運命の赤い糸はとんでもない!

竹輪

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アイラは見てしまった

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 そんな複雑な思いを胸に抱きながら客室のドアを叩こうとすると、中からボソボソと声が聞こえた。

「家族に言うべきだ」

「いや、でもどうやって説得するっていうんです」

「でも、このまま黙っていても……」

 え。なに、この会話。

 驚いてドアを叩こうとした手を引っ込めてしまった。い、今の会話ってどういう意味? そうっと後ろに下がって足音を立てないようにその場を立ち去った。

 自室に戻ると私は頭を抱えた。とりあえず、今の状況を冷静に考えてみよう。

 これは、もしかして、

 もしかしてもあるかもしれない。

 相手の親が亡くなったというのにこのタイミングで一緒に家に来る友達なんかいるだろうか。けれども、それが恋人だったら話が違ってくる。お兄様は長男だし、父親が亡くなったとなれば家督を継ぐのは必須である。どこぞの女を嫁にと用意されていたりしたら大問題だろう。

 あ、あのお兄様と先ほどのレーシアン様が?

 ……ダメだ。あんな綺麗な人なら容易にそっちの線でも想像できてしまう。背の高さは二人とも変わらなかったが、思い出せばお兄様は背の高い人が好きだった。

 これは、どうなる?

 この国の法律では同性間の婚姻は認められていない。まして家を継ぐ長男なんて奥さんがいて一人前とされるくらいなのだ。二人の想いを成就させるとなるとお兄様は家督を譲らなければならない。

 ……なんてこった。

 その場合は私が婿を取らなくてはならなくなる。嫁を貰うのも大変なことなのに、婿入りしてもいい男の人を探すのは至難の業である。

 コンコン。

「アイラ、いるか?」

 机に突っ伏してウンウン考えていると私の部屋のドアが叩かれた。

 お兄様の声にガチャリとドアを開けると当然お兄様が立っていたが、そのそばには、やはりレーシアン様がいた。母が言っていた通り、距離がおかしい。

「あのな、ここまで長旅で俺たちはずいぶん疲れているんだ。だから、食事は部屋に運んでくれないか?」

「わ、わかりました。では、運びますね」

「あ、運ぶのはランベルトにお願いしてくれ。悪いな。母さんにも上手く言っておいてくれ」

 ちらり、とレーシアン様を窺うと少しバツの悪そうな顔をしていた。うーん。なんだろう。嫉妬深いとか……。どうせ使用人は通いで来てくれているハンナと常駐はランベルトしかいないけど、運ばせるのはお爺さんのランベルトの方がいいってこと? ハンナは女性だから嫌なのかな。所帯持ちだし、お兄様よりはずいぶん年上だけど。

「あのう……」

「なんだ?」

「帰ってきて早々こんなことをお兄様に言うのも申し訳ないのですが、お兄様にしかできない手続きの期限が色々と迫っているのです。私で手伝えることは協力しますが、その、早めに着手していただかないと間に合いません。資料はもうそろえてありますから……」

「……わかった。明日の朝からやるよ。ごめんな、用意してくれていたんだな」

「私こそ、役に立てなくてごめんなさい。今日はごゆっくりしてください」

「ありがとう」

 私とお兄様が会話する間もレーシアン様はずっとお兄様のそばに佇んでいる。なに、これ。妹と話すのもダメなの?

 そのまま、客室に消える二人の背中を目で追った。なんだか一時も離れたくないようだ。やはり並々ならぬ仲なのだろうか。二人は客室で夕食を取り、その晩、お兄様は自室に帰らなかった。そして、私は次の朝、決定的な瞬間を目にしてしまうのであった。


「お嬢様、すみません……」

「いいのよ、ランベルト。全くどうしちゃったのかしら。シーツの交換くらい、家にいるときはお兄様は自分で持って行ってくれていたのに」

 朝、一階に降りると階段下でうずくまるランベルトを発見した。腰を悪くしているランベルトには階段の上がり降りがきついらしく、普段は二階にはあがらないのだ。今回、兄が何でもかんでもランベルトに持ってくるように頼むものだから、ランベルトの腰が早々に悲鳴を上げてしまった。

 替えのシーツを小脇に抱えて、ついでに朝食をお盆に乗せた。食堂に来てくれたら楽なのに、レーシアン様は私たちとそんなに顔を合わせたくないのか。

 コンコン。

 ドアをノックしても反応がなかった。でも脇に抱えるシーツもお盆の上のホカホカのスープも待ちきれなかった。ランベルトの話では兄も一緒に部屋にいるらしいから、まあ、いいだろう。

「おはようございます!」

 大きな声であいさつをしながらドアを開けた。

 部屋に入り、一目散にテーブルに向って朝食を置くと脇に抱えていたシーツを両手に持った。そこで、二人がまだ起きていないことに気が付いた。

 しょうがない、とカーテンを引いて部屋に明かりを入れる。すがすがしい光が部屋の中を明るく照らすと、二つあるベッドなのに、片方のベッドはなぜか空っぽで、そして、もう片方のベッドには四本の足が見えていた。

 え、ちょっと……嘘、だよね?

「ん……」

 目をこすって先に目を覚ましたのはお兄様の方だった。

「あれ? ……アイラ?」

 起き上がったお兄様の体からシーツが滑って落ちる。その下には見事な腹筋の体が……。

「……朝か」

 そうしてその隣でまた起き上がる美形の男。

「ま、ま、ま、まさか……!」

 二人は裸で一つのベッドに眠っていたのだ! 無意識にビクリと体が縦に跳ねると、ぽとりと手から落ちるシーツ。

「おはよう……って、え?」

 二人に指をさして驚いている私を見て、まだ眠りから覚醒していないのか、男二人がぼーっとしていた。

「あ、ああ、あの! 朝食はテーブルに! わ、私は何も! 何も見ておりません!」

「ちょ、まて! アイラ!」

 頭が真っ白になった私は客室を出ると、わき目も降らずに階段を駆け下り、お母様のいる食堂に急いだ。
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