に振った。
「お前の誘いを断れるほどの強い意思はないな。それに……キスしたからといって離れなきゃならないわけでもないだろ?」
この意志薄弱! 自分を強く持てよ!
心の中で悪態を吐く。
「いいか、一緒にいるのはあくまで治療の為! キスしたら一緒にいる理由もないし、離れるからな! 絶対近寄らないんだからな! 閉店するんだからな!」
「閉店?」
「そうだよ、シャッター下ろして入れなくしてやる!」
俺は必死に魔王に訴えかけた。
それは何処のシャッターだよって俺も思う。
それでも訴えかけには勢いが肝心だ。
そりゃ、そうだろう。
俺の大事なところが死ぬか生きるかが掛かっているんだ。
必死にもなる。
「……ふっ、ふふふ。あははははっ」
魔王が急に笑い出す。
箍が外れたように肩を揺らして大きな声で愉快そうに。
「おい? 魔王?」
あまりにも激しい笑いっぷりは魔王の普段の言動からかけ離れたものに見える。
大丈夫か? コイツ、笑い茸でも食ったのか?
俺は不安になって魔王の顔を覗き込んだ。
顔色は非常によく見える。
「あまりにも、必死で……つい……あはっあははっ」
「俺で笑ってたのかよ! 見せもんじゃねぇぞ!?」
「分かって……分かってるが……あははっ」
「笑うのやめろ!!」
俺は叫ぶが、魔王は笑うのをやめない。
どうやら魔王の笑いのツボを突いてしまったらしい。
ツボが浅すぎて突いたこっちが吃驚するわ。
俺は魔王が笑い終わるのをひたすら待った。
魔王は一頻り笑うと、いつもの表情筋が死んだような顔に戻る。
「はぁ……面白かった」
「今の顔見てみろ。全然面白くなさそうな顔してるぞ?」
「やっぱりルカは可愛いな」
魔王は俺の言葉を無視して、額にキスを落とす。
本当にムカつく性格をしていやがる。
人の話を聞けっての。
「うるさい!」
俺は八つ当たりのように魔王に蹴りを入れてやった。
「……あの、お昼は終わりましたよね? そろそろ仕事を……」
不意に眼鏡の声がした。なんだか元気のない声だ。
俺たちがそちらに目をやると、ゲッソリとした顔の眼鏡がいた。
「ラドルファス?」
「陛下……申し訳ありませんが、仕事がこれだけ溜まっております」
どさり。抱えきれないほどの紙の束が積まれる。
既に積まれた山と足して三つの山が聳え立つ。
「それから、夜には会食を兼ねた会議もあります。これとこれとこれも目を通しておいてください」
どさり。また山が追加される。
どれだけ仕事を溜め込んできたんだ。
「陛下、サボりすぎましたね。今日はキスは禁止です。私が許しませんよ」
眼鏡の眼鏡がぎらりと光る。
有無を言わさない迫力があった。
魔王は黙って椅子に座ると、俺を膝に乗せた。
「片付けよう」
ポーカーチェイスで魔王はそう言った。
今更、臣下の前で格好付けても遅いんじゃないかと思ったが、俺は口を噤む。
その後、魔王は黙々と全ての山を片付けた後、俺を部屋に戻すと会議に向かった。
魔王が全て書類を片付け終えたあとの、眼鏡の清々しい顔がなんだかとても印象に残った。
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