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第四話─状況整理─

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 私の部屋はしんと静まり返って、時計の針の音だけが聞こえる。彼の日記を読み終わった私は、かれこれ一時間ほどフリーズしていた。混乱した頭はまだ動いてくれないが、大分落ち着いてきたように思う。まだ、心臓はバクバクと音をたてているが。

 読了したとき、私はこのノートは日記ではなく、まるで手紙のようだなと思った。私に宛てた手紙。明堂院は、私がこれを絶対に読むと確信した上で、このノートを図書館に

 つまり私は、手のひらの上で転がされていたという訳だ。

「はは」

 ため息のような笑いが口から漏れでる。私の努力は何だったのか。彼を避けようとした結果、周りと明らかに違う反応をした私に興味をもってしまうなんて。逆効果だ。

「ふぅ。いつまでもぼーっとはしていられないよね」

 時刻は午後2時。私は遅めの昼食を軽く済ませてから、状況整理をするべくノートをまた開いた。

 見るべきところは日記の部分だ。心理学の考察はそれほど重要な部分ではない。

 まず、7月13日、私と彼が初めて出会った日。この日の記述には、常日頃の彼の心情が少しばかり吐露されている。

 彼は、誰にもその本性を見せていないのかもしれない。表面上では仲睦まじくしている人物に対しても、自分の本性を見抜けないことに嘲りの感情を抱いている。家柄とかの関係で、昔から抑圧されて育ってきたことが伺える。彼は、人と暖かな触れ合いをしたことがないのかもしれない。

 誰もが、偽りの彼しか見ていない中、私が初めて彼自身を見つけてしまった。一言も話したことがないのにも関わらず、だ。
彼自身、自分の演技力の高さを自負しているようだったし、一目で彼に恐怖を抱いた私に興味を抱くのは必然といえる。
当たり前だ。私でも興味を持つ。というか、なんで今までそんな簡単なことに気づかなったんだろう。かえって浮いていることしていたなんて、完全に私の落ち度だ。
彼と関わりたくなければ、彼にとってどうでもいい存在にならなければいけなかった。

 まぁ、その日の内に名前を特定してしまっていたのには、益々恐怖を助長することになってしまったが。

 9月25日、彼は日々私の観察をしていたようだ。しかも、見事に私の内面を見抜いている。家庭環境に問題を抱えていることまで知られてしまっている。まぁ、家庭環境に問題を抱えているのは、彼も同じだろうが。

 10月19日、偶然私たちを見かけたと書いているが、仮にそうだとしても私の友達の名前を知っている時点で色々アウトだと思う。ストーカーというか、犯罪に片足どころか両足突っ込んでると言っても過言ではない。怖い、怖すぎる。距離をおきたい。でも置けない。

 3月10日、この日の記述が一番ゾッとした。
『なんというか、私と彼女のアイデンティティはよく似ていると感じしました。本を読んでいて、私はもう一人の私を見つけたような気がしました。』
これを見た瞬間、まずいと思った。どうしてかはわからない。ただ、私と彼の思っていることは似すぎている。彼が私に一方的に興味を持っているというよりかは、私も彼に何かしらの関心を持っていたのだと感じた。だって、私が彼に対して無関心だったなら、恐怖など感じないはずだから。断言できる。私は、明堂院 凛翔を一目見たときから、誰よりも彼を意識していた。
しかも、彼は少なからず私に執着している。これを見てそう思わない人はバカだと思う。

 なんてこった。どうやら私はまだ彼と接触していないのにも関わらず、彼に執着されてしまいました。これには頭を抱えるしかない。彼は本気だ。逃げられない。

 どうしよう。これからどうすればいいの?
このまま避け続ける?いや、それは無理だ。彼がこのノートを見られることを見越しているからには、少なくとも一日1回はノートの有無を確認していてもおかしくない。今日ノートが見つからないと知れば、彼は私が読んだと考えるだろう。そうなったら、きっと彼はもう私に猶予を与えてはくれない。
逃げる?それはもっと現実的じゃない。彼を徹底的に遠ざけようとするなら大学を辞めるしかなくなる。それはできない。

 それなら。

 それなら、彼と向き合うしかない。
下手に逃げるようなことをすれば、無事じゃすまないと本能が告げる。もう、逃げられないのだ。ならば、彼に執着を捨ててもらう為にも私に幻滅してもらうしかない。

 そうだ。彼と接触して、幻滅してもらえればいいんだ。私は貴方が思っているような人ではありませんって。私のどこに彼が興味ひかれたのかはわからないが、彼の反応を見て、彼が求めていない態度をとればいいだけ。それぐらい私ならできる。彼の恐ろしさを見抜けた私ならそれぐらいは読み取れるだろう。

 困ったら、結弦にでも相談すればいい。うん、大丈夫。活路ができたおかげで、だんだんと前向きな考え方ができるようになってくる。


 だから、私は気づかなかったのだ。
彼の考えていることを見抜いて、その上で彼が求めていない反応をすることがどれほど間違った選択だったのかを。
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