運命の赤い糸はとんでもない！

兄はとんでもない美形を連れて帰ってきた

「母さん！　アイラ！　今、帰ったぞ！」

「ハージ！」

「お兄様！」

大きな声が玄関ホールに響くのを聞いて階段を駆け下りた。嬉しくて、真っ直ぐお兄様に向って手を広げて抱き着こうとしたが、お兄様の隣に人がいるのが見えて、慌てて、手を引っ込めて足を止めた。

「ただいま、アイラ。母さんを支えてくれてありがとうな。母さん、すぐ帰れなくてすまなかった」

　久しぶりに見る兄は相変わらずマッチョである。私とお揃いのアッシュグレーの髪は整えることも出来なかったようであちこちに跳ねていて、急いで帰ってきてくれたことを物語っていた。

「……こんなことになるなんてね。お父様のお墓に案内するわ」

「ああ。あ、あの、ちょっと訳があって一緒に来てもらったコラン様だ。プレスロト国で騎士団長を務めてらっしゃる。高貴な方なので、失礼のないようにお願いする」

「はじめてまして、コラン＝レーシアンだ。申し訳ないが、しばらくご一緒させていただくことになる。迷惑をかけるがよろしく頼む」

　兄の隣に立つ男がフードを下ろした。、思わずお母様と私は息をするのを忘れた。

　な

　なんだ、この規格外の美形は。

　キラキラと美しく輝く金色の髪に、なめらかな白い肌は陶磁器のようだ。すっとした鼻筋に少し切れ長の印象のある薄グレーにも見える水色の瞳。しかし神様に愛されたような美しい造形なのに与える印象はひどく冷たかった。

「いえ、ハージのお友達なら大歓迎です。こんな時でなければ、楽しいお話もできますでしょうに。お部屋とお食事をご用意しますわ。まずはお部屋でおくつろぎください。私たちはハージを父親の墓に案内しますので」

　お母様が我に返ってそうレーシアン様に言ったが、どう見てもマッチョで大らか、クマに例えられるお兄様の友達になるタイプには見えなかった。けれど、ただの知り合いではない距離間である。

「あ……いや、コラン様は俺と一緒に行く」

「え？　お父様のお墓にご一緒に？」

　父親を亡くしたばかりの家の世話になるのだからと墓参りまで付き合ってくれるのだろうか。なんとも義理堅い人である。そうはみえないけど。全然見えないけど。

　何とも言えない空気が流れる。お兄様が動くとレーシアン様も動く。それはなんだかぴったりと。

「……お母様、ではハージ兄様をお父様のお墓まで案内してあげてください。私はレーシアン様が屋敷でお過ごしになれるように用意しておきます」

「あ、ああ、うん。お願いするわね。では、行ってきます」

　戸惑いながらお母様がお兄様とレーシアン様を連れて屋敷を出て行った。なんだあれ、いくら何でもべったりくっつきすぎやしないか？　お兄様はちょっとした友達にあんなにパーソナルスペースに入り込ませるような人だったろうか。

二人の後姿を見て疑問に思った。



「コラン様を部屋に案内してくるよ」

お墓参りから帰ってくるとお兄様はレーシアン様に部屋を案内した。急いで客間を整えたのだがあんな高貴そうな人を貧乏田舎貴族のうちに泊めて大丈夫だろうか。ハラハラと階段を上っていく姿を見送った。

「ねえ、アイラちゃん……」

私が二人を見ていると後ろからお母様に話しかけられた。なんだか顔色が白い。

「どうしたの？」

「あの、あのね。あの二人なんだかおかしいの」

「おかしい？」

「お父様のお墓に行った時もずーっとくっついてるのよ」

「くっついてる？」

「そうなの。なんていうか。ふつうの距離じゃないっていうか……」

「そ、それ、私もちょっと変だなーって……」

「あの人、騎士団長だっていうし、確かに体つきはよさそうだけど、でも細身だし、筋肉だるまじゃないし、女の人よりよっぽど綺麗でしょ？」

「そうですね……」

「アイラちゃんに言ったことはなかったけれど、ハージって昔、男の人から言い寄られていたことがあってね」

「えっ⁉」

「考えすぎだといいんだけど。ハージにはお嫁さんをもらってここを継いでもらわないといけないから……」

「まさか。お兄様の初恋は学校の先生でしたし」

「そうなの？　どんな感じの人だった？」

「えーっと、さばさばしてて……」

「さばさばしてて？」

「……背が高くて」

「せ、背が高くて？」

「ちょっと筋肉質で……」

「……それって女の人よね」

「え、ええと。もちろん女の先生でしたよ」

「……」

「……」

「調理場をのぞいてくるわ。レーシアン様のお口に合うかしらね……」

「そ、そうですね。田舎料理だから、お、お兄様に食事で食べられないものはないか聞いてきます」

　まさか、あの二人ができているなんてことはないよね……。お兄様の恋愛対象は女の人の筈。でも……あんなに綺麗な人に、はたして性別なんて関係あるだろうか。