宿命の番

竹輪

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 屋敷での生活は快適だった。

 出される食事は美味しいし、愛するガイは双子を可愛がってくれた。乳母のテリも子供たちを平等に見てくれるし、私にもとても優しい。

 正直、妊娠してからずっと休めなかった体も癒してもらって助かった。特に出産後の双子の世話は手が足りなくて大変だったからだ。

「書類は先に出しておきたい」

 ガイはそう言って迷うことなく私と婚姻届けを出した。

「ガイのご両親にご挨拶しなくてよかったのですか?」

「俺の方はおいおい……な。ルネのご両親には挨拶しないと」

「……うちは、田舎だし、放任主義だから大丈夫です」

 ガイがうちの家に挨拶なんて言ったら大騒ぎだろう。想像すると笑ってしまいそうだ。でも
 竜種と結婚という事はいつか別れるかもしれないという事だから、いくらお気楽なうちの両親でもきっとガイとの結婚は反対されるだろう。両親は小さいころから私に『自分に見合った種との結婚が一番幸せ』と言っていたくらいだから。

 同じように考えるとガイが私を家族に紹介しないのに意見など出来ない。きっとガイのご両親も猫種の嫁など要らないだろう。

「あのな、ルネ。俺の両親は俺が産まれてすぐ離婚している。元々愛なんて無かったんだ。竜種の子供さえできれば。貴族の結婚はしがらみが多い。父は母と別れて愛する人と結婚した。竜種でありプライドの高い母は今も一人で孫に黄金竜が出来ることを夢見ている。父を見返すにはそれしかないと本気で思っている可哀想な人だ」

「離婚されていたのですか。では、お母様はお独りで?」

「ああ。ここから離れた屋敷に一人で住んでいる。はっきり言ってルネの事はよく思っていないから会って欲しくない」

「ですが、子供たちには会いたいのでは?」

「はあ。竜種が産まれたと聞いて黒竜だと知ってがっかりした人だぞ。多分、ルネが思っているよりずっと扱いづらい」

「では、猫種のミンミは」

「もっての他だろう」

「そう、ですか」

「とにかく、母には関わらない方が良い」

 ガイはそう言って黙った。そこには複雑な思いがあるのではないかと察することが出来た。




「テリさん。ガイのお母様はどんな方なの?」

 ガイには聞けそうになかったので次の日に私はテリさんに尋ねた。

「大奥様……イザベラ様は可哀想な方です」

「可哀想?」

「坊ちゃまが大奥様をルネ様から遠ざけるのは仕方ない事ですが、愛する人に嫌われて、一人ぼっちで暮らしているのです」

「嫌われて?」

「イザベラ様は本当は坊ちゃまの父親であるアルカ様を愛しておられました。アルカ様は中位種でしたから素直になれずに酷い態度や言葉も投げつけてしまっておられましたからまあ、離婚されるのは仕方なかったのでしょうけれど」

「酷い態度に言葉……」

「中位種の愛していた夫でさえそれですから、坊ちゃまがルネ様を遠ざけるのは当たり前です。けれど、貴族の女性に生まれるのは色々と不幸なのです。生まれながら婚約者がいるのは男女とも同じことですが女性は子供が生める身体だと判断された年から子作りが強要され、子を産むまでは自由が得られませんから」

「それは……」

「女性の方が自分の種の子を産む可能性が高いですからね。ルネ様がカルカ様をお産みになったのは奇跡です」

 魔力の強いものを増やすというのが国の方針で貴族はそれに従わざる得ないのだろう。私やケイさんは男性側の種を産んだが一般的には母親の種を受け継ぐことの方が普通だ。竜族を増やしたい国の圧力はきっと竜種のガイの母親を追い詰めたことだろう。今回、私がガイと結婚できたのもカルカを産んだお陰だ。婚約者云々の話だけでなく、ミンミだけなら結婚は叶わなかっただろう。

 ――この世に魔力などなければもう少し生きやすいのに。

 上位種は保護(治癒)魔法、攻撃魔法と別れるがどちらかの魔法を持って生まれる。どちらも魔獣と闘うためには必要な魔法だから貴重だ。しかし、元々魔力などなければ魔獣さえ生まれていなかったのかもしれない。

「ふう……」

 王都に来て貴族の生活を詳しく知ることになった。正直、貴族がここまで大変だったなんて分かっていなかった。カルカとミンミの将来を思うと気が重い。特にカルカは竜種として大変だろう。ずっと上位種は魔力があってお金も持っていてただ裕福な暮らしをしているのだと思っていた。けれど、魔獣と闘うためにこんなに犠牲を払っているなら上位種が気楽に生きている下位種を疎ましく思っても仕方がない気もする。いつだってガイの身体には生傷が絶えないし、王である黄金竜は王都に魔獣が出ないように都一帯にずっと結界を張っているそうだ。どれも王都に来なければ知らず暮らしていたような情報だった。

「ケイさん、元気かな」

 屋敷の窓から外を眺めた。ケイさんも今はロイド様と結婚して王都に住んでいる筈だ。同じように子どもたちの未来を憂いているのかもしれない。
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