宿命の番

竹輪

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 その日義母の誕生日パーティは聞いていた通り夕方から行われた。ガイは職場に呼び出されていたので義母の屋敷で合流することになっていた。

「おばあさまは、ぼくたちがきらいなんだよ」

「そうじゃないわ、カルカ。今日のお誕生日会は夕方からになってしまったの。お婆様にはまた今度、お昼に会いに行きましょうね」

「きょう、たんじょうびなのに?」

 朝、義母に子どもたちを会わせようとしたが『忙しいから』の一点張りで義母は会ってくれなかった。いつもならしつこく『お祝いに来い』と言ってくるのに何か機嫌を損ねることをしただろうか。私は無理でも、何とか子どもたちにはお互い良い関係を持って欲しいと、誕生日に顔を見せに行ったりしていたが、義母が子どもたちを可愛がる様子もなく、ミンミを無視するので子どもたちも何か察するようになってきてしまっていた。現にカルカはこうやって突っかかるようになるし、ミンミはじっと黙ったままである。

「今日はお忙しかったのよ。貴方たちの描いてくれたプレゼントはちゃんと渡すから安心して」

「おばあさまのところへいかないで」

 ずっと黙っていたミンミが私のドレスを掴んだ。

「そうだよ、いじわるなおばあさまのところなんて、いかないで」

 もう出かけないといけないのに、子どもたちが泣き始めてしまった。ぬいぐるみを引きずりながらぐずる双子をテリに預けて家を出るのは正直胸が痛んだ。昨年までは日中に行われていたので子供たちも参加させていたがどうしたのだろう。仕方ないので子供たちにはお手紙を書かせた。三歳になる双子には『おばあさま、おたんじょうびおめでとうございます』と書いただけで精一杯だけれど気持ちは伝わる筈だと思う。

「なんだか今年は大規模だな」

 義母の屋敷に着くとガイと合流出来てホッとする。私が一人にならないように少し早くから待っていてくれていたようで、そんな心遣いが嬉しかった。
 門のところから派手に飾りつけがされていて、いつもより大掛かりなパーティで有るのが見て取れた。招待客も多いようでテラスが明け放されてガーデンパーティになっていた。義母は今年で五十一になる。節目としたら去年の方が盛大になるようにも思えるが義母なりに事情があるのだろうか。

「まあ、それより、ルネ。今日の君も最高にきれいだ」

 腕を組む私にガイが優し気に微笑んだ。今日はガイも正装していて一層素敵に見える。紺のタキシードが似合っていた。

「ガイの方こそ素敵です」

 私がそう言うとガイが頭のてっぺんにキスをしてきた。種は違うけれどガイとお揃いの黒髪は気に入っている。相変わらず髪型はずっとショートカット。今日のヘッドドレスは花がついたものを用意した。ドレスは動くとキラキラと光る生地の水色のドレスで同じ生地のチーフをガイのポケットに刺していた。

 まもなく音楽が鳴りだした。テラスを見ると義母が登場したようで主役のお出ましに皆そちらに注目した。

「こちらをどうぞ」

 ウエイターがピンクのシャンパンを配りだす。ガイが受け取り私に渡そうとするとウエイターが慌てて私にも渡してきた。

「初めからルネから渡せばいいんだ」

 パーティのウエイターすら中位種なので例えこういう場合はレディーファーストでも私に真っ先に渡すわけがないのだ。まあまあ、とガイをなだめてシャンパンを持った。

「お集りの皆様方、今日は私の誕生日に出席してくださって感謝いたします」

 今日も黒のドレスを纏った義母がそう言ってシャンパンを掲げた。それを合図に皆口々にお祝いの言葉を贈っていた。今日は特に竜種が集まって参加していた。竜種は多くが王家の家系から別れる。それも有って義母のパーティには上位種が集まる。義母は竜種を産んだことで竜種の中での地位は上にあるという。プライドが高いのはその辺も起因しているのかもしれない。

「俺たちも行くか」

「はい。お義母様、プレゼントを喜んでくださるかしら」

 ガイが持つ箱にはオルゴールと子どもたちの手紙が入っている。

「ルネが選んだんだ。大丈夫だ」

 初めて贈り物をしたとき、叩き落とされたことがあるのでそれ以来はガイに渡してもらうようにしていた。今年こそは喜んでもらえれば嬉しい。

「……なにか、騒がしいな」

 ガイの声で辺りを見回すと皆が注目するところに今日の主役となる義母と真っ白のドレスを纏った美しい人が立っていた。

『白竜だ……』『なんて美しい』などの声があちこちから聞こえた。気づけば随分近くまで来ていた。

 銀色のフワフワしたウェーブのかかった髪。透き通るような白い肌。瞳はピンクと黒が混じる竜独特の瞳をしていた。

 ドテリ……

 横から音がして、見るとガイが手にしていた箱を落としていた。

「ガイ?」

 青い顔をしてガイが首を押さえている。

「ガイ……様?」

 鈴の鳴るような可愛い声だった。白竜と言われた美しい人がガイに近づく。

 止めて。

 来ないで。

 その時私の心臓は早鐘のように胸を打っていた。

 その美しい白竜の女性の首元の鱗が光っている。

「まさか……」

 ガイはずっと首元を手で押さえている。

「まあ!! 『運命の番』だわ!」

 会場に響き渡るような大きな声で義母がそう、叫んだ。

 ――運命?

「そうなんでしょう? ガイ、『運命の番』にあって全身が喜び、体が震えているんでしょう!? 身体の魔力が反応するって聞いたわ! ほら、貴方の首元の鱗も光っているわ!」

 義母の弾んだ声が聞こえた。包帯越しにもガイの首元が光っているのが見て取れる。

「ガイ様。私、嬉しいです」

 当然のように白竜がガイに近づいた。白竜の首の鱗も光っていた。これが『運命の番』なら私はどうしたらいいのだろうか。

 目の前で一組の運命の番が出会っている。

 その互いの首元の鱗を輝かして。

 私はその奇跡の瞬間を絶望としかいえない気持ちでただ、息を呑んで見ていた。
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