上 下
29 / 206
第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス

新しいメンバー(2)

しおりを挟む
 前日に美哉から、メンバーを紹介されことに関して肩身が狭い程度にしか特に思っていなかった夏目だったのだが。



 目の前の光景には困惑以上に理解が追いつかない。アホ毛は、グルグルと回転し止まらない。



(こ、これはいったい……)



 その理由は簡単だった。今朝、唐突に美哉が家へ訪れたのだ。それもダンボールをいくつか車に乗せ。

 出迎えるやいな、



「夏目。おはようございます」

「お、おはよう。というか、その荷物は?」

「うふふ。今日から、私もこの家に住みます」

「へっ? はい?」



 そう言って、有無も言わさずリビングへ荷物を家の者に運ばせ今に至る。

 あまりの出来事に頭を抱える夏目は美哉に訊く。



「あのな、美哉。親の許可は取っているのか? そもそも、年頃の娘がいくら幼なじみの家だかといって急に住むなんてダメだろ……」



 危機感はないのか、美哉が何を考えているのか分からない夏目。

 美哉は、夏目の問いにあっさり白状する。



「お祖父様には許可を取っていますよ。まあ、お父様には何も言わず黙って来ましたが」

「美哉……?」

「私の意見を全く聞かない、命令しかしないあの人の言うことは聞けません。私は、人形でも道具でもありませんから」



 そう怒りを滲ませ吐き捨てるように言う。

 怒る美哉は珍しいと思う夏目。普段から冷静で、笑顔を絶やさず優しいのにと。これは何を言っても聞かないだろう。



「分かった。美哉の好きにすればいいさ」

「夏目……。ありがとうございます」



 こうして、本日から美哉が住むことに。急な展開に戸惑う夏目とは打って変わって美哉は、楽しそうに荷解きしつつ嬉しそうだ。



 何がそんなに楽しくて嬉しいのか夏目には分からないが、問題はそこではない。炊事洗濯、掃除と家事全般を住む代わりにと美哉が率先してこなしてくれる。

 そこはいい。夏目としてもありがたいのだが、風呂事情と眠る時が問題だった。

 夜、お風呂に入ればあとから美哉も入ってくる始末。



「み、美哉⁉」

「うふふ。背中を流してあげますね」

「い、いい! それくらい一人でやれるから!」

「はいはい。じっとしててください」

「ちょっ⁉ み、美哉!」



 半ば強引に押し進め背中を流しにくる美哉。ただ普通に流してくれる分にはいいのだが、そうはいかないのが彼女だ。

 夏目の背中にわざと豊満な胸を押しつけ体を密着させ、手は胸板を撫で抱きつきながら耳元で囁く。



「夏目は、私を襲いたい、とは思わないのですか?」

「~~~~っ⁉」



 と甘く誘惑してくる。その言葉に脳みそが沸騰し理性が吹っ飛びそうなのを必死に堪える。それだけでは終わらず、一糸纏わぬ姿を晒し続けながら耳に甘噛、頬にキスを落とし、首筋に吸いつき赤い痕を残す。



「――――っ⁉」

「ふふっ」

(も、もう無理だっ!)



 やりたい放題の美哉の誘惑に耐え切れず風呂場から逃げる夏目。そそくさと、体を拭き服を着て部屋へ戻る。

 鍵をかけ、高まるばかりの性欲を無理矢理に抑え込みベッドに潜り寝るの一択。



(が、我慢しろ俺! 耐えろ俺! ただの幼なじみだ、恋人でもないのに襲うのはない! 絶対にダメッ!)



 と言い聞かせる夏目だが、鍵穴に己の能力でもある氷で鍵を作り解錠してしまう美哉。



 ガチャッ、という音に起き上がり美哉と目が合う。



「……って、なんで⁉ どうやって開けたんだ⁉」

「これくらい簡単ですよ。それと、鍵をかけても無駄です」



 そう笑顔で返す美哉に、驚きを隠せない夏目。



「せっかくの同棲なのに、一緒に眠れないのは嫌です」



 と頬を膨らませ不満げだ。一緒に住む間は、眠る時もそばいいたいらしくベッドへ潜り込む。風呂場での件でこれ以上は危険と判断し、ベッドから抜け出そうとする夏目の手首を掴み引き止める。



「み、美哉さん……?」

「ただ一緒に眠るだけです。何もしませんよ」

「…………」

「ダメですか?」

「……っ」

「夏目。隣にいて欲しい、それだけです。それでもダメでしょうか?」

「~~っ! わ、分かったよ!」



 上目遣いで、寂しげな目で訴えられそう言われると折れるしかない夏目はベッドへ戻る羽目に。背中を向けて寝たいが、美哉は胸に飛び込み抱きついて放さない。



「夏目は温かいですね」

「そ、そうか? ま、まあ寒くないならいいけど……」

「ええ。とっても温かくて、寒くありませんよ……」



 胸元に顔を擦り寄せ寝息を立てる美哉。彼女は宣言通り、何もしてくることなく眠りつく。



(こ、この状況で俺は眠れないんだが……)



 夏目の心はそれどころではなかった。心地良さそうに眠る美哉を見てため息一つ。

 この状態はいったいあと何日続くのか、何より寝不足必須ではないだろうかと困り果てる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

チョロイン2人がオイルマッサージ店でNTR快楽堕ちするまで【完結】

白金犬
ファンタジー
幼馴染同士パーティーを組んで冒険者として生計を立てている2人、シルフィとアステリアは王都でのクエストに一区切りをつけたところだった。 故郷の村へ馬車が出るまで王都に滞在する彼女らは、今流行りのオイルマッサージ店の無料チケットを偶然手に入れる。 好奇心旺盛なシルフィは物珍しさから、故郷に恋人が待っているアステリアは彼のためにも綺麗になりたいという乙女心からそのマッサージ店へ向かうことに。 しかしそこで待っていたのは、真面目な冒険者2人を快楽を貪る雌へと変貌させる、甘くてドロドロとした淫猥な施術だった。 シルフィとアステリアは故郷に戻ることも忘れてーー ★登場人物紹介★ ・シルフィ ファイターとして前衛を支える元気っ子。 元気活発で天真爛漫なその性格で相棒のアステリアを引っ張っていく。 特定の相手がいたことはないが、人知れず恋に恋い焦がれている。 ・アステリア(アスティ) ヒーラーとして前衛で戦うシルフィを支える少女。 真面目で誠実。優しい性格で、誰に対しても物腰が柔らかい。 シルフィと他にもう1人いる幼馴染が恋人で、故郷の村で待っている。 ・イケメン施術師 大人気オイルマッサージ店の受付兼施術師。 腕の良さとその甘いマスクから女性客のリピート必至である。 アステリアの最初の施術を担当。 ・肥満施術師 大人気オイルマッサージ店の知らざれる裏の施術師。 見た目が醜悪で女性には生理的に受け付けられないような容姿のためか表に出てくることはないが、彼の施術を受けたことがある女性客のリピート指名率は90%を超えるという。 シルフィの最初の施術を担当。 ・アルバード シルフィ、アステリアの幼馴染。 アステリアの恋人で、故郷の村で彼女らを待っている。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

処理中です...