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本編
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「にぃなアアアア!!」
突然、声が聞こえた。
兵士に両脇を抱え込まれながら項垂れていたニナはその顔を上げた。
ニナはその擦れた声を聴くだけで涙がこぼれそうになった。見ると開け放たれた扉の向こう側からユールがこちらに向かってくるのが分かった。
「にぃなアアアア!!」
ユールは何度もニナの名を呼んだ。
「ユ、ユール様……」
ユールは杖も突かずに、渾身の体の力を振り絞ってニナに向かっていた。見ている人には歩くより少し早い、程度かもしれない。けれどもニナにはユールがどれほど頑張ってきたかがわかる。膝から下を動かすのにとても時間がかかっていたユールが、太ももの力を使ってそれを補ってうまく歩いている。
「はぁ、なせ!!」
ユールが腕を振り回して兵士からニナを奪い返した。
「あ、アルトレート?」
唖然としたレジーナ姫が口を開く。そのとき、ユールの後ろからハーヴィーを伴って、堂々とした男が現れた。
「レジーナ、これは一体どういうことだ。アルトレートは王家とは縁切りしておる。何故ここにアルトレートが?」
「お。お父様!!」
レジーナ姫のその言葉でニナは現れた男を驚きの目で見る。これが、国王陛下だと。
「トドーレ、レジーナに協力したのは第一騎士団としての意思か? お前の独断か?」
「そ、それは……」
「レジーナ、お前がしたことは『監禁』だ。これにアルトレートの意思はない。事実、アルトレートは私に助けを求めに来た」
「そ、そんな!!まさか!!」
「では、聞くが、ここへ連れてくるときに一度でもアルトレートの意見を聞いているのか?」
「そ……それは」
「レジーナ、一度許したことでお前に期待させてしまったのならわしも悪かった。けれどもアルトレートとの結婚は諦めてくれ。しかも、アルトレートはそこの娘とすでに夫婦だというではないか」
「え……」
これにはレジーナ姫を含むその場の者が息を呑んだ。もちろん、ニナも驚いてしまった。
「ハーヴィー、そうだな?」
「は、はい! ここに結婚承諾書が!」
ハーヴィーが持っていたのはユール=ギャバンとニナ=ギャバンのものだ。レジーナ姫はもちろん納得がいかない。
「こんなもの! アルトレートの名でもない!」
「レジーナ、ここにいるのが『悪魔憑き』であったアルトレートであればわしは王宮の安全の為にアルトレートを処分せねばなるまい。国の中枢に危険を及ぼすなど持っての他だ」
「でも! アルトレートは完治しています! もう『悪魔憑き』ではないわ!」
「……それがなぜわかる。そして、子孫の代まで影響がないと誰がわかる」
「……」
「お前が小さなころからずっとアルトレートを慕っていたことは知っている。あまりの一途さに絆されて一時はアルトレートとの結婚も許した……しかし、レジーナ。お前は王家の人間だ。隣国で夫を亡くしたからと言って好き勝手されては困る」
「それでは! またわたくしに国の駒になれと!?」
「アルトレートは命をもって国を守った。そして、私が押し付けたお前との婚姻も飲んだ。お前も、薄々感じていたろう? アルトレートの愛は親愛でしかないと。そんなアルトレートの前でお前はそう言うのか?」
「お父様!」
「トドーレ、レジーナを連れて立ち去れ、ここにいるのは私の古い友人、ユール=ギャバンだ。それで納得するなら第一騎士団の勝手な行動は不問にしよう」
「は、はい!!」
「お父様!!」
泣き叫ぶレジーナ姫を引きずるようにトドーレが連れて行った。その姿を見つめ、国王は深いため息をついた。
「すまない、アルトレート。あの子も落ち着けばわかるだろう。しかし、奇跡の生還で何よりだ。私もハーヴィーの報告書をストレンジ家に頼んで読ませてもらっていたのだよ。個人的にはとても嬉しい。これは君のご家族もそうだ。明日の朝、森の屋敷に戻るといい、そこの可愛い奥さんを連れてな」
「は……い。あ……りが……ござ……ま……す」
「何かあればいつでも頼ってきてくれ。アルトレート=ユール=ストレンジは私の誇りだ。そして、この詫びもさせてくれ」
「へ……か。も……わ…ゆぅ…る…で……す。」
「そうだったな。ユール。ハーヴィーもよく知らせてくれた。もう少しでレジーナはとんでもない事をしでかすところだ。さて、わしも部屋にもどろう、ハーヴィー、部屋まで送ってくれ。」
「はっ!!承知しました!!」
縄はハーヴィーが切ってくれた。今、ニナを拘束するのはユールの腕だけだ。事態を把握しきれなかったニナは顔を上げてユールを見上げた。ユールはそんなニナに頬ずりしてから優しい栗色の目で見つめてくれていた。
突然、声が聞こえた。
兵士に両脇を抱え込まれながら項垂れていたニナはその顔を上げた。
ニナはその擦れた声を聴くだけで涙がこぼれそうになった。見ると開け放たれた扉の向こう側からユールがこちらに向かってくるのが分かった。
「にぃなアアアア!!」
ユールは何度もニナの名を呼んだ。
「ユ、ユール様……」
ユールは杖も突かずに、渾身の体の力を振り絞ってニナに向かっていた。見ている人には歩くより少し早い、程度かもしれない。けれどもニナにはユールがどれほど頑張ってきたかがわかる。膝から下を動かすのにとても時間がかかっていたユールが、太ももの力を使ってそれを補ってうまく歩いている。
「はぁ、なせ!!」
ユールが腕を振り回して兵士からニナを奪い返した。
「あ、アルトレート?」
唖然としたレジーナ姫が口を開く。そのとき、ユールの後ろからハーヴィーを伴って、堂々とした男が現れた。
「レジーナ、これは一体どういうことだ。アルトレートは王家とは縁切りしておる。何故ここにアルトレートが?」
「お。お父様!!」
レジーナ姫のその言葉でニナは現れた男を驚きの目で見る。これが、国王陛下だと。
「トドーレ、レジーナに協力したのは第一騎士団としての意思か? お前の独断か?」
「そ、それは……」
「レジーナ、お前がしたことは『監禁』だ。これにアルトレートの意思はない。事実、アルトレートは私に助けを求めに来た」
「そ、そんな!!まさか!!」
「では、聞くが、ここへ連れてくるときに一度でもアルトレートの意見を聞いているのか?」
「そ……それは」
「レジーナ、一度許したことでお前に期待させてしまったのならわしも悪かった。けれどもアルトレートとの結婚は諦めてくれ。しかも、アルトレートはそこの娘とすでに夫婦だというではないか」
「え……」
これにはレジーナ姫を含むその場の者が息を呑んだ。もちろん、ニナも驚いてしまった。
「ハーヴィー、そうだな?」
「は、はい! ここに結婚承諾書が!」
ハーヴィーが持っていたのはユール=ギャバンとニナ=ギャバンのものだ。レジーナ姫はもちろん納得がいかない。
「こんなもの! アルトレートの名でもない!」
「レジーナ、ここにいるのが『悪魔憑き』であったアルトレートであればわしは王宮の安全の為にアルトレートを処分せねばなるまい。国の中枢に危険を及ぼすなど持っての他だ」
「でも! アルトレートは完治しています! もう『悪魔憑き』ではないわ!」
「……それがなぜわかる。そして、子孫の代まで影響がないと誰がわかる」
「……」
「お前が小さなころからずっとアルトレートを慕っていたことは知っている。あまりの一途さに絆されて一時はアルトレートとの結婚も許した……しかし、レジーナ。お前は王家の人間だ。隣国で夫を亡くしたからと言って好き勝手されては困る」
「それでは! またわたくしに国の駒になれと!?」
「アルトレートは命をもって国を守った。そして、私が押し付けたお前との婚姻も飲んだ。お前も、薄々感じていたろう? アルトレートの愛は親愛でしかないと。そんなアルトレートの前でお前はそう言うのか?」
「お父様!」
「トドーレ、レジーナを連れて立ち去れ、ここにいるのは私の古い友人、ユール=ギャバンだ。それで納得するなら第一騎士団の勝手な行動は不問にしよう」
「は、はい!!」
「お父様!!」
泣き叫ぶレジーナ姫を引きずるようにトドーレが連れて行った。その姿を見つめ、国王は深いため息をついた。
「すまない、アルトレート。あの子も落ち着けばわかるだろう。しかし、奇跡の生還で何よりだ。私もハーヴィーの報告書をストレンジ家に頼んで読ませてもらっていたのだよ。個人的にはとても嬉しい。これは君のご家族もそうだ。明日の朝、森の屋敷に戻るといい、そこの可愛い奥さんを連れてな」
「は……い。あ……りが……ござ……ま……す」
「何かあればいつでも頼ってきてくれ。アルトレート=ユール=ストレンジは私の誇りだ。そして、この詫びもさせてくれ」
「へ……か。も……わ…ゆぅ…る…で……す。」
「そうだったな。ユール。ハーヴィーもよく知らせてくれた。もう少しでレジーナはとんでもない事をしでかすところだ。さて、わしも部屋にもどろう、ハーヴィー、部屋まで送ってくれ。」
「はっ!!承知しました!!」
縄はハーヴィーが切ってくれた。今、ニナを拘束するのはユールの腕だけだ。事態を把握しきれなかったニナは顔を上げてユールを見上げた。ユールはそんなニナに頬ずりしてから優しい栗色の目で見つめてくれていた。
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