16 / 21
第十四話─蛹─
しおりを挟む
あの日から数週間、特に何事もなく日常は過ぎっていった。でも、私の中では、彼の存在が何度もうかんで、どうしようもないくらい、私は彼のことでいっぱいだった。この感情が、なんというものなのか、もう、私は気づいているくせに後戻り出来ないのが怖くて明確な答えを出せていない。彼もそのことに気づいているのか、私を急かすようなことはしなかった。
ただ、人前でも会話をするようになることを除いては。彼はあからさまに私に接触するようになった。まるで、恋人かなにかのようにして。私は周りに誤解されるのが怖くて、やめてほしかったが、それを彼に伝えることは出来なかった。自分の言うことを聞かないやつはいらないと、彼に捨てられるのが怖かったから。自分がもう、後戻り出来ないくらい、彼に依存しているなんて、絶対に認めたくない。
彼を拒むことも出来ず、彼を受け入れることも出来ない。
私は途方に暮れていた。
「.........はぁ」
最近、ため息をつく回数が増えているのは、きっと気のせいじゃない。
「どうしたの?」
いつもと明らかに様子の違う私は、結弦は心配してくれる。彼女には心配ばかりかけて、迷惑ばかりかけている。そんな自分が情けなくて嫌になる。
「うん。なんだか、踏ん切りがつかなくて。どうしたらいいのかわからなくて困ってる」
「......そう。そんなに困ってるの?」
「.........困ってる。自分の中で答えは決まってるけど、それを絶対に認めたくないの。認めたら、戻って来れなくなっちゃう」
「.........」
一体なんのことで悩んでいるのか、私のこの言葉からわかったはずだが、結弦は何も言わずにわたしの頭を撫ででくれた。
「大丈夫よ」
「え............?」
「大丈夫、私が守ってあげるわ」
「結弦?」
「ね? だから安心なさい?」
「..................ぅ....ん」
結弦の有無を言わせない迫力に気圧されて思わず、返事をしてしまう。言い訳をしてもいいのなら、この時私はだいぶ参っていた。自分の正直な気持ちに嘘をついているのに限界を感じて、でも自分の全てを明堂院 凛翔に委ねるなんて、そんな覚悟はできなくて、うじうじとみっともなく、悲劇のヒロインのような気持ちでいたのだ。だから、そんな私に罰が罰が下ったのかもしれない。
結弦の様子がおかしいことは明らかで、普段彼女と過ごしている私が、それを見過ごすなんてこと、ありえない事だった。でも、私は臭いものには蓋をして、結弦がおかしくなっていたことに気付かないふりをしていた。
最近の私が弱っていたように、最近の結弦はどこか危うかった。私がそばにいないときは、無気力にぼーっとしていて、私を一目見ると、途端に活力を取り戻したように普段通りになったのだ。
それはまるで、私のためだけに生きる人形のようで。私は、友達だというのに、結弦のその変わりように恐怖心を抱いてしまっていた。結弦に恐怖を感じた私は、恐怖を感じなくなった明堂院にすがった。彼が傍にいれば、結弦は不思議と近づいてこなかった。無意識のうちに、私はそれを利用して、結弦から距離をとっていた。
私が気づいていないうちにしていたその行動は、明堂院と結弦には筒抜けだった。明堂院はそれに気分を良くし、結弦はさらに狂っていった。
そのことに気づいていないのは、二人を狂わせた私だけだった。
今思うと、本当に愚かだったと思う。
自分は散々結弦に頼っておいて、いざ、結弦が怖くなったからといって、私は簡単に結弦の元を離れた。
いや、明堂院の存在があったからこそ、私は結弦の元を離れたかったのかもしれない。結弦と一緒にいると知ると彼は、あからさまにはださないけれど、嫌そうだった。彼の嫌がることはしたくなかった。
もう、その時点で私はだいぶ彼に侵されていて、彼なしでは生きていけなくなっていたのだろうけど、そんなことを考える余裕は私になかった。
あんなに私をドロドロに甘やかしてくれる人はいなかったから。彼に捨てられるのが怖かった。
でも、全ては間違いだったのだ。
あのとき、ああしていれば、こうしていれば、結弦の苦悩に気づいていれば。あんなことは起きなかった。
私の彼への想いは、着実に育っていった。
ただ、人前でも会話をするようになることを除いては。彼はあからさまに私に接触するようになった。まるで、恋人かなにかのようにして。私は周りに誤解されるのが怖くて、やめてほしかったが、それを彼に伝えることは出来なかった。自分の言うことを聞かないやつはいらないと、彼に捨てられるのが怖かったから。自分がもう、後戻り出来ないくらい、彼に依存しているなんて、絶対に認めたくない。
彼を拒むことも出来ず、彼を受け入れることも出来ない。
私は途方に暮れていた。
「.........はぁ」
最近、ため息をつく回数が増えているのは、きっと気のせいじゃない。
「どうしたの?」
いつもと明らかに様子の違う私は、結弦は心配してくれる。彼女には心配ばかりかけて、迷惑ばかりかけている。そんな自分が情けなくて嫌になる。
「うん。なんだか、踏ん切りがつかなくて。どうしたらいいのかわからなくて困ってる」
「......そう。そんなに困ってるの?」
「.........困ってる。自分の中で答えは決まってるけど、それを絶対に認めたくないの。認めたら、戻って来れなくなっちゃう」
「.........」
一体なんのことで悩んでいるのか、私のこの言葉からわかったはずだが、結弦は何も言わずにわたしの頭を撫ででくれた。
「大丈夫よ」
「え............?」
「大丈夫、私が守ってあげるわ」
「結弦?」
「ね? だから安心なさい?」
「..................ぅ....ん」
結弦の有無を言わせない迫力に気圧されて思わず、返事をしてしまう。言い訳をしてもいいのなら、この時私はだいぶ参っていた。自分の正直な気持ちに嘘をついているのに限界を感じて、でも自分の全てを明堂院 凛翔に委ねるなんて、そんな覚悟はできなくて、うじうじとみっともなく、悲劇のヒロインのような気持ちでいたのだ。だから、そんな私に罰が罰が下ったのかもしれない。
結弦の様子がおかしいことは明らかで、普段彼女と過ごしている私が、それを見過ごすなんてこと、ありえない事だった。でも、私は臭いものには蓋をして、結弦がおかしくなっていたことに気付かないふりをしていた。
最近の私が弱っていたように、最近の結弦はどこか危うかった。私がそばにいないときは、無気力にぼーっとしていて、私を一目見ると、途端に活力を取り戻したように普段通りになったのだ。
それはまるで、私のためだけに生きる人形のようで。私は、友達だというのに、結弦のその変わりように恐怖心を抱いてしまっていた。結弦に恐怖を感じた私は、恐怖を感じなくなった明堂院にすがった。彼が傍にいれば、結弦は不思議と近づいてこなかった。無意識のうちに、私はそれを利用して、結弦から距離をとっていた。
私が気づいていないうちにしていたその行動は、明堂院と結弦には筒抜けだった。明堂院はそれに気分を良くし、結弦はさらに狂っていった。
そのことに気づいていないのは、二人を狂わせた私だけだった。
今思うと、本当に愚かだったと思う。
自分は散々結弦に頼っておいて、いざ、結弦が怖くなったからといって、私は簡単に結弦の元を離れた。
いや、明堂院の存在があったからこそ、私は結弦の元を離れたかったのかもしれない。結弦と一緒にいると知ると彼は、あからさまにはださないけれど、嫌そうだった。彼の嫌がることはしたくなかった。
もう、その時点で私はだいぶ彼に侵されていて、彼なしでは生きていけなくなっていたのだろうけど、そんなことを考える余裕は私になかった。
あんなに私をドロドロに甘やかしてくれる人はいなかったから。彼に捨てられるのが怖かった。
でも、全ては間違いだったのだ。
あのとき、ああしていれば、こうしていれば、結弦の苦悩に気づいていれば。あんなことは起きなかった。
私の彼への想いは、着実に育っていった。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!
高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
無理やり婚約したはずの王子さまに、なぜかめちゃくちゃ溺愛されています!
夕立悠理
恋愛
──はやく、この手の中に堕ちてきてくれたらいいのに。
第二王子のノルツに一目惚れをした公爵令嬢のリンカは、父親に頼み込み、無理矢理婚約を結ばせる。
その数年後。
リンカは、ノルツが自分の悪口を言っているのを聞いてしまう。
そこで初めて自分の傲慢さに気づいたリンカは、ノルツと婚約解消を試みる。けれど、なぜかリンカを嫌っているはずのノルツは急に溺愛してきて──!?
※小説家になろう様にも投稿しています
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる