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第四章 神山学園のレヴィアタン

風紀委員長の襲来(5)

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 風紀委員が用意してくれた椅子に横一列となって座る夏目たち。



 現在、風紀委員会室にいるのは委員長の真冬と隣にいる今にも夢の世界に旅立ってしまいそうな先輩。そして、呼び出された夏目たちを含む数名だ。



 それ以外は席を外している。

 最初に、口を開いたのは美哉だった。



「真冬。何を訊きたいのですか?」



 と、問えば真冬は腕を組み夏目を見つめた。



「単刀直入に訊くわ、逢真夏目。お前は味方? それとも敵?」

「…………っ!」



 笑っていた目が、夏目を射抜くように鋭く細められ声のトーンが落ちる。



 返答次第では、今この場で夏目を殺すつもりでいるのだろう。思考回路が、物騒な方向にしかいかない風紀委員長だこと。



(こ、これ、返答を間違えるとヤバイやつじゃん……)



 夏目の中で、己の身を護るためどう答えればいいのか真剣に悩む。



 味方か、敵か、と訊かれ冗談でも言えるような雰囲気ではない。かといって、味方だと答えたとしても信じてもらえるか怪しいが。



 一言、面倒くさい質問だ。



 ゴクリッ、と生唾を飲み込み返す。



「味方か、敵かと訊かれると、どう返答すればいいのか困る……困ります。俺は、風紀委員長と戦う気はないし……じゃなくて、ないです。この力は、俺にとって大切な人のために使うと決めているので」



 真っ直ぐ、真冬を見据えはっきりと告げる。

 所々、先輩に対しての言葉遣いの言い直しはあったが、紛れもない夏目の本心である。



 夏目の言葉を聞いた真冬は「そう」とだけ短く言う。一呼吸、置いて笑顔に戻った。



「じゃあ、私の敵じゃないわ。逢真はちゃんとした決意というか、意志を持っているみたいだし嘘を言っているようにも見えないから」



 満足気に言い、楽しげな表情へ。真冬はいい加減、隣で夢の世界へ船を漕いでしまっている彼女の肩を揺らす。



「ヒナ。起きて、美哉たちとの話し合いをするから。ほら、起きて」



 優しげな声で、ヒナと呼ぶ彼女を起こす。ゆっくりと目蓋が開き、目元を袖で擦り目を覚ます。



「う~ん。真冬ちゃんの、敵だった?」



 と、起きても眠そうな半目でおっとりした口調で訊けば真冬は首を横に振る。



「そっか、よかった。真冬ちゃんの、敵じゃなくて。敵だったら、殺し合いが、始まるから」



 言葉の間に読点と句点を入れて、独特な話し方をする。



 ヒナと呼ぶ彼女の頭を愛しげに撫でる真冬。撫でられる彼女は嬉しそうだ。

 二人の間に流れる空気感、甘い蜜を持つ花がゆっくりと蕾を開かせ花弁を咲かせる、そんな光景が目に浮かぶ。



 夏目、燐と桜の三人は何とも言えない二人の姿にポカーンと小さく口を開けて固まる。



「全く、この二人は……。真冬、陽菜、そういうのは二人きりの時にして話を進めてください」



 珍しく美哉が、やれやれ、と言いたげに肩を竦める。



(……美哉も、こんな感じな気もするけど)



 夏目は、内心でそう思うが口にはしない。

 燐と桜も、夏目の言いたいことを察したようで何度も頷く。



 美哉に催促され話を進める。



「まずは、ヒナのことを紹介するわ。立花陽菜、私の従姉妹よ。ヒナって呼んでいいのは私だけだから、呼んだら敵味方関係なく殺すから覚えておいて」



 満面の笑みで、いきなり物騒なことを言われ一年ズは顔を青ざめる。やはり、真冬は言動も全てが物騒を通り超えて危険な神殺しだ。



「学園では、私の補佐役。あとは、治癒の巫女でもあるの。あとこれが一番、重要なことだけどヒナは私の恋人だから手を出したら即死刑。手を出したこと、ううん、生まれてきたことさえも後悔させて殺すからね♪」



「「「………………」」」



 恋人という単語を強調させ、語尾に音符をつけて可愛げに首を傾げ、にっこりと笑って背筋が凍えることを告げられ頷くことしかできない一年ズ。



 恋人、というカミングアウトに驚くがそれ以上に真冬が恐ろしい。



(この人は、きっと笑顔で人を殺せそうだ……)



 内心でそうこぼす夏目。そして、何があっても陽菜には手を出さないでおこうと心に決めた。



「さて、集まってもらったのは他でもない、悪神絡みの件だからよ」



 さっきまでの緩い空気感が変わり、張り詰めた空気感へと変わる。真冬は、机の上に肘を置き指を絡め話す。



「この神山町に、悪神側の神殺しが来訪してるみたいなのよ」

「……っ!? ま、待ってください! どこでその情報を得たのですか?」

「私独自の情報網、と言えば美哉も納得するでしょ」

「なるほど。そこからの情報なら、確かに納得はできますね」



 二人の会話を聞く一年ズは、顔を寄せ合い小声で話す。



「風紀委員長って、そんなもの持ってるのか?」

「わたしは初耳だ。先輩からは、色々なルートを持っているとは聞いていたが」

「お兄様も、面倒な性格はしているけれど仲間思いで実力も確か、って聞いたわ」



 神前真冬。只者ではないと認識を改める一年ズ。だが、ヤバイ奴という認識は消えないが。



 夏目たちが小声で会話を交わす間も話は進む。



「神殺しがこの町に来た、ということは戦闘は避けられない。私一人で、どうこうできるのならそれでもよかったけど」

「さすがに、神殺し相手となると真冬でも厳しいかもしれない。そう思い協力が必要、ということですね。そこで夏目ですか?」



「そう。春人には、学園の警備を全面に任せる。逢真には、私と共に神殺しの相手をしてもらう」

「分かりました。真冬も、春人との決闘を知り申し出たわけでしょうから」

「ええ。ましてや、この短期間で二体目の神獣と契約を交わす逸材。なら、その力を使わない手はないわ」



 二人して、当の本人には話を振らずトントン拍子で決まっていく。陽菜は、美哉と真冬の会話を聞きながらも、またしても眠気に負け船を漕ぎ始める。



 この強引というか、勝手に決めていくやり方は似ていた。類は友を呼ぶ、とでも言おうか。



「夏目にも、実践経験を積ませたいですしもっと強くなってもらわないと。いい機会です」

「さすが、美哉ね。話が早くて助かるわ。ふふふっ」

「そうですか? うふふっ」



 夏目本人の意思を聞くことなく勝手に決める美哉と真冬。



 話の大半を聞いていなかった一年ズは、笑い合う二人にようやく気づき顔を向け疑問に思い首を傾げた。

 美哉と真冬は、夏目を見つめそれぞれ口にする。



「夏目、この神山町を護るため敵の神殺しとやり合いますよ」

「逢真の力に期待させてもらうわ。共に、神殺しを殺しましょうか」

「えっ……?」



 一瞬、何を言われているのか思考が追いつかずアホ毛が揺れた。数秒後、知らないうちに神殺しと戦う羽目になっていることを理解し叫ぶ。



「は、はぁぁぁあああああああああああああああああああ!?」



 こうして、先輩後輩の神殺しコンビによる神山町を護るべく、悪神側の神殺しとの戦いが始まろうとしていた。
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