セーラー服と石油王

夏芽玉

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石油王は抱かれたい!

【1】1枚の写真

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 きっかけは、1枚の写真だった。

 大学のキャンパスで、誰かに笑いかけているオレの写真。視線はカメラを捉えておらず、明らかに隠し撮りされたものだ。


 チビで華奢で女っぽい顔立ちのオレ──志貴野しきの侑李ゆうりの性的嗜好は同性……つまり、ゲイだ。
 しかし、そんな外見をしているにも関わらず、オレは男に抱かれたいのではなく、抱きたいと思っていた。それで、学費を稼ぐのと性欲を満たすために、男性向けコスプレ風俗で『男の娘S攻め』キャストとして働いていた。
 そのキャラ設定はオーナーが決めたものだったけれど、実際、オレの性に合っていてたみたいで、働き始めてから比較的すぐにナンバーワンの座を手に入れることができた。

 オレが大学二年生のとき、そこに客としてやって来たのがリヤドだ。コスプレ風俗に石油王の格好をしてやって来たので、最初はリヤドのことを「コスプレ好きの変態」だとオレは思い込んでいたのだけど、石油王の格好はコスプレではなく、リヤドは本物の石油王だったのだ。

 それ以降、オレの出勤枠は全てリヤドに買われた。そして、リヤドが母国に帰ることになったとき、オレはリヤドからプロポーズされた。

 その時にはすっかりリヤドのことが好きになってしまっていたオレは、リヤドが帰国すると同時にコスプレ風俗店を辞めることにした。オレが大学を卒業したら、リヤドの国で結婚式を挙げることになっている。

 それまでの間、オレたちは遠距離恋愛をすることになってしまった。
 といっても、石油王にとっては飛行機での移動はタクシーにでも乗るような感覚なのだろう。想像していた以上に頻繁にリヤドは日本に来てくれるので、覚悟していたほど寂しくはなかった。




 リヤドと付き合い始めてから3ヶ月。

 今月はスケジュールが立て込んでいて、リヤドが日本に来れるのはこの一回だけになってしまったそうだ。そのかわり、今回はいつもより長く日本に滞在できるらしい。タイミング良く大学は春休みだったので、図らずもリヤドの滞在期間中はずっと一緒の時間を過ごせることになった。こんなに長く一緒に居られるのは付き合い始めてから初めてのことなので、オレは浮かれていた。

 一昨日、リヤドが空港に着いたという連絡を貰うと、オレはすぐにリヤドが滞在するホテルに向かった。リヤドの滞在中は、一日中ホテルに籠ってセックスしていることが多い。
 今回も、ほぼ二日間、リヤドの取ったホテルでセックスしまくった。

 その時「日本で、恋人たちはどういったデートをするのだ?」という話になったので、今日は「普通のカップルがするようなデートをする」ことになったのだ。

 確かに、よくよく考えてみたら、顔を合わせるたびオレたちはセックスしかしていないような気がする。まぁ、何回セックスしても全然飽きないし、身体が離れたらすぐにまた欲しくなってしまうからそれはやむを得ないことなんだけど。

 ただ、せっかくの機会なので、たまにはいつもと違ったデートをするのもいいだろう。



 ということで、オレたちは今日は水族館に行くことにした。
 オレは一度家に帰って、気合を入れてデートの準備をした。もちろん、女装だ。ナチュラルメイクに見せかけた、お目々ぱっちりメイク。クリーム色のオフショルダーのカットソー。オーバーサイズのものをゆったりと着る。ボトムはチェックのミニスカートに、黒のニーハイソックスを合わせて絶対領域を演出した。鏡を見て、自分の仕上がり具合を確認する。うーん、今日もオレは可愛い。

 待ち合わせをした駅でリヤドと合流したら、リヤドの視線がしばらく絶対領域こだわりポイントに釘付けになっていた。リヤドはコスプレ風俗で、セーラー服を着ているオレのプロフィール写真を見て一目惚れしたそうだ。だから、こーゆーのが好きなんだろうな、と思って準備したんだけど。リヤドの“好き”はわかりやすくて、本当に良い。



 リヤドはいつもの石油王スタイルだったので、まずは駅前のデパートで、全身コーディネートをした。石油王スタイルもオレは嫌いじゃないけど、普通は水族館には石油王は居ないからね。

 店員さんに「あれがいいか。それともこっちか」と相談しながらリヤドを着飾らせると、イケメンに更に磨きがかかった。普段は着ない服装を着せるのも、なかなか新鮮味があって良い。今度、機会があったら、リヤドにもコスプレをさせて、シチュエーションプレイをしようとオレは心の中で決めた。

 店員さんのオススメとオレの好みのコーディネートでばっちり決めたリヤドは、まるでモデルみたいな格好良さだった。リヤドは顔もスタイルも良いので、何を着せても似合う。男性モノの服はどれもサイズが合わないオレとは真逆で羨ましい。そんなリヤドに服を選ぶのはとても楽しかった。

 オレはリヤドと腕を組んで繁華街の大通りを歩いた。この大通りは、休日は歩行者天国になる。そのくらい多くの人が訪れる場所だ。水族館はこの通りを抜けた先の商業施設の中にある。駅からは徒歩15分くらいだったと思う。
 背が高くて褐色の肌をしたイケメンは目を引くのか、通り過ぎる人がチラチラとリヤドを振り返る。そして、隣を歩くオレの存在に気付いて納得の表情を浮かべたり、諦めたような顔をするのだ。そんな様子を見て、オレは優越感に浸った。オレも、見た目だけなら十分な美女だからな。大勢に自分の恋人を見せつけながら、オレはリヤドに腕を絡めたまま大通りを歩いた。


「リヤドって、あっちの国では普段何してるの?」
「そうだな……ユーリに会えないときは、この写真を見ながら自慰オナニーをしていることが多いな」

 オレは想像の斜め上をいくリヤドの返事に、思わず吹き出しそうになった。
 リヤドはスマホを操作すると一枚の写真をオレに見せてくれた。画面に写っていたのは、オレだった。


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