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第七話─余波─
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「.........疲れた」
私は帰宅してすぐ、ため息とともにそう呟いた。
今日の疲弊は、人生で一番だと言っても過言ではないほどのものだった。
それもそうだ。今まで避けに避けまくっていた相手と対面で話し合ったのだから。
最初こそ、いけるかもしれない、と謎の自信があったが、いざ、彼を目の前にすると足がすくみ、気を抜くと震えが止まらなくらいそうだった。
今思へば、それも当たり前だ。昨日今日で恐怖がなくなる訳ではない。ずっと、怖いと思っていた人に会ったのだから、恐怖を感じない方がおかしいのだ。
それにしても疲れた。早く寝て明日に備えるためにお風呂に入ろう。
そうして、私は動きだした。
「はぁー、暖まる」
湯船に浸かって、今日の疲れを癒す。
ほんの少しリラックス出来た頭で、私は今日のことを振り返った。よく働かなかった頭でも、上手く対応出来ていたように思う。態度だけ見れば、成功と言えるだろう。......態度だけ見れば。
私はどうしても不安が拭えない。
あの対応で果たして良かったのだろうか?
彼に幻滅してもらえたのだろうか?
「わからない......」
あの時の彼の嬉しそうな笑い声が、頭にこびりついて離れない。恐怖状態でもわかるほど、あの時の彼は本当に嬉しそうだった。
今になってわかる。
私は冷静じゃなかった、と。冷静な振りをしていただけで、全然周りが見えていなかった。
だからわからない。
どうして彼があんなも嬉しそうだったのか。
私の対応が、私にとっての正解だったのか。
私はあの時どうすれば良かったのか。
そして、彼がどう私のことを判断したのか。
何もかもわからない。
「わからないよぉ.........」
様々な疑問と感情が入り交じって泣き出してしまう。
私はどうすれば良かったの?どうしたら良かったの?
お願い、誰か、お願いだから
誰か
「.........たす............けてっ!」
私に逃げ道をちょうだい。
貴方の執着なんていらない。
多分、まだ貴方は私にそれほど興味を抱いていないのでしょう?
だって、貴方がそんな簡単な人じゃないのは、見ていればわかる。本当に今まで見たことのなかった反応をしたから、少し興味が湧いただけだったのでしょう?
じゃあ、もうほっといて。
これ以上、人との関わりなんていらない。
貴方なんていらないから、もう私に関わらないで
お願いだからほっといて。
「うぅ......ふっえぇ」
嗚咽が漏れる。
ひとしきり泣いた後、就寝準備を済ませ布団に潜る。
もう何も考えたくない。
強く瞳を瞑る。
襲いくる眠気に抗うことなく微睡ろんでいく。
そうして、私は思考を放棄した。
もう何もしなくない。
翌日、アラームがなる前に目を覚ました私は、朝一番にそう思った。何もする気がおきない。
でも、残念ながら今日は大学がある。午後からだけど。
そう考えると、助かったかもしれない。単位のことを考えると休むわけにはいかないし、かといって朝から準備して授業を受けに行く気にもなれない。というか、出来ない。
せめて、午前中に落ち着いていますようにと祈りながら、ベッドから抜け出した。
──最悪だ。
恐怖は全然薄まってはくれなかった。むしろ、大学へ行かねばと思う度に、足がすくんでしまった。
あぁ、やっぱり、この恐怖は消えてはくれないのか。
人はすぐには変われないというが、全くもってその通りだ、と身をもって知る。
それに大学内は当然人が多い。様々な気持ちが入り乱れて吐き気がしそうだ。
嫉妬、妬み、蔑み、優越感、嫌悪──
汚いきたない、あらゆる感情がごちゃごちゃにかき混ぜられて、ぐるぐると回っている。
それらの黒い感情が、人たらしめているのだと、わかってはいるが気持ちが悪い。
酔いそう、吐きそう、死んでしまいそう
歩く速度は遅く、鞄をぎゅっと握りしめ、うつむき加減なおかげか、周りからは陰鬱とした人間に見えているのだろう。
先程から、こちらを見てはひそひそと遠巻きに囁かれているのがよくわかる。心配そうに見てくる者も中にはいるが、話しかけてはこない。
自分が可愛いからだ。
勿論、その気持ちはわかる。私だってそうする。
だが、今は誰かにこの苦しみを理解してもらいたくて仕方がなかった。
だって、今にも泣きそうなんだもの。
──お願い。
誰か
誰か
─私に気づいて─
「雪麗っ!」
そんな、鬱々とした気分でいると、不意に力強く呼ばれた自分の名前にハッとした。
私は帰宅してすぐ、ため息とともにそう呟いた。
今日の疲弊は、人生で一番だと言っても過言ではないほどのものだった。
それもそうだ。今まで避けに避けまくっていた相手と対面で話し合ったのだから。
最初こそ、いけるかもしれない、と謎の自信があったが、いざ、彼を目の前にすると足がすくみ、気を抜くと震えが止まらなくらいそうだった。
今思へば、それも当たり前だ。昨日今日で恐怖がなくなる訳ではない。ずっと、怖いと思っていた人に会ったのだから、恐怖を感じない方がおかしいのだ。
それにしても疲れた。早く寝て明日に備えるためにお風呂に入ろう。
そうして、私は動きだした。
「はぁー、暖まる」
湯船に浸かって、今日の疲れを癒す。
ほんの少しリラックス出来た頭で、私は今日のことを振り返った。よく働かなかった頭でも、上手く対応出来ていたように思う。態度だけ見れば、成功と言えるだろう。......態度だけ見れば。
私はどうしても不安が拭えない。
あの対応で果たして良かったのだろうか?
彼に幻滅してもらえたのだろうか?
「わからない......」
あの時の彼の嬉しそうな笑い声が、頭にこびりついて離れない。恐怖状態でもわかるほど、あの時の彼は本当に嬉しそうだった。
今になってわかる。
私は冷静じゃなかった、と。冷静な振りをしていただけで、全然周りが見えていなかった。
だからわからない。
どうして彼があんなも嬉しそうだったのか。
私の対応が、私にとっての正解だったのか。
私はあの時どうすれば良かったのか。
そして、彼がどう私のことを判断したのか。
何もかもわからない。
「わからないよぉ.........」
様々な疑問と感情が入り交じって泣き出してしまう。
私はどうすれば良かったの?どうしたら良かったの?
お願い、誰か、お願いだから
誰か
「.........たす............けてっ!」
私に逃げ道をちょうだい。
貴方の執着なんていらない。
多分、まだ貴方は私にそれほど興味を抱いていないのでしょう?
だって、貴方がそんな簡単な人じゃないのは、見ていればわかる。本当に今まで見たことのなかった反応をしたから、少し興味が湧いただけだったのでしょう?
じゃあ、もうほっといて。
これ以上、人との関わりなんていらない。
貴方なんていらないから、もう私に関わらないで
お願いだからほっといて。
「うぅ......ふっえぇ」
嗚咽が漏れる。
ひとしきり泣いた後、就寝準備を済ませ布団に潜る。
もう何も考えたくない。
強く瞳を瞑る。
襲いくる眠気に抗うことなく微睡ろんでいく。
そうして、私は思考を放棄した。
もう何もしなくない。
翌日、アラームがなる前に目を覚ました私は、朝一番にそう思った。何もする気がおきない。
でも、残念ながら今日は大学がある。午後からだけど。
そう考えると、助かったかもしれない。単位のことを考えると休むわけにはいかないし、かといって朝から準備して授業を受けに行く気にもなれない。というか、出来ない。
せめて、午前中に落ち着いていますようにと祈りながら、ベッドから抜け出した。
──最悪だ。
恐怖は全然薄まってはくれなかった。むしろ、大学へ行かねばと思う度に、足がすくんでしまった。
あぁ、やっぱり、この恐怖は消えてはくれないのか。
人はすぐには変われないというが、全くもってその通りだ、と身をもって知る。
それに大学内は当然人が多い。様々な気持ちが入り乱れて吐き気がしそうだ。
嫉妬、妬み、蔑み、優越感、嫌悪──
汚いきたない、あらゆる感情がごちゃごちゃにかき混ぜられて、ぐるぐると回っている。
それらの黒い感情が、人たらしめているのだと、わかってはいるが気持ちが悪い。
酔いそう、吐きそう、死んでしまいそう
歩く速度は遅く、鞄をぎゅっと握りしめ、うつむき加減なおかげか、周りからは陰鬱とした人間に見えているのだろう。
先程から、こちらを見てはひそひそと遠巻きに囁かれているのがよくわかる。心配そうに見てくる者も中にはいるが、話しかけてはこない。
自分が可愛いからだ。
勿論、その気持ちはわかる。私だってそうする。
だが、今は誰かにこの苦しみを理解してもらいたくて仕方がなかった。
だって、今にも泣きそうなんだもの。
──お願い。
誰か
誰か
─私に気づいて─
「雪麗っ!」
そんな、鬱々とした気分でいると、不意に力強く呼ばれた自分の名前にハッとした。
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