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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス

決闘と誓い(7)

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 ――ドゥォォオオオオオオオオンッ!!



 見守る美哉たちにも夏目が放った蒼炎による爆風と衝撃波が襲う。



「――っ⁉」



 桜の迅速な判断で、己を含む美哉と燐を護るべく結界を張る。結界を揺るがし、破壊されないか正直、不安になりながらも結界を強固に。



「桜!」

「燐、あたしの結界がいつまで保つか分からないの! だから、美哉先輩を連れて避難して!」

「そ、それは……」



 桜の言葉に燐は美哉を見る。



「夏目……」



 美哉は、その場から一歩も動こうとしない。桜と燐の会話すら聞いていない様子で、ただただ前方を見つめ立ち竦むだけ。



「美哉先輩⁉」

「桜、踏ん張れないか?」

「……っ。ああもう! 分かったわよ!」



 腕を伸ばし、力を振り絞る桜。燐も、この場から離れたくはないという気持ちがあった。勝敗の結果をこの目で確かめるまでは。

 それから結界を張りしばらくして、収まり煙が晴れグラウンドが露わになっていく。



「なつ、め……?」

「な、なんだこれは⁉」

「ちょっ、嘘でしょ⁉」



 三人の目に飛び込む光景は尋常ではなかった。グラウンドにあるトラックはむろん、木々や端に植えられた花壇、校舎さえも焼き尽くし見る影もないほどの破壊の一言。唯一、無事なのは御三家が見守る一角の校舎のみ。



 無傷で残っているのは、春人と桜の母親の東雲当主が覆った結界のお陰だろう。

 抉られ焦土と化した眼前に広がる場所に夏目とフェンリル、春人とフェニックスの姿がなく桜は泣きそうな声で兄を捜す。



「お、お兄様はどこ⁉ お兄様!」



 結界を解き震える足で数歩、前へ出る。



 一番、被害が酷く未だに蒼炎が地面の土を焼く場所があった。そこには、深さ四メートルの大穴が空き中央に弱々しい業火を纏うフェニックスに護られ倒れている春人の姿が。



「お、お兄様⁉」



 春人の姿を捉えた桜が駆ける。そのあとを燐が追いかけ。



 美哉は、夏目を捜し辺りを見渡す。

 胸が締めつけられ息が苦しい。姿が見えないことに、不安が津波のように押し寄せ立っていられなくなる。



 そんな時、美哉の目に土が徐々に盛り上がってく箇所を捉える。盛り上がった土から、ボコッと片腕が這い出てきた。

 片腕からもう片方の腕も這い出て、そこからフェンリルと共に咳き込み姿を見せる夏目。



「げほっ、ごほっ……。うえっ、土が口の中に入った……」

「ふーっ。なんとか身を護れたのだ。仕方あるまい」

「そうだけど、口の中がジャリジャリいう……」



 放った威力に、巻き込まれかねないと判断したフェンリルは地面を前足で掘りその中に夏目を咥え避難したのだ。



 ただ力の塊をぶつけることしか考えていなかった結果、立っていた場所も焼き払い土の中に身を隠し護らなければ夏目の蒼炎に肉体を焼き死んでいた。



 爆風で、掘った穴に土壌が被り這い出るのに少し苦労した程度で済んだというわけだ。



「夏目……!」



 頭から爪先まで泥だらけの夏目の元へ美哉が駆け寄り胸に飛び込む。



「おわっ⁉ み、美哉?」

「夏目! 夏目! 夏目……!」



 何度も名を呼び、抱きつき人前で泣き崩れる。そんな美哉を抱きとめ頭を撫でる夏目。



「俺は大丈夫だから。ほら、この通り!」



 と、安心させようと感情を表に出すのが苦手な夏目が明るく振る舞い笑って言う。しかし、泣き止まない。

 どうすればいいのか困り果てフェンリルを見る。



「しばらく、そのままにしてやるがよい」



 そう返答する。フェンリルの言うように、しばらくそのまま抱きとめ頭を撫でていると美哉は泣き止む。



「夏目……。ありがとう、ございます……。それと、ごめんなさい……」



 泣き腫らした目で夏目を見上げそう言われる。それに対して、夏目は自分の額を美哉の額に当て頬に手を添える。



「美哉が謝ることなんて一つもない」

「夏目……」



 美哉も、頬に添えられた夏目の手に右手を重ね、左手は彼の頬に触れ気持ちを伝えた。



「私も、夏目と一緒にいたいです。これから先もずっと、死んだ先も永遠に」



 美哉の気持ちを聞いた上で夏目は言う。



「俺、あの事故で護れず傷を負わせてそれなのにこんな自分がそばにいていいのかって思ってた。美哉から何かを奪ったんじゃないのかって」



 抱えていた想いを今ようやく口にする。



「だから、そばにいる資格なんて俺にはない。それで、自分の気持ちに蓋をしたんだ。でも、本当はずっと一緒にいたいんだ……」



 そこまで言って少しの間が流れる。頬に触れる美哉の手に、自分の手を重ね至近距離で見つめ合う彼女へ今度こそ伝える。



「俺の初恋は、美哉なんだよ。今もこの恋心は消えてない。俺は、誰でもない美哉が好きだ」

「……っ⁉」



 見つめられ、夏目の告白に目を開く美哉。鼓動が速く心臓がうるさい、全身の血が駆け巡り冷えていた体を内側から温める。



 切れ長の吊り目、青い瞳から大粒の涙がこぼれていく。夏目の告白に、答えなければと思えば思うほど上手く喋られない。



「……っ、んっ……」



 そんな美哉の涙を親指で拭う夏目へ、ゆっくりと吐露する。



「わ、私こそ……夏目のそばにいるべきではないと、あなたの両親を死なせ、神殺しにしてしまったのは、他ならない私自身……。そんな私が、そばにいたいなんて……。でも、ずっと好きなんです」



 止まらない涙を流し、美哉もまた抱えていた気持ちと負い目を言葉にしていく。



「夏目以外の男では、私の心が満たされない。幸福だと感じられるのは夏目だけ。あなたのそばが私にとって、陽だまりであり一番幸せだと思える場所。夏目、私も好きです。誰でもない、夏目を愛しています」



 泣き笑いを見せながらも気持ちに答えてくれた美哉を夏目は強く抱きしめる。



「お互い、負い目を感じて勝手に引き下がっては遠回りしてたんだな」



 なんて苦笑交じりに言う夏目。



「そうですね。本当に、バカ丸出しです」



 美哉も苦笑して答える。



「美哉。俺と一生、共に生きてくれ。地獄だろうと、どこだろうとそばにいて欲しい」

「はい。どこまでも共に生き、共に死にます。夏目」



 夏目のプロポーズとも取れる告白に、美哉は笑顔で答えた。

 その光景を桜に抱き支えられ、上半身を起こし見ていた春人。



「ははっ……。やっと、解放されるかな。良かったよ、相手が君で。逢真くん」



 渇いた声で、しかし満足げな表情で二人の告白を聞き終えた春人はそこで意識を手放した。

 桜のそばに立つ燐も夏目と美哉を見つめ微笑む。



「これで、もう二人の仲を引き裂くことなんて誰にもできやしないだろう。夏目、本当にありがとう。先輩を救ってくれて」



 感謝を夏目へ告げるのだった――。
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