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第十三話─初の開花─

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「はぁ....はっ、はぁ」

 何もかもが突然過ぎて、頭が働かない。私は一体何をしているのだろうか。どうして彼は私にキスをしてきたのか。心臓がバクバクとうるさくて、死んでしまいそうなほど、異常な動きをしている。考えなければならないのに、考えることが出来ない。どうして、どうして。

「ふふ、驚いてる。何も考えられない?」

 どうして敬語じゃないのだろうか? 彼は誰にでも礼儀正しい人だったはずなのに。

「あぁ、それはね。それは私が取り繕った明堂院 凛翔だからですよ」

 私の考えを読んだかのように、彼が話す。じゃあ、こちらの敬語が抜けている彼が、本来の彼?

「そうだよ。この僕を見せたのは後にも先にも君だけだよ」

 どうして私に?

「それは君が、僕の特別だから」

 特別?

「そう、特別。初めて僕に感情を植えつけてくれた人」

 それだけで?

「僕にとってはそれじゃないんだよ。ね、そろそろ話してくれないかな?」

「..................。」

 いきなりそんなことを言われても困る。だって、頭がついていかない。どうして、そんなに執着してしまうのかも分からないのに。

「本当に?」

「ぇ.........?」

「本当に、どうして僕が君に執着しているのか、分からなの?」

「.........」

「そんなわけないよね。君はとても聡明だ。分からないわけがない。本当は気づいてるんでしょ? だって.........」

「.........だって、私と貴方は同類だもの」

 明堂院の言葉に被せるように言うと、彼はとても満足そうな顔で笑った。

「ずっと、ずっと、寂しかった。.........満たされなかった。愛情なんて感じることが出来なくて。私はどうして生まれてきたんだろうって。だって、私なんて生まれてこなければ、お母さんはあの男から逃げることが出来たはずだもの。」

 私は、ずっと不安だった。母は私が必要だと言っていたけれど、私の存在が結果的に母を父に縛り付けてしまったのには変わらないのだ。私を育てるため、お金がいる。母一人では、到底工面できるものだは無い。それに、母が欲しがっていた、祖母の愛を、父の愛を、母をから奪ってしまったのは紛れもない私だ。そんな母にとって略奪者である私を、母が心から愛してくれるなんて、私にはずっと疑問だった。私は、誰からの愛情もかんじることができなかった。その内、私も本当に愛するものがいるのか分からなくなって、訳が分からなくなって、誰も、自分のことですら、信じられなくなった。

 私は生まれたときから独りだった。

「愛情がわからない私は、必死に愛情を求めた。欲しがりな私は、人を愛することが分からなかった。貴方を見たとき、なんて、.........なんて孤独な人だろうって思った。貴方はとても私に似ていた。.........誰のことも信じていないところとか、貴方のことを観察すればするほど、貴方を近くに感じてしまって。怖かった、だって、私のような人間は一度、を見つけてしまったら、決してそれを手放すことができなくなる。依存して、ドロドロに溶かして、きっと閉じ込める。そうなることが分かっていたから、人と接するときは一線を引いていたのに。私は貴方を拒めなかった」

「.........。僕は、貴女に会って、初めて感情を知ったとき初めて、人に興味を抱いたんだ。幼いときから、周りの人間たちは、僕のことを明堂院家の跡取りとしか見ていなかった。それを、察してしまった僕は、誰に何も求めなくなった。全てのことに興味を失ってしまったんだ。諦めていた、もう生涯、僕は死んだように生きるんだろうと。そんな時だ、君に出会ったのは。初めてだった。こんなに生きていてよかったと思ったのは。だからね、何があっても、僕は君を手放すつもりはないんだよ」

 その時知る。あぁ、最初から私に逃げ場なんてなかったのだ。この男に目をつけられたその瞬間から、私の運命は決まっていた。そう思うと、今までの不安や恐怖が消えていく。この男の存在が、とても自然に自分の中に墜ちていくのがわかった。いや、堕ちたのは私か。

「私のしたことは全部無駄だった?私の運命は初めから決められていた?」


「そうだよ。君は一生僕と一緒にいて、一生僕だけを見て、僕のことを考えていればそれでいいからね」














─愛してるよ─






















 その言葉を聞いた途端、私は確かに何かが花開く予感と、鎖の重苦しい音を聞いた気がしたのだ。
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