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お似合いの二人

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「アイラ!」

 小さな部屋で待っていてくれたハージお兄様が私たちに手を挙げてくれる。嬉しいはずなのに、私はなんだか笑えなかった。もうすっかり騎士団の服が板についたハージお兄様は正式に騎士団に入団して、私と共に屋敷に住むことを選んだ。

「ハージ、その剣は?」

 見慣れない剣を握るハージお兄様にコランお兄様が訊ねた。まるで氷で作られたような美しく透き通る剣だった。コランお兄様の分もあるようで、二人は剣までお揃いだった。

「氷の魔女に対抗できるようにと魔術師団が開発をしてくれたんです」

「なるほど。では、さっそく試してみよう。アイラ、ハージと変わってくれ」

「はい」

 呪いの糸が私の足から消える。二人だけにしかわからない話。弾む声。なんだか仲間外れにされた気分だった。私のなんちゃって騎士服とは違って、二人の騎士の恰好はは正式なものだからお揃いだ。

「じゃあな、アイラ」

「屋敷に帰ったらミシェルに会いに行くと使用人に言づけるように。くれぐれも一人にならないようにな。テラ副団長! アイラを屋敷まで送ってくれ。それから厩に行くから護衛も頼む」

 私をテラ副団長にお願いすると、呪いを請け負ったハージお兄様がコランお兄様と連れ立って行ってしまった。

「さあ、行きましょう。アイラ様」

「あ、はい。お手数かけます……」

「いいんですよ。最近訓練が厳しくて! 抜け出して可愛い子のお供なんて役得です」

「ふふ。ありがとうございます」

「いやあ、コラン団長がこんなに可愛い人を妹にするなんて。しかも、ハージ殿の妹には見えないです」

 私との結婚の話は無事に呪いが解き終わるまでは内緒だ。だから騎士団の人には私はコランお兄様の妹のままだ。そして、私が呪いを代われることはテラ副団長と魔術師団の人が知っている。

「私とハージお兄様の髪の色と目の色はお揃いでしょう? ……でも、まあ、サイズが全然違いますものね」

 こちらでは珍しいアッシュグレーの髪色と紫の瞳は私とハージお兄様を兄妹だと容易に示していると思っている。が、あまりに大きさが違うためかハージお兄様が鍛えすぎたのか、小さいころ(五歳まで位だけど)はそっくりだと言われていたのに今では初対面で兄妹だと言われることはなかった。

「ハージ殿は熊で、アイラ様はオコジョですね。騎士団の連中は皆言ってますよ」

「オコジョ?」

「雪山にいる可愛い生き物です。いずれアイラ様も見る機会があるでしょう」

 熊はわかるけれど『オコジョ』がどんな生き物か知らない。……かわいいのかな。首をかしげているとテラ副団長がぷっと笑った。

「どうして笑うのですか?」

「いや、本当に似ているんです。あのう、騎士団の連中が皆知りたがっていましたが、アイラ様は婚約者はいるのですか?」

「えっ……あの」

 これって言ってもいいのかな。でも、正式にまだ婚約したわけでもないし。相手がコラン様と言わなければいいのかな。うーん、と考えているとテラ副団長が不思議そうにしていた。

「もしかして、ハージ殿にそういうことは言わないように言われてます? 俺たち警戒されていますからね」

 ハハハ、と笑うとそれ以上追及されることはなくてホッとした。

「あのう、ハージお兄様とコランお兄様って、皆さんから見てどんな感じなのですか?」

 気になっていたことを質問してみる。訓練中の二人。知らない方が身のためかもしれないけれど。

「あ、あの二人ですか? もう、すごいですよ! 呪いが繋がったままで訓練してますけど、それが息がぴったりでね! あんなに息の合うコンビはなかなかないと思いますよ。きっと二人は氷の魔女を倒してくれるに違いありません」

 息がぴったり。それもそうだ。心もぴったりなのだもの。そんなに氷の魔女って怖いのかな……。悪魔と契約なんて普通じゃないものね。ハージお兄様もコランお兄様も氷の魔女の話になるとはぐらかせて違う話題にしてしまう。

 あ、ダメだ。やっぱり聞くんじゃなかった。

 一層疎外感を感じながら屋敷まで送ってもらった。それから自分で言いだしたのに、なんだか気が進まなくなってしまったけれど、屋敷の人に声をかけてミシェルに会いに行った。久しぶりに会ったミシェルは私に顔を撫でさせてくれた。

「ミシェルと同じようにコランお兄様に可愛がられるだけで十分なのにね」

 あんな素敵な人が婚約者になって、半月後に夫になるのだ。後から聞いたらプレスロト国では伴侶は正妻ひとり、しかも離婚は許されていない。そのうえ、王族は死別でも再婚はできないということだ。ロザニー様が公妾なのもそのためだった。

 偽装結婚なのに、離婚は無しでいいのかな。ハージお兄様とコラン様が幸せならいいと思ってはいるけれど、二人の様子を見ているとモヤモヤしてしまう。

 三人でのハッピーエンド……。

 それでいいと思っていたのに。どうして悲しくなってしまうのだろう。はあ。部屋に戻ったら、もう一度二巻を読んで気持ちを戻そう。やっぱりお母様に一巻も送ってもらうように手紙を書こう。

 ミシェルをもうひと撫でして屋敷に戻った。テラ副団長について来てもらったお礼を言うと、手の甲にキスをされて飛び上がって驚いてしまった、プ、プレスロト国では当たり前なのかな!

 そうして一週間後に簡単な婚約式が行われて、無事に王様にご挨拶し、正式にコランお兄様の婚約者となった。初めて会う王様には緊張したけれど『コランを支えてやってくれ』とおっしゃって握手してくださった。その後屋敷に大量の祝いの品が届いたのには驚いた。
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