異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第百四十二話 ご招待

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第百四十二話 ご招待


立ち話も何だしと、白菊の用意した一室でお昼ご飯を食べる事になった。

「あの‥‥ヒナ様」
「ん~? あ、これ美味しい」
「良かった。いえ、そうではなくて! その」

モジモジとする白菊。何か言いにくい事かな?

「ふ」
「ふ? あ、これも美味しい」

お麩に似てるな。そう言えば、お麩ってどうやって作るんだろう?

「普段は! どういった事をなさって‥‥」
「ふぇ? そうだなぁ‥‥皆のご飯作って、畑の世話して、色々かな」
「皆? ご家族が多いのですか?」
「そう言えば、白菊には言った事無かったねぇ」

いつもは白菊が満足するまでモフモフされてるだけだったからな。
部屋にいるのは白菊とコウだけだし、良いか。
自給自足を目指しながら、下宿をやっている事を説明した。空に浮いていると言う事は、省きました。

「畑に下宿」
「偶に町に行ったりするけど。そう言えば、どうしてこのままの姿で? 何人か目が合ったけど、何も言われなかったし」
「ヒナ様は救国の英雄。本来であれば、国を挙げて歓待すべきお人。ですが、ヒナ様はあまり目立つ事はお好きではない。せめて大門の中だけでも、ありのままのお姿で心穏やかに過ごしていただけたら、と。皆に騒がぬようにと、お願いを少々」
「脅しの間違いだろ」
「‥‥‥ん?」

ポソリと呟いたコウに、笑顔で圧を掛ける白菊。
なるほど。これが「姉に逆らえない弟」か。

「あ、あ~、うん! ありがとうね!」

この姿の方が色々と楽なのは確かだ。どう頑張っても目立つから、人に近い姿の方で出歩く事が多いけど。

「何かお礼をしたいけど」
「とんでもござんせん。礼を尽くさねばならぬのは、こちらの方。その‥‥どうしてもと仰るなら、いつか‥‥いつかヒナ様の島へ連れて行ってくださいませ。一度、見てみとうございます」
「そんな事で良いの?」
「はい!」
「ふむ‥‥じゃあ、今から行く?」
「はい?」

最後の一口を飲み込み、ごちそうさまと手を合わせた。

「コウはどうする?」
「え、まぁ、姉が行くなら?」
「ほいじゃ、行こうか」

戸惑う二人を玄関まで連れ、履物を用意してもらった。

「お手を拝借。お店が始まる前には戻って来ますので」

二人の手を取り、転移石を発動させた。

「「は?」」

一瞬にして景色が変わり、島へと帰って来た。

「ヒナさま、おかえりなさい!」
「ただいま」

猫達が出迎えてくれたので、頭を撫でてあげた。

「‥‥‥天国」
「転移魔法? いや、幻覚‥‥」

後ろの二人が、何やらブツブツと呟いている。

「天国でも幻覚でもないよ。とりあえず、下宿の方行こうか。お茶でも出すよ」

畑は今、夏野菜で彩り豊か。相変わらずの豊作なのはありがたいが、最近採れる野菜が大きくなって来ているのがある。先日収穫したスイカなんて、大き目のバランスボールくらいあった。そのうち、サ〇エさんのエンディングに出て来そうな物が採れそうでちょっと怖い。
呆然とする二人を連れて下宿の食堂へとやって来ると、ジローと出くわした。

「今から出るの?」
「おう。依頼主が昼からしか会えないって言ってな」
「晩御飯は?」
「少し遅くなる」
「はいよ。いってらっしゃい」
「おう!」

冒険者は時間が不規則だから、大変だなぁ。

「お、おい」
「ん?」
「今のって、Sランク冒険者のジローだろ」
「うん。他にもアヌリとキャロルって冒」
「マジか! ジローとアヌリって言えば、冒険者で知らない者はいない有名人だぞ! 最近は二人で依頼を受ける事もあるって聞いていたが‥‥なるほど、ここで繋がるのか。それに、キャロルって言えば、中堅の冒険者では最速でランクが上がってきてるって噂だ」

おやまぁ。三人とも、そんなに有名だったのか。
縁側に人影が見えて覗くと、エストと大賢者さんが将棋を指していた。

「ただいま」
「「おかえり」」
「お茶いる?」
「儂は温めが良いのぉ」
「俺がやるから良いよ。王手」
「なぬ⁉」

エストは強い。だが、未だにセバスに勝てる猛者は出ていない。

「お客さんか」
「うん。白菊とコウ。彼は私の手伝いをしてくれている、エスト」
「お初にお目にかかります」
「どうも」
「ごゆっくり」

軽く挨拶をすると、エストはお茶を持って大賢者さんの所へと戻って行った。
さて、お茶は良いとして、お茶請けは何にしようかなぁ。

ヒナがキッチンの中へと消えて行くと、白菊はコウの耳を引っ張り、顔を近付けた。

「あの翁、大賢者はんやな」
「‥‥マジか」
「それに、さっきのエスト殿。カルーネル王国騎士団の元隊長殿や」
「Sランク冒険者に、急成長中の冒険者。大賢者に元騎士団‥‥どうなってんだ、ここは」
「しかも、全員島に引きこもったなんて話は流れてきていない。おそらく、先程の転移魔法か何かを使うておるんやろな」
「それって」
「ここから、世界の何処へでも行けると言う事や」
「野営の心配も無く、危なくなったら帰って来れる安全地帯。冒険者にとっては夢の様だな」
「夢どころか、これは下手をすると天地がひっくり返る」

白菊は、この島の重要性に血の気が引き始めていた。冒険者はもちろん、もしもこの島が戦争に使われる様になったら‥‥物資の補給から兵の移送まで、少し考えただけでもつらつらと頭の中にリストが挙がる。

「どうしたの?」
「「⁉」」

背後からヒナに声を掛けられ、ビクリと震える二人。
そこに立つヒナはあまりにも無防備に見え、白菊は途端に心配になった。

「あ、あの、ヒナ様」
「ん~? あ、こっちにどうぞ」

白菊とコウはぎくしゃくとしながら、薦められた席へと座った。

「お茶請けは鬼まんじゅうにしてみました」

お芋たっぷりと言うか、ほぼお芋になっちゃったけど。

「ありがとうございます。いただきます‥‥甘くて、美味しい」
「美味いな」
「口に合ったみたいで良かった。それで?」
「はっ!」

夢中で鬼まんじゅうを頬張っていた白菊が我に返った。慌てて口元を拭うと、一つ咳払いをした。

「この島に結界は⁉」
「ふぁい?」

何故突然、結界?

「こないな島、悪用しようとする輩がいたら!」

なるほど、心配してくれたのか。

「大丈夫、大丈夫。一応、外からは見えないらしいし、結界もあるよ。まぁ、よっぽどじゃないとここにはたどり着けないからね」

リシュナや魔王とか魔王の配下の事は‥‥言わぬが花ってやつだろう。

「ですが‥‥ヒナ様に何かあれば、わっちは」
「心配してくれてありがとう。う~ん‥‥じゃあ、はい、これ」

白菊に通信イヤーカフスを渡した。

「これは?」
「耳に着けて魔力を流すと、どんなに遠くに離れていても、私とお話できちゃう代物です。何かあれば、白菊に連絡できるから」
「絶対に、肌身から離しません! 縫い付けます!」
「普通に、持っていてください」

それから夕方までお茶を楽しみ、番頭さんと約束した通りに二人をお店に送った。

「はぁ~、とんでもない場所だったな」
「絶対に他言無用」
「言っても、誰も信じないだろ。それにしても、てっきり俺に残ってあの島とヒナを守れとか言うと思ったが」

コウの冒険者ランクはA。ヒナには及ばずとも、有事の際には戦力になるはずだ。そして、ヒナの様子を報告しろと言われる、とコウは思っていた。

「ヤマタノオロチを無傷で倒せるようなお方を害せるようなもんは、魔王か古龍の女王くらい。そんな事になれば、あんさんに出来るのは邪魔をせん事だけや」
「ぐっ‥‥」
「それに‥‥‥わっちがここを離れられんのに、あんただけあのお方の傍にいるなんて‥‥」

立ち止まってフルフルと震える白菊の顔は、まさに鬼の形相。とてもじゃないが、客の前に出せるものではない。

「あ、白菊姉さん! 今日の予約のお客はんですが」
「あ~い~」

店の者に声を掛けられた白菊の顔が、一瞬にして元のたおやかさを取り戻した。その変わり様に、コウは感心さえ覚える。
白菊と店の者が打ち合わせの為に消えると、中庭の縁側に座るコウ。

「‥‥おぉ、怖」

彼のつぶやきは、茜色に染まった四角い空へと吸い込まれて行ったのだった。
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