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第二部 第七章 終わりの始まり

神殺しに会う(5)

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 彼の傍らには、常に灰色の狼と蒼く澄んだ蛇がいる。

 最初に口を開いたのは遥だった。



「ぼくたちは、〝ウロボロスの転生体〟」



 開口一番にした言葉に、彼の眉がピクと動いたのを見逃さなかった。

 遥は、わたしを見つめ手を握りながら続けた。



「今世で、十回目の転生。ぼくたちの目的はただ一つ。悪神から逃れ、寿命を全うすること」



 わたしも、その言葉を肯定するように何度も頷く。

 彼は「ほう」とこぼしわたしたちを交互に見た。



「ウロボロスドラゴン、というやつか?」



 その問いに遥は頷き返す。



「そう。四回目までは一体だった。けど、五回目からは二体の転生体。記憶も力も引き継ぐ」

「なるほど。それが貴様らの正体ということか」



 遥も「そう」と表情を変えず答える。



「循環や永劫回帰、死と再生、破壊と創造、無限と意味するものは広い。不老不死の象徴とされ、一匹が輪になって自分で自分の尾を喰らうタイプと、二匹が輪になって相喰らうタイプがあったな。自らの尾を食べることで始まりも終わりも無い、完全なものとしての象徴的な意味が備わったとも」



 そ、そこまで詳しいなんて……。

 彼の説明に、意外にもウロボロスについて知識があることに内心で驚く。



「つまり、貴様ら二人で完全体ということ。飛行の機械人形を殺した能力の黒炎も、貴様らの力そのもの。そしてこれが一番重要なことだ。〝悪神〟の敵で間違いはないな?」



 目つきが一段と鋭くなり訊かれる。

 返答次第では、この場でわたしたちを殺すつもりだわ。神獣も、いつでも動けるように気を張り待機しているのが分かる。



 ――〝悪神〟の敵で間違いはないな?



 ええ、間違いないわ! この崩壊した世界の神で君臨した悪神。

 転生する度に、追われ奪われ殺されてきた前世。今世こそは、わたしと遥は生きて寿命を全うするの! もう、殺されるのはうんざりだわ! だから、神殺しと堕天使総督や魔王が手を組んだという今世に懸けた。

 一度は、失敗したみたいだけど。そんなのまた挑めばいいだけよ! そのために、わたしと遥も協力は惜しまない! いくらでも力を貸すわ!



「わたしと遥は決めたの」

「何をだ?」

「この崩壊世界に、悪神に反逆してやるって!」

「………………」



 わたしも、遥も彼を真っ直ぐに見つめ返しはっきりと告げる。これが、二人の意思!



「ふっ。そうか。ならば、俺と敵対する理由はないわけだ」



 笑い、その言葉に胸を撫で下ろす。

 遥がつけ加えるように説明を続ける。



「ぼくたちは、悪神につく気はない。けれど、あの機械の神はそれを許さない。それに、悪神が生まれ何度も神との戦が始まり、神は幾度もの戦で殺され残ったのは悪神だけ」

「続けろ」

「もう神はいない。でも、ぼくらを欲したのは――」



 遥の話に彼も気づいたようね。



「――アザゼルとルシファーを何があっても殺したい。そういうことか?」

「ん」

「ふん。よほど総督と魔王が邪魔だったようだな。……お前たちは、神殺しがどうして存在しているのか知っているのか?」



 貴様から、お前たちに呼称が変わってる。少しは信用してくれたみたい。

 彼の質問の意図は、なにか考えてしまう。もしかしたら、彼はもう知っているのかもしれない。

 神殺しの本当の存在理由を――。



「あなたは知っているの?」



 わたしが、逆に聞き返す。

 彼は、ため息を一つ吐き背もたれに背中を預け口にする。



「この世に堕天使と悪魔がいる。お前たちのように死を生へ変えられる存在を俺は知っている。ということはだ、悪神と神の戦で死なず姿を眩ませた神の子や名もなき神、土地神や付喪神、そしてあの二人を一掃するための道具。神殺しとは、悪神にとって邪魔な存在を消すための生物兵器だろう。違うか?」



 やっぱり知っていることに、コクと頷くことでしか反応を返せない。

 彼の言う通り、神殺し同士を戦わせる遊戯ではなく、悪神にとって邪魔な存在を一人残らず殺すための生きた道具。そのために神をも殺せる力を与えその上で、反逆などされると面倒なため代償という建前で肉体の一部を奪い、最後は勝手に死んでくれるように己の命を削らせているのだ。

 これが、神殺しの実態。



 わたしたちは、この実態を知っていた。転生する度に、知識と記憶を引き継がせているから。

 でも、彼もそれ以外の神殺しにとってこのことは酷な話だと思うわ……。

 何も言えないわたしたちと違って、彼は気に病む様子はない。



「お前たちも知っていて当然だな。転生体であり、記憶を引き継いでいると言っていたからな。まあ、俺の相棒にも自ら死と生を操り悪神の目から逃れた女神がいる。彼女は、アザゼルとルシファーに保護された過去がある。この半年で、隠された世界の真実とやらをいくつも目にし聞き、俺自身で調べて分かったことだ。お前たちが、気にすることはも責任を感じる必要はない」



 これまた意外にも、わたしたちのことを気にしてくれる優しさに驚くわ。

 それに、さっきまでと違って目つきの鋭さや冷たさが少し柔らかくなったみたい。

 遥と顔を見合わせ、笑みをこぼす。

 彼は立ち上がり、手を伸ばし名乗る。



「俺は、逢真夏目だ。夏目と呼べ。それと俺の仲間になれ二人共。お前たちの能力もそうだが、存在が悪神を殺す武器になる」



 その申し出に、わたしは願ったり叶ったりですぐ動いた。手を伸ばし、彼こと夏目と握手を交わし笑って言う。



「ええ、もちろん! 元々、仲間にしてもらうつもりだったし。わたしは、双葉奏よ。よろしく、夏目お兄さん!」



 遥も、わたしのあとに続き自己紹介と共に握手を交わす。



「ぼくは、二条遥。よろしく、お兄さん」

「ああ。奏と遥だな。よろしく」



 こうして、わたしと遥にとっても、夏目お兄さんにとっても強力な仲間を得られたのだった――――。
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