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Epilog─貴方の鳥籠に喜んで囚われる私の話─
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─ねぇ、知ってる? 明堂院家の新当主の凛翔様がご結婚なさったそうよ
─もちろん知っていますよ。なんと言っても、それはそれはとんでもない騒ぎになったのですから
─でも、奥様あまり表舞台には出てこられないわよねぇ
─あら、ご存知ないのですか? 奥様は体が弱くて、お子様を出産なさってからは、特に安静になさっていないといけないらしいですよ
─そうだったの? あまり奥様のことは報道されないから、よく知らなかったわ。知っているのは、凛翔様がとても奥様を愛しておられることだけよ
─そうですねぇ。凛翔様、普段も笑顔が素敵ですけれど、奥様の話になると本当に幸せそうな顔をしていらっしゃるんですもの
─あんな顔をされては、もう横恋慕しようという気も失せてしまうわよね
─うふふっ。貴方そんなことに考えていたのですか。でも、本当に幸せになって欲しいですよね
─えぇ、まったくだわ
明堂院 凛翔が明堂院家を継ぐと共に結婚を発表したときには、日本中が大騒ぎになった。あの美貌の凛翔が誰かのものになる。それは世の女性たち衝撃を与えた。良家のお嬢様はあわよくば私を妻に、と考えるものも大勢いたので、知らぬ存ぜぬところで勝手に婚姻相手が決まっていたことに対して、反発が強かった。それをとめたのが凛翔本人。彼は見事な手腕で世論を動かした。今では、二人の結婚に異を唱えるものはいない。
妻になってからというもの、私は毎日が大変だった。ということもなく、本当に平和に過ごした。だって、私は何もすることがなかった。お馴染みのいつの間にか攻撃で、凛翔さんが私にとって最適の環境を整えていた。夫を支える妻として、これでいいのか疑問に思ったが、凛翔さんが満足そうなので、もう何も言うまい。
あれからというもの、私は凛翔さん以外に会っていない。文字通りに会っていない。一度だけ、凛翔さんのお義父様にお会いさせていただいたが、病院で助言をくれた男性が凛翔さんのお父様だということには驚いた。挨拶を終え、後でお義母様はどうして挨拶の場にいなかったのか聞くと(凛翔さんのご両親は共にご健全である)、「あぁ、父親は母様を誰にも見せたくないんだよ」としれっと答えた。それを聞いたとき納得した。確かに、お義母様は私と同様、表舞台に全く出てこられない。全く。同時に、あっ、凛翔さんのこの執着は血かな、と思ったのは内緒だ。
私は今、凛翔さんが買った家で、凛翔さんの帰りを待っている。お手伝いさんはおらず、家事は私がやっている。まぁ、明堂院の妻の役目をしていないので、これぐらいは全然苦じゃない。元々人と付き合うのは嫌いだし、唯一の友達の万莉と波瑠華とは連絡を取り合っているので不満もない。
そんな幸せな私の足には、今、鎖が繋がれている。鎖。そう、物理的にも私はこの家から出られない。しかも、足首をおおっている部分は強力な革製で足が痛くならないという配慮つき。歩く度にジャラジャラと音が鳴る。拘束されている感が半端ない。しかも、我が家には監視カメラと、盗聴器が至るところにある。なぜ知っているかと言うと、「雪麗のことはなんでも知っておきたいんだ。だから、いいよね?」と言ってきたから。あの時の凛翔さんは有無を言わせない迫力があった。そんなところで威圧を使わなくとも、私は嫌がったりしないのに。それと、言われたらそれは監視や盗聴じゃない。
でも、私はそれが嬉しい。束縛されるほどの愛があることが嬉しいのだ。私には、重すぎるくらいの愛情が丁度いいから。私の世界は凛翔さんで完結する。
でも、そんな世界に一人の天使がやってくるのだ。結婚して五年。やっと私のお腹に凛翔さんとの子どもができた。私は喜んだ。やっと家族ができる、そう思ったから。
私が生まれ育った、あの歪な家族じゃない。今度は凛翔さんとこの子とで、幸せな家庭を作る。それが何よりも嬉しかった。
一人でふふっと笑っていると、玄関の方からただいま、という声が聞こえてくる。凛翔さんだ。私は急いで玄関の方へ行った。
「おかえりなさい! 凛翔さん」
─もちろん知っていますよ。なんと言っても、それはそれはとんでもない騒ぎになったのですから
─でも、奥様あまり表舞台には出てこられないわよねぇ
─あら、ご存知ないのですか? 奥様は体が弱くて、お子様を出産なさってからは、特に安静になさっていないといけないらしいですよ
─そうだったの? あまり奥様のことは報道されないから、よく知らなかったわ。知っているのは、凛翔様がとても奥様を愛しておられることだけよ
─そうですねぇ。凛翔様、普段も笑顔が素敵ですけれど、奥様の話になると本当に幸せそうな顔をしていらっしゃるんですもの
─あんな顔をされては、もう横恋慕しようという気も失せてしまうわよね
─うふふっ。貴方そんなことに考えていたのですか。でも、本当に幸せになって欲しいですよね
─えぇ、まったくだわ
明堂院 凛翔が明堂院家を継ぐと共に結婚を発表したときには、日本中が大騒ぎになった。あの美貌の凛翔が誰かのものになる。それは世の女性たち衝撃を与えた。良家のお嬢様はあわよくば私を妻に、と考えるものも大勢いたので、知らぬ存ぜぬところで勝手に婚姻相手が決まっていたことに対して、反発が強かった。それをとめたのが凛翔本人。彼は見事な手腕で世論を動かした。今では、二人の結婚に異を唱えるものはいない。
妻になってからというもの、私は毎日が大変だった。ということもなく、本当に平和に過ごした。だって、私は何もすることがなかった。お馴染みのいつの間にか攻撃で、凛翔さんが私にとって最適の環境を整えていた。夫を支える妻として、これでいいのか疑問に思ったが、凛翔さんが満足そうなので、もう何も言うまい。
あれからというもの、私は凛翔さん以外に会っていない。文字通りに会っていない。一度だけ、凛翔さんのお義父様にお会いさせていただいたが、病院で助言をくれた男性が凛翔さんのお父様だということには驚いた。挨拶を終え、後でお義母様はどうして挨拶の場にいなかったのか聞くと(凛翔さんのご両親は共にご健全である)、「あぁ、父親は母様を誰にも見せたくないんだよ」としれっと答えた。それを聞いたとき納得した。確かに、お義母様は私と同様、表舞台に全く出てこられない。全く。同時に、あっ、凛翔さんのこの執着は血かな、と思ったのは内緒だ。
私は今、凛翔さんが買った家で、凛翔さんの帰りを待っている。お手伝いさんはおらず、家事は私がやっている。まぁ、明堂院の妻の役目をしていないので、これぐらいは全然苦じゃない。元々人と付き合うのは嫌いだし、唯一の友達の万莉と波瑠華とは連絡を取り合っているので不満もない。
そんな幸せな私の足には、今、鎖が繋がれている。鎖。そう、物理的にも私はこの家から出られない。しかも、足首をおおっている部分は強力な革製で足が痛くならないという配慮つき。歩く度にジャラジャラと音が鳴る。拘束されている感が半端ない。しかも、我が家には監視カメラと、盗聴器が至るところにある。なぜ知っているかと言うと、「雪麗のことはなんでも知っておきたいんだ。だから、いいよね?」と言ってきたから。あの時の凛翔さんは有無を言わせない迫力があった。そんなところで威圧を使わなくとも、私は嫌がったりしないのに。それと、言われたらそれは監視や盗聴じゃない。
でも、私はそれが嬉しい。束縛されるほどの愛があることが嬉しいのだ。私には、重すぎるくらいの愛情が丁度いいから。私の世界は凛翔さんで完結する。
でも、そんな世界に一人の天使がやってくるのだ。結婚して五年。やっと私のお腹に凛翔さんとの子どもができた。私は喜んだ。やっと家族ができる、そう思ったから。
私が生まれ育った、あの歪な家族じゃない。今度は凛翔さんとこの子とで、幸せな家庭を作る。それが何よりも嬉しかった。
一人でふふっと笑っていると、玄関の方からただいま、という声が聞こえてくる。凛翔さんだ。私は急いで玄関の方へ行った。
「おかえりなさい! 凛翔さん」
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