そこに愛はあるか

竹輪

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本編

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「ひとの妻に手を出そうなんて、それでも貴方、気高きエルフ族なのですか!?」

 ロイは背筋も凍る低い声色でそうブレアに詰め寄った。てか、つ、つ、妻ですか?!

「騙されてるんだろう!?お、俺は確かめてやろうとしただけだ!」

「ふうん。当然、貴方の「ラナ様」にもご報告してよろしいんですね?」

「ええ!?いや、それは……」

「私は帰りません。ええ、帰るものですか。「唯一の番」がここにいるのに!」

「「え……」」

「ロイ……、ダメだよ、ロイはワームの毒に犯されてるだけなんだ!後遺症で俺なんかとしなくちゃいけなくなっただけなんだ!大丈夫、治れば、毒無くなれば、元に戻れるから!」

「スウ……」

「ごめん、ロイ、この人の言う通りなんだ! 俺、お前のこと誑かしてたんだ。ほんとは一生毒なんて抜けなきゃいいのにって思ってるような酷いやつなんだ。だから、責任なんて取らなくって良い、負い目を感じることないんだ! ロイ、言ってたじゃないか。エルフが家族を持つのは奇跡で……でもその奇跡を皆待ち望んで死んでいくって。奇跡みたいなチャンスを逃しちゃダメだ!」

「……」

 ほんと、悪い。俺、女になってからおかしいんだ。ロイと一緒にいたいってのも、打算がないとはいえない。こんな体になって、不安で仕方がないんだ。やっとハンターになれて、パートナーに恵まれて……俺にも出来ることが有るって思えてたのにこんな体になっちゃって……。ロイを困らすつもりは無かったんだ。

「毒も相手が見つかったらその相手と解毒すればいい。エルフのお嫁さんが出来るなら、最高だろ?」

「スウ……。そしたら貴方はどうするつもりなのですか?」

「お、俺は、薬屋つづけて男に戻れるのを待つさ!!ワーム退治の旅に出てもいいし!」

「もう、男に戻れないのに?」

「へ!?」

 まさか、ロイ……知ってたのか?

「あのワームはもう死にました。……私が先日仕留めました」

「ど、どういうこと……」

「スウを自分の物にしても不安だったんです。貴方がワームを退治しに行くと言い出すのが怖くて」

「自分の……?」

「スウ、私の方がずっとズルくて酷い男です。魔物に女性にされたスウに同情することもなく、歓喜し、貴方が逃げられないように囲った。貴方が男に戻れなくなるのを知りながら、貴方を抱いた」

「え……」

「スウ、私は貴方が私の元を去ってしまうのが怖かった……」

「ロ、ロイ……?」

「愛してます。スウ……でも、私も貴方の傍にいれる資格は無いんです」

「知ってたって……。俺、戻れなかったら、ハンターやめないといけないし……ロイのパートナーできない……。え、え?!愛してるって……それは、だって……」

「スウ……」

 ロイが苦しそうに俺を見つめていた。でも俺の頭ン中はパニックで……。

「スウ!!」

 訳が分かんなくなって、情けなくその場から逃げだすことしかできなかった。

 ***

 とにかく一人になりたかった俺は家には戻らず、森の物置小屋に来ていた。

 だってさ、なんか、もうわけわかんないだろ……。

 ワームに女にされたのは……これは仕方ない。で、ワームに咬まれたロイ……これも偶然だ。まあ、俺の代わりに咬まれたわけだが。

 で、ロイには治療が必要で……。

 そうこうしてるうちにあんなことに……でも、待てよ。ロイは毒が回ってたけど、俺は素面だったよな。

 その提案にのったのは俺だよな。むしろお願いしたい思いだった。

 ……。

 ……。

 なんだ、やっぱり悪いのは俺じゃないか。まあ、する前に一言言ってくれてたら事態は違ってたかもしれないが……違ってたかな……。俺、正直……ロイの嫁にしてもらいたい。ずっと一緒にいたい。毎朝してくれるみたいにこれからも「ぎゅ」ってしてもらいたいし、美味しいよって言ってもらいながら食事したい。薬のことも相談したいし、ボーとしながらお互い無言で本も読みたい。俺は今まであんなに幸せなセックスもしたこともない。誰かの懐に入れてもらったこともない。まるで、宝物のように扱われたこともない。

 もう、なんだよ。目から塩水止まんねえし。

 やべえ。

 ロイが好きだって事しか考えられない。

 ロイは俺のこと「妻」だって……。

 エルフの里には行かないって……。

 唯一の番だって……。

 このまま、俺が戻んなかったらエルフの里に行くのかな。「傍にいれる資格がない」って言ってたし。その方が絶対幸せだよな……でもロイが他の人とセックスしたり、愛してるって言ったり……ダメだ想像するだけで胸糞悪い。

 ちゃんと、話し合ってみよう。

 うん、そうしよう。

 袖口で、涙と鼻水を無理やり拭いて立ち上がる。さて、とドアを開けようとしたらドアが開いた。

 あれ?

「なんだあ?てめえ?」

 目の前にはおおよそ五人ほどの人相の悪い男たちが麻袋を抱えて立っていた。

 ……あ、これ、やべえ展開だ。
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