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呪いの糸はこの上なく赤い

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「アイラ、お前はコラン様の求婚に応えたんだよな? コラン様が好きなんだよな?」

「……そうですけれど、それは呪いを解くための手段で、コランお兄様とハージお兄様は愛しあっているのですから」

「愛し合ってるって……まさか、お前、俺とコラン様が愛し合ってるって思っていたのか? いや、ではどうしてコラン様と結婚するのを承諾したんだ」

「お二人は結婚できないので、私とコラン様が偽装結婚をして呪いを解くのかと」

「あ、ありえない……意味が分からないのは俺の方だ。そんなこと言って、アイラがコラン様を好きなのは態度でバレバレだったじゃないか」

「バレバレ…って……私はお二人を応援しようと」

「それで俺が幸せならいいとか言っていたのか。まさか、ずっと 誤解していたのか?」

 頷くとハージお兄様が盛大にため息をついた。

「ハージ……私とアイラの赤い糸はこの上なく赤いよな……」

「十分な両思いに見えてます」

「あの、両思いに見えるとはなんですか?」

 二人こそおかしなことを言い出したと首をかしげるとコランお兄様が説明をした。

「……あのな、アイラ、私とアイラを繋ぐ糸はしっかりとした赤い色だろう?」

「……はい」

「アイラは見比べることができないから、わからなかっただろうが、私とハージをつなぐとき糸は薄いピンク色なのだ。つまり、その、互いの愛情が満ち足りると濃い赤になる。そうして、深く心をつなげてから結婚すると呪いが解けるという仕組みだ」

 ハージお兄様が私とコランお兄様をつなぐ糸を見てウンウンと頷いた。

「確かに俺とコラン様は信頼し合っているが、友情以上の感情はないぞ。アイラ、コラン様と繋がれた糸をしっかり見てみろ。きっと、初めて繋がった時より色がはっきりと濃いはずだ」

 言われてみると足首についた赤い糸は初めて繋がったその時よりも鮮明に濃い赤色だった。

 お互いの愛情の色? と、いうことは、コランお兄様は……まさか。

「コランお兄様にとって私は『妹』ですよね? そういう愛情なのでしょう?」

「初めはそのつもりだったし、それが妹という存在だと思っていた。ハージが羨ましくてアイラを妹にしたが、だんだんとそれでは物足りなくなっていった。アイラが望むなら兄であろうと努力はしたが、無駄だった。その、ホラムにアイラとなら呪いを解けると聞いた時、ハージに『アイラと夫婦になれるんですよ』と言われて目が覚めたんだ。俺はアイラを妹として愛してはいないと」

「あの、本当に?」

「アイラは、私との結婚が嫌だったのか? 母にもホラムにも、糸が十分赤いと言われて有頂天になっていたんだ。私はアイラに愛されていると」

 言われて足首についている赤い糸を眺めた。確かに赤い。濃く赤い。これが互いの愛情をしめしていたの? コランお兄様は比べることが出来るからわかるのだろうが、私はこれしか見えないのだから、わかりようもない。ちょっとまって、では、ずっとコランお兄様には私の気持ちがバレていたってことなの?

 かあ、と顔が熱くなってくる。うう。耳まで熱い。

「ハージお兄様とは……こんなに赤くないってことですか?」

「俺とコラン様の糸は……そうだなぁ、お前のそのリボンと同じくらい色だぞ?」

 ハージお兄様が指を刺した胸のリボンは普通のピンクだ。嘘。だったらこれ、相当赤いのでは……。

「私とアイラの糸は、その、極限まで赤いらしい。ひ、非常に相性がいいそうだ」

 はっとハージお兄様を見ると私を見て頷いていた。

「糸が見えてなかったとしてもどこからどう見ても、コラン様がアイラのことを好きだとわかるだろうに……」

「いや、私が糸が赤いことをいいことに、言葉にするのを失念していたせいだ」

 その時、コランお兄様が片膝を床について、私の手を取った。

「アイラ、愛している。私と結婚してくれ」

 どうしよう、まさか。こんなことをされて、答えは一つしかない。

「……はい。喜んで」

 改めてコランお兄様が私にプロポーズしてくれるのに答える。あ、あ、愛してるって……気持ちが追い付かないまま、ギュウ、と抱きしめられる。その様子をハージお兄様に見られているのが恥ずかしくて、私はコランお兄様の胸に顔を埋めた。

「ハア、はじめはアイラを取られるのが気に食わなかったが、こんなにこじれてるとは思わなかった。まさか、俺とコラン様の仲を誤解しているなんて。全く」

「ごめんなさい」

「母さんにこっちに来るよう連絡を入れるぞ。半月後にすれば式も全部上手くいくだろう」

「でも、それでは呪いが……」

「アイラに伝えるのに言い方が悪かった。結婚式を延期にしようと言ったのは式をちゃんとみんなと祝うものにしようと言いたかっただけだ。結婚、とぼかして言ったのがいけなかった」

「すみません、コラン様。アイラが今時こんなに男女の何たるかを知らないのは俺たち家族のせいです」

「え? どういうことですか?」

「その呪いはな、愛の契りをかわすことによって解除される」

「愛の契り?」

「よって、糸さえちゃんと赤くなれば、いつでも解除できたんだ」

「……」

 え。どういうこと?

 そろそろと見上げると真っ赤な顔をしたコランお兄様と目が合った。と、思ったら反らされた。でも、背中に回った手はギュッとさらに締め付けられた。

「ハージお兄様、説明を……」

「俺に言わせるな! 確かに、不義理なことはしてほしくないとコラン様に結婚してからにくれと頼んだのは俺だが、もう、婚約も済んだし、氷の魔女も倒した。この先アイラがまた危険な目にあうことがあれば、不味いからさっさと恋人になれ!」

今度は恋人? 婚約してるのに?

「ありがとう、ハージ」

「え、あの?」

 ハージお兄様がコラン様の背中を軽く叩くと、私はそのまま抱き上げられた。

「アイラ、愛を確かめ合おう。呪いがとけるまで」

「はい?」

 よくわからなかったが、愛を確かめるならいいかと了承した。コランお兄様がそのまま病室を出ようとしたところを、やはり準備してからだと呼び止められ、いったんハージお兄様に呪いを戻された。
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