宿命の番

竹輪

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「流石に竜種を産んだとなると隠し切れないよ。竜種の赤んぼなんて初めて見た」

 驚きのあまり声を上げた産婆さんが落ち着いてから私とケイさんに言った。 

「……どうしよう」  

 まだ小さな我が子は可愛いが大問題だった。まさかこんなことになるなんて。虎種なら何とかまだ猫だと誤魔化しが効いても、竜種じゃすぐバレてしまうだろう。

「と、とにかくルネが今日生んだのは猫種だってことにしておいてくれませんか? ちゃんと後の事は二人で考えますから」

 今度はケイさんが産婆さんに交渉してくれて『絶対に迷惑かけないでくれ』という産婆さんにまたお金を包んで渡した。何度も何か言いたげな様子だったがため息をついて産婆さんは帰っていった。

「あのね、ルネは子供を連れて王都へ行ったらどうかな。流石に自分の子を産んだ女を団長は邪険に扱ったりしないと思うよ」

「うん……」

「竜種は特別だから育て方も違うだろうから……」

「うん……」

「男の子の方は竜種だから、その、きつい事言うけど、きっと引き取られて終わりだと思う。でも女の子の方は猫種だから団長に頼めばルネのところに残してくれるよ」

「……」

 ケイさんのいう事はもっともだったけれど、二人とも可愛い私にはつらい決断だ。両方虎種を産んでしまったケイさんもこんなことを私に言うのは辛かっただろう。
 どちらもお腹を痛めた私の可愛い子ども。けれど男の子の方は背中に羽のようなものも見えてどうしたらいいのか見当もつかなかった。
 もう少しだけ、もう少しだけ一緒に居たい。そう思ってずるずると過ごしているうちにまた数か月たってしまった。





「じゃあ、王都に向かうね。ケイさん、戻ってきたらまた一緒に住んでいい?」

 いよいよ竜種の息子の扱いが分からなくなってしまい、私は王都のガイ様を訪ねることにした。勝手に子供を産んだりして今更会いに行くなんてどう思われるのか怖いが仕方ない。

「当たり前じゃない! 待ってるよ、ルネ。一緒に行けなくてごめん」

「ミンミをよろしくお願いします。さ、カルカお母さんと行こうね」

 私は子供たちに名前を付けた。男の子にカルカ。女の子にミンミ。そして色々考えて、猫種のミンミはケイさんに預けてカルカだけガイ様のところに頼ることにした。最悪猫種であるミンミを連れて行けば処分されることも考えられたからだ。

 強くならないと。もう私はお母さんだから。

 ケイさんと別れて王都行きの乗合馬車を待った。スリングの中のカルカはスヤスヤと眠っていた。ベンチに座って私もウトウトとしていたときに、声をかけられた。

「どこへ行く気だ?」

「え?」

 後ろから声をかけられて酷く動揺した。それはずっと恋焦がれていた声だったからだ。

「……ガイ様」

 振り向くとずっと会いたかった人が立っていた。その胸には黒猫の我が子を抱いていた。

「ど、どうして?」

 ガイ様は私を観察するかのようにじっと見つめている。

「これは俺の子だよな?」

「……」

 慌てて立ち上がってその姿を眺めた。もう一年も会っていなかったガイ様がそこに立っている。漆黒の髪が伸びて後ろで結わえられていたがいつも思い描いていた姿はそのままだった。

 美しい黒竜。

 しかし、その姿をうっとりと眺めている場合では無かった。スリングの中のカルカが動いて私は我に返った。ミンミがガイ様の腕の中にいる。勝手に子供を産んだ私をガイ様がどうするかなんて考えつかなくて今更ながら恐ろしくなった。

「で、どこへ行く気だ?」

「王都へ行って、ガイ様に会えないかと思って」 

「子供を置いてか?」

「……その子は猫種ですが私の大事な娘です。どうか、私から奪わないで頂けないでしょうか」

「ルネ、何を言ってる? この子を置いて王都に行こうとしているのはルネの方だろう?」

 その時、異変に気付いたのかスリングの中のカルカが大声で鳴き声を上げてしまった。

 あああああん、あああああん

「ルネ? まさか、もう一人産んだのか?」

 私のスリングに気づいてガイ様がそれを覗いた。カルカを見てガイ様は驚いて息を呑んでいた。

「双子を産みました。男の子の方は竜種だったのです。ガイ様、出来れば私は子供たちと離れたくありません。お願いです。ガイ様のお屋敷の隅にでも置いてくれませんか? カルカを眺めるだけでもいいのです。もちろん、私とミンミは無いものとして暮らしていただいて構いませんから」

「竜種……俺と同じ黒竜……」

「ダメでしょうか……」

「ルネ、結婚だ! 結婚しよう!」

「え?」

「これで問題解決だ。ああ、ルネ! 奇跡だ! 俺はなんて幸運なんだ! しかし、ルネの事は暫く黙っておかないと母が……」

「あの……?」

「遠征中に何度も手紙を出したのに返信がなかったから不安だったのだが、その、ルネは俺の事を今でも思ってくれていると思っていいか? そこにまだ俺の鱗の魔力を感じる。持っていてくれているんだろう?」

 ガイ様が私の胸を指さした。もちろん私の胸にはガイ様の鱗を付けたネックレスが有った。無意識にギュッと服の上からそれを握った。それよりも手紙と言った?

「手紙、出してくれていたのですか?」

「返信がないのでロイドに無理矢理ケイにルネのことを聞く様に手紙に書いてもらったくらいだ。遠征から戻ってきたらルネはいなくなっているし行く先もわからない。探知魔法を使ってやっと探し当てた」

「……手紙は届いていません」

 しかもロイド様に見つかりたくないケイさんも生存確認くらいにしか返事をしていなかった。

「え?」

「それで、探して、くれたのですか?」

「そうだ、探知できなかったら諦めようと思った。けれど、ルネは俺の鱗を持っていてくれた。それだけが俺の希望だった。持っていてくれるなら、嫌われていないと。とにかく、行き違いがある様だ。ルネが住んでいた家に行こう。ちゃんと話をしたい」

「わかりました」

 ガイ様は私が思っていたような様子では無かった。それに、聞き間違いでなければ『結婚しよう』と言われたのだ。とにかく話をしなければならないとミンミを抱きながら私の荷物を奪っていったガイ様の後ろをついて歩いた。
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