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5. 涙雨
しおりを挟む桜が散ったあのときから、気がつけば季節は初夏になっていた。梅雨独特のむせ返るような小雨に、街全体が煙っている。
ピンポ~ン♪ 突然、部屋のインターホンが鳴る。宅配便だった。達也の実家から小さな包みが届いた。
香典返しの品とともに、二つ折りになった上質な厚紙が封筒に入っている。その白さが目に眩しかった。
目頭が熱い。瞼の痙攣に堪えながら、その挨拶状の折り目を開く。
そこには端正な活字が並んでいた。
* * *
達也があわただしくこの世を去って、早や二ヶ月が過ぎました。
まるで早世の予感でもあったかのように、忙しそうにあれこれと手がけた彼には、あまりにも短い生涯でした。
しかしそれも、あるいは充実した時間だったのではないか、と思えることが、僅かに心のなぐさめです。
残された私達は、楽しかった日々の思い出とともに、生きてまいります。
生前賜りましたご厚情を深謝いたしますと共に、今後とも変わらぬご交誼のほどよろしくお願い申し上げます。
* * *
達也と過ごした日々の情景が、一気に脳裏を駆け巡る。目頭の奥から熱いものが、次から次へと溢れてきた。
ポトリ……
二つ折りの厚紙の上に一滴が落ちる。ポトリ、そしてまたポトリと、落ちて行った。
ー終ー
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