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第六章.Let's get married
83.閑話、シュバルツ視点
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当初は、シャルルとツガイになることも考えていたが、出産で母体を失うリスクを考えたら、子など必要ない。女が欲しけりゃ、別にシャルルである必要もない、と気付いた。
シャルルは、男女の機微を全く持ち合わせていない女だったから、何もせず、このままそばにいるのが最善だと思った。朝から晩まで一緒にいて、暗くなったら一緒に眠る。そういう生活を送る予定でいたのだが。
お父さんと遊び終えて、シャルルのところへ行ったら、部屋から追い出された。弟なら一緒に寝るが、兄は別々に寝るらしい。ここまで育てば、兄も弟もそうは変わらないだろうに、シャルルの中には厳格なルールがあるらしかった。大きくなった方が何かと便利かと成長して来たが、失敗だった。成長を止める時期を誤った。
「兄と弟で、こんなに待遇が変わるとは、思わなかった」
シャルルの保護者たちは、シャルルの身の安全を心配しているが、俺から見れば、お前らの方がよっぽど危険だ。俺は、手を出す気など、毛頭ない。シャルルに頼まれでもしなければ、絶対にしない。今までの実績を無視するな。
「俺は、ただシャルルと寝るまで話したいだけだ。昼間じゃダメなんだ。夜更かしに耐えられなくて、寝ながら話すシャルルの話が聞きたいんだよ」
「何ソレ」
「起きてる時は、俺をバカにしてるのか、面倒臭いのか、難度の高い話はしてくれないだろう。半分寝てるシャルルに質問すると、湯水のように貴重な話が溢れ出すんだ。俺は、それが聞きたいんだ」
この世界で、あんなに不思議な話をするのは、シャルルだけだ。以前は、閉鎖空間に住んでいるからだと思っていたが、世間を広げた今でも、シャルルのような人間には出会っていない。シャルルは色々な物が欠落しているが、あれだけの物を詰めているのだから、他に気が回らないのも、致し方ないことだ。そんな貴重な話を出し惜しみせずに開陳してくれる。損得勘定なしで、全力で俺を救いあげようとしてくれる。そんな存在は、シャルル以外にはいない。頭に雑念しか詰まっていない阿呆には、わからないだろうが。ただの欲望の捌け口に使っていい訳がなかろうが。
「クロが優勢遺伝だと言うのは、間違っていた。俺の子も孫もひ孫も、クロは出なかった」
だからと言って、シャルルの知識全ては否定できない。1番の感動は、数字の魔法だ。全ての公式が美しかった。
「え? 私の地元じゃクロは多分、かなり強いよ」
特別のクロと、ただのクロとの違いを考慮していなかったことに気がついた。特別のクロのハーフがただのクロだと仮定したら、特別のクロの子どもは、全員クロになるかもしれない。
実験してみたいが、被験者にシャルルは使えない。
「クロが優勢遺伝なら、誰も珍しがったりしないだろう。シャルルが俺のひ孫だというから、楽しみにしてたのに、ひ孫にシャルルが出なかった。あの時の絶望は、忘れられない」
シャルルが生まれたら、自分で育てようと、孫に出産祝いを撒いていたのに、シャルルどころか、クロも出なかったのだ。あんまり生まれないから、孫に自分の子を産ませようかと思ったくらい、落ち込んだ。
「ひ孫だって言ったのは、先生だよ。私の所為じゃないよ」
なるほど。雑音も除かないとならないな。俺の消沈は、あいつの所為か。
「鳥頭を先生と呼ぶな。あれは、ロクでもない男だ」
「嫌だよ。名前を覚えたくないんだよ」
納得した。尊敬の敬称ではなかった。俺は、まだまだシャルルを理解していなかった。
クロの村にシャルルが住んでいると聞いたから、村に家を建てておいた。シャルル好みのシャルルのための家だ。
シャルルが柱の太さまで言及していたから、迷いの森まで出掛けて、それらしい木を集めてきて、稲藁というのを作るために米を作り出してみたが、他の似たような草と何が違うのか、よくわからなかった。
水は蛇口から出るようにしたし、散々入りたいと言っていた風呂も作った。夜も冷えないように全室床暖房を入れた。食い物は、そこらで買えるようになったから、別にいらないだろう。あの時のシャルルの要望は、すべて取り入れた。不満があるなら、また改築する余力はある。
「アレの犯人って、シュバルツ?」
シャルルは、すぐに正解を見抜いた。だが、何か違ったようだ。
「なんで藁葺き屋根の古民家なんだよ」
「ガッショウヅクリって言ったか? シャルルの理想なんだろう?」
「雪国の理想の屋根の形とか、そういう話だったんじゃないかな」
「シャルルは、半分寝てたからな」
そうか。結婚式場と比べて、デザインの方向性が全く違うことに疑問を感じていたが、勘違いだったか。囲炉裏について話す熱量が異常だったから、間違いないと思っていたが。
「一緒には住まないけど、お風呂だけ借りに来ようかな」
一通り内覧した結果、同居を拒まれた。シャルルの家があるなら兎も角、宿暮らしをしているのに断られるとは、思わなかった。
「何故だ!」
あんなに不便な城では、文句を言いつつ、一緒に寝ていたのに。シャルルの理想を詰めた家では、一緒の建物にも暮らせないとは、どういう理屈だ。お父さんとお母さんの部屋まで作ったのに、何が気に入らないんだ。兄と弟の違いって、なんなんだ?
「同居しないのは不満だが、今は諦める。どうせ風呂に入ったら、面倒になって帰らなくなるだろう」
シャルルは理屈っぽいが、便利なものと押しには滅法弱い。理解不能なほど、弱い。とことん便利になりつくして、それでもどうにもならなければ、つぶれない程度にそっと押すことも検討しよう。
シャルルは、男女の機微を全く持ち合わせていない女だったから、何もせず、このままそばにいるのが最善だと思った。朝から晩まで一緒にいて、暗くなったら一緒に眠る。そういう生活を送る予定でいたのだが。
お父さんと遊び終えて、シャルルのところへ行ったら、部屋から追い出された。弟なら一緒に寝るが、兄は別々に寝るらしい。ここまで育てば、兄も弟もそうは変わらないだろうに、シャルルの中には厳格なルールがあるらしかった。大きくなった方が何かと便利かと成長して来たが、失敗だった。成長を止める時期を誤った。
「兄と弟で、こんなに待遇が変わるとは、思わなかった」
シャルルの保護者たちは、シャルルの身の安全を心配しているが、俺から見れば、お前らの方がよっぽど危険だ。俺は、手を出す気など、毛頭ない。シャルルに頼まれでもしなければ、絶対にしない。今までの実績を無視するな。
「俺は、ただシャルルと寝るまで話したいだけだ。昼間じゃダメなんだ。夜更かしに耐えられなくて、寝ながら話すシャルルの話が聞きたいんだよ」
「何ソレ」
「起きてる時は、俺をバカにしてるのか、面倒臭いのか、難度の高い話はしてくれないだろう。半分寝てるシャルルに質問すると、湯水のように貴重な話が溢れ出すんだ。俺は、それが聞きたいんだ」
この世界で、あんなに不思議な話をするのは、シャルルだけだ。以前は、閉鎖空間に住んでいるからだと思っていたが、世間を広げた今でも、シャルルのような人間には出会っていない。シャルルは色々な物が欠落しているが、あれだけの物を詰めているのだから、他に気が回らないのも、致し方ないことだ。そんな貴重な話を出し惜しみせずに開陳してくれる。損得勘定なしで、全力で俺を救いあげようとしてくれる。そんな存在は、シャルル以外にはいない。頭に雑念しか詰まっていない阿呆には、わからないだろうが。ただの欲望の捌け口に使っていい訳がなかろうが。
「クロが優勢遺伝だと言うのは、間違っていた。俺の子も孫もひ孫も、クロは出なかった」
だからと言って、シャルルの知識全ては否定できない。1番の感動は、数字の魔法だ。全ての公式が美しかった。
「え? 私の地元じゃクロは多分、かなり強いよ」
特別のクロと、ただのクロとの違いを考慮していなかったことに気がついた。特別のクロのハーフがただのクロだと仮定したら、特別のクロの子どもは、全員クロになるかもしれない。
実験してみたいが、被験者にシャルルは使えない。
「クロが優勢遺伝なら、誰も珍しがったりしないだろう。シャルルが俺のひ孫だというから、楽しみにしてたのに、ひ孫にシャルルが出なかった。あの時の絶望は、忘れられない」
シャルルが生まれたら、自分で育てようと、孫に出産祝いを撒いていたのに、シャルルどころか、クロも出なかったのだ。あんまり生まれないから、孫に自分の子を産ませようかと思ったくらい、落ち込んだ。
「ひ孫だって言ったのは、先生だよ。私の所為じゃないよ」
なるほど。雑音も除かないとならないな。俺の消沈は、あいつの所為か。
「鳥頭を先生と呼ぶな。あれは、ロクでもない男だ」
「嫌だよ。名前を覚えたくないんだよ」
納得した。尊敬の敬称ではなかった。俺は、まだまだシャルルを理解していなかった。
クロの村にシャルルが住んでいると聞いたから、村に家を建てておいた。シャルル好みのシャルルのための家だ。
シャルルが柱の太さまで言及していたから、迷いの森まで出掛けて、それらしい木を集めてきて、稲藁というのを作るために米を作り出してみたが、他の似たような草と何が違うのか、よくわからなかった。
水は蛇口から出るようにしたし、散々入りたいと言っていた風呂も作った。夜も冷えないように全室床暖房を入れた。食い物は、そこらで買えるようになったから、別にいらないだろう。あの時のシャルルの要望は、すべて取り入れた。不満があるなら、また改築する余力はある。
「アレの犯人って、シュバルツ?」
シャルルは、すぐに正解を見抜いた。だが、何か違ったようだ。
「なんで藁葺き屋根の古民家なんだよ」
「ガッショウヅクリって言ったか? シャルルの理想なんだろう?」
「雪国の理想の屋根の形とか、そういう話だったんじゃないかな」
「シャルルは、半分寝てたからな」
そうか。結婚式場と比べて、デザインの方向性が全く違うことに疑問を感じていたが、勘違いだったか。囲炉裏について話す熱量が異常だったから、間違いないと思っていたが。
「一緒には住まないけど、お風呂だけ借りに来ようかな」
一通り内覧した結果、同居を拒まれた。シャルルの家があるなら兎も角、宿暮らしをしているのに断られるとは、思わなかった。
「何故だ!」
あんなに不便な城では、文句を言いつつ、一緒に寝ていたのに。シャルルの理想を詰めた家では、一緒の建物にも暮らせないとは、どういう理屈だ。お父さんとお母さんの部屋まで作ったのに、何が気に入らないんだ。兄と弟の違いって、なんなんだ?
「同居しないのは不満だが、今は諦める。どうせ風呂に入ったら、面倒になって帰らなくなるだろう」
シャルルは理屈っぽいが、便利なものと押しには滅法弱い。理解不能なほど、弱い。とことん便利になりつくして、それでもどうにもならなければ、つぶれない程度にそっと押すことも検討しよう。
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