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偽りの一週間2

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 コトリ、と音が聞こえてきて、しばらくすると階段を登る音がする。時計を見ると零時を回ったところだった。不思議に思っていたけど、どうしてこんなにフロー様の帰りって遅いのだろう。

 しかし、今はそれどころじゃない。

 フロー様が寝室に行ったら、行動を起こさなければならない。

 夢だと思っていたあの熱烈な行動……。

 数々のイメージはある。後は実行できるかどうかだ。『ジャニス! 恥ずかしがってたら即バレよ!』リッツィ姉さんの叱咤が思い出される。どれだけ練習させられたか……。

 やるんだ。やらなければ。私はできる。

 パタン、とフロー様の寝室が締まる音を聞いて私はすぐさまそこへ向かった。

 フロー様の寝室のドアの前にきて確信する。フロー様はニッキーをくるのを待っているのだ。でなきゃトラップ魔法が解かれているわけがない。

 躊躇していいる場合じゃない! いざいかん!

「フロー! おかえりなさい!」

 バン、とドアを開けて一目散にフロー様のもとへ行くと、心を無にしてフロー様に抱き着いた。

「ただいま、いいこにしていたかい?」

 甘い、フロー様の優しい声が聞こえてくる。

「フローがいなくて寂しかったわ」

「……」

 ニッキーがそうしていたように抱き着いてみたが、緊張して言葉が続かない。てか、勢いよく抱き着いたけど、顔が近い、体温が! 恥ずかしすぎる!

 なるべくフロー様に顔を見られないように抱き着いていたが、フロー様に優しく体を離された。

「ニッキー」

「は、……う、うん?」

 じっと私を眺めるフロー様に冷や汗がでる。まさか、秒でバレた? するとゆっくりとフロー様が頬をこちらに差し出した。こ、こ、これは……知ってる! ニッキーはキスをするのが好きなんだよね!

 あああああっ! ままよ!

 ちゅっ、ちゅっ、と何回も軽くキスをして顔が見られないようまた抱き着いた。

 お願いだから、もう許してください。

 これ以上私にはムリ! ムリなのぉおおおお!

「どうしたんだい? 恥ずかしがって」

 そんな私の頭をフロー様が優しく撫でてくれた。やめてくれーっ! 惚れちゃうから―!

 心臓はバクバクで、もう顔も真っ赤だ。でも、気取られてはいけない。いけないからぁ!

「愛してるよ」

「え、ええと、あの、う、うん! 私もフローが世界一大好き!」

「……今日はこのまま一緒にベッドで寝ようか」

「うっ……うれしい……」

「ニッキー?」

「フローと眠れるなんて素敵!」

 フロー様に抱き着いたまま、持ち上げられるとそのままベッドに運ばれた。

 軽々と私を運べるんだ……。

 なんだか的外れなところに感心してしまう。フカフカのベッドに横たわったフロー様の腕の中に閉じ込められてなすすべもなく固まってしまう。

「君が優しい子だって、僕は知っている。ますます大好きだよ」

「わ、私も大好きよ」

 かろうじて答えるとフロー様の体が揺れていて、見上げると楽しそうに笑っていた。こんなに嬉しそうに笑うフロー様は初めて見た。零れるような笑顔に、ひと時みとれてしまった。

「大好きだって言ってもらえて嬉しい」

「……」

 ギュッと抱きしめられて、ぐりぐりと頭に頬で擦られてから額にキスをされた。ドキドキして、今まで感じたことのないようなフワフワした感覚に戸惑う。

 嬉しそうなフロー様。幸せそうなフロー様はなんてキラキラして素敵なのだろう。

 ずっとこのままこの腕の中に包まれていたい。そんなふうに感じているとフロー様の後ろにニッキーの肖像画が見えた。

 そこで、はっとして、自分がニッキーのふりをしていることを肝に銘じた。

 甘い、ニッキーである時間。 私とは味わえないだろう幸せな感覚。

 こんな姿を見せられて、フロー様のニッキーへの想いに泣きそうになった。
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