10 / 25
第十話
しおりを挟む
第十話
「ふむ‥‥」
お昼ご飯様にいつものスープを作っていた時だった。
最近、シロさん達、ご飯の食べがあまりよくない? と気付いた。
今のところ食べ残しは無いが、微妙な顔をしている気がする。
『メェの料理は美味い。美味いが、こう毎日毎食同じと言うのは‥‥』
『そうなのよねぇ。いくら中の具材を変えていると言っても、味付けは同じなのよねぇ』
そう言えば、教会主催の炊き出しの時にもこの顔を見た気がする。あの時はシチューとパンを三日間出した時だ。
初日はとても喜んでもらえたが、二日目は困惑した顔になり、三日目には微妙な顔になっていた。
不思議に思って教会の者に聞いたら、「まぁ、三日も同じものだと‥‥ね」と言っていた。
その時は大して気にしていなかった。自分がその生活を十数年続けてきたから。
今は、シロさん達がいる。このままでは、いけない気がします。
とは言っても、私はこのスープとパン以外に作れる料理がありません。
あ、あの本! トウドウさんが残した本があります!
「ダシ‥‥ショウユ‥‥?」
暗号でしょうか。しかし、どこかで見たような?
とにかく、料理なのですから、先ずは書いてある物を揃えましょう。
台所裏にある倉庫には、様々な調味料も置いてある。
トウドウさんの料理本に書いてある料理は、聞いた事の無い名ばかり。彼女の故郷である異世界の料理なのでしょうか。
「ふむ?」
倉庫に向かうと、トウドウさんの残した魔道具が目に入った。そしてそこに、ダシやショウユと書かれていた。
彼女のいた世界の「どりんくさーばー」と言う物を参考に作ったらしい。
これは、調味料だったのか。
「こちらは‥‥海の香りがします。そしてこちらは‥‥しょっぱい」
どちらも食べた事の無い味ですが、美味しいと思える。
トウドウさんの故郷は海が近かったのでしょうか。
「さて、レシピ通りに作れば‥‥」
書かれていた調味料と食材を揃えたまでは良かったのですが、作り方を読み進めていく目が止まった。
「ダシを鍋半分。食材を切ってドバっと入れ、ショウユをシャッと一回し‥‥シャッと?」
難解です。
もしかしたら、上級者向けなのかもしれません。
「ふ~」
袖をまくり、気合を入れます。これも、シロさん達の為です! 少しだけ折れかけた心を奮い立たせます。
奮闘する事一時間。トウドウさんの本を解読しつつ、なんとか形になりました。
「料理名は「肉じゃが」らしいです」
「ピヨ~『わぁ! 美味しそうな匂い』!」
「ニャニャ『まぁ、匂いは良さそうだな』」
「ピピヨ~『いただきま~す』!」
あ。お皿から少し目を離した隙に、ピヨさんが肉じゃがの肉(キノコ)を突いて食べてしまいました。
「ピヨさん。それは人用の味付けです。ぺ、してください」
「ピヨ~『美味しいわ』!」
「ニャニャ、ニャ~『メェ、我等は人の物と同じでも大丈夫だ。ん、美味い』」
「「キュ~キュ『『なに~? わぁ、美味しい!』』」
止める間もなく、お皿が空になってしまいました。これは、少し様子見が必要ですね。
*
フレス王国 王都
「さあさあ、新鮮な野菜だよ!」
「お、そこのお兄さん! こっちは隣国から仕入れた織物だ!」
メルリアが国を追われてから数週間が経ったフレス王国では、平和な日々が続いていた。
魔獣の被害は減り、天候も落ち着いて来たと喜ぶ人々。
「なぁ、あの噂聞いたか?」
平和な日々は、生活に追われていた人々に安寧と少しの余裕を生み出す。
それは、良くも悪くも、自分以外に目が行くと言う事にもなる。
「以前は日照りや魔獣の被害を聞かない日は無かったが、ここ最近‥‥というか、メルリア様がその‥‥」
「ああ、俺もその噂は聞いた。本当に偽物で、追い出したから良くなったんじゃないかってな」
「ちょいと!」
口さがない噂をする男達の話に割り込んだのは、かっぷくの良い女性だった。
彼女は腕組をし、鼻息荒く男達を𠮟りつけた。
「あんた、街道で魔獣に襲われていた所を助けて頂いたんだろう! そっちのあんたも、仕事中に怪我をしたのを治してもらったって喜んでいたじゃないか! さんっざんメルリア様にお世話になっておきながら、どの口が言うんだい!」
「い、いや、でも」
「それは‥‥」
「助けてもらった事を忘れちまうような阿呆に売る野菜は無いよ! 帰っとくれ!」
男達がそそくさと去っていくと、女性は「フン!」と鼻を鳴し、空を見上げて一つため息を吐いた。
その光景を、串焼き肉を頬張りながら見つめる一つの影。
「ふ~ん‥‥王都にいないと思ったら、そんな面白い事になってたんだねぇ」
口の端についたタレを親指で拭うと、ニヤリと笑い雑踏の中へと消えて行った。
*
経過観察の結果、シロさん達はお腹を壊した様子はありません。
クッションの上でスヤスヤと眠る皆さんを見ていますが、呼吸に問題も無く、表情も穏やか。
薄々感じてはいましたが‥‥もしかして、この子達は普通の動物ではないのでは?
この島に生きる動物や植物は、見た事もない程の大きさをしています。
まるで、自分が縮んだ様な錯覚をしてしまいそうな程です。
その中でもこの子達は大きさを変えられ、私の言っている事を理解しているような仕草もします。
黒いモヤモヤの影響も考えましたが、検証しようにもノルさんとノアさん以来、あのモヤモヤを見ていません。
「やはり、世界樹の影響が出ているのでしょうか」
私がここに来てから、数枚の枯れ葉を発見しています。
世界樹の為の薬を作る方法はトウドウさんが残してくださっているので、問題はありません。後は材料を集めるだけです。
必要な材料は、再生の実、クリュの葉、そしてレイルーンの泉の水‥‥聞いた事の無い物ばかりです。
トウドウさんがそれぞれの素材のある場所を地図で残してくださっているので、見つけられるはず。いや、ちょっと難しい、かも。彼女の地図は、個性的と言うか‥‥。
「緑のモコモコが世界樹だとして、大きな岩‥‥いや、山か?」
解読するのが難しそうですが、行ってみれば分かるかもしれません。
それに、ここは島だ。まぁ、なんとかなると思いましょう。
「ふむ‥‥」
お昼ご飯様にいつものスープを作っていた時だった。
最近、シロさん達、ご飯の食べがあまりよくない? と気付いた。
今のところ食べ残しは無いが、微妙な顔をしている気がする。
『メェの料理は美味い。美味いが、こう毎日毎食同じと言うのは‥‥』
『そうなのよねぇ。いくら中の具材を変えていると言っても、味付けは同じなのよねぇ』
そう言えば、教会主催の炊き出しの時にもこの顔を見た気がする。あの時はシチューとパンを三日間出した時だ。
初日はとても喜んでもらえたが、二日目は困惑した顔になり、三日目には微妙な顔になっていた。
不思議に思って教会の者に聞いたら、「まぁ、三日も同じものだと‥‥ね」と言っていた。
その時は大して気にしていなかった。自分がその生活を十数年続けてきたから。
今は、シロさん達がいる。このままでは、いけない気がします。
とは言っても、私はこのスープとパン以外に作れる料理がありません。
あ、あの本! トウドウさんが残した本があります!
「ダシ‥‥ショウユ‥‥?」
暗号でしょうか。しかし、どこかで見たような?
とにかく、料理なのですから、先ずは書いてある物を揃えましょう。
台所裏にある倉庫には、様々な調味料も置いてある。
トウドウさんの料理本に書いてある料理は、聞いた事の無い名ばかり。彼女の故郷である異世界の料理なのでしょうか。
「ふむ?」
倉庫に向かうと、トウドウさんの残した魔道具が目に入った。そしてそこに、ダシやショウユと書かれていた。
彼女のいた世界の「どりんくさーばー」と言う物を参考に作ったらしい。
これは、調味料だったのか。
「こちらは‥‥海の香りがします。そしてこちらは‥‥しょっぱい」
どちらも食べた事の無い味ですが、美味しいと思える。
トウドウさんの故郷は海が近かったのでしょうか。
「さて、レシピ通りに作れば‥‥」
書かれていた調味料と食材を揃えたまでは良かったのですが、作り方を読み進めていく目が止まった。
「ダシを鍋半分。食材を切ってドバっと入れ、ショウユをシャッと一回し‥‥シャッと?」
難解です。
もしかしたら、上級者向けなのかもしれません。
「ふ~」
袖をまくり、気合を入れます。これも、シロさん達の為です! 少しだけ折れかけた心を奮い立たせます。
奮闘する事一時間。トウドウさんの本を解読しつつ、なんとか形になりました。
「料理名は「肉じゃが」らしいです」
「ピヨ~『わぁ! 美味しそうな匂い』!」
「ニャニャ『まぁ、匂いは良さそうだな』」
「ピピヨ~『いただきま~す』!」
あ。お皿から少し目を離した隙に、ピヨさんが肉じゃがの肉(キノコ)を突いて食べてしまいました。
「ピヨさん。それは人用の味付けです。ぺ、してください」
「ピヨ~『美味しいわ』!」
「ニャニャ、ニャ~『メェ、我等は人の物と同じでも大丈夫だ。ん、美味い』」
「「キュ~キュ『『なに~? わぁ、美味しい!』』」
止める間もなく、お皿が空になってしまいました。これは、少し様子見が必要ですね。
*
フレス王国 王都
「さあさあ、新鮮な野菜だよ!」
「お、そこのお兄さん! こっちは隣国から仕入れた織物だ!」
メルリアが国を追われてから数週間が経ったフレス王国では、平和な日々が続いていた。
魔獣の被害は減り、天候も落ち着いて来たと喜ぶ人々。
「なぁ、あの噂聞いたか?」
平和な日々は、生活に追われていた人々に安寧と少しの余裕を生み出す。
それは、良くも悪くも、自分以外に目が行くと言う事にもなる。
「以前は日照りや魔獣の被害を聞かない日は無かったが、ここ最近‥‥というか、メルリア様がその‥‥」
「ああ、俺もその噂は聞いた。本当に偽物で、追い出したから良くなったんじゃないかってな」
「ちょいと!」
口さがない噂をする男達の話に割り込んだのは、かっぷくの良い女性だった。
彼女は腕組をし、鼻息荒く男達を𠮟りつけた。
「あんた、街道で魔獣に襲われていた所を助けて頂いたんだろう! そっちのあんたも、仕事中に怪我をしたのを治してもらったって喜んでいたじゃないか! さんっざんメルリア様にお世話になっておきながら、どの口が言うんだい!」
「い、いや、でも」
「それは‥‥」
「助けてもらった事を忘れちまうような阿呆に売る野菜は無いよ! 帰っとくれ!」
男達がそそくさと去っていくと、女性は「フン!」と鼻を鳴し、空を見上げて一つため息を吐いた。
その光景を、串焼き肉を頬張りながら見つめる一つの影。
「ふ~ん‥‥王都にいないと思ったら、そんな面白い事になってたんだねぇ」
口の端についたタレを親指で拭うと、ニヤリと笑い雑踏の中へと消えて行った。
*
経過観察の結果、シロさん達はお腹を壊した様子はありません。
クッションの上でスヤスヤと眠る皆さんを見ていますが、呼吸に問題も無く、表情も穏やか。
薄々感じてはいましたが‥‥もしかして、この子達は普通の動物ではないのでは?
この島に生きる動物や植物は、見た事もない程の大きさをしています。
まるで、自分が縮んだ様な錯覚をしてしまいそうな程です。
その中でもこの子達は大きさを変えられ、私の言っている事を理解しているような仕草もします。
黒いモヤモヤの影響も考えましたが、検証しようにもノルさんとノアさん以来、あのモヤモヤを見ていません。
「やはり、世界樹の影響が出ているのでしょうか」
私がここに来てから、数枚の枯れ葉を発見しています。
世界樹の為の薬を作る方法はトウドウさんが残してくださっているので、問題はありません。後は材料を集めるだけです。
必要な材料は、再生の実、クリュの葉、そしてレイルーンの泉の水‥‥聞いた事の無い物ばかりです。
トウドウさんがそれぞれの素材のある場所を地図で残してくださっているので、見つけられるはず。いや、ちょっと難しい、かも。彼女の地図は、個性的と言うか‥‥。
「緑のモコモコが世界樹だとして、大きな岩‥‥いや、山か?」
解読するのが難しそうですが、行ってみれば分かるかもしれません。
それに、ここは島だ。まぁ、なんとかなると思いましょう。
16
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件
なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。
そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。
【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの
47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!
のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、
ハサンと名を変えて異世界で
聖騎士として生きることを決める。
ここでの世界では
感謝の力が有効と知る。
魔王スマターを倒せ!
不動明王へと化身せよ!
聖騎士ハサン伝説の伝承!
略称は「しなおじ」!
年内書籍化予定!
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
追われる身にもなってくれ!
文月つらら
ファンタジー
身に覚えがないのに指名手配犯として追われるようになった主人公。捕まれば処刑台送りの運命から逃れるべく、いつの間にか勝手に増えた仲間とともに行き当たりばったりの逃避行へ。どこかおかしい仲間と主人公のドタバタ冒険ファンタジー小説。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる