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**お礼小話**コラン様に勝てるわけがない
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氷の魔女を倒して晴れて婚約者となり、以前とがらりと変わって、コラン様がいたるところで私を紹介するようになった。手始めに私のお誕生日パーティが行われた次の日、コラン様は私を騎士団の皆のところへ連れて行った。そうして堂々と『この度、アイラがわたしの婚約者となった。結婚式の日取りは決まり次第知らせる』と宣言したのだ。
「ええーっ、妹だなんて言っていたくせに、団長、ずるいじゃないですか!」
「そうだ、そうだ、ずるい!」
「お前たちの頭の中には、『婚約おめでとうございます』という言葉はないのか」
恋人じゃないのかと疑っていた団員たちにずっと妹だと説明していたために、団員たちには騙されたという不満があるらしく、ずるいずるいと騒がれてしまった。
「あの、あの時は本当にコランお兄様は私のことを妹としか思っていなかったのです。だから皆様を騙していたわけではないのです」
私がそう説明すると団員たちはもっと不満顔だ。
「誰がどう見たって団長がアイラちゃんのことを好きなのはわかってましたよ、だけど、それを妹だなんて誤魔化していたのが許せないんです」
「そうだ、そうだ、男らしくないぞ」
「変に俺たちに期待させた団長が悪い!」
「俺たちのアイドルを返せー!」
「返せー!」
騒ぐ団員たちにコラン様の眉間のしわも深くなっていく。
「男らしくないとは……アイラの前でよくも言ってくれたな。よし、お前たちの言い分はよくわかった。皆まとめて相手してやるからかかってこい」
そういうとコラン様は鍛錬場に降り立った。すると団員たちはいっせいにコラン様に向かって練習用の摸造剣を振り上げた。
「ハ、ハージお兄様! 大変です! コラン様が一人で皆様と!」
「アイラ。こっちにこい。茶でも飲もう。きっとしばらくは終わらないだろう」
「え、いいのですか?」
「なんだかんだ理由をつけてコラン様に構ってもらいたいのさ。騎士団流のお祝いだ」
「……そうなのですか」
とてもそんな風に見えないが、お兄様が言うならそうなのだろう。土煙が凄いけど、大丈夫なのかな……。まあ、よく見たら楽しそうか。ああ、ばっさばっさとコラン様に向かって行った団員たちが摸造剣で捌かれている。
「俺だって参戦したいところだが、まだ松葉杖だからな」
ハージお兄様の足は恐ろしい速さで治っている。立つだけなら松葉杖もいらないが、まだ歩くときは必要である。心配なので私がくっついていると『ハージとアイラに赤い糸が付いたんじゃないだろうな』とコラン様が言ってきたのは拗ねていたのだろうか。まさか……。
「治りが早いってお医者さんが驚いていましたよ」
「治癒魔法もかけてもらってるからな。さすが魔法が進んでいるプレスロト国なだけある。立つだけならすぐにできるようになったからな」
「それはハージお兄様の鍛え方も違うからですよ。あれで立てるのは化け物だって言われたじゃないですか」
「まあ、誉め言葉だと取っておこう。ところで、この菓子どこから出してきたんだ?」
「これは、ミラ様にいただいたんです」
「あの魔術師か。アイラはコラン様の婚約者なんだから、他の男と仲良くしていたらダメだぞ」
「他の男って言われても、ミラ様は水の魔法を教えて頂いてるので師匠なんです」
「教えてもらって何とかなるものか?」
「少量の水が生み出せるようになったら、私にハッパちゃんを譲ってくれるって言ってもらってるんです」
「あれか。色々と便利だもんな」
「お兄様もハッパちゃんを持てたら、離れていてもおしゃべりできますよ」
「へーっ! いいこと聞いた。俺、今体も鍛えれないから、アイラと一緒に魔法を教えてもらうわ」
「私の方が魔法は先輩ですからね!」
「すぐ抜かしてやるけどな」
「負けませんよ!」
ハージお兄様とケラケラと笑っていると、すべての団員たちを倒し終えたコラン様がこちらに向かってきていた。
「アイラのために戦ってきたのに、こちらを見ずにハージとお茶をしてるなんて、薄情じゃないか?」
息も切らしていないコラン様が私のことを薄情なんて言ってくる。どう答えようかと思っているとハージお兄様が代わりに返事してくれた。
「土煙で誰が誰だかわかりませんよ。足が直ったら俺もコラン様に挑戦しますからね」
「ハージは強敵だから気が抜けないな」
ようやく笑顔が見えたコラン様にホッとして声をかけた。
「ささ、コランお兄様もこちらに来てお茶でもいかがですか?」
「ん?」
「ん?」
「アイラ、私のことは『コラン』と呼ぶように。婚約者だからな。次に『お兄様』とつけたらお仕置きしようかな」
「あ……つい。でも、それって、私ばっかりでズルいですよね? もともとコラン様は私の事をアイラって呼んでいるのですから」
呼び方を間違えた私にコラン様がそんなことを言う。前はお兄様って呼ばれて喜んでいたというのに「お仕置き」だなんてひどい。
「しかし……」
「コラン様は、今から私の事を『マイスイート』って呼んでください。でないと、お仕置きですからね!」
「……わかった。マイスイート」
マイスイート……
マイスイート……
私の頭の中に響くイケメンボイス……どうしよう、コラン様が言うと思っていたより百倍破壊力があった……ぐはああぁ。
「……私が悪かったです」
早々に降参した私を見て、隣でハージお兄様が『はあ、ご馳走様』とため息をついた。
「ええーっ、妹だなんて言っていたくせに、団長、ずるいじゃないですか!」
「そうだ、そうだ、ずるい!」
「お前たちの頭の中には、『婚約おめでとうございます』という言葉はないのか」
恋人じゃないのかと疑っていた団員たちにずっと妹だと説明していたために、団員たちには騙されたという不満があるらしく、ずるいずるいと騒がれてしまった。
「あの、あの時は本当にコランお兄様は私のことを妹としか思っていなかったのです。だから皆様を騙していたわけではないのです」
私がそう説明すると団員たちはもっと不満顔だ。
「誰がどう見たって団長がアイラちゃんのことを好きなのはわかってましたよ、だけど、それを妹だなんて誤魔化していたのが許せないんです」
「そうだ、そうだ、男らしくないぞ」
「変に俺たちに期待させた団長が悪い!」
「俺たちのアイドルを返せー!」
「返せー!」
騒ぐ団員たちにコラン様の眉間のしわも深くなっていく。
「男らしくないとは……アイラの前でよくも言ってくれたな。よし、お前たちの言い分はよくわかった。皆まとめて相手してやるからかかってこい」
そういうとコラン様は鍛錬場に降り立った。すると団員たちはいっせいにコラン様に向かって練習用の摸造剣を振り上げた。
「ハ、ハージお兄様! 大変です! コラン様が一人で皆様と!」
「アイラ。こっちにこい。茶でも飲もう。きっとしばらくは終わらないだろう」
「え、いいのですか?」
「なんだかんだ理由をつけてコラン様に構ってもらいたいのさ。騎士団流のお祝いだ」
「……そうなのですか」
とてもそんな風に見えないが、お兄様が言うならそうなのだろう。土煙が凄いけど、大丈夫なのかな……。まあ、よく見たら楽しそうか。ああ、ばっさばっさとコラン様に向かって行った団員たちが摸造剣で捌かれている。
「俺だって参戦したいところだが、まだ松葉杖だからな」
ハージお兄様の足は恐ろしい速さで治っている。立つだけなら松葉杖もいらないが、まだ歩くときは必要である。心配なので私がくっついていると『ハージとアイラに赤い糸が付いたんじゃないだろうな』とコラン様が言ってきたのは拗ねていたのだろうか。まさか……。
「治りが早いってお医者さんが驚いていましたよ」
「治癒魔法もかけてもらってるからな。さすが魔法が進んでいるプレスロト国なだけある。立つだけならすぐにできるようになったからな」
「それはハージお兄様の鍛え方も違うからですよ。あれで立てるのは化け物だって言われたじゃないですか」
「まあ、誉め言葉だと取っておこう。ところで、この菓子どこから出してきたんだ?」
「これは、ミラ様にいただいたんです」
「あの魔術師か。アイラはコラン様の婚約者なんだから、他の男と仲良くしていたらダメだぞ」
「他の男って言われても、ミラ様は水の魔法を教えて頂いてるので師匠なんです」
「教えてもらって何とかなるものか?」
「少量の水が生み出せるようになったら、私にハッパちゃんを譲ってくれるって言ってもらってるんです」
「あれか。色々と便利だもんな」
「お兄様もハッパちゃんを持てたら、離れていてもおしゃべりできますよ」
「へーっ! いいこと聞いた。俺、今体も鍛えれないから、アイラと一緒に魔法を教えてもらうわ」
「私の方が魔法は先輩ですからね!」
「すぐ抜かしてやるけどな」
「負けませんよ!」
ハージお兄様とケラケラと笑っていると、すべての団員たちを倒し終えたコラン様がこちらに向かってきていた。
「アイラのために戦ってきたのに、こちらを見ずにハージとお茶をしてるなんて、薄情じゃないか?」
息も切らしていないコラン様が私のことを薄情なんて言ってくる。どう答えようかと思っているとハージお兄様が代わりに返事してくれた。
「土煙で誰が誰だかわかりませんよ。足が直ったら俺もコラン様に挑戦しますからね」
「ハージは強敵だから気が抜けないな」
ようやく笑顔が見えたコラン様にホッとして声をかけた。
「ささ、コランお兄様もこちらに来てお茶でもいかがですか?」
「ん?」
「ん?」
「アイラ、私のことは『コラン』と呼ぶように。婚約者だからな。次に『お兄様』とつけたらお仕置きしようかな」
「あ……つい。でも、それって、私ばっかりでズルいですよね? もともとコラン様は私の事をアイラって呼んでいるのですから」
呼び方を間違えた私にコラン様がそんなことを言う。前はお兄様って呼ばれて喜んでいたというのに「お仕置き」だなんてひどい。
「しかし……」
「コラン様は、今から私の事を『マイスイート』って呼んでください。でないと、お仕置きですからね!」
「……わかった。マイスイート」
マイスイート……
マイスイート……
私の頭の中に響くイケメンボイス……どうしよう、コラン様が言うと思っていたより百倍破壊力があった……ぐはああぁ。
「……私が悪かったです」
早々に降参した私を見て、隣でハージお兄様が『はあ、ご馳走様』とため息をついた。
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