13 / 21
第十一話─ 変化─
しおりを挟む
明堂院に対して興味を持ってから、私の中で、彼に対する印象が少し変わった。今までは、恐怖というフィルターがかかっていたからか、すこし穿った考え方をしていた。全ての言動に裏があるのではないか、と思ってしまったのだ。確かに、彼は全てのものに関心がない。生きていることにも頓着していない。まるで、人形がそこにいるかのような、みんなの望む明堂院 凛翔がそこにいる。それは決して、真実の明堂院 凛翔ではないと思っている。私はそんなに彼のことまだ知らないから、断言出来る訳じゃないが、そんなふうに感じてしまう。そして、その事を知っている人間は、ほんの数人しかいない。その数人も、明堂院 凛翔の本当を知っているのだろうか。私にはそれが疑問だった。もし、知らなかったなら?彼は独りだ。誰も彼を知らない、見ていない、認識していない。そう思ってしまったとき、私は誰よりも人に囲まれているあの人は、誰よりも孤独なのだと知った。
それからは、彼がどんな人間なのか、知りたいと思った。私が見つけたいと思った。一人は寂しいもの、それは私がよく知っている。沢山の人が周りにいたとしても、心を通わせていなかったら、それは一人でいるのと同じ、むしろ、一人でいる方が楽だ。
それでも、私は彼を見つけてあげたいと思った。だって、私と彼は似ている。周りに合わせて生きるしかなかった、自分の感情を押し殺すしかなかった私達。こんなのはただの自己満足だ。そんなこと分かっている。でも、一人ならなくてすむように、私が、見つけたいと思ったんだ。
どうして彼が、あんなに濁った瞳をしているのか、私にはまだ分からない。でも、その瞳をするようになった理由があると思うだけで、彼への恐怖心は少し和らいでいた。
だから、もう逃げるのはやめる。彼と向き合う。だって、こんなにも私の心に住みついている。その気持ちを無視するなんて、出来そうにない。
そうして、私は決心する。もう一度彼と直接話をしようと。
─────────────────────────────
「ぁ.......あぁ、うぁ..................ううぅぅぅう!」
結弦がそのうめき声を聞いたのは、確か一年の夏頃。明らかに尋常じゃない様子に何事かと思い、暗がりを覗き込むと、そこには泣いている女がいた。
結弦がその女を見た途端、なんて綺麗な子なのだろうと思った。自分もそこそこ整った顔立ちをしていると思っていたが、泣いている女はその比じゃない。
普段かけている眼鏡をとったら、そこには長い睫毛が綺麗に縁取られているぱっちりとした、水晶のように澄んだ瞳。紅く色づいた頬。髪はいつものように括られておらず、長く流れる美しい黒髪は艶やかだ。乾燥なんてしていない、瑞々しく感じる唇も、少し艶めいていて色気がある。そして、何よりもその肌は白くそして綺麗で透き通るような印象を抱く。
結弦は成程と思った。彼女がダサすぎると周りから囁かれても、頑なにお洒落をしなかったのは、自分の魅力を隠すためだったのだと理解したからだ。
結弦はその女に興味を持った。だから、普段は無視して行くところを、わざわざ声をかけたのだ。
「ねぇ、そこの貴女。こんな所で泣いていたら誰かに襲われてしまうわよ?」
「ぁ.........。あの君は.........誰..................ですか?」
「ふふ、私は有明 結弦。貴女と同じ心理学部の人間よ」
「有明さん.........?」
「結弦でいいわ、同じ学年でしょ?貴女一年よね」
「どうして、知って.........」
「貴女、ある意味有名だもの、根暗女って言われているの知らなかった?」
「ぇ.........嘘、知らなかった。」
「まぁ、立ち話も何だし、どこか落ち着くところに移動しましょう」
それが、有明 結弦と御嘉 雪麗の出会いであった。
「私は明堂院 凛翔が怖いの」
雪麗がそう言ったとき、結弦は少し驚いた。確かに、嘘くさい奴だとは思ったけれど、そこまで怯えるほどなのか。ただ、彼女の震え方が普通ではなかったので、そうなのだろうと納得した。彼を恐怖の対象として初めから捉えたのは、後にも先にも、雪麗だけだろうな、と結弦は思った。
そうして、彼女は己の過去についてぽつり、ぽつりと話し出した。予想した以上に過酷で、感受性や共感能力の高い雪麗には、さぞ苦しい環境だっただろうなと思いながら震える雪麗を見ていた。結弦も似たような境遇の者だと言えば、雪麗は明らかに安心した様子で笑った。
その笑顔を見て、結弦は決意したのだ。
御嘉 雪麗は私が必ず守ろうと──。
変化というのはいつも急速にやってくる。雪麗が直接明堂院に会ってからというもの、彼女は明堂院に対する印象を少し変えたようだった。彼女は彼に心を砕くようになってしまったのだ。それから彼女は、明堂院を知ろうと、ただ彼を真っ直ぐに追いかけ続けていた。彼女は気づいていないが、明堂院はそれに気づいていて、そうして放置していた。彼が雪麗を見る目はあまりにも他の人間のそれとは違う。まるで、神でも見るような蕩けるその瞳に気づいたものは結弦と、あとは彼の聡い友人数名。
結弦は思った。
これでは蜘蛛の巣に絡めとられた蝶のようだ。
それでも、結弦は雪麗を守ると決意した。その気持ちは今でも揺らがない。
─だって、雪麗は私の大事な大事な大好きなお友達なんですもの─
それが歪んだ友情愛とは、まだ誰も、本人すら気づかないまま。
それからは、彼がどんな人間なのか、知りたいと思った。私が見つけたいと思った。一人は寂しいもの、それは私がよく知っている。沢山の人が周りにいたとしても、心を通わせていなかったら、それは一人でいるのと同じ、むしろ、一人でいる方が楽だ。
それでも、私は彼を見つけてあげたいと思った。だって、私と彼は似ている。周りに合わせて生きるしかなかった、自分の感情を押し殺すしかなかった私達。こんなのはただの自己満足だ。そんなこと分かっている。でも、一人ならなくてすむように、私が、見つけたいと思ったんだ。
どうして彼が、あんなに濁った瞳をしているのか、私にはまだ分からない。でも、その瞳をするようになった理由があると思うだけで、彼への恐怖心は少し和らいでいた。
だから、もう逃げるのはやめる。彼と向き合う。だって、こんなにも私の心に住みついている。その気持ちを無視するなんて、出来そうにない。
そうして、私は決心する。もう一度彼と直接話をしようと。
─────────────────────────────
「ぁ.......あぁ、うぁ..................ううぅぅぅう!」
結弦がそのうめき声を聞いたのは、確か一年の夏頃。明らかに尋常じゃない様子に何事かと思い、暗がりを覗き込むと、そこには泣いている女がいた。
結弦がその女を見た途端、なんて綺麗な子なのだろうと思った。自分もそこそこ整った顔立ちをしていると思っていたが、泣いている女はその比じゃない。
普段かけている眼鏡をとったら、そこには長い睫毛が綺麗に縁取られているぱっちりとした、水晶のように澄んだ瞳。紅く色づいた頬。髪はいつものように括られておらず、長く流れる美しい黒髪は艶やかだ。乾燥なんてしていない、瑞々しく感じる唇も、少し艶めいていて色気がある。そして、何よりもその肌は白くそして綺麗で透き通るような印象を抱く。
結弦は成程と思った。彼女がダサすぎると周りから囁かれても、頑なにお洒落をしなかったのは、自分の魅力を隠すためだったのだと理解したからだ。
結弦はその女に興味を持った。だから、普段は無視して行くところを、わざわざ声をかけたのだ。
「ねぇ、そこの貴女。こんな所で泣いていたら誰かに襲われてしまうわよ?」
「ぁ.........。あの君は.........誰..................ですか?」
「ふふ、私は有明 結弦。貴女と同じ心理学部の人間よ」
「有明さん.........?」
「結弦でいいわ、同じ学年でしょ?貴女一年よね」
「どうして、知って.........」
「貴女、ある意味有名だもの、根暗女って言われているの知らなかった?」
「ぇ.........嘘、知らなかった。」
「まぁ、立ち話も何だし、どこか落ち着くところに移動しましょう」
それが、有明 結弦と御嘉 雪麗の出会いであった。
「私は明堂院 凛翔が怖いの」
雪麗がそう言ったとき、結弦は少し驚いた。確かに、嘘くさい奴だとは思ったけれど、そこまで怯えるほどなのか。ただ、彼女の震え方が普通ではなかったので、そうなのだろうと納得した。彼を恐怖の対象として初めから捉えたのは、後にも先にも、雪麗だけだろうな、と結弦は思った。
そうして、彼女は己の過去についてぽつり、ぽつりと話し出した。予想した以上に過酷で、感受性や共感能力の高い雪麗には、さぞ苦しい環境だっただろうなと思いながら震える雪麗を見ていた。結弦も似たような境遇の者だと言えば、雪麗は明らかに安心した様子で笑った。
その笑顔を見て、結弦は決意したのだ。
御嘉 雪麗は私が必ず守ろうと──。
変化というのはいつも急速にやってくる。雪麗が直接明堂院に会ってからというもの、彼女は明堂院に対する印象を少し変えたようだった。彼女は彼に心を砕くようになってしまったのだ。それから彼女は、明堂院を知ろうと、ただ彼を真っ直ぐに追いかけ続けていた。彼女は気づいていないが、明堂院はそれに気づいていて、そうして放置していた。彼が雪麗を見る目はあまりにも他の人間のそれとは違う。まるで、神でも見るような蕩けるその瞳に気づいたものは結弦と、あとは彼の聡い友人数名。
結弦は思った。
これでは蜘蛛の巣に絡めとられた蝶のようだ。
それでも、結弦は雪麗を守ると決意した。その気持ちは今でも揺らがない。
─だって、雪麗は私の大事な大事な大好きなお友達なんですもの─
それが歪んだ友情愛とは、まだ誰も、本人すら気づかないまま。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる