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第五章 真実に近づく者たち

プロローグ

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 夏目たちが、空海と戦う前日――。



 左右は竹林に囲まれ、月明かりのみに照らされる石段を上がって行く男が一人。

 静寂に包まれる中、男の足音だけが闇夜に響き渡り石段を登り切る。頂上には、数え切れない鳥居が並び更に奥へ道が続く。



「…………」



 男は、疲れた様子もなく奥まで続く暗い道を左右異なる瞳がじっと見つめた。

 一度、夜空を見上げ顔を戻すとまた歩き出す。



 群青色の前髪を掻き上げ、石畳の道を歩き鳥居の下を潜り歩くこと十分。

 今度こそ、開けた場所へと辿り着く。そこには、金髪のストレートロングの女、その隣には見た目以上に老けた和服の男が来ていた。



 二人を視界に映すと内心で毒つく。



(ちっ。高慢な女と、巫女の父親で無能な奴らがいようとは)



 毛嫌いする彼こと、海堂紅は目の前の二人が気に入らなかった。

 女は、ただ高慢なだけで力もなく目障りな上に契約した神獣がすごいのであってそれ以外は何もない。



 和服の男は、能無し以外の何物でもない。巫女の力を我が物にしたい、身の程知らずの欲深さで絶縁されたクズ。

 というのが、紅の認識だ。



 現状、この場にいるのは三人だけ。しばらくすると神を祀るはずの三つの腐食した神体と、錆びた小さな鳥居が三方形に囲む中央が光り輝く。



 光が収まり、顕現したのは全身が黒曜に輝きを放つ見るからに人肌ではない、硬い身体というより機体と表現した方が正しいだろう存在。



 腕は二本だが、背中ら左右それぞれ二本ずつ生えており合計六本の腕。背後に浮かぶのは、神々の文字の神紋が円状に。

 顔は人間と同じ作り、閉じられた目蓋が開く。その目は、人間のものとは異なり銀河を連想させる眼球。

 額にも、縦に筋が入っておりそちらも目を開ければ青、赤、橙、緑と色が入り混じった眼球が三人を見下ろす。



 紅たちはその場に膝をつきひれ伏す。

 宙に浮き、口を開く。ただし、声は聞こえず直接、脳内に届く。



 ――我を滅ぼさんと邪な思想を持つ者が現れた。



 と、老若男女の声。それは言葉を続ける。



 ――あれらは神の手から、自ら望み離れ堕ちた者共。

 ――にも関わらず、我にも歯向かう反逆者。

 ――決して逃してはならぬ。確実に死を与えるのだ。

 ――よいな、お前たち。



 言葉はそこで終わり、紅たちは頭を下げたまま一同に「御意」と答えた。

 また光り輝き、しばらくすると収まり頭を上げると黒曜の機体は姿を消していた。



「…………」



 紅は立ち上がり、来た道を引き返す。あの二人と共に行動をするつもりは一切ない。



 鳥居を潜り抜け、石段を降りある程度、離れてから懐に仕舞っていた手紙を取り出す。

 紙を広げ、内容をもう一度読み返す。



 ”お前の敵は神殺しではない。存在しない神だ。未来を掴みたいのなら、選択を間違えるな。調べろ、真実を知りたいと望むのなら――”とそう書かれた手紙。



「随分と親切な総督だよ」



 まさか、総督自らこのような内容の手紙を送ってくるとは予想していなかった。これを悪神に報告しようか、迷ったがしかなった。

 紅も気になる点がいくつもあったからだ。



「悪神もさすがに、アザゼルやルシファーを放置はできない、か……」



 この二人共に、神から離反し堕ちたはずだ。ならば、神と敵対関係だ。それが何故、悪神側につかない? という一つ目の疑問。

 二つ目の疑問。悪神に会うことはできた。だが神という存在に直接、会ったことはない。契約時に声を聞き会話をしたのもこの一度きり。

 三つ目の疑問。それは――契約時に聞いた声があまりにもということ。



 神だから、同じ声質と言われればそうなのかもしれないが。それでも、紅の中ではどうにも気になって仕方がない。



「ふっ。親切な総督からの手紙だ。調べてみる価値はある」



 不敵な笑みを浮かべ、誰にも悟られず一人で調べることにした紅。



 総督が言う、”存在しない神”と”真実”とは何なのか、紅は知りたい。

 生きたいと望むが故に、己の半身でもある八岐大蛇と共に未来を掴み取るため――。
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