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第一章 神殺しと巫女

特訓(3)

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 四日目。特訓メニューは、美哉との対人戦だ。

 巫女服の美哉。彼女の手から、矢に形成された氷の塊が飛来してくる。



「――っ!」



 それを避け、時に撃ち落とし相手に攻撃を入れる。という特訓だが、しかし美哉の容赦のない射撃に為す術もなく体のあちこちに矢を受けてしまう。着ているジャージはいくつも穴が空き体の至る所に傷を作る夏目。



「……っ!」



 避けようにも速すぎて視界に捉えられない。撃ち落とそうとするも空を切り、腕や肩を掠めるだけ。



(くそっ……! 速すぎて避けるのも、防ぐこともできない!)



 ギリッ、と歯軋り苦しげな表情の夏目。それでも休む暇なく続ける。



「一点だけを見つめない! 周りにもっと目を配りなさい! 足は止めず、常に動き回りなさい!」



 と、美哉から注意を受ける中、放つ矢は一直線のものと弧を描き背後から襲う二本。目の前の矢ばかりに気を配り、背後から襲い掛かる矢に意識が及ばず射たれ倒れ込む。



「がはっ……」



 前のめりに倒れ動けない夏目。体力、スタミナを考え休憩を挟む。

 道場の壁に背を預け、美哉から受け取った飲料に口をつけ息を吐く。夏目の隣に座った美哉から言われる。



「すぐに何もかも上達できるわけではありませんが、少なくとも敵の攻撃にある程度は避けるか防ぐことはできてもらわないと。そして、戦闘中にスタミナ切れを起こして殺される、なんていう可能性をなくします」

「……そう、だな。あの時、俺は何もできなかったわけだし……」



 そのための特訓であり、自ら望んだことでもある。それは理解しているが、美哉との対人戦の特訓は結構くるものがある。正直、キツイと思う夏目。



「なあ、美哉」

「なんですか?」

「どうして、ここまで付き合ってくれるんだ? 食事面からマッサージとか何かと面倒をみてくれて」



 ずっと、疑問だった。美哉にも自身の時間があるはず、何も全てに付き合う必要はないのではないかと。その質問に美哉は笑顔で答える。



「ただの世話焼きなんですよ、私。それに、夏目が強くなりたいと望んでくれたことが嬉しいから、何でもしたくなっただけです」

「そうか」

「ええ」



 そう言われ、昔からこんな感じだったけかと美哉との思い出を振り返る。一緒に遊ぶ時も、子供の足では遠くには行けないがそれでも冒険だと言って隣の町まで行くことも、何をする時も必ず美哉は夏目の隣にいた。



(懐かしい記憶だな)



 などと呑気に思い出に耽ける夏目に、



「さあ、休憩は終わりです。特訓を再開しますよ。夏目」

「えっ、あ、ああ……」



 その後も美哉の手加減抜き、容赦のない射撃に必死に食らいつき反撃しようと何度も試したが、一度も入れることはできず四日目が終わった。



 五日目、この日も昨日と同じく対人戦の特訓。

 前日に美哉から言われたことを思い出しながら、氷の矢を避けされるよう動き回りながら目線は道場内を常に配らせる。



 道場の端から端まで動き、飛来する矢をギリギリで避けるが追尾型に切り替えられ背後、または死角から襲い掛かる。



「……っ! ま、まだっ!」



 体を反らし、拳を握り飛来する矢を撃ち落とす。



(――っ! 今だ!)



 腕を真っ直ぐ伸ばし、道場の床に矢を落とすことに成功。ただし、十回に一度の確率で撃ち落とせるようになった程度だが。まだまだ、夏目の動きにはムラが多い。



「うしっ……!」



 と、撃ち落とせたことに喜ぶ夏目に、美哉は隙きがあり過ぎると言わんばかりに二本、三本と連続で放ち肩と脇腹に刺さる。



「ああっ! いつっ……!」



 実戦に近い形式での特訓のため殺傷力もそれなりにある美哉の矢。そのため受けた箇所から、新しい傷を作り血が流れていく。



「ううっ……」



 一本、撃ち落とせただけで喜んでいる場合ではないことを美哉の攻撃で思い知り、痛みに耐えながら一発でもいいか当てられないか、思考を巡らせる夏目。

 美哉には隙きがない。四方へ警戒を配らせ、夏目の動きを先読みし封じてくる。



(どうにかして背後か死角から攻撃を入れられたら……)



 と思案し足に力を込め床を蹴り、道場内を一杯に使い駆けた。

 馬鹿正直に突っ込まず、角度をつけ駆け回り美哉の背後へ回り込む。そして、左足で重心を取り右足で蹴りを入れた。



「……っ⁉」

「その調子で思考を止めず、向かってきてください。夏目」



 右足首を左手で掴み阻まれ攻撃が入らなかった。夏目の動きを完全に読み切り、防ぎながら言い女性とは思えないほどの力量で足首を掴み上げ、夏目の体は宙に浮き放り投げられ道場の壁に激突。



「がはっ、うぐっ……」



 背中を打ちつけ肺から空気が吐き出される。



(あ、あの細い腕のどこに、あんな力があるんだよ……⁉)



 すぐには立ち上がれず、内心で驚きと悔しさが滲み出た。その後も、特訓は晩まで続く。



 特訓が終わったのち、部屋の布団の上にて美哉から治療を受ける夏目。

 傷口に消毒液を垂らしガーゼと包帯を巻かれる。他にも、掠り傷や打撲など全身の至る所に絆創膏や湿布が貼られていく。



「特訓する前に比べれば動きも良くなりましたし、体力とスタミナもついてきましたね」

「そうなのか?」

「ええ」



 自分ではよく分からないが、美哉がそう言うならそうなのだろうと思う。



「しかし、力不足なのは変わりません。使徒とどこまで戦えるのか、神殺しとぶつかった際はきっと苦労するでしょうね」

「………………」



 美哉の言葉に何も言えない夏目。

 弱いままでは何もできず、奪われ失うのはもうごめんだ、と口にはせず両手を握りしめ強く思うのだった。



「これで終わりです。今日はゆっくり休んでください。明日も、特訓ですから」

「あ、ああ……」



 そう言い残し部屋を出て行く美哉の背中を見つめる。



(あれ? てっきり、今日も布団に潜り込んでくるものだと思ってたんだが……)



 さすがに傷まみれで連日の特訓で疲労も溜まり残すわけにもいかないと、配慮し美哉は自室へ戻った様子。

 布団に潜り目を閉じれば、すぐに睡魔が意識を持っていく。
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