上 下
24 / 42

宮廷魔術師団1

しおりを挟む
 まだまだ遠いのかな、と思い出したころにやっと一つの扉にたどり着いた。

「着いたぞ。そこのブザーを鳴らすんだ。急に開けると、思いがけないものが飛んできたりするからな。気をつけろよ」

 そんな風に脅されたハージお兄様が恐る恐るブザーを押した。すると中からややざわめきが起こった後、ボン、と軽く爆発音が聞こえた。驚いてドアを開けようとしたハージお兄様をコランお兄様が片手で制すと、静かになってから、そろそろと中からドアが開いた。

「……これはこれは、コラン様。ロザニー様からお戻りになったと伝令がありましたが、お早いお着きですね。呪いの解析はまだ途中ですが、お入りください」

 そう言って部屋に通してくれた白髪のお爺さんは頭が爆発していた。先ほどの爆発音のせいだろうか……。大丈夫かな、ここ。

「アイラ、この人は宮廷筆頭魔術師のホラムだ」

 ええっ! そんな偉い人が頭を爆発させて出迎えてくれたの!?

「お久しぶりです、ホラム様。こちらは妹のアイラです。よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

 ハージお兄様が挨拶をしたので慌ててペコリと頭を下げた。そろそろと顔を上げるとホラム様がにっこりと笑っていた。頭は爆発しているけど優しそうだ。後ろにも数名こちらを見ている人がいるが、集まる気はないのかチラチラと窺うにとどまっていた。なんだか、変わった人たち。

「二人には私の呪いに付き合わせてしまっているんだ。丁重な対応をお願いする」

「ええ。わかっておりますよ、コラン様」

 ホラム様が棚からへんてこな虹色の眼鏡を出してきてハージお兄様とコランお兄様の足元を眺めた。

「ふうむ。呪いは特に変わった様子はありませんね」

特殊な眼鏡で見ると呪いの糸が見えるようだ。すごい。

「ホラム、早速だが、これを見て欲しい。ハージ、アイラ、頼む」

 コランお兄様に言われてハージお兄様と指を合わせて赤い糸の呪いを私の足首に移すと、ホラム様がそれを見て驚いていた。

「……呪いがお嬢さんに移っているではないですか! しかも……」

「そうなんだ。同じ親から生まれた兄妹が血を合わせると呪いが移ることがわかったのだ。これをヒントに呪いが解けないだろうか」

「なるほど……それでお嬢さんを連れてきたのですね。コラン様、お嬢さんと呪われているなら呪いを解く方法が一つあります」

「え、解く方法があるのか?」

「赤い糸の解析をしましたが、例えそれを作った魔女を倒しても呪いは解けません。単純ですがとても強固な呪いなのです……失礼ですが、お嬢さんはおいくつですか?」

「十七歳です」

 返事をするとホラム様が私とコラン様をじっと眺めた。そうして繋がっている糸をまじまじと観察した。なにか、わかるのかな。

「コラン様が女性とこんなにも接して平気なのは初めてですよね」

「まあ、そうだ。アイラは可愛いからな。妹として可愛がっている」

「妹……では、お二人は恋人同士ではないのですか?」

「へっ!?」

「いや、恋人ではない。ホラム、いきなり何を言いだすんだ」

「私にはそう見えましたが……では、結婚をお考えではないのですね」

「結婚!? そんなことは考えたことはない」

 顔を見合わせて慌ててコランお兄様とうんうん頷いていると、とホラム様が微妙な顔をしていた。

「コラン様、呪いの糸は結婚すると解けるのです」

「……」

 それを聞いて私たち三人は黙り込んだ。なんと、呪いの糸は結婚すればなくなるのだ。私はすぐさまハージお兄様とコランお兄様を見た。二人が結婚出来ればこの糸が、呪いが解けるのだ! 期待の目でコランお兄様たちを見るとどうしてか目を反らされた。

「アイラ、ちょっとハージと交代してくれるか?」

「はい!」

 焦るようにコランお兄様に言われてすぐにハージお兄様と交代した。これからハージお兄様と話をするんですね。 やったね! 一気に結婚で解決なんてすごい!これなら二人が結婚しても誰も文句を言わないかも!

 私の心は飛び跳ねた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

処理中です...