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何度だって諦めてあげない12
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社長秘書として忙しくて動けないのもあったけれど、千沙さんを捜すのはプロに頼むことにした。本当は孝也さんにも聞こうかと思ったが、僕は前に『クズ』と言い切ってからは連絡先を消していた。
それにあの時『千沙のこと頼む』なんて言っていた孝也さんは後悔するに決まっていた。細井さんの評判はとてもじゃないけどいいものじゃなかったし、子どもができたって、千沙さんよりいい嫁なんているわけがない。それに今まで経済的にもおんぶで抱っこだった孝也さんは千沙さんが恋しくなると踏んでいた。そんな孝也さんに僕と千沙さんの関係を悟られたくない。それに千沙さんが僕の子を身籠っていたとしたら、僕は身を引くつもりはない。もはや孝也さんはライバルなのだ。
とはいえ孝也さんは千沙さんと結婚していたし、多くの情報を持っているに違いなかった。きっと千沙さんを捜して復縁を迫る。そう思って孝也さんの周りにも注意してもらえるように頼んでいた。
優秀な千沙さんはそれはそれは綺麗に雲隠れしてくれていた。ゆかりのある土地にはいないようだし、生活するのに仕事をしているだろうに、同業では見つからない。ただ、産婦人科を訪れていたことと、彼女の母親が『シングルマザーになってみっともない』と言っていたとの情報が入った。
千沙さんはやっぱり、子どもを身籠っている。
僕の子だ。絶対……。
そう確信すると、絶対にあきらめないと心に誓った。
そうして千沙さんが見つからないまま時間だけ過ぎた。
彼女は一人で産んで、一人で育てようとしている。
僕は彼女を捜すことに躍起になっていて、彼女を理解することをおろそかにしていた。
***
――鹿島孝也が最近どこかに出かけています。
そう、連絡が入った。孝也さんは千沙さんを見つけたのかもしれない。彼のところは細井さんが出産したと聞いたが、どうやら孝也さんの子どもではなかったようだ。今は揉めに揉めているらしい。やっぱり、孝也さんは後悔することになった。
これはますます千沙さんを捜すに違いない。ところが孝也さんが突き止めた千沙さんの居場所は一日にしてもぬけの殻になったらしい。たったの一日だ。千沙さん……仕事が早すぎる。DV夫に見つかって逃げたらしいと近所で噂になっていたようで、孝也さんもそれ以上は千沙さんに接触できなかったようだ。ただ、収穫もあった。確実に千沙さんは妊娠していた。
あの時の子だとするともう出産も近い。産院の通える範囲に絞って千沙さんを捜すことにしたが、そこは孝也さんにバレないように慎重にしないといけなかった。なんと細井さんまで千沙さんのことを探っているようなのだ。なんとなく、彼女は千沙さんに危害を加えそうで怖い。千沙さんが孝也さんをDV男に仕立て上げていたようで(ちょっといい気味だ)周辺の人たちの目も厳しくて、今僕が動くと誤解されそうだった。
そうこうしているうちにまた数カ月経ってしまう。やっと千沙さんを見つけた時にはもう、子どもが生まれた後だった。
「そうなの。寺田さん、とっても怯えていたわ」
「僕は精一杯彼女の力になります」
急いで僕は彼女の住んでいるというアパートの大家さんに挨拶に行った。この大家さんがなかなかの曲者で、僕が雇った探偵もまんまと騙されていた。孝也さんが見つけたアパートと今住んでいるアパートのオーナーは同じだったのだ。この人が千沙さんをかくまっていたに違いなかった。
僕は手土産と今までの経緯、会社の名刺、千沙さんとの写真、あらゆるものを使って大家さんを説得した。この人の信用を得ないと千沙さんをまた逃がされてしまうと思ったからだ。大家さんは僕を存分に見分してから千沙さんの部屋を教えてくれた。
震える指でインターフォンを押す。しかし、応答はない。留守かと思ったけれど、中からは赤ちゃんの泣き声が聞こえた。中にいるんだ。そして、訪問者を警戒している。
「ふ」
千沙さんらしいと僕は泣き笑いになった。彼女は今親猫が子猫を守るように背中の毛を逆立てて、外を警戒しているのだ。大切にしているんだ。こんなに隠してまで。
ああ、もう、どうしてこんなに愛おしいのだろう。僕を捨てたというのに、必死になって、僕との子を守っている。何とも言えない気持ちになって僕は階段を下りて近くの植え込みに座った。こうなったら我慢比べだ。千沙さんが出てくるのを待つことにしよう。どうせ、ここまで待ったのだ。もう少しくらいなんでもない。そうしてしばらくすると千沙さんが赤ちゃんを連れて部屋から出てきた。
「千沙さん、やっと、見つけた」
僕の声に少しうろたえながら、久しぶりに見る千沙さんは優しい母親の顔をしていた。
それにあの時『千沙のこと頼む』なんて言っていた孝也さんは後悔するに決まっていた。細井さんの評判はとてもじゃないけどいいものじゃなかったし、子どもができたって、千沙さんよりいい嫁なんているわけがない。それに今まで経済的にもおんぶで抱っこだった孝也さんは千沙さんが恋しくなると踏んでいた。そんな孝也さんに僕と千沙さんの関係を悟られたくない。それに千沙さんが僕の子を身籠っていたとしたら、僕は身を引くつもりはない。もはや孝也さんはライバルなのだ。
とはいえ孝也さんは千沙さんと結婚していたし、多くの情報を持っているに違いなかった。きっと千沙さんを捜して復縁を迫る。そう思って孝也さんの周りにも注意してもらえるように頼んでいた。
優秀な千沙さんはそれはそれは綺麗に雲隠れしてくれていた。ゆかりのある土地にはいないようだし、生活するのに仕事をしているだろうに、同業では見つからない。ただ、産婦人科を訪れていたことと、彼女の母親が『シングルマザーになってみっともない』と言っていたとの情報が入った。
千沙さんはやっぱり、子どもを身籠っている。
僕の子だ。絶対……。
そう確信すると、絶対にあきらめないと心に誓った。
そうして千沙さんが見つからないまま時間だけ過ぎた。
彼女は一人で産んで、一人で育てようとしている。
僕は彼女を捜すことに躍起になっていて、彼女を理解することをおろそかにしていた。
***
――鹿島孝也が最近どこかに出かけています。
そう、連絡が入った。孝也さんは千沙さんを見つけたのかもしれない。彼のところは細井さんが出産したと聞いたが、どうやら孝也さんの子どもではなかったようだ。今は揉めに揉めているらしい。やっぱり、孝也さんは後悔することになった。
これはますます千沙さんを捜すに違いない。ところが孝也さんが突き止めた千沙さんの居場所は一日にしてもぬけの殻になったらしい。たったの一日だ。千沙さん……仕事が早すぎる。DV夫に見つかって逃げたらしいと近所で噂になっていたようで、孝也さんもそれ以上は千沙さんに接触できなかったようだ。ただ、収穫もあった。確実に千沙さんは妊娠していた。
あの時の子だとするともう出産も近い。産院の通える範囲に絞って千沙さんを捜すことにしたが、そこは孝也さんにバレないように慎重にしないといけなかった。なんと細井さんまで千沙さんのことを探っているようなのだ。なんとなく、彼女は千沙さんに危害を加えそうで怖い。千沙さんが孝也さんをDV男に仕立て上げていたようで(ちょっといい気味だ)周辺の人たちの目も厳しくて、今僕が動くと誤解されそうだった。
そうこうしているうちにまた数カ月経ってしまう。やっと千沙さんを見つけた時にはもう、子どもが生まれた後だった。
「そうなの。寺田さん、とっても怯えていたわ」
「僕は精一杯彼女の力になります」
急いで僕は彼女の住んでいるというアパートの大家さんに挨拶に行った。この大家さんがなかなかの曲者で、僕が雇った探偵もまんまと騙されていた。孝也さんが見つけたアパートと今住んでいるアパートのオーナーは同じだったのだ。この人が千沙さんをかくまっていたに違いなかった。
僕は手土産と今までの経緯、会社の名刺、千沙さんとの写真、あらゆるものを使って大家さんを説得した。この人の信用を得ないと千沙さんをまた逃がされてしまうと思ったからだ。大家さんは僕を存分に見分してから千沙さんの部屋を教えてくれた。
震える指でインターフォンを押す。しかし、応答はない。留守かと思ったけれど、中からは赤ちゃんの泣き声が聞こえた。中にいるんだ。そして、訪問者を警戒している。
「ふ」
千沙さんらしいと僕は泣き笑いになった。彼女は今親猫が子猫を守るように背中の毛を逆立てて、外を警戒しているのだ。大切にしているんだ。こんなに隠してまで。
ああ、もう、どうしてこんなに愛おしいのだろう。僕を捨てたというのに、必死になって、僕との子を守っている。何とも言えない気持ちになって僕は階段を下りて近くの植え込みに座った。こうなったら我慢比べだ。千沙さんが出てくるのを待つことにしよう。どうせ、ここまで待ったのだ。もう少しくらいなんでもない。そうしてしばらくすると千沙さんが赤ちゃんを連れて部屋から出てきた。
「千沙さん、やっと、見つけた」
僕の声に少しうろたえながら、久しぶりに見る千沙さんは優しい母親の顔をしていた。
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