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第三章 林間合宿と主なき神獣
調査開始(2)
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林間合宿場に到着した一行。
「空気が違うな」
「都会では味わえないなこの空気」
夏目のこぼした一言に返す燐。
このあと、各自部屋へ荷物を置きロビーに集まる。
集まった夏目と燐へ、桜が一枚の地図を手渡す。
「はい、これ。この周辺の地図よ」
地図の南側に大きな湖がある。そして、撮影された写真は湖周辺で撮られたものだ。まずは、そこへ向かい調査。燐を先頭に、湖の場所へ向かう。
三人の姿は、学園指定の黒色ジャージで上下共に白い線が横に入り左胸元には校章が刺繍さており、生地が伸縮し動きやすさと通気性に優れたもの。
森林に囲まれ、足場は悪いが歩けないわけではないため数十分ほどで目的地に着く。
直径五十メートルはある湖の周りを歩く。
「これといって何もない?」
水面を覗き込んでも何かいる気配や影もなく首を傾げ疑問形に言う夏目。
「確かに夏目の言うように、これといって特にないな」
「でも、ここで撮影されたのは事実よ?」
三人揃って手掛かりらしいものを見つけられず困り果てる。湖を一周するように歩きながら夏目があるものを見つけた。
「ん? なあ、燐、桜!」
「どうした、夏目?」
「何か見つけた?」
「ああ。これ何だと思う?」
手招きをし夏目が指差す方へ視線を下へ向ける燐と桜。そこには、何かを引き摺った痕があった。幅はおよそ三メートル。
湖から這い出た痕なのか、もしくはその逆の何かを湖に引き込みできた痕なのか。と考える三人だが、痕を目で追えば森林の方角にも伸びていた。
「これは……」
「這い出た痕?」
燐と桜は同時に森林の方角を見る。
「追うか?」
夏目が訊けば二人共、頷き痕を追い森林の方へ。
東の方角へ歩みを進めるが途中で痕が消えていた。その場所で立ち止まり、その先を見据える。何故か、霧が立ち込み視界が非常に悪い。
夏目の影が揺らぎ、そこからフェンリルが現れ警告する。
「この先に進むのはやめておいた方がよい。この霧はおそらく使徒の仕業だろう」
「……っ! まかさ、この場所で使徒ときたか。フェンリル、この霧を晴らすことは可能か?」
霧を前に燐が訊く。
「日が沈めば可能であろうな。この濃霧は、どうやら太陽の光を遮るために作られたようだ」
と、前足を濃霧が立ち込める空間に突っ込み分析するフェンリル。夏目も、相棒と同じように右手を突っ込んでみる。
(うーん、掴めるわけないか)
手を横に振ったり、上下に腕を振ったりとするが何も起きない。
桜は、時刻を確認しようとスマホを取り出し電源を入れた瞬間に焦った声を出す。
「ちょっ⁉ えっ⁉ な、何よこれは! 時間が狂ってるわ!」
「どういうことだ?」
燐も桜の言葉に、自身のスマホを取り出しロック画面の時刻を確認する。
「……わたしのスマホも狂っているようだ」
「り、燐も?」
「ああ。ほら」
スマホの画面を見せる。桜も同様に見せれば時刻が77:92と表示されていた。燐の画面も44:44と四の数字だけが並び表示されている。
「燐のスマホの数字の並び、怖いんだけど……」
数字の並びに不安そうにこぼす桜。おまけに電波も遮断され立たない。
夏目はというと、未だに濃霧に向かって右腕を伸ばし突っ込んだままだ。
「夏目、いつまで突っ込むつもりだ? 一度、戻るぞ」
先程から一言も発さない夏目に燐が声を掛けるが返事がない。フェンリルも不思議に思い訊く。
「主よ。どうかしたのか? ……主?」
相棒の声にも反応を示さず、腕を伸ばし突っ立ったまま動かない。桜が近寄り夏目の肩を揺らし顔を覗き込む。
「もう、夏目くん。聞いてるの――って、夏目くん⁉」
二度目の焦り声を出す桜。それもそのはず、夏目の目には光がなく虚ろな目をし口を開け息すらしていないからだ。
それに気づいた桜が肩を強く揺らす。
「夏目くん! しっかりして! ねえ、夏目くんってば!」
「夏目⁉」
さすがの燐も焦る。慌てて濃霧から夏目の腕を引き抜き体を離す。しかし、体は鉛のように固まり腕を伸ばした状態。
「燐よ、主を我輩の背に乗せろ! ここから離れるぞ!」
「分かった!」
フェンリルの指示に従い、夏目を乗せすぐさまこの場から離れる。
湖にも近寄るべきではない、と判断したフェンリルは燐と桜を連れ宿舎の近くまで駆ける。太陽の陽光が当たる場所で足を止め数秒後に日光を浴びた夏目が唐突に、フェンリルの背の上で飛び起きた。
「――のわあっ⁉ ……あ、あれ?」
「主!」
「夏目!」
「夏目くん!」
飛び起きた夏目を見たフェンリルと二人は胸を撫で下ろす。状況が分からない夏目は、呼吸を整えつつ辺りを見渡す。
アホ毛がクルクルと回り混乱を示す。
「えっ? ん? え?」
そんな夏目に怒る燐と桜、心配したフェンリル。
「夏目! 心臓に悪いではないか!」
「そうよ! 死ぬんじゃないかって思ったじゃない!」
「無事のようで安心したぞ、主よ」
「えっ、あ、いや……あはは……」
怒られているという自覚はあるが、何故に怒られているのかいまいち理解していない様子の夏目は渇いた声で笑うしかできない。
「笑いごとでない! 全く……、それで何があった?」
「燐の言う通りよ! 本当にどうしたの?」
フェンリルの背に乗ったままの夏目に燐と桜が問う。
「いや、それが何も覚えてなくて……。手を霧に突っ込んだのは覚えてるんだが、その先のことは何も覚えてないんだ。気がつけば、フェンリルの背に乗ってて息苦しさに飛び起きた感じなんだよ……」
本当に覚えていないようで夏目自身も、己の身に何が起きたのか全く理解できていない。
その説明に、燐と桜は顔を見合わせ原因不明の事案に頭を抱える。
「これはいったい、どういうことなんだ?」
「分からないことだらけで、何が何やら……」
神獣の調査のはずが、こうも早くに使徒の痕跡を見つけその上で夏目の身に起きたこと、戦闘は免れないかもしれない。
「どうやら、面倒なことになりそうだぞ。主」
「……マジか」
「うむ。主は、使徒の能力に当てられたのかもしれぬ」
「どんな効果があるんだよあの霧……」
嫌そうな顔で答える夏目は、大きなため息を吐いて天を仰いだ。
「空気が違うな」
「都会では味わえないなこの空気」
夏目のこぼした一言に返す燐。
このあと、各自部屋へ荷物を置きロビーに集まる。
集まった夏目と燐へ、桜が一枚の地図を手渡す。
「はい、これ。この周辺の地図よ」
地図の南側に大きな湖がある。そして、撮影された写真は湖周辺で撮られたものだ。まずは、そこへ向かい調査。燐を先頭に、湖の場所へ向かう。
三人の姿は、学園指定の黒色ジャージで上下共に白い線が横に入り左胸元には校章が刺繍さており、生地が伸縮し動きやすさと通気性に優れたもの。
森林に囲まれ、足場は悪いが歩けないわけではないため数十分ほどで目的地に着く。
直径五十メートルはある湖の周りを歩く。
「これといって何もない?」
水面を覗き込んでも何かいる気配や影もなく首を傾げ疑問形に言う夏目。
「確かに夏目の言うように、これといって特にないな」
「でも、ここで撮影されたのは事実よ?」
三人揃って手掛かりらしいものを見つけられず困り果てる。湖を一周するように歩きながら夏目があるものを見つけた。
「ん? なあ、燐、桜!」
「どうした、夏目?」
「何か見つけた?」
「ああ。これ何だと思う?」
手招きをし夏目が指差す方へ視線を下へ向ける燐と桜。そこには、何かを引き摺った痕があった。幅はおよそ三メートル。
湖から這い出た痕なのか、もしくはその逆の何かを湖に引き込みできた痕なのか。と考える三人だが、痕を目で追えば森林の方角にも伸びていた。
「これは……」
「這い出た痕?」
燐と桜は同時に森林の方角を見る。
「追うか?」
夏目が訊けば二人共、頷き痕を追い森林の方へ。
東の方角へ歩みを進めるが途中で痕が消えていた。その場所で立ち止まり、その先を見据える。何故か、霧が立ち込み視界が非常に悪い。
夏目の影が揺らぎ、そこからフェンリルが現れ警告する。
「この先に進むのはやめておいた方がよい。この霧はおそらく使徒の仕業だろう」
「……っ! まかさ、この場所で使徒ときたか。フェンリル、この霧を晴らすことは可能か?」
霧を前に燐が訊く。
「日が沈めば可能であろうな。この濃霧は、どうやら太陽の光を遮るために作られたようだ」
と、前足を濃霧が立ち込める空間に突っ込み分析するフェンリル。夏目も、相棒と同じように右手を突っ込んでみる。
(うーん、掴めるわけないか)
手を横に振ったり、上下に腕を振ったりとするが何も起きない。
桜は、時刻を確認しようとスマホを取り出し電源を入れた瞬間に焦った声を出す。
「ちょっ⁉ えっ⁉ な、何よこれは! 時間が狂ってるわ!」
「どういうことだ?」
燐も桜の言葉に、自身のスマホを取り出しロック画面の時刻を確認する。
「……わたしのスマホも狂っているようだ」
「り、燐も?」
「ああ。ほら」
スマホの画面を見せる。桜も同様に見せれば時刻が77:92と表示されていた。燐の画面も44:44と四の数字だけが並び表示されている。
「燐のスマホの数字の並び、怖いんだけど……」
数字の並びに不安そうにこぼす桜。おまけに電波も遮断され立たない。
夏目はというと、未だに濃霧に向かって右腕を伸ばし突っ込んだままだ。
「夏目、いつまで突っ込むつもりだ? 一度、戻るぞ」
先程から一言も発さない夏目に燐が声を掛けるが返事がない。フェンリルも不思議に思い訊く。
「主よ。どうかしたのか? ……主?」
相棒の声にも反応を示さず、腕を伸ばし突っ立ったまま動かない。桜が近寄り夏目の肩を揺らし顔を覗き込む。
「もう、夏目くん。聞いてるの――って、夏目くん⁉」
二度目の焦り声を出す桜。それもそのはず、夏目の目には光がなく虚ろな目をし口を開け息すらしていないからだ。
それに気づいた桜が肩を強く揺らす。
「夏目くん! しっかりして! ねえ、夏目くんってば!」
「夏目⁉」
さすがの燐も焦る。慌てて濃霧から夏目の腕を引き抜き体を離す。しかし、体は鉛のように固まり腕を伸ばした状態。
「燐よ、主を我輩の背に乗せろ! ここから離れるぞ!」
「分かった!」
フェンリルの指示に従い、夏目を乗せすぐさまこの場から離れる。
湖にも近寄るべきではない、と判断したフェンリルは燐と桜を連れ宿舎の近くまで駆ける。太陽の陽光が当たる場所で足を止め数秒後に日光を浴びた夏目が唐突に、フェンリルの背の上で飛び起きた。
「――のわあっ⁉ ……あ、あれ?」
「主!」
「夏目!」
「夏目くん!」
飛び起きた夏目を見たフェンリルと二人は胸を撫で下ろす。状況が分からない夏目は、呼吸を整えつつ辺りを見渡す。
アホ毛がクルクルと回り混乱を示す。
「えっ? ん? え?」
そんな夏目に怒る燐と桜、心配したフェンリル。
「夏目! 心臓に悪いではないか!」
「そうよ! 死ぬんじゃないかって思ったじゃない!」
「無事のようで安心したぞ、主よ」
「えっ、あ、いや……あはは……」
怒られているという自覚はあるが、何故に怒られているのかいまいち理解していない様子の夏目は渇いた声で笑うしかできない。
「笑いごとでない! 全く……、それで何があった?」
「燐の言う通りよ! 本当にどうしたの?」
フェンリルの背に乗ったままの夏目に燐と桜が問う。
「いや、それが何も覚えてなくて……。手を霧に突っ込んだのは覚えてるんだが、その先のことは何も覚えてないんだ。気がつけば、フェンリルの背に乗ってて息苦しさに飛び起きた感じなんだよ……」
本当に覚えていないようで夏目自身も、己の身に何が起きたのか全く理解できていない。
その説明に、燐と桜は顔を見合わせ原因不明の事案に頭を抱える。
「これはいったい、どういうことなんだ?」
「分からないことだらけで、何が何やら……」
神獣の調査のはずが、こうも早くに使徒の痕跡を見つけその上で夏目の身に起きたこと、戦闘は免れないかもしれない。
「どうやら、面倒なことになりそうだぞ。主」
「……マジか」
「うむ。主は、使徒の能力に当てられたのかもしれぬ」
「どんな効果があるんだよあの霧……」
嫌そうな顔で答える夏目は、大きなため息を吐いて天を仰いだ。
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