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第二十五話
しおりを挟む「と~に~か~く~、俺の力が必要だろぉ?」
「ふっ‥‥はは‥‥ははははは!」
突然笑いだした獅子王。元気になられたようで何よりです。
「何が勇者だ! 儂が城での貴様の滞在を許したのは、フローラ師匠の名を出したからにすぎない」
おや、新たな兄弟子? いや、この場合は弟弟子だろうか? それにしては、この勇者はどうも師匠の嫌いそうな感じですが。
「そ、そうだぞ! 俺は修行を終えたんだ!」
「証拠は?」
「証拠?」
「そうだ。まぁ、お前如きが弟子入りしたと言うのも疑わしいが、修行を終えた証を見せろ」
「そ、それは‥‥そう! 魔族との闘いで、失くしたんだ!」
段々としどろもどろになっていく勇者。これは、無理がありますね。
「修行を終えた証は、失くしても本人の元へと戻る魔法が掛けてあるうえ、壊れた場合は師匠が分かるようになっていると聞いた。しかも、魔力感知付き故に持ち主の居場所は師匠が追える」
それは初耳ですよ! 前部分二つはまだ良いとして、問題は三つ目です。何処にいても師匠に居場所が分かるようになっているとは! 逆に、それならば少し納得できる。師匠はあの島に私がいると知っている様子だった。
「くっ‥‥そっちこそ、証拠はあるのかよ! 俺が弟子じゃないって証拠は!」
修行を終えたかどうかはさておき、弟子である可能性はある。多分。師匠に聞ければ一番早いが、あの方が今何処にいるかは分からない。島に来る時も、ふらっと現れて帰って行く。
「あるぞ」
「「え?」」
うわぁ、勇者と同じ事を言ってしまった。
獅子王が懐から紙を取り出し、広げた。そこには、見慣れた文字で一言。
「『そんな奴知らん』と書かれている」
なんとも明白。そうなると、この勇者、なんと命知らずな事を‥‥。
「う、嘘だ! そんなもん、証拠に」
勇者が更に食い下がろうとした瞬間、キィと扉の開く音が聞こえてきた。音のした方を見ると、バルコニーへと続く扉が開き、ある人物が立っていた。
「ほう‥‥貴様が、私の弟子だと言う阿呆か」
条件反射で背筋が伸びる。
「あ? 誰だ、バ」
勇者が言ってはならない言葉を出しかけた瞬間、その人物の姿が消え、ドゴン! と音を立てて勇者が壁に叩きつけられた。見えなかった‥‥。
「本来なら今ここで息の根を止めてやるところだが、今日の私は機嫌が良い」
一瞬私と目が合った師匠は口元を押さえ、プルプルと震え出した。
「んぐっ、コホン。さて、コイツは私が貰っていく。じゃあな」
師匠はそう言うと、床で白目をむいていた勇者を肩に担ぎ上げ、入って来た扉から姿を消した。その後、勇者を見た者はいなかった‥‥と、なりそうだ。
「‥‥ま、まぁ、これで勇者問題は解決だ! ならば、褒賞の話を‥」
「それでは、私達は失礼させていただきます」
これ以上ここにいると、また聖女だなんだと言われそうだ。早々に出た方がいい。
急いで頭を下げ、部屋を出た。本来なら、王が許可を出していないにのに御前を辞するのは不敬だが、そこは妹弟子として許していただきたい!
私達は大急ぎで城を出た(門番に止められそうになったので、城壁を飛び越えました)までは良かったが‥‥ここまで飛んで来たのをすっかり忘れていたのだった。
『メェちゃんとそこの一匹くらいなら、乗せていけるわよ?』
「ありがとうございます。ですが、ピヨさんの姿が見られてしまうと、大騒ぎになりかねません」
ピヨさんの本島の姿は、大きく真っ白な鳥。聖獣だと分からなくても、普通の鳥ではない事は一目見れば分かります。
ガルーセア王城は、その敷地をぐるりと公園で囲ってあり、貴族や平民にも開放されているらしい。その公園の中を歩いていると、大きな湖にたどり着きました。
追手も来ていないようなので、一息つけそうです。
幸いここは海からそう離れておらず、歩いても夕方までには着けるだろう。
「さて、どうしましょうか?」
『お買い物! お買い物行きましょうよ!』
『偶には休んだ方がいい。休息が必要なのは、身体だけではない』
『白玉も偶には良い事言うわね』
そう言えば、島を出たのは初めてです。しかも、外国!
ガルーセア王国は獣人の国であり、民の九割が獣人だという。他の国には無いものが見られるかもしれません。それに、ピヨさん達用の物も見つかるかも!
「行きましょう」
『メェちゃんが乗り気なの、珍しいわね。着る物も雑‥なんでも良いって感じだし。実際にお店を見ればワクワクするって事かしら』
『休息に反応したわけでもなさそうだ』
『まぁ、良い傾向よね! って、メェちゃん⁉』
何が良いでしょうか? 皆さん用のベッド? 食器も探しましょう!
まだ見ぬお宝に、思わず走り出してしまいそうです。
『メェちゃんって、行動力が突然爆発するのよね』
『やる気を出すのは良いが、前を見ていないと危な』
シロさんの慌てた様な足音が聞こえた瞬間、突然現れた大きな壁にぶつかってしまった。
壁と言うには柔らかく、痛みも無い。
「‥‥‥大丈夫?」
頭上から聞こえて来た声に顔を上げると、心配そうに見つめて来る紫色の瞳と目が合った。壁だと思ったそれは、私の頭二つ分程背の高い人でした。逆光で顔は見えませんが、声の感じからすると男性でしょうか。
「も、申し訳ございません!」
『だから、前を見ろと言っただろう』
返す言葉もございません。
昔から、何かに夢中になると少し周りが見えなくなってしまう。悪い癖だという自覚はある。修行中にもそれで何度か崖から落ちそうになった事がある。最初は止めてくれていた師匠も、途中から諦めたと言っていた。
「‥‥‥やっと」
先程と同じ声で何か聞こえたと思った瞬間、突然足が床から離れた。
『ちょっと、何こいつ⁉』
『メェを離せ』
シロさんの毛が逆立ち、ピヨさんが怒りでふくらんだ!
「あ、あの‥」
「やっと、会えた」
「え?」
紫の瞳と声が近くなり、抱き上げられたのだと気が付いた。
買い物に考えが行ってしまい、気が緩んでいた。こんな事では師匠の拳が飛んで来てしまいます。
混乱する頭に、「やっと会えた」という言葉が降って来る。やっと?
銀色の髪と、綺麗な紫色の瞳。整った顔立ちに、軽々と私を持ち上げる力。こんな綺麗な男性、知り合いにはいないはず。そう思いかけ、男性の頭部両側にある、鹿とは少し違う角が目に入る。その途端、脳裏に記憶が駆け抜けていった。
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