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【未知の香辛料】
2-2:生粋のクエストマニア
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「今回は少し時間かかったんだね?」
クエストの行き帰りには必ず店に訪れるカリン。だから、普段どのようなクエストにどのくらいの時間がかかるのか、全てランも把握していた、
今回程度のクエストならば、もう少し早く帰ってくると思っていたのだが、苦戦でもしたのだろうか?
カリンに限ってそんなことはないと思うが。少し理由は気になる。
ふとそんなことを思って尋ねたランに、ノアが「聞いてよー!」と話し出す。
「カリンったら、登山疲れた~とか途中から駄々こね出しちゃってさー。途中何回も何回も休憩するもんだから、いつもより時間かかっちゃったんだよねー」
「うるさい。いつでも飛んだり消えたりできるあんたと一緒にしないでくれる?」
「ひっどーい!! ランくん、カリンがいじめる~!」
泣き真似をしながら、ランの方へ飛んでいくノア。
自分の肩に掴まるノアを宥めるようにランは笑顔を向けた。
そんなノアに目もくれず、カリンは手に持っていたロッドをカウンターの上に置く。その他にも、使った装備類をカウンターに並べた。
「今日はこれお願いね」
カリンは、装備品のメンテナンスを全てランにお願いしている。
ランの技術は、他の鍛冶屋とは比べ物にならなかった。
早い段階から店を開いていて、様々な武器に触れたその経験も大きいかもしれないが、恐らくは持って生まれた気質。
ラン──藍琉の家は代々外科医の家系だ。そのため、手先は生まれながらに器用で、保育園児の時からロボットなどの機械をいじるのが趣味だった。
それが、この世界で鍛冶屋として生きていく中で、大きく生かされている。
その高い技術力は広く知られており、攻略チームに属している最高クラスのプレイヤーの中にも、〈Esperanza〉を贔屓にしている者は数多い。
だからこそ、ずっと黒字経営なのだ。
まぁ実際には、その大半をカリンが占めていたりする。
やはり、時々来る大口取引よりも、ほぼ毎日の小さな積み重ねは大きい。
置かれたロッドを手にしたランは、真剣な眼差しでそれを眺める。
ひとつ頷き、カリンを見て首を傾げた。
「剣はいいの?」
「あーうん。使ってないから大丈夫」
「了解。だから余計に時間かかったんだね」
「それもあるかも。やたら雑魚が多くてさ。ロッドじゃなくて、双剣で行けばよかったと途中から後悔したわぁ」
「あはは、たしかに。だったらもう数時間は早かったかもね」
カリンの背に担がれた、ロッドと同じ青と白を基調とした片手剣。
ロッドを使い、魔法を駆使して戦っていたカリンが剣を持っている理由。
それは、ジョブが魔法剣士だからだ。
ただし、普通の魔法剣士は、両手剣に火や水などの魔力を宿して戦う。
スキルなどが派手なため、見た目にはとてもかっこいいのだが、どちらかと言うと剣士に近く、魔力を制御しながら接近戦をするのはかなりの神経を使うため、あまり人気のないジョブだったりする。
そんな中、魔法剣士でありながら、魔法使いとしても剣士としても一人前以上に戦えるカリンは異質だった。
しかも、魔力を宿して双剣まで扱える。
様々な最高クラスのプレイヤーを見てきたランだが、実はカリンが誰よりも強いのではないかと思っていたりする。
彼女が攻略チームに加われば、そのスピードは間違いなく上がるだろう。
だが、本人にそんなことを言っても意味が無いのは、この場にいる者ならば重々承知していた。
「ねえねえ。今日はもう終わりでしょー? 美味しい物食べに行こー? ランくんも一緒にさー」
暇を持て余したのか、ノアが構ってくれとばかりにカリンの周りを飛び回る。
そんなノアを器用に掴み、カリンは呆れた表情をした。
「何言ってんのノア。さっきクエスト受けてきたじゃない」
「でもそれ、そんな時間かかんないでしょ? それにもう今日は外に行かないんでしょ?」
「まぁそれはそうだけど」
「じゃあほら! 早く終わらせて、報告がてらそのままレストランでご飯食べるとかどう?」
「って、ノアが言ってる。ラン」
「僕は構わないよ」
「やったー! ごっはん! ごっはん!」
嬉しそうに飛びまわるノア。
精霊のくせに、ノアは人間と同じようにご飯を食べる。
しかも、身体に似合わず、ランと同じくらいの量を食べるのだから驚きだ。
一体その手のひらサイズの小さな体のどこに入ってるんだか。
カリンは、近くのテーブル席に腰掛け、【未知の香辛料】を作るために使う素材を出していく。
思ったより量が多く、テーブルの上は素材でいっぱいになった。
ちょうど店の奥からでてきたランがお茶を出してくれたので、慌ててそのスペースだけ作った。
「それよりカリンさん。もう街から出ないなら、やっぱり全部預かろうか?」
「あー、そうね。じゃあお願い」
「おっけー。いつまでとか期限ある?」
「明日、お昼から王都に行こうかと思ってて。だからそれまででよろしく」
「これまた急だね。でもまぁお昼なら大丈夫かな。了解、任せて」
カリンは、装備していたものを全て解除し、所持アイテム画面からシャボン玉のような膜に入れて中空に出した。
それをランが触れて自分の所持アイテム欄に回収する。
現実世界ではありえないゲームらしい受け渡し方法に、初めは少し興奮したものだった。
今ではもう当たり前のように動く手に、この世界に染ってるなぁとしみじみ感じた。
またランが店の奥へと消えたところで、静かだったノアが時間差で叫んだ。
「ええええ!?!? 王都に行くの!? そんなの聞いてないよ!?」
「~っ! 耳元でうるさすぎ! 当たり前でしょ。さっき思いついたんだから」
「思いついたって。もー、思いつきで急にそんなのやめてよー!」
「ここでできるクエストも少なくなったわけだしね。王都に残ってる、派手でそれなりに骨のあるクエストやりたくなっちゃって」
「またクエスト……。ほんっと、カリンって生粋のクエストマニアだよね……」
「そんなに褒められると照れるんだけど」
「褒めてないから! 呆れてるんだから!」
へらりと笑ったカリンの頬をノアは小さな手でぺちぺちと叩いた。
クエストの行き帰りには必ず店に訪れるカリン。だから、普段どのようなクエストにどのくらいの時間がかかるのか、全てランも把握していた、
今回程度のクエストならば、もう少し早く帰ってくると思っていたのだが、苦戦でもしたのだろうか?
カリンに限ってそんなことはないと思うが。少し理由は気になる。
ふとそんなことを思って尋ねたランに、ノアが「聞いてよー!」と話し出す。
「カリンったら、登山疲れた~とか途中から駄々こね出しちゃってさー。途中何回も何回も休憩するもんだから、いつもより時間かかっちゃったんだよねー」
「うるさい。いつでも飛んだり消えたりできるあんたと一緒にしないでくれる?」
「ひっどーい!! ランくん、カリンがいじめる~!」
泣き真似をしながら、ランの方へ飛んでいくノア。
自分の肩に掴まるノアを宥めるようにランは笑顔を向けた。
そんなノアに目もくれず、カリンは手に持っていたロッドをカウンターの上に置く。その他にも、使った装備類をカウンターに並べた。
「今日はこれお願いね」
カリンは、装備品のメンテナンスを全てランにお願いしている。
ランの技術は、他の鍛冶屋とは比べ物にならなかった。
早い段階から店を開いていて、様々な武器に触れたその経験も大きいかもしれないが、恐らくは持って生まれた気質。
ラン──藍琉の家は代々外科医の家系だ。そのため、手先は生まれながらに器用で、保育園児の時からロボットなどの機械をいじるのが趣味だった。
それが、この世界で鍛冶屋として生きていく中で、大きく生かされている。
その高い技術力は広く知られており、攻略チームに属している最高クラスのプレイヤーの中にも、〈Esperanza〉を贔屓にしている者は数多い。
だからこそ、ずっと黒字経営なのだ。
まぁ実際には、その大半をカリンが占めていたりする。
やはり、時々来る大口取引よりも、ほぼ毎日の小さな積み重ねは大きい。
置かれたロッドを手にしたランは、真剣な眼差しでそれを眺める。
ひとつ頷き、カリンを見て首を傾げた。
「剣はいいの?」
「あーうん。使ってないから大丈夫」
「了解。だから余計に時間かかったんだね」
「それもあるかも。やたら雑魚が多くてさ。ロッドじゃなくて、双剣で行けばよかったと途中から後悔したわぁ」
「あはは、たしかに。だったらもう数時間は早かったかもね」
カリンの背に担がれた、ロッドと同じ青と白を基調とした片手剣。
ロッドを使い、魔法を駆使して戦っていたカリンが剣を持っている理由。
それは、ジョブが魔法剣士だからだ。
ただし、普通の魔法剣士は、両手剣に火や水などの魔力を宿して戦う。
スキルなどが派手なため、見た目にはとてもかっこいいのだが、どちらかと言うと剣士に近く、魔力を制御しながら接近戦をするのはかなりの神経を使うため、あまり人気のないジョブだったりする。
そんな中、魔法剣士でありながら、魔法使いとしても剣士としても一人前以上に戦えるカリンは異質だった。
しかも、魔力を宿して双剣まで扱える。
様々な最高クラスのプレイヤーを見てきたランだが、実はカリンが誰よりも強いのではないかと思っていたりする。
彼女が攻略チームに加われば、そのスピードは間違いなく上がるだろう。
だが、本人にそんなことを言っても意味が無いのは、この場にいる者ならば重々承知していた。
「ねえねえ。今日はもう終わりでしょー? 美味しい物食べに行こー? ランくんも一緒にさー」
暇を持て余したのか、ノアが構ってくれとばかりにカリンの周りを飛び回る。
そんなノアを器用に掴み、カリンは呆れた表情をした。
「何言ってんのノア。さっきクエスト受けてきたじゃない」
「でもそれ、そんな時間かかんないでしょ? それにもう今日は外に行かないんでしょ?」
「まぁそれはそうだけど」
「じゃあほら! 早く終わらせて、報告がてらそのままレストランでご飯食べるとかどう?」
「って、ノアが言ってる。ラン」
「僕は構わないよ」
「やったー! ごっはん! ごっはん!」
嬉しそうに飛びまわるノア。
精霊のくせに、ノアは人間と同じようにご飯を食べる。
しかも、身体に似合わず、ランと同じくらいの量を食べるのだから驚きだ。
一体その手のひらサイズの小さな体のどこに入ってるんだか。
カリンは、近くのテーブル席に腰掛け、【未知の香辛料】を作るために使う素材を出していく。
思ったより量が多く、テーブルの上は素材でいっぱいになった。
ちょうど店の奥からでてきたランがお茶を出してくれたので、慌ててそのスペースだけ作った。
「それよりカリンさん。もう街から出ないなら、やっぱり全部預かろうか?」
「あー、そうね。じゃあお願い」
「おっけー。いつまでとか期限ある?」
「明日、お昼から王都に行こうかと思ってて。だからそれまででよろしく」
「これまた急だね。でもまぁお昼なら大丈夫かな。了解、任せて」
カリンは、装備していたものを全て解除し、所持アイテム画面からシャボン玉のような膜に入れて中空に出した。
それをランが触れて自分の所持アイテム欄に回収する。
現実世界ではありえないゲームらしい受け渡し方法に、初めは少し興奮したものだった。
今ではもう当たり前のように動く手に、この世界に染ってるなぁとしみじみ感じた。
またランが店の奥へと消えたところで、静かだったノアが時間差で叫んだ。
「ええええ!?!? 王都に行くの!? そんなの聞いてないよ!?」
「~っ! 耳元でうるさすぎ! 当たり前でしょ。さっき思いついたんだから」
「思いついたって。もー、思いつきで急にそんなのやめてよー!」
「ここでできるクエストも少なくなったわけだしね。王都に残ってる、派手でそれなりに骨のあるクエストやりたくなっちゃって」
「またクエスト……。ほんっと、カリンって生粋のクエストマニアだよね……」
「そんなに褒められると照れるんだけど」
「褒めてないから! 呆れてるんだから!」
へらりと笑ったカリンの頬をノアは小さな手でぺちぺちと叩いた。
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