異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

文字の大きさ
上 下
21 / 141
連載

第三十五話 おかえり

しおりを挟む
第三十五話 おかえり


水脈の栓をしていたのは、亀だった。
水柱がゆっくりと静まり、亀は水の中へと消えていった。

「亀爺って?」
「齢千八百六十七歳の、亀です」
「この世界の長寿って・・・」

リシュナさんもそうだが、桁が違い過ぎて想像もつかん。

「亀は万年って言うけど、この世界なら本当にそれくらい生きそうだね」
「儂の爺さんが、一万五千九百二十五歳まで生きたぞ」
「へ?」
「亀爺、ご無事で何よりです」

泉からにゅっと顔を出した亀には、あごひげが生えていた。
仙人っぽい。

「ふぉっふぉっ。ちっとばかし、寝すぎたようじゃのぉ」

喋った。亀が、喋った!

「メェ~」
「ん?草?おお!すまんかったのぉ」

亀が一瞬光った!と思ったら、砂が見えていた場所に草が生え、野原が新鮮な草で覆いつくされた。

「メェ~!」

捕まえていた羊が一声鳴くと、野原のあちこちから羊が顔を出した。
こんなに何処に隠れていたのか。数十匹の小さな羊が集い、嬉しそうに鳴いた。

「凄い」
「ふぉっふぉっ。ん?お前さんは・・・」
「ヒナといいます」
「おお、そうじゃったそうじゃった。ゲンさんとこの姪っ子じゃったかの」
「いえ、違います」

誰だ、ゲンさん。

「亀爺。この方は新しく主になられた、ヒナ様です」
「よろしくお願いします」
「そうかそうか・・・猫が喋った!」

お互い様だと思う。

「亀爺、この方はこれこれしかじかで・・・」

セバスが説明してくれた。

「ほうほう。渡り人とな。神というのもよぉ分からん事をしなさるもんじゃて。しかもその姿・・・まぁ、本人が良いのなら、何も問題はあるまいて」

おぉう、見抜かれた。
亀の甲より年の劫とは言うけど、亀爺はその両方か。

「ほれで、モニュナは元気か?」

だから、誰だ、モニュナ!





「クレス!」

突然店の扉が勢いよく開かれた。
飛び込んで来たのは、ジロー。

「いらっしゃいませ」
「すまん。俺は客じゃ」

言い終わる前に、隠れる様に身を屈めた。

「あのぉ」
「店の外。獣人がいるだろう?」
「ああ、はい。何かキョロキョロとしていますね」
「クソッ・・・しつこい」
「ちょっと、何事?」

騒ぎを聞きつけ、店の奥からクレスが顔を出した。
その顔にはクマが刻まれ、髪も適当に一まとめにされただけ。

「行きましたよ」
「はぁ~・・・」
「ジロー?あんた、依頼は?」
「終わった。というか、ヒナが終わらせた」
「はぁ?」

困惑するクレスに、港町であった事を話した。
すると、クレスが笑い始めた。

「あはははは!ヒナちゃんらしい!」
「笑い事じゃない!」
「でも、依頼は終わったんでしょう?そのご令嬢の護衛とやらは」
「それはな。だが、その時にヒナの姿を見た奴がいて、ヒナの所へ連れて行けと煩くてな。それに、ギルドも」

依頼の報告をギルドにすると、ギルドマスターに呼び出された。
少数ながらもあった目撃証言から、一度だけ連れて来たヒナに目星を付けるあたり、流石というか・・・。

「このままじゃ帰れない」
「ああ、ヒナちゃんならもうあそこにいないわよ?」
「はぁ!?」
「引っ越ししたんですって」
「何処に!」
「それは私もまだ知らないの。でも」
「もったいぶらないで早く言え!」

ジローがクレスの両肩を掴み、揺さぶる。

「分かった、分かったから落ち着け!連絡方法教えるから!」

ヒナからの手紙には、ジローの分のイヤーカフスも入っていた。
クレスがそれを渡して使い方を教えると、即行で発動するジロー。

『はいはい』

聞こえて来たヒナの声に、思わず顔がほころんだ。

「ヒナ、俺だ」
『あ、ジロー?イヤーカフス、受け取ったんだね』
「ああ。今、何処にいる?どうやって行けば良い?」
『こっちに?あ~じゃあ、迎えにいくよ。今何処?』
「クレスの店だ。いつ頃来れる?」
『ちょっと待ってねぇ』

イヤーカフスから、カチャリと鍵を開ける音が聞こえて来た。

「お待たせぇ」
「は!?」

イヤーカフスでは無く、何故か後ろから聞こえて来たヒナの声に驚いて振り向くと、エプロン姿のヒナがいた。

「クレス、これ今日採れたキャベツ」
「ありがとう!これ持って行って。新しい服よ」
「クレス、多いよ。もうタンスに入らん。あ、そうだ。皆、ちょっとおいで」

ヒナが奥に向かって呼びかけた。

「この子達のをお願いしようかな」
「わぁ、お外?」
「ヒトだぁ」

ヒナよりも小さく、普通の猫よりは大きな猫が、ひょっこりと顔を出した。
クレスも初めてだったのか、固まっている。

「あれ?二人ともどうしたの?」

完全に固まってしまったジローとクレスに、困惑するヒナ。

「ヒナ様。失礼ですが、そちらは?」
「ああ、この子達はその・・・私が作ったというか・・・」

少し照れ臭そうに言うヒナに、二人は崩れ落ちる寸前だ。

「いやぁ、もう。可愛すぎて、産める」
「ヒナ様のお子様達ではないのですか?」
「ああ、違うよぉ。自分の子供みたいに思ってるけどね」

猫を撫でるヒナの顔は、可愛くてしょうがないと言わんばかり。
その姿を見て、固まっていた二人がようやく息を吐いた。

「心臓止まるかと思ったわ」
「俺もだ」
「?」

そんな三人を見て、肩を震わせるカーナ。

「ジローはお仕事終わったの?」
「あ、ああ」
「つい迎えに来ちゃったけど、どうする?」
「行く!」

港町から王都へ来て、宿屋も取らずにそのままクレスの店に来たジロー。
荷物は全て持っている。

「私も」
「オーナー、まだ仕事が終わっておりません」
「あうぅ」
「連絡くれれば、迎えに来るから」
「フッ」
「くっ!」

ヒナと、勝ち誇った様な顔のジローが扉の奥に消えると、恨めしそうに扉を見つめるクレス。

「オーナー」
「はいはい、分かってるわよ!さっさと終わらせてやるわ!」

腕まくりをして、仕事に戻るクレス。
その姿を見て、カーナは半分呆れながら手伝いに戻った。





「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「ヒナ、こいつは?」
「この人は、セバス。えっと・・・」

どう説明したら良いんだろう。

「私からご説明させていただきますので、ヒナ様は続きをされては?」
「へ?ああ、そう言えば畑仕事の途中だった。じゃあ、お願いね」
「はい」

ヒナが猫達と畑に戻るが、ジローはじっとセバスを見ていた。
その姿を見たセバスは、先ずは話をした方が良いと判断したのだ。

「まず初めに、私に恋慕の情を抱く機能はついておりません」
「は?」
「ですので、ご安心を」
「お、おいちょっと待て。機能って何だ」
「私は人工生命体。オートマタ、と言った方がよろしいでしょうか」
「オートマタって、古代遺跡で見つかったやつか?どう見ても、人間にしか見えないが」

訝し気にセバスを見るジロー。
遺跡で見つかったオートマタは、劣化によりその原型をほぼ保っていなかった。
辛うじて人型であろうと言う事は判明しているが、誰が、何の為に作ったか等は判明していない。

「そうですね・・・お見せするのが一番ですね」

セバスは服を寛げ、胸の魔石をジローに見せた。

「これは・・・」
「お手を触れるのはご勘弁を。これに触れて良いのは、我が主であるヒナ様のみ」

服を整えると、セバスはこの島の事を説明した。
最初は疑っていたジローも、島から見える景色に呆然としたと同時に納得もした。

「とりあえず、話は分かった。そのゼストとか言う第二王子は見たら殴るとして、本当にここは安全なんだろうな?」
「はい。ここには獰猛な魔獣や魔物はおりません」
「そうか。なら良い」

ジローが見つめる先には、猫達と楽しそうに畑仕事をするヒナがいる。
その光景に、思わず頬が緩んだ。

「やれやれ。少し傍を離れただけで、こんな所まで来るなんてなぁ」
「猫は好奇心旺盛なもの。捉まえるのは、至難の業かと」
「まぁな。だが、捉まえるのは、俺じゃないさ。獲物を捕まえるのは、猫の方が得意だろ」
「ふむ、確かに」

少し困った様に、だが嬉しそうに笑うジローを見て、妙に納得したセバスだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で捨て子を育てたら王女だった話

せいめ
ファンタジー
 数年前に没落してしまった元貴族令嬢のエリーゼは、市井で逞しく生きていた。  元貴族令嬢なのに、どうして市井で逞しく生きれるのか…?それは、私には前世の記憶があるからだ。  毒親に殴られたショックで、日本人の庶民の記憶を思い出した私は、毒親を捨てて一人で生きていくことに決めたのだ。  そんな私は15歳の時、仕事終わりに赤ちゃんを見つける。 「えぇー!この赤ちゃんかわいい。天使だわ!」  こんな場所に置いておけないから、とりあえず町の孤児院に連れて行くが… 「拾ったって言っておきながら、本当はアンタが産んで育てられないからって連れてきたんだろう?  若いから育てられないなんて言うな!責任を持ちな!」  孤児院の職員からは引き取りを拒否される私…  はあ?ムカつくー!  だったら私が育ててやるわ!  しかし私は知らなかった。この赤ちゃんが、この後の私の人生に波乱を呼ぶことに…。  誤字脱字、いつも申し訳ありません。  ご都合主義です。    第15回ファンタジー小説大賞で成り上がり令嬢賞を頂きました。  ありがとうございました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。