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大樹の下で真実を
第30話
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屋上から大樹が見える。知らない間に、大樹の近くまで来ていたのか。腕と脇腹の痛みも少し引いた頃、ビルの屋上から建物の中へ入る。
薄暗く、ここが何のビルなのか分からないが階段で下へ移動する。
「ナイ。ここって、アイドルとかの衣装を作る製作所じゃないかしら?」
「どうしてそう思った?」
七階まで下りてきたところで、真冬がそんなことを言い出す。
「だって、ほらあそこ」
「ん?」
真冬が指す方を見れば、割れた窓ガラスの奥から見えるのはマネキンやミシン、針が転がり廊下に散らばる敗れた衣服、アクセサリーが転がっていた。
「ほんとだな……」
「何か使えそうな物はないかしら?」
真冬を連れて七階のフロアへ。
パキパキ、とガラスの破片を踏み辺りを警戒しながら進む。マネキンがある部屋の扉をゆっくり開けて中の様子を伺う。
「いない、か?」
「どう?」
「たぶん、大丈夫だと思うが……。油断はするな」
「ええ……」
倒れ積み重なるマネキン、倒れることなく一箇所に固まるマネキンと。これはこれでちょっと怖いが……。
壊れたミシン、散らばる無数の針、ボロボロの布に破れた衣装の残骸。それにこれはウィッグというやつか?
黒や茶色、赤、金色と様々の色とショートやロングと色んな髪型のウィッグも転がっている。
「これ、何かに使えそう?」
「さあ? どうだろうな」
ウィッグを拾って立っている一体のマネキンに被せる真冬。と、薄暗い部屋の中で何かが一瞬、動いたように見えた。
なんだ? 見間違い? 暗くてよく見えなかったが……。
ドクッ、ドクッ、ドクッ。
鼓動が大きくなる。何か嫌な感じがする……。
呼吸が少し苦しくなって、警棒を握る左手に力が入る。
「真冬、足音を立てずこっちに戻れ」
「えっ? どういうこと?」
「いいから早く」
「ナイ?」
真冬に向かって右手を差し出す。首を傾げ僕の言う通りにする真冬。僕の目は、ずっと動き辺りを見る。
右手を掴む真冬の手の感触に、ぐいっと引き寄せ僕の背後に回す。
「な、何よ急に!」
「しっ! 声を出すな」
「ナイ……?」
……この感覚、やはりいる!
どこだ? どこに隠れている⁉ 暗くて見つけにくい!
昔にこういう暗くて気配も感じにくい場面に出くわしたことがある。あの時も、最初は分からず物陰に隠れ近づいた瞬間に襲われた。
今回もその類だろう。
真冬を背中に隠し、ゆっくりと下がっていく。僕と真冬が同時に床に散らばったガラスの破片を踏みパキッと音が鳴った。
と、同時にマネキンが数体、倒れ音が部屋に響く。
「――っ⁉ な、なにっ⁉」
「……っ! 動いた! 真冬、僕のそばから離れるな!」
「えっ、ど、どういこと⁉」
来るっ! どこから襲ってくる!
パキパキッ! ガシャン! バタバタッ!
ガラスの破片が割れる音、物を倒す音、物に当たるのもお構いなしに近づいて来る!
『オオオオオオォォァァァアアアアアアアアアアアアアッ!』
「――っ⁉ きゃぁあああああっ!」
左側から一体の屍人が姿を見せる。
急に現れる屍人に驚き悲鳴を上げる真冬。左から来てくれたのは助かるな!
襲ってくる屍人に、僕は左腕を突き出し大きく開けた口の中に警棒をぶっ刺す。
『アアアアッ、ンブブゥッ』
伸ばす手は何も掴めず上下に振り、警棒を何度も噛む屍人に電流を流す。
『ンッ、ブブブブブゥゥッ』
全身を震わせ警棒から口を離すまで電流を流し続ける。しばらくして口が離れ倒れ込む屍人にとどめを刺す。
「――っ!」
膝から前のめりに倒れた後頭部に、警棒を思いっ切り突き刺し肉体が消えてようやく息を吐き出す。
「……はあぁっー」
なんだこの屍人……。後頭部って硬いはずが何て言うか柔らかい? のか警棒が案外あっさりと刺さったな。腐ってたとか? いや、気にする必要もないだろう。
「も、もういないわよね……?」
「ああ。こいつ一体だけだろう」
「よ、よく気づいたのね……」
「昔、こういう場面に出くわしたことがあったからな」
「そ、そうなのね……」
まだ恐怖心が消えないのだろう、小刻みに震えたまま胸に手を当て辺りを警戒する真冬。まあ、僕も最初は驚いたし正直に言えば怖かった。いないと思っていたら急に襲ってくるし、悲鳴も出るし身構えていなかったら肩や腕を噛まれて痛いなんてものじゃない。死ぬかも、なんて思ったからな。
今の真冬の気持ちはよく分かる。
「そ、それにしても屍人はどこにいたわけ?」
「おそらく、マネキンに紛れていたんじゃないか」
「マネキンに?」
「ああ。真冬がマネキンに近づいた時、何かが動いたように見えたからな」
「そうだったのね。それであの時……」
「あのまま、近づいていたら真冬が喰われていたかもしれないな」
「そういうこと言わなくていいわ。でも、マネキンにね……」
「ん? どうした?」
顎に指を当て何やら考え込む真冬。それから、白いショートのウィッグを拾い上げ、男性型のマネキンに被せる。
何をやっているんだ?
「ねえ、これで人間に見えるようになるかしら?」
「はい?」
「マネキンを使って屍人を誘き寄せることができれば、少しは楽ができると思わない?」
「……っ!」
なるほど! その手があった!
マネキンに僕の上着を着せ、あとは血の臭いをマネキンに塗りたくれば屍人共を勘違いさせられるかもしれない。
肉は……用意できないがそれでも少しくらいは時間稼ぎができるだろう。
「その手でいこう。血と上着は僕のを使えばいい」
「そうと決まればさっそく試してみないとね」
「ああ、そうだな」
真冬の提案でマネキンを一体、ウィッグとまだ着れそうなズボンを探し着せる。
腕の包帯とガーゼを取り、ガーゼに染み込んだ血をマネキンの胴体に塗りつけ使用済みのガーゼを包帯で巻きつける。
そして最後に僕の上着を着せ準備ができた。
「よしっ。これでいいだろう」
「一応、人らしくは見えるけれど。上手くいくかしら?」
「いってもらわないと困るが」
「それもそうね」
「これは僕が担ぐ。ここから出るそ」
「分かったわ」
マネキンを左肩に担ぎ、一階まで下りていく。一階に辿り着くと、辺りを確認し屍人がいないと分かれば外へ。
そこから、屍人を誘き寄せるための広場を建物に隠れながら進み探す。
「ナイ。あそこはどう?」
「ん? 公園か」
「ええ。それなりに広いし、遊具もあるから少しは障害になったりはしないかしら」
「真冬はここにいろ。滑り台の上にこれを置いてくる」
「気をつけて」
「ああ」
真冬を一度、見てから立ち上がりマネキンを持って辺りに屍人の姿が見えないのを確認する。
「…………えっ」
「うん? どうした、真冬?」
「えっ、あっ、な、なんでもないわ……」
「そうか」
僕を見上げ、固まりこぼした一言が気になるが今はそれどころではない。屍人がいない今の間に作戦を実行だ。
マネキンを担ぎ、公園へ走る。走りながらも腕と脇腹に痛みが走る。血が滲み、包帯から漏れ出し服にも血が染みを作る。
右腕はもう使えないか……。警棒も握れないしな……。
「はあ、はあ、はあ……」
息を切らし、公園に到着すると遊具の中でも一際、目立つ大きな滑り台の上にマネキンを立てる。首にかけるのは、音楽を奏で太鼓を叩く玩具だ。
「音量も最大にして、あとはこれを流してすぐさまこの場を離れるだけ」
すぐに倒れてもらっては困るので、マネキンを立てる土台に接着剤を塗ってある。これも、ここへ来る道中に拝借してきた物。
さあ、準備は整った。やるか!
玩具のスイッチをオン。
――ドンドン、カッ、ドン、カッ、カッ、ドドン!
静かな街に玩具が出す音が鳴り響く。
滑り台を滑りその場から離脱する。
腕と脇腹から全身に広がっていく痛みに耐え真冬が待機している場所へ駆け戻る。
気になって振り返ると近くにはいなかったはずの屍人がすでに数十体、滑り台に群がり我先にと獲物に手を伸ばしていた。
全方向から公園に屍人の群れが押し寄せてくるのを見る。
薄暗く、ここが何のビルなのか分からないが階段で下へ移動する。
「ナイ。ここって、アイドルとかの衣装を作る製作所じゃないかしら?」
「どうしてそう思った?」
七階まで下りてきたところで、真冬がそんなことを言い出す。
「だって、ほらあそこ」
「ん?」
真冬が指す方を見れば、割れた窓ガラスの奥から見えるのはマネキンやミシン、針が転がり廊下に散らばる敗れた衣服、アクセサリーが転がっていた。
「ほんとだな……」
「何か使えそうな物はないかしら?」
真冬を連れて七階のフロアへ。
パキパキ、とガラスの破片を踏み辺りを警戒しながら進む。マネキンがある部屋の扉をゆっくり開けて中の様子を伺う。
「いない、か?」
「どう?」
「たぶん、大丈夫だと思うが……。油断はするな」
「ええ……」
倒れ積み重なるマネキン、倒れることなく一箇所に固まるマネキンと。これはこれでちょっと怖いが……。
壊れたミシン、散らばる無数の針、ボロボロの布に破れた衣装の残骸。それにこれはウィッグというやつか?
黒や茶色、赤、金色と様々の色とショートやロングと色んな髪型のウィッグも転がっている。
「これ、何かに使えそう?」
「さあ? どうだろうな」
ウィッグを拾って立っている一体のマネキンに被せる真冬。と、薄暗い部屋の中で何かが一瞬、動いたように見えた。
なんだ? 見間違い? 暗くてよく見えなかったが……。
ドクッ、ドクッ、ドクッ。
鼓動が大きくなる。何か嫌な感じがする……。
呼吸が少し苦しくなって、警棒を握る左手に力が入る。
「真冬、足音を立てずこっちに戻れ」
「えっ? どういうこと?」
「いいから早く」
「ナイ?」
真冬に向かって右手を差し出す。首を傾げ僕の言う通りにする真冬。僕の目は、ずっと動き辺りを見る。
右手を掴む真冬の手の感触に、ぐいっと引き寄せ僕の背後に回す。
「な、何よ急に!」
「しっ! 声を出すな」
「ナイ……?」
……この感覚、やはりいる!
どこだ? どこに隠れている⁉ 暗くて見つけにくい!
昔にこういう暗くて気配も感じにくい場面に出くわしたことがある。あの時も、最初は分からず物陰に隠れ近づいた瞬間に襲われた。
今回もその類だろう。
真冬を背中に隠し、ゆっくりと下がっていく。僕と真冬が同時に床に散らばったガラスの破片を踏みパキッと音が鳴った。
と、同時にマネキンが数体、倒れ音が部屋に響く。
「――っ⁉ な、なにっ⁉」
「……っ! 動いた! 真冬、僕のそばから離れるな!」
「えっ、ど、どういこと⁉」
来るっ! どこから襲ってくる!
パキパキッ! ガシャン! バタバタッ!
ガラスの破片が割れる音、物を倒す音、物に当たるのもお構いなしに近づいて来る!
『オオオオオオォォァァァアアアアアアアアアアアアアッ!』
「――っ⁉ きゃぁあああああっ!」
左側から一体の屍人が姿を見せる。
急に現れる屍人に驚き悲鳴を上げる真冬。左から来てくれたのは助かるな!
襲ってくる屍人に、僕は左腕を突き出し大きく開けた口の中に警棒をぶっ刺す。
『アアアアッ、ンブブゥッ』
伸ばす手は何も掴めず上下に振り、警棒を何度も噛む屍人に電流を流す。
『ンッ、ブブブブブゥゥッ』
全身を震わせ警棒から口を離すまで電流を流し続ける。しばらくして口が離れ倒れ込む屍人にとどめを刺す。
「――っ!」
膝から前のめりに倒れた後頭部に、警棒を思いっ切り突き刺し肉体が消えてようやく息を吐き出す。
「……はあぁっー」
なんだこの屍人……。後頭部って硬いはずが何て言うか柔らかい? のか警棒が案外あっさりと刺さったな。腐ってたとか? いや、気にする必要もないだろう。
「も、もういないわよね……?」
「ああ。こいつ一体だけだろう」
「よ、よく気づいたのね……」
「昔、こういう場面に出くわしたことがあったからな」
「そ、そうなのね……」
まだ恐怖心が消えないのだろう、小刻みに震えたまま胸に手を当て辺りを警戒する真冬。まあ、僕も最初は驚いたし正直に言えば怖かった。いないと思っていたら急に襲ってくるし、悲鳴も出るし身構えていなかったら肩や腕を噛まれて痛いなんてものじゃない。死ぬかも、なんて思ったからな。
今の真冬の気持ちはよく分かる。
「そ、それにしても屍人はどこにいたわけ?」
「おそらく、マネキンに紛れていたんじゃないか」
「マネキンに?」
「ああ。真冬がマネキンに近づいた時、何かが動いたように見えたからな」
「そうだったのね。それであの時……」
「あのまま、近づいていたら真冬が喰われていたかもしれないな」
「そういうこと言わなくていいわ。でも、マネキンにね……」
「ん? どうした?」
顎に指を当て何やら考え込む真冬。それから、白いショートのウィッグを拾い上げ、男性型のマネキンに被せる。
何をやっているんだ?
「ねえ、これで人間に見えるようになるかしら?」
「はい?」
「マネキンを使って屍人を誘き寄せることができれば、少しは楽ができると思わない?」
「……っ!」
なるほど! その手があった!
マネキンに僕の上着を着せ、あとは血の臭いをマネキンに塗りたくれば屍人共を勘違いさせられるかもしれない。
肉は……用意できないがそれでも少しくらいは時間稼ぎができるだろう。
「その手でいこう。血と上着は僕のを使えばいい」
「そうと決まればさっそく試してみないとね」
「ああ、そうだな」
真冬の提案でマネキンを一体、ウィッグとまだ着れそうなズボンを探し着せる。
腕の包帯とガーゼを取り、ガーゼに染み込んだ血をマネキンの胴体に塗りつけ使用済みのガーゼを包帯で巻きつける。
そして最後に僕の上着を着せ準備ができた。
「よしっ。これでいいだろう」
「一応、人らしくは見えるけれど。上手くいくかしら?」
「いってもらわないと困るが」
「それもそうね」
「これは僕が担ぐ。ここから出るそ」
「分かったわ」
マネキンを左肩に担ぎ、一階まで下りていく。一階に辿り着くと、辺りを確認し屍人がいないと分かれば外へ。
そこから、屍人を誘き寄せるための広場を建物に隠れながら進み探す。
「ナイ。あそこはどう?」
「ん? 公園か」
「ええ。それなりに広いし、遊具もあるから少しは障害になったりはしないかしら」
「真冬はここにいろ。滑り台の上にこれを置いてくる」
「気をつけて」
「ああ」
真冬を一度、見てから立ち上がりマネキンを持って辺りに屍人の姿が見えないのを確認する。
「…………えっ」
「うん? どうした、真冬?」
「えっ、あっ、な、なんでもないわ……」
「そうか」
僕を見上げ、固まりこぼした一言が気になるが今はそれどころではない。屍人がいない今の間に作戦を実行だ。
マネキンを担ぎ、公園へ走る。走りながらも腕と脇腹に痛みが走る。血が滲み、包帯から漏れ出し服にも血が染みを作る。
右腕はもう使えないか……。警棒も握れないしな……。
「はあ、はあ、はあ……」
息を切らし、公園に到着すると遊具の中でも一際、目立つ大きな滑り台の上にマネキンを立てる。首にかけるのは、音楽を奏で太鼓を叩く玩具だ。
「音量も最大にして、あとはこれを流してすぐさまこの場を離れるだけ」
すぐに倒れてもらっては困るので、マネキンを立てる土台に接着剤を塗ってある。これも、ここへ来る道中に拝借してきた物。
さあ、準備は整った。やるか!
玩具のスイッチをオン。
――ドンドン、カッ、ドン、カッ、カッ、ドドン!
静かな街に玩具が出す音が鳴り響く。
滑り台を滑りその場から離脱する。
腕と脇腹から全身に広がっていく痛みに耐え真冬が待機している場所へ駆け戻る。
気になって振り返ると近くにはいなかったはずの屍人がすでに数十体、滑り台に群がり我先にと獲物に手を伸ばしていた。
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