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レーシアンの屋敷
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そこから先の旅は非常に楽だった。まず、馬に乗ることはなく、馬車で移動。窓から見るミシェルたちも荷物が無くなって足取りも軽そうだ。私のお尻の下にはふかふかのクッション! なんて素敵! なんて快適! だんだんと宿は豪華になっていき、二日後、私たちはプレスロト国の中心に着いたのだった。
「私の屋敷に向かってくれ」
コランお兄様がそう言って馬車が入って行ったのはコートボアール家が犬小屋だと言われてもおかしくない豪邸だった。よくもまあ、こんなところに住んでいる人を一時期でも泊められたものだ。知らないってスバラシイ。
馬車が屋敷の玄関に停まると中からずらりと使用人が出てきて並んだ。
赤い糸の呪いで繋がるコランお兄様とハージお兄様の隣にちょこちょこと私が連れ立って歩くと、皆がぎょっとして私を見た。場違いは重々承知ですが、これは仕方ないことなのです。反対側を見るとハージお兄様もあまりの豪華さにビビッてきょろきょろしていた。
「ハージお兄様は屋敷に訪れたことはなかったのですか?」
足に呪いが括り付けられていたなら、コランお兄様の屋敷に一緒に帰っていただろうに。
「俺と繋がっている時は騎士団の宿舎にずっといたんだよ。ほら、あっちは男しかいないから」
「それで……」
では、私がいるからこちらの屋敷に来たというのか。
「いくら私が女嫌いでも男とくっついているところはあまり見られたくない」
「なるほど」
「アイラだったらマントで隠せば終わりだな」
「ぶほっ」
けらけらと笑ってコランお兄様が私をマントの中に入れて人の目から隠してくれた。もうなんだか呪いの糸がなくもくっつくのが当たり前になっている。そのまま足元のすき間だけ見てくっついて歩いていると、コランお兄様が止まった。
「コラン。突然帰ってきたと思えば客人を連れてくるなんて。氷の魔女の呪いは大丈夫なのですか?」
マントの外から女の人の声が聞こえた。
「母上。こちらに来られていたんですか? あまり来られると迷惑です。」
え、お母様?
「迷惑って、酷い。だって王宮にいると王太后がうるさいんだもの。……ああ、その人が赤い糸で呪われてしまった人ね。初めまして、私はロザニー。コランの母親です。氷の魔女との呪いからコランを救ってくださって感謝いたします。あなたの呪いは必ずプレスロト国の名誉にかけて魔術師団が解くよう努力いたします」
「ロメカトルト国から参りました。ハージ=コートボアールです。こちらこそ、私と呪いを受けてしまうなど、コラン様には災難だったでしょう。必ず、呪いが解けると信じております」
ハージお兄様が挨拶を済ませてしまって、焦る。私も挨拶しなくていいのかな、でも、コランお兄様がマントの上から私を押えているので、これは出るな、ということなんだろう。私はそう解釈してじっとしていた。コランお兄さまのお母様……絶対、とんでもない美人に違いない。見たい……。
「……ちょ、ちょっとまって。コラン、そこに何を隠してるの?」
しかし、マントの下からは当然、私の足が出ているわけで、すぐに見つかった。これは、失礼だし、出なくては! と思ったのに、やはりコランお兄様に押さえられたままだった。
「何というか……別に隠していません。母上に見せたくないだけで」
「隠してるんじゃない。サイズ的に女の子的な足が見えているのだけど」
「……ハア。母上、私に妹が出来たのです」
「え? 腹違いでも探してきたの? ちょっと後で王を問い詰めないといけないわ」
「いいえ。王家の血は一滴も入っていませんので父上を問い詰めないでください。どれだけかわいがってもいい私の妹が出来たのです」
「……なにを言っているのかわからないけど」
「仕方ない……」
そこで、やっとコランお兄様の手の力が緩んだ。いいのかな、と私はマントの中から顔を出した。
「……」
「……」
挨拶しようと意気込んでいたのに、目の前の美女があまりにも美しくて雷に打たれてしまった。わわ、コランお兄様そっくり! 絹糸のような金髪に少し切れ長の大きなすみれ色の瞳。これは、人ではない! 妖精では!? 背中に羽があるに違いない!
神々しいともいえるその姿に目をやられそうになりながらも耐えていると、コランお兄様のお母様も私を食い入るように見ていた。
両者のにらみ合い(?)がしばし続いた。沈黙が恐ろしい。
こ、これは、どうしたらいいのだろうか。どうしていいかわからず、コランお兄様のシャツを掴んだ。お互いに黙り込んで数十秒停止しているとコランお兄様の手が私の腰に回されて、ようやくマントの外に押し出された。
「あ、あの! 同じくロメカトルト国から参りました。アイラ=コートボアールです。よろしくお願いします」
「ええと、驚いた……そちらのハージ様の妹さんじゃないの。こういう子がコランの好みだったのね。なるほど、縁談に見向きもしないはずだわ。まさか自分で嫁を探してくるとは思わなかったけど、まあ、結婚するならいいわ」
「母上、嫁ではありません。『妹』です」
「ええと。常々思っていたけれど、あなたの女性に対する思考にはついていけないわ。ええと……」
「アイラです」
「私はコランの母親でロザニーと言います。仲良くしてくれると嬉しいわ。アイラちゃんはコランの妹でいいの?」
「コランお兄様がそう言ってくださって身に余る思いです。私は兄が二人になって、とても幸せです。」
「ふうむ。なかなか性格のよさそうな子ね。それに、可愛い……」
「ええ、アイラはとても可愛いのですよ」
「え……しょ、正気なの? コランの口からそんな言葉が出るなんて。まさか、可愛いからってロメカトルト国から誘拐してきたんじゃないわよね?」
「アイラを連れてきた訳は後程お話します」
「……そう。なにか、ありそうね。まあ、いいわ。嫁でなくてもコランが女性を連れているってことが重大なのだもの。もう一生結婚なんてしないと思っていたけれど、希望を持てそうだわ」
そんな声が聞こえて心配になってハージお兄様を見た。覚悟はしているのかハージお兄様は顔色も変えずに会話を黙って聞いていた。結婚はハージお兄様と考えていただきたいのです。なんとか許していただきたい。私からのお願いです。
「では、これで」
拳を握っていると、ふわりとまたコランお兄様のマントの中に戻されてしまう。コランお兄様はよほど私とお母様を会わせたくないらしい。残念なことに今の会話では男性の恋人は歓迎されなさそうである。頑張って、ハージお兄様、私が応援しますからね!
「ちょっと待って、コラン。あなたの妹なら私の娘になるわよね? 私も可愛がってもいいわよね?」
「申し訳ありませんがそれはご遠慮願います。母上、ここに長居すると王太后の使いがこちらにきてしまいますよ。さ、私たちは長旅で疲れているのです。失礼します」
きっとコランお兄様も女性との結婚話はハージお兄様に聞かせたくなかったはずだ。マントの上から背中を押されて前に進んだ。ケチ~ッと声が聞こえた気がしたけれど、コランお兄様の足の速度についていくのに必死だった。
「私の屋敷に向かってくれ」
コランお兄様がそう言って馬車が入って行ったのはコートボアール家が犬小屋だと言われてもおかしくない豪邸だった。よくもまあ、こんなところに住んでいる人を一時期でも泊められたものだ。知らないってスバラシイ。
馬車が屋敷の玄関に停まると中からずらりと使用人が出てきて並んだ。
赤い糸の呪いで繋がるコランお兄様とハージお兄様の隣にちょこちょこと私が連れ立って歩くと、皆がぎょっとして私を見た。場違いは重々承知ですが、これは仕方ないことなのです。反対側を見るとハージお兄様もあまりの豪華さにビビッてきょろきょろしていた。
「ハージお兄様は屋敷に訪れたことはなかったのですか?」
足に呪いが括り付けられていたなら、コランお兄様の屋敷に一緒に帰っていただろうに。
「俺と繋がっている時は騎士団の宿舎にずっといたんだよ。ほら、あっちは男しかいないから」
「それで……」
では、私がいるからこちらの屋敷に来たというのか。
「いくら私が女嫌いでも男とくっついているところはあまり見られたくない」
「なるほど」
「アイラだったらマントで隠せば終わりだな」
「ぶほっ」
けらけらと笑ってコランお兄様が私をマントの中に入れて人の目から隠してくれた。もうなんだか呪いの糸がなくもくっつくのが当たり前になっている。そのまま足元のすき間だけ見てくっついて歩いていると、コランお兄様が止まった。
「コラン。突然帰ってきたと思えば客人を連れてくるなんて。氷の魔女の呪いは大丈夫なのですか?」
マントの外から女の人の声が聞こえた。
「母上。こちらに来られていたんですか? あまり来られると迷惑です。」
え、お母様?
「迷惑って、酷い。だって王宮にいると王太后がうるさいんだもの。……ああ、その人が赤い糸で呪われてしまった人ね。初めまして、私はロザニー。コランの母親です。氷の魔女との呪いからコランを救ってくださって感謝いたします。あなたの呪いは必ずプレスロト国の名誉にかけて魔術師団が解くよう努力いたします」
「ロメカトルト国から参りました。ハージ=コートボアールです。こちらこそ、私と呪いを受けてしまうなど、コラン様には災難だったでしょう。必ず、呪いが解けると信じております」
ハージお兄様が挨拶を済ませてしまって、焦る。私も挨拶しなくていいのかな、でも、コランお兄様がマントの上から私を押えているので、これは出るな、ということなんだろう。私はそう解釈してじっとしていた。コランお兄さまのお母様……絶対、とんでもない美人に違いない。見たい……。
「……ちょ、ちょっとまって。コラン、そこに何を隠してるの?」
しかし、マントの下からは当然、私の足が出ているわけで、すぐに見つかった。これは、失礼だし、出なくては! と思ったのに、やはりコランお兄様に押さえられたままだった。
「何というか……別に隠していません。母上に見せたくないだけで」
「隠してるんじゃない。サイズ的に女の子的な足が見えているのだけど」
「……ハア。母上、私に妹が出来たのです」
「え? 腹違いでも探してきたの? ちょっと後で王を問い詰めないといけないわ」
「いいえ。王家の血は一滴も入っていませんので父上を問い詰めないでください。どれだけかわいがってもいい私の妹が出来たのです」
「……なにを言っているのかわからないけど」
「仕方ない……」
そこで、やっとコランお兄様の手の力が緩んだ。いいのかな、と私はマントの中から顔を出した。
「……」
「……」
挨拶しようと意気込んでいたのに、目の前の美女があまりにも美しくて雷に打たれてしまった。わわ、コランお兄様そっくり! 絹糸のような金髪に少し切れ長の大きなすみれ色の瞳。これは、人ではない! 妖精では!? 背中に羽があるに違いない!
神々しいともいえるその姿に目をやられそうになりながらも耐えていると、コランお兄様のお母様も私を食い入るように見ていた。
両者のにらみ合い(?)がしばし続いた。沈黙が恐ろしい。
こ、これは、どうしたらいいのだろうか。どうしていいかわからず、コランお兄様のシャツを掴んだ。お互いに黙り込んで数十秒停止しているとコランお兄様の手が私の腰に回されて、ようやくマントの外に押し出された。
「あ、あの! 同じくロメカトルト国から参りました。アイラ=コートボアールです。よろしくお願いします」
「ええと、驚いた……そちらのハージ様の妹さんじゃないの。こういう子がコランの好みだったのね。なるほど、縁談に見向きもしないはずだわ。まさか自分で嫁を探してくるとは思わなかったけど、まあ、結婚するならいいわ」
「母上、嫁ではありません。『妹』です」
「ええと。常々思っていたけれど、あなたの女性に対する思考にはついていけないわ。ええと……」
「アイラです」
「私はコランの母親でロザニーと言います。仲良くしてくれると嬉しいわ。アイラちゃんはコランの妹でいいの?」
「コランお兄様がそう言ってくださって身に余る思いです。私は兄が二人になって、とても幸せです。」
「ふうむ。なかなか性格のよさそうな子ね。それに、可愛い……」
「ええ、アイラはとても可愛いのですよ」
「え……しょ、正気なの? コランの口からそんな言葉が出るなんて。まさか、可愛いからってロメカトルト国から誘拐してきたんじゃないわよね?」
「アイラを連れてきた訳は後程お話します」
「……そう。なにか、ありそうね。まあ、いいわ。嫁でなくてもコランが女性を連れているってことが重大なのだもの。もう一生結婚なんてしないと思っていたけれど、希望を持てそうだわ」
そんな声が聞こえて心配になってハージお兄様を見た。覚悟はしているのかハージお兄様は顔色も変えずに会話を黙って聞いていた。結婚はハージお兄様と考えていただきたいのです。なんとか許していただきたい。私からのお願いです。
「では、これで」
拳を握っていると、ふわりとまたコランお兄様のマントの中に戻されてしまう。コランお兄様はよほど私とお母様を会わせたくないらしい。残念なことに今の会話では男性の恋人は歓迎されなさそうである。頑張って、ハージお兄様、私が応援しますからね!
「ちょっと待って、コラン。あなたの妹なら私の娘になるわよね? 私も可愛がってもいいわよね?」
「申し訳ありませんがそれはご遠慮願います。母上、ここに長居すると王太后の使いがこちらにきてしまいますよ。さ、私たちは長旅で疲れているのです。失礼します」
きっとコランお兄様も女性との結婚話はハージお兄様に聞かせたくなかったはずだ。マントの上から背中を押されて前に進んだ。ケチ~ッと声が聞こえた気がしたけれど、コランお兄様の足の速度についていくのに必死だった。
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