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私のフローに手をだすな7

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 それから他の部屋を回った。

 花のような香りがして、今しがたまで麻薬を使っていた痕跡のある場所があった。

「どうやらここで麻薬を吸っていたのですね」

 高級そうな喫煙具が転がっていて、それは闇魔術師の記憶のものと一致していた。

「ここにいたのが主要メンバーだろう」

「では、この香りをたどります」

「ジャニス?」

「フロー様、私はここにくるのに五メートルほど壁を駆けあがりました。以前の私の身体能力では無理です。そして、そもそもここにきたのはあなたの匂いをたどってきたからです。私は私の中にあるニッキーの能力がそうさせているのだと思います」

「……ポルト様に魂の浄化をしてもらっているんでしょう?」

「やはり全部知っているのですね。しかしその施術の間、ニッキーの記憶を引き継いで、あなたが愛しくなって溜まりません」

「そう、……だったのか。ははは。ジャニスが僕のことを愛してくれたのかと思って浮かれちゃたよ」

「え? フロー様は私の体にニッキーの魂を移そうとしたんですよね?」

「は? いや、そんな非道なこといくら僕でも考えないよ。それにそんなことするのは無理だ。神様じゃあるまいし」

「……ではどうしてニッキーの魂が私に?」

「色々なことが重なってこうなったとは思うけど、僕がニッキーの魂をジャニスに入れたのではないよ。そもそも魂が他の人に入ることがあるなんて知らないし」

「……稀にあるそうですよ」

「そうなんだ」

「……」

 私がポルト様に聞いたことをフロー様に教えるのは奇妙な気持ちだった。本当にフロー様がニッキーの魂を私に入れたのではないとすると

「いったい誰が?」

「原因があるとすれば、僕が母の術式を使って、ニッキーの魂と会話しようと呼び出したことだ」

「やっぱり、そうじゃないですか?」

「いやいや、待って。そう大したことのない術式だよ。いや術式っていうほどもない誰でも作れる文字を書いただけの表だよ。君は小さい頃にそういう体験はない? 文字を書いた紙を広げて、コインに人差し指を置くんだ。それで魂を呼ぶってやつ。普通はどこかの霊みたいなのを呼び出して自分たちの未来を聞いたりする遊びだよ」

「まさか、中等部に入る前に流行って放課後みんなが集まってコソコソやっていたアレですか?」

「多分、それだと思う。僕もやったことはなかったから詳しくはしらないけど。母の最期の手紙に入ってたんだ。ニッキーが亡くなって、辛かったらそれを使ってお別れを言いなさいって」

「……お母様が」

「でも『ニッキー、答えてくれ』ってなんども願ってやってみたけど、その時は何も起こらなかったんだ。けど、数日後、君が夜中に僕のところに訪れるようになった」

「え」

「初めは君を受け入れるつもりはなかった。屋敷のセキュリティを抜けて僕の部屋に突撃してきた怪しい女の子だからね。でも君の中にニッキーがいたって分かると拒否なんでできない。しかも外見もそっくりなんだ。それで、とりあえず夜にきた君の中のニッキーの相手をして、そっと部屋に帰すことを繰り返した。それから昼間の君を知るために調査した」

「な、なんていっていいか」

「西の森の調査を買って出たのもジャニスがどんな人なのか知ろうと思ったんだ。君は何も知らなかったけれど、僕はジャニスに惹かれて行く一方だった」

「……」

「ジャニスが僕に気持ちがないくらいわかってたよ。悔しかったけど、それは仕方ないし。でも、だんだん好きになってくれていたと思ったんだ。ポルト様に浄化をたのんだのも知っていたよ。ニッキーが居なくなると僕が悲しむと思って一生懸命抱き着いてくれるのが可愛くて……」

「なっ……」

「この件が終わったら、ちゃんと話しようと思ったんだ。でも魂の浄化が終わって、君が僕の元から去る可能性を考えると怖かった」

 目の前のフロー様が語ったことを、すぐに理解して信じるには私の頭の情報処理速度は追いつきそうになかった。

 ただ、もうすこし私たちの間で話し合う必要がことがあるということだけは分かった。そうして、次の質問を投げかけようとした時、闘技場の方から大きなラッパの音が響いた。
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