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浅川 由梨花
記念日
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ああ、終わった。
緊張から解き放たれて力が抜けた。ソファにペタリと座り込む。
その隣に腰を下ろしたのは、夫になった人だ。
ついさっき、役所に届けを出して来た。
私は藤木由梨花になったんだ。
本当はもっと早く入籍するはずだった。でもあの事件で私は精神的ショックを受け、利光さんは事後処理に追われた。
ずるずると伸ばしていたが、小野寺弁護士のラブラブぶりを見て、利光さんも私も刺激を受けた。
私に限って言えば対抗心もあった。私はまだ「妻」になったことがなかった。美雪さんは非常に優秀な妻だったに違いない。それはあまり意味がないことは分かっていた。利光さんは前の奥さんと私が違うことは感じているだろう。
「似て非なる者」ではないのだ。だからこそ利光さんは私を愛してくれるのだろう。
(だけどさ)
小野寺先生たちも美雪さんのことを絶賛していた。そりゃあ気になる。
(今の奥さんは私なんだから)
なんとなくやさぐれた気分でいると、
「どうした、由梨花」
「あっ……」
耳元でささやかれて体の奥から溢れてくるものがある。
「う、うん。緊張したから疲れちゃった」
「そうか?でも由梨花は若いからな。もう体力的にはとても付いていけないよ」
(よく言うよ)
毎回のように私を抱き潰すのは、別の男ということか?」
「さてと」
「え、なに」
「今日の夕食は僕が作るよ。記念日だからね」
「記念日?なんの?」
「は?」
利光は呆れ果てた顔をする。
「結婚記念日だろ?」
そうだった。
「指輪も間に合わなかったし、花屋も閉まってたけど、今日が記念日」
「うん」
「私もやるよ」
「疲れてるんじゃないの」
「でもほら、夫婦として初めての共同作業」
「そうか。じゃ、何作る?」
「パスタにしようか」
「なら、カルボナーラ」
「オーケー」
利光さんが大鍋に湯を沸かし、わたしは平打ちのパスタを用意する。利光さんが熱湯に塩を入れ、麺を投入した。
「ベーコンを切ってフライパンで炒めておいて」
「了解」
ベーコンが香ばしくなった頃いったん火を止める。卵黄と生クリームとチーズを混ぜたソースも出来た。利光さんが湯切りをした麺をフライパンに移し、オリーブオイルと絡める。そこにクリームソースを加えていく。
「うーん、いい匂い」
「黒コショウ振って」
「はい」
我ながら見事な連携で、カルボナーラが完成した。二枚のさらに取り分ける。私はその間にレタスをちぎり、サラダを作っておいた。
二人で食卓まで運ぶ。
「利光さん、やっぱり料理上手いね」
「やもめ暮らしが長かったからな、それに……
私に向けられる視線を感じる。
「奥さんの体調が悪い時は作ってあげたいから」
この人は、これまでにいろいろなことを学んで来たんだな。
「私には何を作ってくれるの?」
「うーん、チョコレートパフェ」
「嫌いになりますよ」
「ごめん、まじめにおかゆを作るから、嫌いにならないで」
「はいはい」
「実は由梨花のお母さんにこっそり聞いたんだ」
「え、何を?」
「食欲がない時でも食べられるもの」
「そうなんだ……」
それは少しだけ出汁を入れたおかゆだった。そこにタラコのふりかけをパラっと振る。
「もちろん食べさせてくれるんだよね」
「あーん、て?」
想像して大笑いした。
「ま、とりあえずカルボナーラを食べよう」
「バゲットも焼けたよ」
「いただきます」
顔を見合わせて同時に言った。
「おいしい」
「私、臆病だからなかなか冒険できなくて。このアルデンテが上手くいかないんだよなあ」
「フライパンでソースに絡める時は、少し茹で時間を短くするんだよ」
「そっか、そうだよね」
「これからは、どんどん作るよ」
利光さんは笑いながら言った。
「だって、食べてくれる人がいるんだから」
「楽しみだなあ」
「でも、デザートは用意してね、奥さん」
「何がいい?」
「ん、デザートは奥さんだよ。たっぷり味合わせてもらうから覚悟してね」
「え?」
「そんなに怯えるなよ」
だって、凄いんだもん……
「由梨花」
「はい、あ、な、た」
ベッドの中でしばらくじゃれ合う。少し油断していると、バックハグから、乳首をクリクリする。
「ああん」
思わず背筋を反らすと背骨に沿ってキス。
「恥ずかしい」
緊張から解き放たれて力が抜けた。ソファにペタリと座り込む。
その隣に腰を下ろしたのは、夫になった人だ。
ついさっき、役所に届けを出して来た。
私は藤木由梨花になったんだ。
本当はもっと早く入籍するはずだった。でもあの事件で私は精神的ショックを受け、利光さんは事後処理に追われた。
ずるずると伸ばしていたが、小野寺弁護士のラブラブぶりを見て、利光さんも私も刺激を受けた。
私に限って言えば対抗心もあった。私はまだ「妻」になったことがなかった。美雪さんは非常に優秀な妻だったに違いない。それはあまり意味がないことは分かっていた。利光さんは前の奥さんと私が違うことは感じているだろう。
「似て非なる者」ではないのだ。だからこそ利光さんは私を愛してくれるのだろう。
(だけどさ)
小野寺先生たちも美雪さんのことを絶賛していた。そりゃあ気になる。
(今の奥さんは私なんだから)
なんとなくやさぐれた気分でいると、
「どうした、由梨花」
「あっ……」
耳元でささやかれて体の奥から溢れてくるものがある。
「う、うん。緊張したから疲れちゃった」
「そうか?でも由梨花は若いからな。もう体力的にはとても付いていけないよ」
(よく言うよ)
毎回のように私を抱き潰すのは、別の男ということか?」
「さてと」
「え、なに」
「今日の夕食は僕が作るよ。記念日だからね」
「記念日?なんの?」
「は?」
利光は呆れ果てた顔をする。
「結婚記念日だろ?」
そうだった。
「指輪も間に合わなかったし、花屋も閉まってたけど、今日が記念日」
「うん」
「私もやるよ」
「疲れてるんじゃないの」
「でもほら、夫婦として初めての共同作業」
「そうか。じゃ、何作る?」
「パスタにしようか」
「なら、カルボナーラ」
「オーケー」
利光さんが大鍋に湯を沸かし、わたしは平打ちのパスタを用意する。利光さんが熱湯に塩を入れ、麺を投入した。
「ベーコンを切ってフライパンで炒めておいて」
「了解」
ベーコンが香ばしくなった頃いったん火を止める。卵黄と生クリームとチーズを混ぜたソースも出来た。利光さんが湯切りをした麺をフライパンに移し、オリーブオイルと絡める。そこにクリームソースを加えていく。
「うーん、いい匂い」
「黒コショウ振って」
「はい」
我ながら見事な連携で、カルボナーラが完成した。二枚のさらに取り分ける。私はその間にレタスをちぎり、サラダを作っておいた。
二人で食卓まで運ぶ。
「利光さん、やっぱり料理上手いね」
「やもめ暮らしが長かったからな、それに……
私に向けられる視線を感じる。
「奥さんの体調が悪い時は作ってあげたいから」
この人は、これまでにいろいろなことを学んで来たんだな。
「私には何を作ってくれるの?」
「うーん、チョコレートパフェ」
「嫌いになりますよ」
「ごめん、まじめにおかゆを作るから、嫌いにならないで」
「はいはい」
「実は由梨花のお母さんにこっそり聞いたんだ」
「え、何を?」
「食欲がない時でも食べられるもの」
「そうなんだ……」
それは少しだけ出汁を入れたおかゆだった。そこにタラコのふりかけをパラっと振る。
「もちろん食べさせてくれるんだよね」
「あーん、て?」
想像して大笑いした。
「ま、とりあえずカルボナーラを食べよう」
「バゲットも焼けたよ」
「いただきます」
顔を見合わせて同時に言った。
「おいしい」
「私、臆病だからなかなか冒険できなくて。このアルデンテが上手くいかないんだよなあ」
「フライパンでソースに絡める時は、少し茹で時間を短くするんだよ」
「そっか、そうだよね」
「これからは、どんどん作るよ」
利光さんは笑いながら言った。
「だって、食べてくれる人がいるんだから」
「楽しみだなあ」
「でも、デザートは用意してね、奥さん」
「何がいい?」
「ん、デザートは奥さんだよ。たっぷり味合わせてもらうから覚悟してね」
「え?」
「そんなに怯えるなよ」
だって、凄いんだもん……
「由梨花」
「はい、あ、な、た」
ベッドの中でしばらくじゃれ合う。少し油断していると、バックハグから、乳首をクリクリする。
「ああん」
思わず背筋を反らすと背骨に沿ってキス。
「恥ずかしい」
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