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012 環境の大切さ
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「では残りの半分とやらは何なのだ。」
ランドリックの言葉にリズレットはやれやれと肩をすくめた。
「少しは考えてみてくださいませ。他の領地とこの領地の違いを考えればすぐに答えが出るはずですわ。」
「ち、違いか…。」
武闘派であるランドリックは少々考えるのが苦手らしい。
それでも団を任される程度には知恵はあるはずなのだが、どうにも騎士の本分以外については得意ではないようで考え込んではいるが俯いたまま答えがなかなか見つからない。
「そういえば、随分と綺麗だった。」
レオナードがぽつりと呟く。
一体何のことを言っているのかとランドリックが顔を上げる。
アルフォンスはその言葉で思い当たり納得がいったようだ。
町の視察で一番に気が付いたことだからだ。
「殿下、綺麗だったとは一体何の事なのでしょう。」
「この領地はとても整備が行き届いている。町並みもそうだが、何より清潔だ。」
他の領地では考えられない程、この領地は整備されている。
勿論水道だけの話ではない。
「そうです。すべての家にトイレの魔道具を設置しましたし、町でも公衆トイレを用意しました。なので、汚れた物がそのまま放置されることがなく匂いも篭らない。こういった設備によって病気の原因となるものが排除されているというのがもう半分の答えですわ。」
リズレットはそう言って答えたが他にも理由はある。
なぜ領民たちが医者に掛かれる余裕があったのかという点ではお金で解決したように答えていたが、それが全てではない。
実際には薬の値段を下げるために薬草などを育てているのだ。
勿論北の大地であるレスター辺境伯爵領では薬草の育ちは悪い。
勿論寒い場所に生えるような薬草は問題ないのだが、温かい場所に生える薬草などはそうそう手に入りにくい環境なのだ。
そこで水を浄水する際に、一旦沸騰させてその蒸気を再度水へ還元するという方法を使って浄化している水道を引いたときにこの蒸気の熱を使って温室を作ったのだ。
おかげで暖かな気候に適した薬草の栽培にも成功し、今では安定供給できるまでになった。
こうして薬の値段を下げて安価で高品質な薬草を作り、医者にかかる費用を抑えているからこそ領民たちは流行り病を乗り越えることが出来たのだ。
勿論これだけではなく、せっかく温めた水があるので共同浴場なんてものまで作っていた。
体を綺麗にするのが当たり前というほど広まっている訳ではないが、利用者は増えている。主にクランを中心に広まっている為それが当たり前になるのも時間の問題だろう。
「だがそんなに整備したのであれば相当お金がかかったのではないか?」
アルフォンスがリズレットにこれを聞くのは当然だ。
領主であるアルフォンスはこういった物にどれだけの費用が掛かるのか普段から触れている問題なのですぐに頭に浮かぶ。
「お金は材料費くらいですね。」
「どういう事だ?」
普通であれば材料費だけで賄うことなどできはしない。
だが、リズレットはそれだけだと答えたのだ。
アルフォンスが疑問に思うのも仕方がない。
「町で尋ねた時に聞いているはずです。皆で町を綺麗にしたのだと。」
「それは、そうだが。」
「言葉通りなのですよ。それぞれ細かく分担して、普段のほんの僅かに余った時間を利用して作ったのだから。」
「だが、そんな事を領民たちがやるのか?」
「やったからこそ、今の状態になったのです。勿論初めから全員が乗り気だったわけではありませんよ?」
初めは本当にクランのメンバーだけで始めたものだった。
時間はどれだけかけても構わないという理由でちまちま作っていた。
分担していたので作業は比較的簡単なものが多く、プロに任せた方が良い部分は当然後で注文でもすればいいと誰でも出来そうな所から始めたのだ。
時間の余った時にというのも大きかっただろう。
クランのメンバーは多い。そういった作業をするものも自然と町で目に付いた。
人数が多いと当然、それに興味を持つ者が出てくる。
はじめは子供たちだった。
浄水するためには水に混じったごみを取り除く必要がある。
ごみ取りのフィルターにする為に川で砂利を集めていたクランのメンバーに混じって子供たちが参加し始めたのだ。
遊びがてら参加する者が増え、次第にそれが輪になっていった。
いつの間にか大人も参加するようになり、どんどんとそれが広がっていく。
いつしか計画にクランメンバー以外の者が混じり、資材を提供してくれるものも現れた。
勿論、水道を引くことが出来ればその恩恵は大きい。
店なども巻き込みながら驚きの速度で開発が進んで水道が通ることになった。
これにはリズレット自身も想定していなかったことである。
水道を整えるのに手伝ってくれた全員にお礼を込めてリズレットは魔道具を作った。
魔道具を作ったといっても、魔石に魔法を込めたというのが正しいのだが。
こうして領地は整備され清潔な環境が整ったのだ。
流行り病も乗り越えることが出来たのは数多くの領民たちが力を貸してくれたからだ。
「ですが、これを領主の事業として行おうと思えばとんでもないお金が必要になりますわ。」
「当然だな。それを実現するには相当の年月も必要とするだろう。」
この中で一番領政に詳しいアルフォンスは納得だ。
そして領民たちがそれをやり遂げたという事実に今更ながら驚いている。
「そういう理由であれば流行り病を凌ぐことが出来たのも当然という事か。」
レオナードは少し残念そうに告げる。
そう思う理由はこの情報を持ち帰ってもそれを実現させるのは不可能に近い事が分かったからだ。
領民たちが自ら動くなど通常ではありえない事だ。
それを取り仕切るリーダーが現れたとすればそれは謀反とも捉えられかねない話に飛躍しかねない。
「これを国が補助金を出すという形で領主たちに勧めるという方法はありますが、領民を豊かにすることが自分たちの豊かさに繋がるという事を理解していない領主が居れば計画は上手くいかないかもしれませんね。」
貴族の中には領民を消耗品のように考えている者さえいる。
税をむしり取ることしか考えず苦境を強いる領主も。
この世界でそれを実現させるには数百年規模の時間と意識改革が必要となるだろう。
すぐに変える事は出来ない。
それを成した領民たちを導いたリズレットが異常なのだ。
それもただの暇つぶしという理由で行われたのだから恐ろしい。
「確かにそうだな。だが時間をかけてでもそれを成す必要があるという事は良く分かったよ。」
レオナードは真実を知ったからこそリズレットが行ったことは必要だと感じていた。
勿論、リズレットのようなやり方は出来ない。
そして今回の事はそのまま他の領主たちに知らせることは出来ない事も理解していた。
領主が命じれば領民は逆らえない。
無理やり働かされればそれは領民としての扱いではなく奴隷だ。
それは望むところではない。
リズレットが昨日慌てて無事だという手紙を送らせたがったのがやっと理解できた。
あまり知られたくないという連絡方法を使ってでも急ぐはずだ。
第二王子が行方不明だというのを理由に、領地で行われたことを無理やり聞き出すような者が現れ、それが知られれば恐ろしい事態になっていたかもしれない。
リズレットが別の誰かに奪われた可能性もあった。
そう考えた瞬間に黒い想いが心に過る。
魔力を通わせたからなのか、リズレットを誰にも渡したくないという執着がレオナードの中で膨らんでいた。
「リズ、君と出会えて本当に良かった。」
レオナードの言葉の意味が分からず首を傾げるリズレット。
そんな彼女を愛おしく思いレオナードは優しく微笑んだ。
ランドリックの言葉にリズレットはやれやれと肩をすくめた。
「少しは考えてみてくださいませ。他の領地とこの領地の違いを考えればすぐに答えが出るはずですわ。」
「ち、違いか…。」
武闘派であるランドリックは少々考えるのが苦手らしい。
それでも団を任される程度には知恵はあるはずなのだが、どうにも騎士の本分以外については得意ではないようで考え込んではいるが俯いたまま答えがなかなか見つからない。
「そういえば、随分と綺麗だった。」
レオナードがぽつりと呟く。
一体何のことを言っているのかとランドリックが顔を上げる。
アルフォンスはその言葉で思い当たり納得がいったようだ。
町の視察で一番に気が付いたことだからだ。
「殿下、綺麗だったとは一体何の事なのでしょう。」
「この領地はとても整備が行き届いている。町並みもそうだが、何より清潔だ。」
他の領地では考えられない程、この領地は整備されている。
勿論水道だけの話ではない。
「そうです。すべての家にトイレの魔道具を設置しましたし、町でも公衆トイレを用意しました。なので、汚れた物がそのまま放置されることがなく匂いも篭らない。こういった設備によって病気の原因となるものが排除されているというのがもう半分の答えですわ。」
リズレットはそう言って答えたが他にも理由はある。
なぜ領民たちが医者に掛かれる余裕があったのかという点ではお金で解決したように答えていたが、それが全てではない。
実際には薬の値段を下げるために薬草などを育てているのだ。
勿論北の大地であるレスター辺境伯爵領では薬草の育ちは悪い。
勿論寒い場所に生えるような薬草は問題ないのだが、温かい場所に生える薬草などはそうそう手に入りにくい環境なのだ。
そこで水を浄水する際に、一旦沸騰させてその蒸気を再度水へ還元するという方法を使って浄化している水道を引いたときにこの蒸気の熱を使って温室を作ったのだ。
おかげで暖かな気候に適した薬草の栽培にも成功し、今では安定供給できるまでになった。
こうして薬の値段を下げて安価で高品質な薬草を作り、医者にかかる費用を抑えているからこそ領民たちは流行り病を乗り越えることが出来たのだ。
勿論これだけではなく、せっかく温めた水があるので共同浴場なんてものまで作っていた。
体を綺麗にするのが当たり前というほど広まっている訳ではないが、利用者は増えている。主にクランを中心に広まっている為それが当たり前になるのも時間の問題だろう。
「だがそんなに整備したのであれば相当お金がかかったのではないか?」
アルフォンスがリズレットにこれを聞くのは当然だ。
領主であるアルフォンスはこういった物にどれだけの費用が掛かるのか普段から触れている問題なのですぐに頭に浮かぶ。
「お金は材料費くらいですね。」
「どういう事だ?」
普通であれば材料費だけで賄うことなどできはしない。
だが、リズレットはそれだけだと答えたのだ。
アルフォンスが疑問に思うのも仕方がない。
「町で尋ねた時に聞いているはずです。皆で町を綺麗にしたのだと。」
「それは、そうだが。」
「言葉通りなのですよ。それぞれ細かく分担して、普段のほんの僅かに余った時間を利用して作ったのだから。」
「だが、そんな事を領民たちがやるのか?」
「やったからこそ、今の状態になったのです。勿論初めから全員が乗り気だったわけではありませんよ?」
初めは本当にクランのメンバーだけで始めたものだった。
時間はどれだけかけても構わないという理由でちまちま作っていた。
分担していたので作業は比較的簡単なものが多く、プロに任せた方が良い部分は当然後で注文でもすればいいと誰でも出来そうな所から始めたのだ。
時間の余った時にというのも大きかっただろう。
クランのメンバーは多い。そういった作業をするものも自然と町で目に付いた。
人数が多いと当然、それに興味を持つ者が出てくる。
はじめは子供たちだった。
浄水するためには水に混じったごみを取り除く必要がある。
ごみ取りのフィルターにする為に川で砂利を集めていたクランのメンバーに混じって子供たちが参加し始めたのだ。
遊びがてら参加する者が増え、次第にそれが輪になっていった。
いつの間にか大人も参加するようになり、どんどんとそれが広がっていく。
いつしか計画にクランメンバー以外の者が混じり、資材を提供してくれるものも現れた。
勿論、水道を引くことが出来ればその恩恵は大きい。
店なども巻き込みながら驚きの速度で開発が進んで水道が通ることになった。
これにはリズレット自身も想定していなかったことである。
水道を整えるのに手伝ってくれた全員にお礼を込めてリズレットは魔道具を作った。
魔道具を作ったといっても、魔石に魔法を込めたというのが正しいのだが。
こうして領地は整備され清潔な環境が整ったのだ。
流行り病も乗り越えることが出来たのは数多くの領民たちが力を貸してくれたからだ。
「ですが、これを領主の事業として行おうと思えばとんでもないお金が必要になりますわ。」
「当然だな。それを実現するには相当の年月も必要とするだろう。」
この中で一番領政に詳しいアルフォンスは納得だ。
そして領民たちがそれをやり遂げたという事実に今更ながら驚いている。
「そういう理由であれば流行り病を凌ぐことが出来たのも当然という事か。」
レオナードは少し残念そうに告げる。
そう思う理由はこの情報を持ち帰ってもそれを実現させるのは不可能に近い事が分かったからだ。
領民たちが自ら動くなど通常ではありえない事だ。
それを取り仕切るリーダーが現れたとすればそれは謀反とも捉えられかねない話に飛躍しかねない。
「これを国が補助金を出すという形で領主たちに勧めるという方法はありますが、領民を豊かにすることが自分たちの豊かさに繋がるという事を理解していない領主が居れば計画は上手くいかないかもしれませんね。」
貴族の中には領民を消耗品のように考えている者さえいる。
税をむしり取ることしか考えず苦境を強いる領主も。
この世界でそれを実現させるには数百年規模の時間と意識改革が必要となるだろう。
すぐに変える事は出来ない。
それを成した領民たちを導いたリズレットが異常なのだ。
それもただの暇つぶしという理由で行われたのだから恐ろしい。
「確かにそうだな。だが時間をかけてでもそれを成す必要があるという事は良く分かったよ。」
レオナードは真実を知ったからこそリズレットが行ったことは必要だと感じていた。
勿論、リズレットのようなやり方は出来ない。
そして今回の事はそのまま他の領主たちに知らせることは出来ない事も理解していた。
領主が命じれば領民は逆らえない。
無理やり働かされればそれは領民としての扱いではなく奴隷だ。
それは望むところではない。
リズレットが昨日慌てて無事だという手紙を送らせたがったのがやっと理解できた。
あまり知られたくないという連絡方法を使ってでも急ぐはずだ。
第二王子が行方不明だというのを理由に、領地で行われたことを無理やり聞き出すような者が現れ、それが知られれば恐ろしい事態になっていたかもしれない。
リズレットが別の誰かに奪われた可能性もあった。
そう考えた瞬間に黒い想いが心に過る。
魔力を通わせたからなのか、リズレットを誰にも渡したくないという執着がレオナードの中で膨らんでいた。
「リズ、君と出会えて本当に良かった。」
レオナードの言葉の意味が分からず首を傾げるリズレット。
そんな彼女を愛おしく思いレオナードは優しく微笑んだ。
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