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第二話
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第二話
波の揺れが心地よく、思っていたよりも眠ってしまった。
目が覚めると、何やらガヤガヤドタドタと騒がしい。
もしや、島に着いたのだろうか?
「ふむ」
鉄格子の扉は‥‥ちゃんと鍵が掛かっている。
窓の外には、相変わらずの一面の海。
ぼんやりとしていると、階段を降りて来る音が聞こえてきた。
やって来たのは、私と一緒に来た騎士。ニヤリと笑うと、牢の鍵を開けた。
「出ろ」
嫌な予感がするが、大人しく従っておく。
甲板まで出ると、一緒に来た騎士達対港町の騎士、みたいな構図になっていた。
おや、随分と日が高い。どうやら寝過ごしたようだ。
船の前方には島が見えている。
「聞いていた話と違う!」
隊長さんが怒っていらっしゃる。
「ふん! こちらにはこれがあるのだ。それとも何か? 第一王子の命令に逆らうのか?」
「そんな事をしたら、一族郎党‥‥どうなるだろうなぁ」
おやおや、随分と物騒な話になっています。
「くっ‥メルリア!」
隊長さんが私に気が付いた。
「何があったのですか?」
「あいつ等、舵を乗っ取って違う島に向けやがった」
「おやまぁ」
王都の騎士達を見ると、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「では、あそこに見えている島は?」
「あれは、原初の島だ」
「あらら」
原初の島。それは、世界の中心とされる島。世界の全てはその島から始まったとされている。
それだけ聞くと、とても神聖な場所だと思うかもしれないが、ちょっと違う。
全ての始まりと言う事は、良い事も悪い事も含まれるわけで。
たった一体で小さな村を壊滅させるような力を持つ魔獣も、勿論含まれる。
世界中で不可侵とされており、海賊でさえ寄り付かない。
「原初の島‥‥近すぎません?」
世界はそんなに狭くない。その中心に行くとなれば、どんなに早い船でもあと一日は必要なはず。
「丸一日、魔法で眠らされていたんだよ」
おやまぁ、びっくり。どうやら気を抜きすぎていたようだ。
「来い!」
急に腕を引かれ、甲板の端まで来た。そこには、船から突き出すように置かれた板があった。
「乗れ」
「おい! 島まで連れて行くのが俺達の仕事だろう!」
「だから、連れて来ただろう?」
ドン! と背中を押され、板の上に乗った。意外と揺れる。
「飛べ」
でしょうねぇ。殺す気満々ですね。
「分かりました」
「メルリア!」
「大丈夫です。皆さま、大変お世話になりました」
スカートを摘み、軽く持ち上げてカーテシーでご挨拶。そして、海の方へ向くとそのまま飛んだ。
「あはははは!」
「メルリア!」
王都の騎士達の笑い声と、隊長さん達の叫ぶ様な声が聞こえる。
私を追ってドタドタと船の端に寄る足音が聞こえて来る。
私は‥‥ふわりと着地。水の上を歩ける、浮遊歩行魔法。
以前、真冬に姉が池にイヤリングを落としたから探して来いと言われ、身に着けた魔法だ。
「は⁉」
「すっげぇ!」
「さすが!」
上から歓声が上がる。見上げてみると、ホッとしたような顔の隊長さんと喜ぶ他の騎士達が見えた。
「な! 魔法封じの手枷があるはずだ! 並の魔法使いなら、一切の魔法が使えなくなるはず!」
異変を感じた王都の騎士達も顔を出し、驚愕の表情を浮かべている。
一々説明する義理は無いので、島に向かって歩き出した。
原初の島か。色々と用意しておいてくれたらしい隊長さんには申し訳ないが、私にとっては逆に好都合。
予定通りの島にいたら、都合の良い時に引っ張り出されるのは目に見えている。しかも大罪人なので、扱いは以前よりも悪いだろう。
ゾワッと悪寒が走る。
自然と足が速くなり、あっという間に浜辺にたどり着いた。
振り返ると、船がゆっくりと向きを変えているところだった。そして地平線の向こうへと消えていくのを見送った。
「やれやれ、すっかり日が暮れてしまいました」
後方の海。前方の森。
夜の森に入るのは危険だ。なので、水が来なそうな森の手前で野営をしよう。
ポーチに手を当て、目当ての物を思い浮かべる。すると、目の前に天幕が現れた。
このポーチは空間魔法で中を拡張してあり、家一軒分の物なら余裕で入る。
地方に行く事も多く、野営も日常茶飯事だったので、なんだったら自宅の自室よりもこちらの方が落ち着く。姉が乱入してくる心配も無い。
天幕の中へ入ると板張りの部屋があり、台所と食卓、そして居間となっている。
靴を脱いで上がり、ソファに座る。ジャラリ、と鎖の音がした。
『解呪』
魔力を込めてそう唱えると、手枷はあっさりと外れた。
「ふぅ」
並の魔法使いならば、魔法を使うどころか魔力を込める事もできない。だが、手枷の許容量以上の魔力を持つものならば、簡単に外せる。そしてこれを作ったのは、私だ。当然、万が一自分が使われた時の事は考えてあった。
手首に治癒魔法を掛けると、お腹が鳴った。
ポーチから作り置きしておいたスープとパンを出して、今日の晩御飯を済ませる。
夜着に着替え、寝室のベッドに転がった。
「ん~~~‥‥自由だぁ!」
ベッドの上をゴロゴロと転がる。
作るだけ作って、聖属性魔法が発現した途端に「娘」だと読んだ父も!
大金を手に若い男と消えた母も!
会えば嫌味しか言わない義母も!
私に嫌がらせをするのと、身体を使うしか能がない義姉も!
精神的治癒魔法とか訳の分からない魔法を掛けて欲しいと、身体を触ろうとしてくる腹の出た貴族も!
困っているから助けてくれないかなぁと、察してオーラをだしてくる村人も!
騎士が束になっても倒せない魔獣を、どうにかできないかなぁ‥‥とチラチラ私を見て来る騎士達も!
そして、メローナの誘惑に負けてあっさり私を切り捨てた王子も!
「“ピー”くらえだ、こんちくしょー!」
大声で叫んだら、ちょっとスッキリした。
王都にいる者達は、私がこの島で野垂れ死ぬのを望んでいるのだろう。いや、海に落とされた時点で死んでいると思っているのか。まぁ、私が生きて島にたどり着いた事は、あの騎士が報告するだろう。
幸か不幸か、ここは世界のど真ん中。海を渡って別の国に行く事は可能だ。可能だが、また同じ事の繰り返しになるのでは?
自分で言うのもなんだが、私の表情筋は仕事を放棄しているし、気の利いた会話も出来ない。
そして、残念ながらメローナも持ち合わせてはいない。
どの国も聖属性魔法が使える者は少ないので、行けば何とかなるだろうけど‥‥。
正直、あまり人に会いたくない。
ならば、ここは絶好の場所なのではないだろうか?
「明日は、島の‥調査‥‥」
寝つきは良い方だった。睡眠は大切です。
そして翌日、身支度を済ませて外に出た。波の音と潮風が心地よく、そろそろ日が顔を出しそうだった。
天幕をポーチに戻し、今日は島の調査です。できれば、定住できるような場所が見つけたい。
こんなにも心地よい朝はここ数年‥‥いや、もしかしたら、産まれて初めてかもしれない。
本当にここは原初の島か? 呪われているだのと噂を聞いた事があるが、ここが呪われた地ならば、王都などとっくの昔に滅びている。
「グルルルル」
「‥‥おや」
ほのぼのしていたら、見上げる程にとても大きな犬が唸り声を上げながら、森から顔を出した。涎を垂らし、目は血走っている。
「もしや、私を朝食にご所望でしょうか」
朝から肉とは、胃にもたれそうだ。しかも、私など一口にも満たなそうで申し訳ない気がする。
「残念ですが、謹んで辞退申し上げます」
「グァァァァァ!」
大きな口を開け、迫り来る魔獣。
このままペロリと行かれるわけにはいかない。
いつもなら、やられる前にやるが鉄則です。
「ですが‥‥これからはご近所どうし」
犬は最初の躾けが肝心。上下関係を重んじると、本に書いてありました。
普段は抑え込んでいる魔力を、少しだけ放出する。
すぐ目の前に迫っていた牙が、ビクリと震えて止まった。
「仲良く、してくださいな」
地面に伏せてプルプルと震え出した犬だが、何かがおかしい。
犬の身体から、黒いモヤモヤが立ち上っている。
『治癒』
唱えてみたが、効果なし。
それではと、『解呪』『浄化』と試して、『浄化』の方に効果があった。
黒いモヤモヤが霧散し、黒く獰猛そうだった犬が、白いモフモフした毛玉となりました。
身体は大きいままのようですが、短い手足に長い尻尾‥‥尻尾? 犬だと思っていたら、猫でした。
「ニャ~」
「よ~し、よしよし」
喉を撫でると、猫が甘えたような声で鳴きました。
驚きです。
魔獣がこの様に姿を変えるなど、聞いた事がありません。
『解呪』と『浄化』の違い。細かく説明しようと思うと、一週間程かかる。大まかに説明するなら、『解呪』は人の手によって作られた「不」の物を解き、『浄化』は自然現象によって「不」になってしまったものを綺麗にする。例えるならば、人工的か、自然発生か。養殖と天然? ふむ、難しいですね。 鍵開けと清掃?
『解呪』と『浄化』の違いすら説明出来ないようでは、師匠に怒られて‥‥おや、私の方が震えが止まりません。
「ニャ?」
短い首で、こてんと首を傾げる猫。なんとも可愛らしいです。おかげで震えが止まりました。
「猫さん。先日よりこの島にお世話になる事になりました、メルリアと申します。つきましては、水辺が近く快適そうな住みやすい場所など、ご存じではありませんか?」
ゴロゴロと、猫の喉を鳴らす音がこんなにも心地よい響きだとは思いませんでした。
「なんて、こちらの言葉など通じるわけが‥‥おや?」
まるで子猫を運ぶ様に、背中側からパクリと胴を咥えられてしまいました。
そのまま歯を立てられればひとたまりもありませんが‥‥まぁ、大丈夫でしょう。
猫はゆっくりと歩き出すと、森の中へと入って行きます。
もしかして、先程の言葉が通じたのでしょうか?
「お持ち帰り、ではない事を祈りますか」
波の揺れが心地よく、思っていたよりも眠ってしまった。
目が覚めると、何やらガヤガヤドタドタと騒がしい。
もしや、島に着いたのだろうか?
「ふむ」
鉄格子の扉は‥‥ちゃんと鍵が掛かっている。
窓の外には、相変わらずの一面の海。
ぼんやりとしていると、階段を降りて来る音が聞こえてきた。
やって来たのは、私と一緒に来た騎士。ニヤリと笑うと、牢の鍵を開けた。
「出ろ」
嫌な予感がするが、大人しく従っておく。
甲板まで出ると、一緒に来た騎士達対港町の騎士、みたいな構図になっていた。
おや、随分と日が高い。どうやら寝過ごしたようだ。
船の前方には島が見えている。
「聞いていた話と違う!」
隊長さんが怒っていらっしゃる。
「ふん! こちらにはこれがあるのだ。それとも何か? 第一王子の命令に逆らうのか?」
「そんな事をしたら、一族郎党‥‥どうなるだろうなぁ」
おやおや、随分と物騒な話になっています。
「くっ‥メルリア!」
隊長さんが私に気が付いた。
「何があったのですか?」
「あいつ等、舵を乗っ取って違う島に向けやがった」
「おやまぁ」
王都の騎士達を見ると、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「では、あそこに見えている島は?」
「あれは、原初の島だ」
「あらら」
原初の島。それは、世界の中心とされる島。世界の全てはその島から始まったとされている。
それだけ聞くと、とても神聖な場所だと思うかもしれないが、ちょっと違う。
全ての始まりと言う事は、良い事も悪い事も含まれるわけで。
たった一体で小さな村を壊滅させるような力を持つ魔獣も、勿論含まれる。
世界中で不可侵とされており、海賊でさえ寄り付かない。
「原初の島‥‥近すぎません?」
世界はそんなに狭くない。その中心に行くとなれば、どんなに早い船でもあと一日は必要なはず。
「丸一日、魔法で眠らされていたんだよ」
おやまぁ、びっくり。どうやら気を抜きすぎていたようだ。
「来い!」
急に腕を引かれ、甲板の端まで来た。そこには、船から突き出すように置かれた板があった。
「乗れ」
「おい! 島まで連れて行くのが俺達の仕事だろう!」
「だから、連れて来ただろう?」
ドン! と背中を押され、板の上に乗った。意外と揺れる。
「飛べ」
でしょうねぇ。殺す気満々ですね。
「分かりました」
「メルリア!」
「大丈夫です。皆さま、大変お世話になりました」
スカートを摘み、軽く持ち上げてカーテシーでご挨拶。そして、海の方へ向くとそのまま飛んだ。
「あはははは!」
「メルリア!」
王都の騎士達の笑い声と、隊長さん達の叫ぶ様な声が聞こえる。
私を追ってドタドタと船の端に寄る足音が聞こえて来る。
私は‥‥ふわりと着地。水の上を歩ける、浮遊歩行魔法。
以前、真冬に姉が池にイヤリングを落としたから探して来いと言われ、身に着けた魔法だ。
「は⁉」
「すっげぇ!」
「さすが!」
上から歓声が上がる。見上げてみると、ホッとしたような顔の隊長さんと喜ぶ他の騎士達が見えた。
「な! 魔法封じの手枷があるはずだ! 並の魔法使いなら、一切の魔法が使えなくなるはず!」
異変を感じた王都の騎士達も顔を出し、驚愕の表情を浮かべている。
一々説明する義理は無いので、島に向かって歩き出した。
原初の島か。色々と用意しておいてくれたらしい隊長さんには申し訳ないが、私にとっては逆に好都合。
予定通りの島にいたら、都合の良い時に引っ張り出されるのは目に見えている。しかも大罪人なので、扱いは以前よりも悪いだろう。
ゾワッと悪寒が走る。
自然と足が速くなり、あっという間に浜辺にたどり着いた。
振り返ると、船がゆっくりと向きを変えているところだった。そして地平線の向こうへと消えていくのを見送った。
「やれやれ、すっかり日が暮れてしまいました」
後方の海。前方の森。
夜の森に入るのは危険だ。なので、水が来なそうな森の手前で野営をしよう。
ポーチに手を当て、目当ての物を思い浮かべる。すると、目の前に天幕が現れた。
このポーチは空間魔法で中を拡張してあり、家一軒分の物なら余裕で入る。
地方に行く事も多く、野営も日常茶飯事だったので、なんだったら自宅の自室よりもこちらの方が落ち着く。姉が乱入してくる心配も無い。
天幕の中へ入ると板張りの部屋があり、台所と食卓、そして居間となっている。
靴を脱いで上がり、ソファに座る。ジャラリ、と鎖の音がした。
『解呪』
魔力を込めてそう唱えると、手枷はあっさりと外れた。
「ふぅ」
並の魔法使いならば、魔法を使うどころか魔力を込める事もできない。だが、手枷の許容量以上の魔力を持つものならば、簡単に外せる。そしてこれを作ったのは、私だ。当然、万が一自分が使われた時の事は考えてあった。
手首に治癒魔法を掛けると、お腹が鳴った。
ポーチから作り置きしておいたスープとパンを出して、今日の晩御飯を済ませる。
夜着に着替え、寝室のベッドに転がった。
「ん~~~‥‥自由だぁ!」
ベッドの上をゴロゴロと転がる。
作るだけ作って、聖属性魔法が発現した途端に「娘」だと読んだ父も!
大金を手に若い男と消えた母も!
会えば嫌味しか言わない義母も!
私に嫌がらせをするのと、身体を使うしか能がない義姉も!
精神的治癒魔法とか訳の分からない魔法を掛けて欲しいと、身体を触ろうとしてくる腹の出た貴族も!
困っているから助けてくれないかなぁと、察してオーラをだしてくる村人も!
騎士が束になっても倒せない魔獣を、どうにかできないかなぁ‥‥とチラチラ私を見て来る騎士達も!
そして、メローナの誘惑に負けてあっさり私を切り捨てた王子も!
「“ピー”くらえだ、こんちくしょー!」
大声で叫んだら、ちょっとスッキリした。
王都にいる者達は、私がこの島で野垂れ死ぬのを望んでいるのだろう。いや、海に落とされた時点で死んでいると思っているのか。まぁ、私が生きて島にたどり着いた事は、あの騎士が報告するだろう。
幸か不幸か、ここは世界のど真ん中。海を渡って別の国に行く事は可能だ。可能だが、また同じ事の繰り返しになるのでは?
自分で言うのもなんだが、私の表情筋は仕事を放棄しているし、気の利いた会話も出来ない。
そして、残念ながらメローナも持ち合わせてはいない。
どの国も聖属性魔法が使える者は少ないので、行けば何とかなるだろうけど‥‥。
正直、あまり人に会いたくない。
ならば、ここは絶好の場所なのではないだろうか?
「明日は、島の‥調査‥‥」
寝つきは良い方だった。睡眠は大切です。
そして翌日、身支度を済ませて外に出た。波の音と潮風が心地よく、そろそろ日が顔を出しそうだった。
天幕をポーチに戻し、今日は島の調査です。できれば、定住できるような場所が見つけたい。
こんなにも心地よい朝はここ数年‥‥いや、もしかしたら、産まれて初めてかもしれない。
本当にここは原初の島か? 呪われているだのと噂を聞いた事があるが、ここが呪われた地ならば、王都などとっくの昔に滅びている。
「グルルルル」
「‥‥おや」
ほのぼのしていたら、見上げる程にとても大きな犬が唸り声を上げながら、森から顔を出した。涎を垂らし、目は血走っている。
「もしや、私を朝食にご所望でしょうか」
朝から肉とは、胃にもたれそうだ。しかも、私など一口にも満たなそうで申し訳ない気がする。
「残念ですが、謹んで辞退申し上げます」
「グァァァァァ!」
大きな口を開け、迫り来る魔獣。
このままペロリと行かれるわけにはいかない。
いつもなら、やられる前にやるが鉄則です。
「ですが‥‥これからはご近所どうし」
犬は最初の躾けが肝心。上下関係を重んじると、本に書いてありました。
普段は抑え込んでいる魔力を、少しだけ放出する。
すぐ目の前に迫っていた牙が、ビクリと震えて止まった。
「仲良く、してくださいな」
地面に伏せてプルプルと震え出した犬だが、何かがおかしい。
犬の身体から、黒いモヤモヤが立ち上っている。
『治癒』
唱えてみたが、効果なし。
それではと、『解呪』『浄化』と試して、『浄化』の方に効果があった。
黒いモヤモヤが霧散し、黒く獰猛そうだった犬が、白いモフモフした毛玉となりました。
身体は大きいままのようですが、短い手足に長い尻尾‥‥尻尾? 犬だと思っていたら、猫でした。
「ニャ~」
「よ~し、よしよし」
喉を撫でると、猫が甘えたような声で鳴きました。
驚きです。
魔獣がこの様に姿を変えるなど、聞いた事がありません。
『解呪』と『浄化』の違い。細かく説明しようと思うと、一週間程かかる。大まかに説明するなら、『解呪』は人の手によって作られた「不」の物を解き、『浄化』は自然現象によって「不」になってしまったものを綺麗にする。例えるならば、人工的か、自然発生か。養殖と天然? ふむ、難しいですね。 鍵開けと清掃?
『解呪』と『浄化』の違いすら説明出来ないようでは、師匠に怒られて‥‥おや、私の方が震えが止まりません。
「ニャ?」
短い首で、こてんと首を傾げる猫。なんとも可愛らしいです。おかげで震えが止まりました。
「猫さん。先日よりこの島にお世話になる事になりました、メルリアと申します。つきましては、水辺が近く快適そうな住みやすい場所など、ご存じではありませんか?」
ゴロゴロと、猫の喉を鳴らす音がこんなにも心地よい響きだとは思いませんでした。
「なんて、こちらの言葉など通じるわけが‥‥おや?」
まるで子猫を運ぶ様に、背中側からパクリと胴を咥えられてしまいました。
そのまま歯を立てられればひとたまりもありませんが‥‥まぁ、大丈夫でしょう。
猫はゆっくりと歩き出すと、森の中へと入って行きます。
もしかして、先程の言葉が通じたのでしょうか?
「お持ち帰り、ではない事を祈りますか」
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