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プロポーズ大作戦

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「ハージお兄様も来られたら良かったのに」

「アイラは本当にハージの事が好きなんだな。さすがに妬けてしまう」

「そんな、コランお兄様が妬くことなんてないんです。私はお二人が大好きですから」

 コランお兄様がお忍びで連れてきてくれたのは王族しか来れないという凍らない湖。そこに小舟を出して乗せてもらった。今は二人きりで景色を満喫している。迎え合わせに座ると足首同士をくっつけて安心だ。正面からオールをこぐコランお兄様の美しい姿を見る。ほんと、素敵だなぁ。

 水面から出ている湯気が湖全体に靄をかけて、なんとも幻想的である。この美しい景色は今の時間帯でしか見るとことができないらしく『出かけに少し急いでしまった』と謝られた。しかし、こんなロマンチックなところだとうっかりコランお兄様にまた惚れてしまいそうだ。

「アイラ、お願いがあるんだ」

「お願いですか?」

 景色と揺らぐ水面にうっとりとしていた私が顔を上げるとコランお兄様の真剣な顔があった。ちょとその至近距離は凶器です。声もいいんだから色気は抑えてほしい。ドキドキと鼓動が早くなってきたところで、コランお兄様が言った。

「私と結婚して欲しい」

「え……?」

 その言葉が信じられなくてパチパチと瞬きをして息をのんだ。今、なんと?

「アイラにはいきなりかもしれないが、正直、もう時間がないんだ。もう少ししたらドラゴンが温かい場所に移動して、氷の山の魔獣が活動する時期に入る。魔獣たちが活発になる前に、呪いを解いておかないと騎士団長としての仕事ができない」

「あ、は……呪い……」

「とはいっても結婚して呪いを解くのは氷の魔女を討伐してからになる。先にアイラと繋がること知れば氷の魔女はほかの手を考えてくるだろうからな。ハージと繋がっていると思っているうちにそっちの問題を片づけるつもりだ」

「……あの、氷の魔女を倒してから、ハージお兄様とは結婚できないので、私として赤い糸の呪いを解くということですか?」

「ハージと結婚できないのはあたりまえだろう。呪いは男女間の結婚でしか解けない。誰でもいいわけじゃないし、私はアイラがいいんだ。ハージに相談したら、アイラが了承するなら、文句はないと言ってくれた」

「ハージお兄様が……」

「コートボアールの母君に連絡を入れたが判断はハージとアイラに任せると言ってくれた。アイラは私と結婚するのは嫌か? もちろん、君が十八歳になる半月後まで婚姻は待つつもりだ」

 じっとコランお兄様を見た。この人との結婚が嫌だなんていう人がいたら説教してやりたいくらいだ。けれど、コランお兄様が愛しているのは私ではない。愛のある結婚をした両親を見て育ったから、漠然と私も愛し合う結婚を望んでいたけれど、どうしたらいいのだろう。

「いきなり過ぎたか」

「……」

「可愛いアイラ、少しだけ抱きしめさせてくれないか」

 オールを置いた腕が黙り込んだ私を抱え込んだ。そのぬくもりが胸の奥にしまっていた箱を開けてしまいそうになる。二人が一緒にいるには私がこの結婚を引き受けることが最善なのだろうか。結婚してもなおハージお兄様を愛するコランお兄様を私は許せるのだろうか。

 きゅっとその腕にしがみついて、目をつぶった。とにかくハージお兄様に話をする必要があった。


 それからずっと上の空になってしまった私は、屋敷に戻ってハージお兄様と二人で話がしたいとお願いした。色々と予定を組んでくれていたコランお兄様には申し訳なかったが、それどころではない。 

 湖から戻るとコランお兄様とたっぷり抱き合ってから少しだけハージお兄様と部屋で二人きりにしてもらった。

「私、コランお兄様に結婚して欲しいと言われました」

「そうか」

「お兄様、私、どうしたらいいのですか?」

「どうしたらって、嫌だったか? 本当はコラン様がわざわざ結婚を申し込んで、お前の意思を考慮するなんて恐れ多いことだ。妾の子といっても第四王子で、騎士団長を務める優秀な人だからな。お前もなついているし、コラン様も正妻として迎えると言ってくださっている。これ以上ない、いい縁談だと思うが」

「でも、お兄様たちが結婚出来ればこんなことにならなかったでしょう?」

「なんだ、その俺たちがって。赤い糸の呪いは本来男女間の呪いなんだ。俺とコラン様がたとえ結婚できたとしても呪いは解けないだろう」

「……そうなのですか。では呪いを解くには、赤い糸と繋がった女性と結婚する必要があるのですね」

「まあ、そうだけど」

 そうするとコランお兄様は私と結婚するしか赤い糸の呪いを解く方法がないというのか。

「では、仕方ないのですね」

「え? 仕方ないって? アイラ、俺はてっきり……」

 ハージお兄様が困惑した顔をした時、足首にクン、と引っ張られる力が加わった。もう時間は終わる。

「お兄様、私、コランお兄様と結婚します。少しでもお役に立てるのなら」

「ちょ、ちょっとまて、アイラ、お前、コラン様が好きだよな?」

「お兄様は私が結婚してもいいのですよね?」

「それは、こんなことがなければ早すぎるって反対したかもしれないけど……そうだよな、いきなり結婚とか言われてもアイラも困るよな。ここは知り合いもいない異国の地だし。でも、コラン様は決してお前を悪いようには……」

「私はお兄様が幸せならいいのです」

「え。俺の幸せ?」

「あっ」

 バン!

「時間切れだ」

 足首がギュッとしまってドアが開いたと思ったら、コランお兄様に抱きしめられた。足を締め上げられた痛みをやり過ごすのにコランお兄様をギュッと抱きしめる。

 痛いのは、足首なのか、胸なのか……こんな赤い糸の呪い、解かないといけないに決まっている。
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