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「こうなってしまっては仕方がないわね」
義母と白竜、ガイと私は今宵の客の好奇な目から逃れるように別室に移動した。胸が苦しくて息が出来ない。ソファに座るとガイが心配して水を渡してくれた。二人の魔力が反応して光っていたという首の鱗も今はもう落ち着いたのか光っていなかった。
「仕方ないとは?」
義母の声に言葉を返したガイの声色も少し揺れている。平静を装っていてもガイも動揺している。
「メイジーと貴方は『運命の番』よ。申し訳ないけれどルネさんとは別れてメイジーさんと結婚するべきだわ。ルネさんには私からも慰謝料を用意します。子供たちはそうねぇ、メイジーさんが良いならカルカだけ引き取ってあげたらどうかしら」
「ま、待ってください……」
子どもの話を聞いて声を上げると冷ややかな目で義母に制された。
「結婚したときにこうなることはじっくりとお話したはずですよ? 竜には『運命の番』というものがあるのですからね。貴方のような下等種と違って」
「母さん、黙っててくれないか。俺もそのことはしっかりと考えてルネと結婚した。メイジーさんといいましたか。俺にはもう家族がいる。貴方と結婚することはありません」
「ガイ様。貴方はお優しい方なのですね。私がもっと早くに生まれていれば貴方の家庭を壊すことはありませんでしたのに。奥様には本当に申し訳ない思いです。お子様もおられるのですから」
「メイジー様は十八歳で今年成人されたのよ。だから今までお相手を探しておらずに貴方と巡り合うことが出来なかったのだわ。本当にルネさんが御気の毒だわ。こんなことになるなんて」
「母さん、だから、俺はルネと子どもたちと別れることはない!」
「あんなに大勢の前で『運命の番』との出会いを見られているのよ? 竜種の次世代の為にそのうち王からも助言が来るわ。本来の運命に従って番う相手を正しなさいとね。それだけ竜種は貴重なのよ? もしかしたらメイジー様と貴方の間になら王となる『黄金の竜』だって生まれるかもしれないもの」
「……」
次代の黄金竜がいない今、ガイが運命の番と子を為すことは義務に近いだろう。もともと『運命の番』から黄金竜が産まれることが多いのだから。王も世襲制ではない。魔力がずば抜けて多く、国中に結界を張れるのは黄金竜だけ。数人産まれていた過去ならいざ知らず黄金竜で生まれたものは次代の王であることは確約だった。
私を支えてくれているガイの手が離れていってしまうなんて想像するだけで気が遠くなる。胸が苦しい。ガイが私と別れないと言ってくれたとしても、世間がそれを許すだろうか。子どもたちはどうなる? 考えれば考えるほど息が苦しくなった。
「ルネ、大丈夫か?」
ガイに心配かけたくないのに苦しくて、どうにもならない。混乱しているのはガイも同じなのに。
「奥様、お辛そうですね……私は日を改めても構いませんよ。今までのご生活もあったでしょうし」
「まあ、なんてメイジー様は寛大なのかしら! ではガイ、その女を連れて帰って離婚の話し合いをしてきなさい。貴方がなんと言おうと……『運命の番』とは抗えないものなのよ?」
「……」
ガイに抱き上げられて体がふわりと浮いた。もう、恥ずかしいとも何も考えられなかった。
「ルネ……大丈夫だ」
ガイの声も暗い。
今朝まではこの世の誰よりも幸せだと胸を張って言えたのに……。
「泣かないで、ルネ……」
情けないけれどガイに縋るしか出来ない。
どうしてこんなことが起きてしまうのだろう。『運命の番』なんて、それこそ何十年もの間、現れていないというのに。
ガイを困らせたくないのに頬を伝う涙は止まってはくれなかった。
義母と白竜、ガイと私は今宵の客の好奇な目から逃れるように別室に移動した。胸が苦しくて息が出来ない。ソファに座るとガイが心配して水を渡してくれた。二人の魔力が反応して光っていたという首の鱗も今はもう落ち着いたのか光っていなかった。
「仕方ないとは?」
義母の声に言葉を返したガイの声色も少し揺れている。平静を装っていてもガイも動揺している。
「メイジーと貴方は『運命の番』よ。申し訳ないけれどルネさんとは別れてメイジーさんと結婚するべきだわ。ルネさんには私からも慰謝料を用意します。子供たちはそうねぇ、メイジーさんが良いならカルカだけ引き取ってあげたらどうかしら」
「ま、待ってください……」
子どもの話を聞いて声を上げると冷ややかな目で義母に制された。
「結婚したときにこうなることはじっくりとお話したはずですよ? 竜には『運命の番』というものがあるのですからね。貴方のような下等種と違って」
「母さん、黙っててくれないか。俺もそのことはしっかりと考えてルネと結婚した。メイジーさんといいましたか。俺にはもう家族がいる。貴方と結婚することはありません」
「ガイ様。貴方はお優しい方なのですね。私がもっと早くに生まれていれば貴方の家庭を壊すことはありませんでしたのに。奥様には本当に申し訳ない思いです。お子様もおられるのですから」
「メイジー様は十八歳で今年成人されたのよ。だから今までお相手を探しておらずに貴方と巡り合うことが出来なかったのだわ。本当にルネさんが御気の毒だわ。こんなことになるなんて」
「母さん、だから、俺はルネと子どもたちと別れることはない!」
「あんなに大勢の前で『運命の番』との出会いを見られているのよ? 竜種の次世代の為にそのうち王からも助言が来るわ。本来の運命に従って番う相手を正しなさいとね。それだけ竜種は貴重なのよ? もしかしたらメイジー様と貴方の間になら王となる『黄金の竜』だって生まれるかもしれないもの」
「……」
次代の黄金竜がいない今、ガイが運命の番と子を為すことは義務に近いだろう。もともと『運命の番』から黄金竜が産まれることが多いのだから。王も世襲制ではない。魔力がずば抜けて多く、国中に結界を張れるのは黄金竜だけ。数人産まれていた過去ならいざ知らず黄金竜で生まれたものは次代の王であることは確約だった。
私を支えてくれているガイの手が離れていってしまうなんて想像するだけで気が遠くなる。胸が苦しい。ガイが私と別れないと言ってくれたとしても、世間がそれを許すだろうか。子どもたちはどうなる? 考えれば考えるほど息が苦しくなった。
「ルネ、大丈夫か?」
ガイに心配かけたくないのに苦しくて、どうにもならない。混乱しているのはガイも同じなのに。
「奥様、お辛そうですね……私は日を改めても構いませんよ。今までのご生活もあったでしょうし」
「まあ、なんてメイジー様は寛大なのかしら! ではガイ、その女を連れて帰って離婚の話し合いをしてきなさい。貴方がなんと言おうと……『運命の番』とは抗えないものなのよ?」
「……」
ガイに抱き上げられて体がふわりと浮いた。もう、恥ずかしいとも何も考えられなかった。
「ルネ……大丈夫だ」
ガイの声も暗い。
今朝まではこの世の誰よりも幸せだと胸を張って言えたのに……。
「泣かないで、ルネ……」
情けないけれどガイに縋るしか出来ない。
どうしてこんなことが起きてしまうのだろう。『運命の番』なんて、それこそ何十年もの間、現れていないというのに。
ガイを困らせたくないのに頬を伝う涙は止まってはくれなかった。
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